鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波龍図鐔 平戸住國重 Kunishige Tsuba

2012-01-11 | 鍔の歴史
波龍図鐔 (鐔の歴史)


波龍図鐔 平戸住國重

 龍の図といえば南蛮鐔を避けて通れない。鐔に冠されている南蛮とは、その呼称の通りに中国南部を経路として我が国に渡来した西洋の文化のこと。鉄砲の伝来に伴って、さらにそれ以降江戸時代を通じて伝播した様々な文物の西洋の意匠や、器物そのものを指す。鐔においては西洋の剣に用いられた鐔を基礎とし、そのものの伝来もあるが、むしろ西洋の意匠を取り入れ、我が国で製作された西洋風意匠の鐔に興味深い作例が多い。製作地は、江戸時代において海外に開かれていた平戸、長崎などが良く知られているが、この南蛮鐔はかなり流行したと推測され、江戸や京都、大坂などの大都市でも盛んに製作され、地方の金工も製作していたようだ。また、我が国の嗜好に合わせ、中国で製作した南蛮鐔も輸入されている。南蛮鐔のほとんどが無銘である理由は、南蛮渡来と宣伝されたためではなかろうか。
 我が国で、南蛮の意匠を独創的作品に仕上げたことで有名なのが江戸時代中期の平戸金工國重。図柄の多くは西洋鐔に間々みられる異風な双龍。これを我が国の金工作品に多い波龍に仕上げているのが、写真例。真鍮地を太刀鐔風の厚手の木瓜形に仕立て、深く彫り込んで文様を浮かび上がらせる手法。処々に金色絵を施している。この鐔では地荒らし風に表面処理が為されており、波の様子に一際動きが感じられ、龍の図の背景にはぴったり。頗る面白い世界が展開されている。72ミリ。