外国人研修制度:西海市が研修状況を虚偽報告/中国人不当労働/指針違反の疑い
長崎県西海市が受け入れた中国人農業実習生を巡る不当労働事件で、同市は「(研修は)ほぼ計画通りの内容で実施された」とする虚偽の研修状況報告 書を、法務省入国管理局に提出していたことが分かった。市は研修時間を記録していなかった上、同省指針に定められた研修生への聞き取り調査もしていなかっ た。市は「認識が甘かった」などと釈明している。国の処分対象となる「不正行為」にあたる可能性があり、入管が調査している。
入管によると、外国人研修・技能実習制度で自治体が指針違反に問われたケースはないという。
問題の文書は06年7月31日付の「研修・生活状況報告書」。05年11月に来日した中国人女性約10人が1年間の研修後、実習生へ移行する是非を国が判断する材料だった。市から関係機関を経由して入管に出された。
報告書は、西海市が(1)集合研修を来日約1カ月で160時間実施(2)研修先の監査は平均3回(3)研修状況は「ほぼ計画通り」--と記載して いた。しかし、市によると、実際は1カ月目の研修時間は不明で年間通じての記録も取っていなかった。事前の計画では年間計235時間実施する予定だった が、08年3月に入管から「約2割しか実施していない」と指摘を受けたという。監査は研修先の説明だけで「問題なし」と判断。指針が定める研修生への聞き 取り調査は一切していなかった。
市農林振興課は、取材に対し「農家による研修や忘年会、運動会への参加も加算して報告した。指針の存在を知らなかった。市に(管理、監督する)能力がなかった」と話している。
指針では、悪質な虚偽記載や、集合研修などの計画不履行は「不正行為」と認定され、3年間の研修受け入れ停止となる。
事件を巡っては、長崎労働基準監督署が08年11月、研修先の青果卸売・加工会社「エイビーエス」と同社社長が、実習生7人を法定額以下の残業代で働かせていたなどとして、最低賃金法違反容疑などで書類送検した。市は「指導監督に問題はなかった」としていた。
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長崎県・西彼杵(そのぎ)半島にある西海市。05年、06年に中国人女性24人が国際貢献の名のもとに、この地を訪れた。西海市が受け入れ先と なった外国人研修・技能実習制度。女性たちは農業技能を高めるはずだった。だが多くの女性たちは「安価な労働力」として扱われていた。
「悪いことと知っていたが名義貸しをした……」
研修先だった農家の男性は、薄暗い玄関でゆがんだ事業の実態を告白した。市に出された書類では女性たちは約2年間、男性のもとで農作業をしたこと になっている。だが、実際、働いたのはわずか2週間程度。取り引きのあった市内の青果卸売・加工会社「エイビーエス」=労働基準法違反容疑などで書類送 検=に移り、野菜の選別作業などに従事した。
「4万円も出せば中国人はよく働く。農閑期にはうちで働かせればいい」。エイ社の社長の言葉で受け入れを決めた経緯があった。女性たちも「労働時間が少ない」と、会社での勤務を望んでいる様子だったという。
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「休みは1カ月で1回だけ。病気でも我慢して1日休み取ってすぐ戻る」。取材を始めて約4カ月。08年11月上旬の帰国直前、中国人女性の1人が エイ社での勤務実態についてようやく重い口を開いた。長崎労基署の調べでは、実習生は多い時で月366時間働き、未払い賃金は06~07年の1年間で7人 分で計600万円以上にのぼった。
同社は「彼女たちから働かせてくれと言った。未払いと言われるが、福利厚生や備品などの経費がほぼ(未払い分と)同額かかった」と弁明している。
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“身元引受人”の市の監督はおざなりで違反を見過ごした。事前に市担当者の訪問が告げられた日は、農地で女性たちを働かせていたという。
別の農家の男性は中国女性の働きぶりに感心していた。「みかんの収穫でヘタを残すと選果場で、ほかのを傷つける。注意するとその後は一つもなかった」。販売の勉強もさせた。「お金はエイビーエスがよかったが、仕事はここでしたい」。彼女たちの笑顔が忘れられないという。
「西海市がきちんと面倒みていれば、ずっと雇っていたかもしれない」。農家は今、後悔の念にさいなまれている。
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外国人研修・技能実習制度を巡るトラブルが全国で相次いでいる。国際的にも人権上の問題を指摘する声が上がっており、国は制度見直しに動き出した。理念とはかけ離れた現場の実態。制度の問題点に迫った。
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