「撮り鉄」どう対処? トラブル続出…“いいお客さん”ではない
列車撮影に熱心な鉄道ファンを指す「撮り鉄」。だが、撮り鉄による線路敷地内への無断侵入や列車の運行妨害などの問題が続発しており、マナーをめぐって は議論がある。先月、長野県の鉄道会社「しなの鉄道」沿線の撮影スポットに植樹されていた桜の木が何者かに切られた事件をきっかけに、インターネットを中 心に批判が巻き起こっている。ともに鉄道趣味に造詣が深い旅行作家の野田隆さんと、鉄道ライターの杉山淳一さんに、意見を聞いた。
■杉山淳一氏「自浄作用は期待できない」
●「いい客」ではない
--撮り鉄を中心に鉄道ファンへの風当たりが強まっている
「まず、鉄道ファンは鉄道会社にとって“いいお客さん”ではないことを自覚し、おとなしくしてほしい。鉄道ファンが落とすお金は、鉄道会社にとっては定 期券を買って毎日乗っている人に比べれば大した額ではない。そこをわきまえていないから、一般乗客への遠慮や鉄道員に対する尊敬が働かない。鉄道会社も内 心苦々しく思っていることだろう。そもそも乗車券は乗るための券であり、写真を撮るためのものではない。一般乗客に対して迷惑をかければ、排除の動きが出 るのは当たり前だ」
--鉄道ファンは鉄道会社にあまり貢献していないのか
「鉄道ファンのお金は、実は鉄道会社にはあまり落ちていない。乗ることを目的とする“乗り鉄”であっても、ほとんどはいかに安い切符でたくさん乗るかを 極めようとする。さらに撮り鉄は荷物が多いので、鉄道を使わず車で撮影スポットに向かうケースが少なくない。カメラ会社や自動車メーカー、鉄道雑誌を出す 出版社などにはお金が回っても、肝心の鉄道会社にあまり利益はない。他のオタク市場とは大きく異なる部分だ」
--しなの鉄道の事件は、撮り鉄側の猛反発でさらに炎上した
「撮り鉄の犯行だと決めつけるなと反発する撮り鉄の人もいたが、どう考えてもあれは撮り鉄の仕業だと思う。撮影スポットとして有名な場所であるし、あの 桜だけを狙って切る理由が他にないからだ。もちろん、マナーが悪い人がいるのは撮り鉄に限った話ではなく、人数が増えて裾野が広がれば変な人も増える。た だ鉄道は公共交通だから、アニメなど他のオタク趣味とは違って趣味の世界だけでは完結せず、どうしても一般社会と関わらざるを得ない。そうなると、趣味の トラブルが社会のトラブルになってしまう」
●違法行為には厳しく
--ファン同士の自浄作用は
「昔からネット上などでファン同士のマナー論議が繰り返されてきたが、そもそもマナーをわきまえない人はそこに参加しないから意味がない。自浄作用が期 待できない以上、違法行為をする撮り鉄はどんどん捕まえるべきだし、受忍限度を超える行為には遠慮なく法的措置に踏み切ればいい」
--前向きな解決策は
「鉄道会社の側も、もっと鉄道ファンにお金を払わせる工夫がいると思う。たとえば公式の鉄道ファンクラブを作って、有料で臨時列車の情報などを提供した り、撮影に適したホームの片隅をロープで区切って提供したりすればいい。ファンを囲い込むことで一般客とのトラブルも減る。そうした仕組み作りが必要だ」 (磨井慎吾)
■野田隆氏「間接的には観光の振興に」
○本物ならトラブル回避
--一部の撮り鉄のマナーが問題になり、鉄道会社はもっと撮影を規制すべきだという声がある
「確かに、“鉄道ファン暴走”といった報道に接すると残念に思う。しかし一方で、彼らは本当の鉄道ファンなのだろうかと疑問もわく。なぜなら本当のマニ アは、危険性も含めて鉄道を熟知している。私も蒸気機関車の撮り鉄なのでわかるが、われわれは動いている列車に対し、危険なほど近づくことはない。近づき 過ぎると、よい写真が撮れないからだ」
--ファンなら秩序を守ると?
「基本的に、きちっと編成、つまり列車の頭から尻尾までを入れて写したい。そして、他の撮影者が写り込まないようにしたい。だから自然に、鉄道ファンは 一歩下がったところにきちんと並んで一眼レフカメラを構える。お互い気持ちよく撮るための不文律がある。場所取りは必ず先着順。自分より早く到着した人が いたら、邪魔しないよう横や後ろに並ぶのは常識だ。好きなことだからこそ、余計なトラブルは避けたい」
--東北・上越新幹線「200系」車両が最後の定期運行を終えた15日、JR東京駅ホームは多くの撮影者であふれた
「駅に大勢のファンが集まると乗降客の迷惑になるので、鉄道会社がある程度撮影を規制するのはやむを得ないと思う。駅には子供連れやファン以外の一般撮 影者も多く、予想外の行動をとる人もいる。特に怖いのが、携帯電話で撮影する人だ。列車に接近しないと大きく撮れないので、ホームの端ぎりぎりに飛び出し たり、線路の方へ手を突き出したり…。個人的には駅よりも、大自然の中で走る列車の姿を撮る方が好きだ」
○鉄道写真の役割大きい
--桜の枝を邪魔だからと切ってしまう撮影行為をどう思うか
「大半のファン、特に年配のマニアはむしろ、花と列車の“競演”を楽しむだろう。ただ、少数ながら風流を解しない人、身勝手なこだわりを持つ人がいるのも事実。鉄道情報誌や鉄道ファンのブログなどでは再三、撮影マナーについての注意喚起を行っている」
--鉄道写真が文化や産業の発展に寄与した点も無視できない
「はい。自分たちの楽しみだけではなく、鉄道写真には実際かなりの需要がある。ビジュアルの記録が果たしてきた役割は大きい」
--魅力的な写真を通して、ファンの裾野が広がった面もある
「例えば、観光ガイドにも臨場感たっぷりの鉄道写真は欠かせない。赤字に苦しむローカル線は多いが、『この列車に乗って、あのまちに行ってみたい』と思わせる力が、鉄道写真にはある。間接的には観光振興にもつながっている」 (黒沢綾子)
JR西の制服を騙し取った28歳・鉄子の“歪んだ欲望”
【衝撃事件の核心】
好きが高じたとはいえ、その行為が許される理由など存在しない。JR西日本の社員を装って同社の制服をだまし取ったとして、詐欺容疑で和歌山市の無職の女(28)が2月下旬、和歌山県警に逮捕された。女は、クリーニング店に長い間つるしてあった制服を言葉巧みに入手したのだが、その動機については、店につるされた制服を見ているうちに「鉄道が好きで、制服がほしくなった」と供述。JR西関係者の間からも「これまで聞いたことがない事件だ」という声さえあがる。店員をだましてまで制服を手に入れたかった理由は何なのか。真相は、いまだに見えない。(藤崎真生)
■「JRが特に好き」
事件が起こったのは2月5日の午後。和歌山市内のクリーニング店に1人の女がフラリと姿を見せた。店の外からでも、ガラス越しにクリーニングを終えた衣類が見える構造。女の目当てはただ一つ。昨年11月ごろからカウンターの後ろにつるされていたJR西日本の男性社員用の制服だった。
「JRの者ですが…」
クリーニング店の店員に向かって、女は平然とした様子で偽名を使って切り出し、こう続けた。
「制服は、クリーニングに出せないことになっていて、ばれたら部下がクビになる。上司に知られないよう本人に返します」
すべて嘘だったが、女は部下思いの上司を巧みに演じた。応対した店員は女の話を信じ、制服を手渡した。制服の価格は上着とズボンを合わせて約1万2千円相当。制服を外部の店にクリーニングに出してはならない規定など、JR西にはなかった。
店員が信じ込んだ理由は、女が連絡先として、JR西日本支社の電話番号をスラスラと答えたためという。それでも不審に思い、後になって店員はJR西に電話で問い合わせた。
「そんな名前の社員はいませんよ」
JR西の担当者にこう告げられ、詐欺の被害にあったことに初めて気づいたという。その後、クリーニング店側が被害届を和歌山県警に提出。捜査の結果、女が浮上し、2月25日に逮捕された。
女の自宅を捜索したところ、部屋の中からいくつかの鉄道模型が見つかった。「鉄道が好き。JRが特に好き」。こう供述したとされる女は、おとなしく控えめな感じに見えたという。
しかし、女は同様の手口で別のJR西の制服をだまし取っていたことも判明した。
「私のJRの制服を、祖母が無断でクリーニングに出しました。明日のJRの総会で制服を着なければならないので、どうしても必要です」
女は今年1月にも、和歌山市内のクリーニング店で店員に対してこう嘘を言い、店で保管していたJR西の制服の上着などをだまし取った。
鉄道ファンの女性は「鉄子」と呼ばれるが、女について、捜査関係者は「単なる鉄道好き。鉄子と言うほど熱狂的なファンとは違う」と説明する。
■ファンの間でも話題に
この事件は、鉄道ファンの間でも話題に上った。
和歌山市の景勝地、和歌浦の海を見下ろす絶好のロケーションに、鉄道ファンらが集うカフェ&バーがある。
「サァァ…」
20人ほど入れば満員になる店内には壁に沿って鉄道模型が取り付けられ、車両の模型が軽快な音を立てて走っていく。さらに、寝台客車のベッドにのぼる際にかつて使われたハシゴ、通称「サボ」と呼ばれる車両に取り付ける行き先などを示す表示板といった貴重な鉄道グッズの数々が店内を彩る。
鉄道ファン以外お断りなどの条件はなく、美しい海を一望できるうえ、ボリュームたっぷりの丼を中心にしたフードメニューも豊富なことなどから、平成21年のオープン以来、人気の店だ。
事件について、店長の男性は「悲しいな…」と静かにつぶやいた上で、「私は曲がったことが嫌いです。ダメなことはダメなんです。しかし、なぜそこまでして現行のJR西日本の制服がほしかったのでしょうか…」と首をかしげた。 事件のニュースは、インターネット上で“拡散”。女に関する記事は、多くのサイトなどにコピーされ、鉄道ファンらの間で話題となった。
店の常連客の一人は「インターネット上で事件のニュースを知りました。まさか和歌山で起きるなんて…」と驚きの表情。不快感を表す客もいたという。
■「聖域」汚された思い
鉄道ファンと一言で表現しても、その世界は多彩だ。
例えば「青春18きっぷ」を使って各駅停車で全国各地を回るといった、鉄道に乗ることそのものを楽しむ「乗り鉄」や、鉄道写真の撮影に全力を注ぎ、全国各地を飛び回る強者も数多く存在する「撮り鉄」。さらに、走行音を含む、列車の音などを録音する「録り鉄」など楽しみ方は多岐にわたる。その中の一つに、列車の部品やグッズを集める鉄道ファンも存在する。
鉄道関係者によると、鉄道会社の制服は会社を去る際には返却しなければならないので、「通常は外に出ることはない」とされる。流出防止に鉄道各社が注意を払うのは、部外者が駅の事務室などに入ってこないようにするセキュリティー上の問題があるためという。
大学時代に首都圏の私鉄でアルバイトをした経験を持つ鉄道ファンのさいたま市の男性会社員(28)は「鉄道会社が制服の流出に神経をとがらせるのは、警察官の制服が部外に出ると大変なことになるのと同じ理由です」と説明。同時に、男性会社員は「制服を着るとやはり身が引き締まるものです。制服を着て働く鉄道会社の社員たちが、仕事に対して抱く誇りは高い。それだけに、部外者が制服をだまし取ったことについては、自分たちの『聖域』を汚されたような気分になると思う」と話す。
JR西関係者の一人は「制服をだまし取られたという話はあまり聞いたことがないし、ましてや今回のように社員を装って…というケースには驚いています」と絶句する。
■鉄道の魅力伝える存在
事件が報道される中、「一部の人間の暴走で、健全なファンまでも同一視しないでほしい」と訴える声も上がる。あるJR西支社の女性社員は「きちんとマナーを守ってくれるファンは、鉄道の魅力を伝えてくれる大切な存在なんです」と強調する。
かつて和歌山県の新宮市と那智勝浦町を結び、今はJR紀勢線の一部になった「新宮鉄道」。3月初旬、新宮市内で行われた全線開通100周年を祝うイベントは、鉄道ファンらの呼びかけで発足した実行委員会が企画。大正時代をイメージした衣装を着た市民ら約600人が参加して、記念碑を除幕したり、旧新宮鉄道時代の線路跡を歩く催しなどが行われた。鉄道ファンらの果たした功績は大きく、大勢の観光客らでにぎわった。
女性社員は「純粋な鉄道ファンの方々は、地域を一緒に盛り上げてくれるなど貢献してもらっている。ごく一部の人の不法行為によって、他の鉄道ファンが悪いことをした人と同じような目で見られてしまうのはとても悲しく、迷惑な話です」と言い切った。
女の行為が鉄道ファンらに与えた影響は、あまりにも大きかったのではないだろうか。
犯人は「桜」を切ったのか? しなの鉄道伐採事件
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます