鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

山水図鐔 Toryusai-Kiyotoshi Tsuba

2010-12-13 | 
 東龍斎清壽(とうりゅさい きよとし)の作意は奇抜という評価に尽きよう。自らの銘に「流自」あるいは「一家式」の文字を添えた点も、独創を突き詰めて、他の金工にはない、他工とは異なることを強く認識してのもの。題材は古典的な事物、歴史上の人物や伝説、龍などの霊獣、風景など様々ではあるが、果たして、松樹にしても梅花にしても龍にしても、類例なき風合いが作品上に漂っている。
 筆者は、それらの中でも風景図に興味を抱いている。ここのところ、文様化された風景図、心象表現されている風景図、琳派の美観を漂わせる風景図などを紹介してきたが、装剣金工の歴史を通し、それら心象表現された作品を大きく眺める意味で東龍斎派の作品群を紹介する。
 すなわち筆者は、この東龍斎派こそ、装剣金工の世界でも広く流行していた琳派の美意識を超えようとしていた工であると考えている。装剣金工の分野では、戦国時代末期の桃山頃に大きな変革期があり、埋忠明壽や金家がそれまでにない創造性を追及した。江戸時代中期には土屋安親が様々な要素を画題に採り、芸術性を大衆的な視野で広げ、江戸好みになる文様表現をより鮮明にした。そして次の段階が幕末の東龍斎派である。あまりにも特異な描写であることから好き嫌いが大きく分かれるところではあるが、その空間の創造性は頗る興味深い。


山水図鐔 銘 一家式 竜法眼壽(花押)

 まず鐔の造り込み、造形の奇抜さに驚く。お多福形だが、このような形はなかった。表の海原は遠く夕日の沈む様子、懸崖と白波、帆掛け舟で表現している。鐔の中央は大海である。一方裏面は、逆に海から陸地、遠く山並みの霞む様子を、やはり俯瞰の視線で描いている。絵画的には見えるも、各部を仔細に観察すると、松樹は独特の草体、人影も同様、寄せる白波はまさに文様風。なにより、鳥の視線であろうか、空間を見下ろしているような構成が優れている。