鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

枝菊図小柄 野村 Nomura Kozuka

2015-01-08 | 鍔の歴史
枝菊図小柄 野村


枝菊図小柄 野村

後藤家の作品について説明したことがある。元来は小柄笄目貫の製作を専らとしていたこと。代々が同趣の作風を受け継いでいたこと。江戸時代に至っては新たな作行にも挑んだことなど。江戸時代の町彫りには、後藤家に学んで独立した工もある。後藤風をそのまま踏襲し、地方金工として、地域の武士の需に応じていた後藤家の流れの金工も多い。この小柄は無銘で、阿波徳島の金工野村と極められている。野村家は後藤顕乗に学んだ初代正時に始まり、代々が蜂須賀家に仕えた。本作は後藤風であるが、さらに豪奢な雰囲気がある。魚子地を背景に目貫のように打ち出し強く高彫した菊の花の塑像を据紋している。据紋とは、魚子地などの上に、別彫りした塑像を据え、下地である魚子地を貫いて裏面で塑像が外れないよう固着するなどの手法を指す。だから、高彫の菊と魚子地の間にわずかな隙間がある。塑像全体が接着しているわけではなく、時にわずかに動くこともある。だからと言って、決して不良品ではないのだ。とにかく、この高彫の菊花もすごい。横からの拡大写真を見てほしい。腰が高くしっかりとした精巧な高彫、細部にわたる表面処理の様子、それらによって生み出された表情。

節句尽し図縁頭 土屋守親 Morichika Fuchigashira

2015-01-07 | 鍔の歴史
節句尽し図縁頭 土屋守親


節句尽し図縁頭 土屋守親(花押)

 先に紹介した鐔と同作の揃金具。桃の節句と端午の節句を、各々大小に彫り描いている。鐔は正月の図の鉄地に高彫象嵌であった。他の金具は赤銅石目地を下地に高彫色絵と象嵌を駆使している。地金の質は違えども風情は同じ。精巧な高彫に多彩な色金を用いており、我が国の伝統文化を鮮明に浮かび上がらせている。名作である。
 この作が用いられている大小拵が、先日紹介した宝島社から発行される「日本刀の本」に掲載されている。大小揃いの見事なもので、感動的である。

正月図鐔 土屋守親 Morichika Tsuba

2015-01-06 | 鍔の歴史
正月図鐔 土屋守親


本年もよろしくお願いします。
今年の正月は写真撮影に没頭しようと考えていたにも関わらず、年末から年初にかけて宝島社から「日本刀の本」の校正のためのEメールが連続して届き、昨年と全く同じ調子で正月が過ぎてしまいました。1月中に宝島社から「日本刀の本」が出ますので、お買い求め下さい。
それでも、カメラを担いで鎌倉の山中を歩きました。鎌倉という限られた中においても、あまり目にすることのない、面白い風景を見つけました。いずれどこかで発表できれば良いかと考えています。



正月図鐔 土屋守親(花押)

 鉄地に高彫、そして異金属による塑像を象嵌した作。みた通りのお正月飾りの植物。この鐔は、大小揃いで、小鐔には二月の風習でもある豆まきに関連した柊に鰯の図が同じ手法で表されている。他の金具は次回に紹介するが、年中行事を題に得て大小揃いの拵に仕上げた名品。ごく一般的というか多く見られる象嵌はこの手法からなる。地面を彫り下げて別彫りの塑像を象嵌し、時にはその上に色絵を施す。江戸時代、この作のような鉄地の金工作品は色金の作品と同様に高い評価を得ていた。表面を平滑に仕上げ、錆び込みがないように処理するのが難しかったと思われる。