ここだけの話だが、じじいが母に内緒で通帳をつくる事にした。
悪?知恵をつけたのはあたしである。
この季節のせいか、母の忘れも頻繁。
わかっているものの、ドラブルの火種になる。
夫婦の財布は案外難しい。
昭和10年生まれのじじいは、給料袋を開けずに仏前にお線香をたてて、そのまま母に渡す人。
男は家族を養うのだ・・・の典型的な父親。
だから、家のお金や通帳のありか、預貯金(無い)、保険などさっぱり知らない。
当然、銀行へなど行くわけない。
まして機械でお金を引き出したり、入れたり、カードだの無縁。
しかしここにきて、すぐ忘れてしまう母とのお金のやりとりがとても大変なのだ。
今の母にはお金の管理は複雑過ぎる。
忘れが進んだ人の多くはお金に執着し敏感、だから取り上げる訳にはいかないのだ。
ただ単に、新しい引き出しを創ったようなものだけれど、自分だけが持つ通帳にじじいもまんざらでもない顔。
しかも、母は知らない。
じじいは案外気が小さいから、罪悪感を持っちゃう人。
秘密を共有してあげないと。
・・・共有というか、共犯だ。
その通帳には父の分の高額医療費などの還付金が入るようにした。
銀行にて・・・
畑から帰ったその足で、印鑑でお金をおろす実地研修を行った。
用紙に必要事項を書き込む、窓口に行く、それだけだが一人でやった事がない。
キャッシュカードの説明は不足だったようだ。
魔法のカードではない事を伝えた。
機械をのぞき込む姿に余裕がない。。。
73歳にして銀行デビューです。
ベンチに座り後ろ姿を見ていた。
自分で接ぎをあてたズボンや汗や土や草の匂いのついた野良着がかっこ良かった。
3人の子どもを学校に行かせて習い事をさせ、家を建てる。
嫁に出し、嫁を迎え、世間ともつき合う。
あたしはもう、これが簡単じゃない事を実感できる歳だ。
無事、銀行での実地研修を終え、山の畑にもどっていった。
夕方、茹でた菜っ葉をお礼にと持ってきてくれた。
律儀なじじいだ。