鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

林和靖図鐔 藻柄子宗典 Soten Tsuba

2014-02-10 | 
林和靖図鐔 藻柄子宗典


林和靖図鐔 銘藻柄子宗典

 鉄地を鋤き込んで風景を背景に人物図を立体的に彫り出し、金銀素銅の象嵌を加えて写実味を高めた作風を得意とした。彦根金工藻柄子宗典の作。図柄は宋代の詩人林和靖に取材したもの。林和靖は西湖のほとりに棲み、梅と鶴を好んでこれらと共に生き、二十数年のあいだ街に出ることがなかったともいう。煩わしい世を捨てて深山に隠棲することを理想とした古代中国の詩人たちと同様、我が国でも画題としては好まれたものである。ここでの鶴は、花咲く梅樹を背景に古典的な構成とされている。80.6ミリ。

舞鶴図目貫 菊岡光行 Mitsuyuki Menuki

2014-02-10 | 目貫
舞鶴図目貫 菊岡光行



舞鶴図目貫 銘菊岡光行(花押)

 暖か味のある濃厚な色合いの金無垢地を打ち出し強く容彫に表現した作。舞鶴図としては定型とも言い得る構成である。阿吽の相を成しているのは古典的であり、彫口は精巧、高彫に毛彫を駆使して細部まで表わしている。先の鐔にも描かれているように、鶴の飛翔する様子は後藤家にもみられる構成であり、確かに目貫などに仕立てて安定感がある。

蓬莱図鐔 後藤通乗 Tujo Tsuba

2014-02-08 | 
蓬莱図鐔 後藤通乗


蓬莱図鐔 無銘後藤通乗

 水辺の鶴を華やかに描いた作。後藤通乗と極められている。後藤家は目貫、小柄、笄を専らとしており、鐔など他の金具の製作は極めて少ないことは度々紹介してきた。
 目にしただけでこの鐔に吸い込まれてしまいそうなほどに美しい。図柄構成には琳派の美観がある。水の流れに遊ぶ鶴。周りには豊かな自然のありようを証明するように木々が茂り水草や秋草が花を咲かせている。蛇籠は、川辺に水たまりを生み出し、新たな生命をそこに宿す働きを成す。自然の景観を壊すような存在ではあるが、装剣小道具や絵画の題材としては普通に採られている。面白い視点の置きようでもある。赤銅魚子地高彫金銀色絵。74ミリ。□

舞鶴蓬莱図鐔 梅忠就方 Narimasa Tsuba

2014-02-07 | 
舞鶴蓬莱図鐔 梅忠就方


舞鶴蓬莱図鐔 銘梅忠就方(花押)

 江戸埋忠派の巧手。朧銀地に松の枝葉を密集させた押し合いの文様に仕上げ、これを背景に飛翔する鶴を高彫金色絵で印象的に描き出している。松の枝葉の茂る様子は自然の豊かさを意味し、鶴は伸びやかで鮮やかであり、存在するだけでありがた味が感じられる。また、この発想がいい。透かしによる簡略化された意匠も素敵と感じたが、この鐔を見ると、細密に彫り出す描法も脳内を刺激してくれる。70ミリ。

鶴亀蓬莱透図鐔 古赤坂 Ko-Akasaka Tsuba

2014-02-06 | 
鶴亀蓬莱透図鐔 古赤坂


鶴亀蓬莱透図鐔 無銘古赤坂

 古赤坂、即ちこれまでに紹介した鶴亀の透鐔の中では最も古い、江戸時代初期の作。左右に松と竹、天地に鶴亀を配して頗る簡潔な陰影に仕上げている。ちょっと見ただけでは分り難いが、何だろうと目を近づけて観察すると、正体が判る。赤坂らしいデザインである。このような洒落た意匠が、後に江戸の文化の一つとして流行してゆく。鉄地毛彫地透。81.5ミリ。


鶴亀蓬莱透図鐔 肥後 Higo Tsuba

2014-02-05 | 
蓬莱透図鐔 肥後


蓬莱透図鐔 無銘肥後

 鐔の上部に翼を広げた鶴を、下には亀を布置した、簡潔な意匠ながら味わい深い肥後金工の作。二点は別の作者で、風合いが異なるも、画面を巴に意匠して動きと生命感を生み出している。鉄地毛彫地透。80ミリ。


蓬莱図鐔 美卿 Yoshiaki Tsuba

2014-02-04 | 
蓬莱図鐔 美卿


蓬莱図鐔 銘美卿作

 石黒政美の門人。肥前長崎の金工。波間に顔を出している小島の上に翼を広げ飛翔する鶴を大胆に構成している作。小島は蓬莱であろう、陰陽に簡略化されたデザインが優れている。実はこの意匠に似た作が安親にある。岩がすべて荒波とされているのだが、やや横長の障泥形という造り込みからくる総体の印象も似ている。好みはあろうが、陰陽に表現された図柄としては美卿の本作の方が洗練味が感じられる。86ミリ。

初日の出に鶴図縁頭 貞中 Sadanaka Fuchigashira

2014-02-03 | 縁頭
初日の出に鶴図縁頭 貞中


初日の出に鶴図縁頭 銘貞中

 以前に波の表現で紹介したことがある。波の彼方の日の出を大きく捉え、鶴の飛翔する様子を力強く表現している。銀地高彫に金のみで太陽と鶴を描き、波も鶴も躍動的。貞中は常直、あるいは貞仲とも切り、一宮長常の門人。このような伝統的な題材にも取り組んでいるが、市井の人物に取材した作品に興味深いものがみられる。

蓬莱図鐔 元孚 Motozane Tsuba

2014-02-01 | 
蓬莱図鐔 元孚・元貞・元籌


蓬莱図鐔 金印元孚・元貞・元籌

 大山元孚、大川元貞、泰山元籌の三者による合作。その印銘が金象嵌されている。木瓜形の鉄地を高彫し、金銀赤銅の象嵌を加えている。松樹も霊芝も、もちろん鶴も長寿の象徴。銀と赤銅を巧みに組み合わせて鶴の姿を写実表現している。
 蓬莱思想は古代中国に起こった。中国大陸の東の海上にあると伝説された島がそれ。温暖な環境から植物が繁り、自然が生み出す恵みを得て動物は長生きをしており、長寿の象徴とされる鶴と亀の蓬莱図もここから生じたもの。秦の始皇帝がこの理想郷の探索を試みたことも良く知られている。この島国が我が国であろうことは、縄文時代の自然環境が頗る豊かであったと研究されていることからも、想像上だけでのものではなくなっている。