三次元測定機を不正輸出していた精密測定機器メーカー「ミツトヨ」(川崎市)が、測定機に「COCOM(ココム)」と名付けたソフトウエアを組み込ん で、輸出規制水準以下の低性能と偽る工作をしていたことが、警視庁公安部の調べで分かった。軍事転用可能な民生品の輸出には、経済産業相の許可が必要だ が、基本的には自己申告制で、同社はこの点を悪用したとみられる。公安部は、こうした偽装工作が93年ごろから続けられていたとみて、捜査を進めている。
ソフトの名称「COCOM」は、かつて輸出管理を行っていた対共産圏輸出調整委員会の名称で、ミツトヨ幹部の間では、規制逃れをした測定機も「ココム」と隠語で呼んでいたという。公安部は「同社幹部が不正輸出を強く認識していた表れ」とみている。
調べでは、同社は01年10月と11月に、無許可でシンガポールに測定機を不正輸出した疑い(外為法違反)。これらの測定機に組み込まれたソフトは、測定機の精度などを表示するものだが、実際の性能には関係なく、規制水準以下の性能を表示するようにセットされていた。
同社はソフトで表示された内容に基づいて、社内書類や輸出関連書類を作成。国内向けと同じ性能の商品であるにもかかわらず、別の名称を付けたうえで、規制水準以下として、許可を受けないまま輸出していた。
同社は92年にイラン向けに測定機を輸出しようと旧通産省に許可申請したが、この時は却下された。また、当時、湾岸戦争後の国連査察でイラクが民生品を NBC(核、生物、化学)兵器開発に転用したことが明らかになり、輸出管理が世界的に厳しくなったことなどから、同社は海外への測定機の輸出が減少するこ とに危機感を持ち、規制逃れのソフトを考えついたという。【石原聖】
大手精密測定機器メーカー「ミツトヨ」(川崎市)による外為法違反事件で、同社は、輸出規制が厳しくなった1993年までの5年間に、核兵器の製造に転 用可能な精密測定機器を毎年1台ずつ、イランの軍事機関や軍需関連企業に直接輸出していたことが25日、警視庁公安部の調べでわかった。
その後にミツトヨが行ったイラン向けの精密測定機器関連の輸出は2回だけで、これに代わり、シンガポールの同社現地法人への輸出を急増させていた。公安部は、シンガポールに運ばれた測定機器類が、イランや北朝鮮などに渡った可能性もあるとみている。
公安部の調べによると、ミツトヨは89年から5年間にわたって毎年1台ずつ、濃縮ウランの精製工程に不可欠な「三次元測定機」などをイラン向けに輸出していた。
イランにも無許可輸出か ミツトヨ、都内商社通じ
この測定機は対象物の表面の粗さを測定する精密機器で、核兵器開発に転用できるため、当時の外為法の規定では輸出には許可が必要だった。
ミツトヨは97年ごろ、この測定機を、東京都内のイラン系商社を通じ、イランに輸出した疑いがあるとされている。
輸出前に、輸出先のイラン企業が大量破壊兵器開発に関連していることが判明したため、この商社の主導で輸出先の名前を変えて輸出したが、住所は同じだったという。
この商社は00年、イランに対戦車ロケット砲用照準器の目盛り板を不正輸出したとして警視庁公安部が摘発した事件で、関連先として家宅捜索を受けた。こ の際、ミツトヨが84~92年、3次元測定機などの精密機器類を「イラン革命防衛隊」の関係機関など複数のイラン軍関係機関に送っていたことが記載された 資料が押収されたという。
商社関係者によると、ミツトヨとイラン系商社は80年代半ばから取引があり、ミツトヨのイラン向け輸出はこの商社が代理店としてとりま とめていた。当時、商社にはイランの軍関係者が出入りし、軍や政府関係企業と取引があったという。関係者は「軍や政府にコネクションを持つこの商社に、ミ ツトヨは頼っていた」と話す。
イランでは02年、極秘にイラン国内でウラン濃縮などの核施設建設が進んでいることを反体制派グループが暴露し、核開発問題が表面化した。
イランはいったんはウラン濃縮停止に合意したが、06年に入って濃縮作業を再開し、今年4月には低濃縮ウランの製造成功を発表した。国連安保理常任理事国などからの活動停止要求を拒否する姿勢を示している。


本日、弊社代表取締役社長手塚和作ほか4名が、外国為替及び外国貿易法違反の容疑で警視庁に逮捕されました。
弊社は、この事態を厳粛に受け止めるとともに、お客様をはじめ、取引先等多くの方々に多大なるご心配とご迷惑をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。
現時点では、捜査が続いている状況でもあり、その捜査に引き続き全面的に協力することが当社にとって最重要の責務と考えております。
従いまして、捜査に影響を与える可能性があると思われる一切の言動を控えることが当面の適切な対応と判断いたしております。
関係各位の皆様には引き続き、ご心配とご迷惑をおかけ致しますが、現況について何とぞご理解賜わりますようお願い申し上げます。
2006年8月25日 株式会社ミツトヨ 代表取締役会長 沼田 智秀 |

ミツトヨ、営業担当に輸出規制を説明せず
これまでの調べに、同社の営業担当者らは「(輸出規制は)あまり認識していなかった。現場では売り上げが求められていた」との趣旨の供述をしたとされ、 輸出先が転売するかなど必要な事項を確認せずに売っていたとみられている。業績優先の企業論理が、北朝鮮やイランともつながる闇市場のネットワークを引き 寄せた形となった。
核の闇市場は04年に表面化した。パキスタンの核開発の父、カーン博士を中心にマレーシアなど数カ国に拠点を置く仲介人や、関連企業からなる核兵器開発関連機器の供給網だ。
公安当局によると、リビアや北朝鮮、イランに遠心分離器などの核開発関連機器や技術を、特に90年代から頻繁に提供していたとされる。各 国の20以上の企業からカーン博士の指示で仲介人が機器を仕入れ、アラブ首長国連邦・ドバイなどを経由して輸出していたとみられる。その後、北朝鮮やイラ ンは核開発を進め、米国など主要国の脅威となった。
01年に、マレーシアのSCOPE社に輸出されたミツトヨの測定機は、カーン博士の右腕の仲介人によってリビアの核関連施設に渡った。 SCOPE社は闇市場とのつながりがある企業とされるが、本社側で問題になることなく輸出したことが、結果として闇市場ネットワークと取引することになっ た。
ミツトヨは80年代からイランやパキスタンに測定機などを輸出し、国際的な輸出規制が強まった95年ごろから不正な輸出に手を染めた、 とされる。輸出の許可申請は、原則として自己申告制で、基本は企業の順法精神に委ねられる。捜査幹部は「トップ企業としての輸出管理責任は大きい」として いる。