カール・マルクスのこの言葉は、例えばテスト期間に締め切り間近のレポートに追われている時など、私たちの日常生活の中でもよく使われるだろう。
実際の歴史に目を向けてみても、明治維新期に古代律令国家の太政官制に戻ったことや、
原因不明の感染症が発生すると差別や迫害が起きる、といったように具体例を挙げれば枚挙にいとまがない。
私が思うに、えてしてこの言葉は、悪い意味で使われることが多い。同じ失敗を重ねたとき、我々は
「また同じ過ち(=歴史)を犯してしまった。次こそは改善しなければ」
と意気込むも、結局同じことを繰り返して歴史から何も学んでいないのである。
話は変わり、近年の筑波大野球部を振り返る。
直近5年間、計9シーズンうち、2位が5度。
あと一歩、あと一勝というところで優勝を逃し続けてきた。
「いい試合まではいくものの勝ちきれない筑波」が繰り返されてしまっている。
代が変わるたびに、「今年こそは優勝、日本一」と
目標を掲げ、武器を磨き、弱点を克服することを目指してやってきた。
しかしそれでも「何か」が足りなかった。
だが、2020年のシーズンは、その「何か」を見つけた年であったのではないか。
コロナ禍で春リーグが中止となり、秋リーグも5試合の総当たりになるなど
激動の1年であったが、逆にそれを利用して新しいことにも取り組むことができた。
特にその象徴と言えるのが、秋リーグのライブ配信である。
私は1秋・2春・2秋と首都大学野球連盟が企画した、有明放送局と連携したカメラ撮影に関わっており、その経験を昨秋のライブ配信でも活かせたと感じている。
約1か月前に必要な機材を考えるところから始まり、
何度も配置を確認し、試行錯誤を繰り返しながら準備を進めた。
そして当日、
カメラ班が一瞬のプレーを逃さずに撮影し、
スイッチャー班が機転を利かせて画面を選び、
ボキャブラリーとウィットに富んだ実況・解説者がユーモアあふれる掛け合いをみせる
三位一体となった放送を実現させた。
学生によるライブ配信は、今後の大学野球のスタンダードになっていくと予想されるが、筑波大のライブ配信がその新しい歴史を作ったと言っても過言ではないだろう。
学生スポーツの主役は、いわずもがな学生である。
このライブ配信は、学生が自分の長所を遺憾なく発揮したり、今まで気づかなかった可能性を発見したりする機会を増やし、新しい主役の誕生につながるはずである。
そしてもう一つ、新チーム発足時のミーティングでも、「何か」が見つかったと感じている。これまでのチームは「リーグ優勝・日本一」という結果にこだわった目標を掲げ、チーム作りを進めてきたが、それだけでなくAチームやBチーム、先輩後輩、体専や他学といった垣根を越えて全員が心の底から目指すものが必要ではないかという問いがあった。
何日もミーティングを重ね、3年生全員が頭を悩ませながら辿り着いた答えが、
「心を奮わせる存在」になるということだった。自分だけでなく、他者の心を奮わせるためには、野球のプレーはもちろん、グラウンド外での活動も問われてくる。
そして、結果に関する目標は最終ゴールがあるものの、「心を奮わせる」というビジョンは終わりが見えず、常に前に進まなければならない。
部員全員が目指す普遍的で、未来永劫残り続ける不変的なビジョンが決まった瞬間は、筑波大硬式野球部の新しい歴史の誕生である。その当事者として立ち会うことができて、自分自身「心の奮え」が止まらなかった。
チームとして、結果の先にある、ともすれば野球の結果とは必ずしも関係してこない理想像というのがこれまで足りなかった「何か」であり、新たに見つけることができたのではないかと感じている。
最後に私は今、投手コーチとして活動している。
現在の投手陣を一言で表すと「個性爆発」である。
大学野球界を引っ張る大エースを筆頭に、
甲子園でホームランを打ったこともあるのになぜかピッチャーをやっている3年生、
上級生顔負けの大型冷蔵庫のような体格で貫禄も出てきた2年生、
真冬でも半袖で豪速球を投げ込む新進気鋭な1年生など、個性あふれる面々がそろっている。
投手コーチの私にできることは、本気で自分の武器を磨き、試合で活躍することを目指している選手一人一人の個性を理解し、全身全霊で応えることである。そして、個性をまとめ、強力な投手陣になった時、どの他大学に負けない投手王国が完成すると確信している。見ている人の心を奮わせるような投手王国を作ることを目指して選手たちと切磋琢磨していきたい。
間違いなく、
2021年は筑波大硬式野球部にとって、筑波大投手陣にとって、
新たな歴史を作る1年になるに違いない。そして、その取り組みが10年後、20年後の未来でも繰り返されるよう、チームと個人のビジョンを掲げながら毎日の活動に取り組んでいきたい。
人文・文化学群人文学類3年 市村悠大
茨城県立水戸第一高等学校出身