[フリー写真] 東北地方太平洋沖地震の被害に遭った岩手県大船渡市(パブリックドメインQ:著作権フリー画像素材集)
【CafeSta】「みんなで考えよう憲法改正のコト」解説:古屋圭司 党憲法改正推進本部顧問 司会:下村博文 憲法改正推進本部長(2019.2.13)自民党チャンネル(4分30秒~11分40秒あたり)で憲法改正緊急事態条項に関連して、大規模災害に関連して緊急事態条項を設ける意義に関して解説がありました。以下それを元に自分なりに記事にまとめておきます。
古屋圭司議員ご指摘の災害が起きた時の日本の5つの法律。
災害対策基本法
災害救助法
自衛隊法
パンデミック法(
新型インフルエンザ等対策特別措置法か。※
感染症法があるのに、なぜ「特措法」が必要だったのか 日経メディカル 2013/2/15)
国民保護法(
武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)
これらの法律には憲法違反を指摘される疑いがある条項があって、そうした条項はほとんど発動されてこなかったようです。
例えば「車両の移動」に関しては
災害対策基本法に基づく 車両移動に関する運用の手引き(国土交通省)7pを参照すると・・・
災害対策基本法
第七十六条の六 第七十六条の四第二項に規定する道路管理者等(以下この条において「道路管理者等」という。)は、その管理する道路の存する都道府県又はこれに隣接し若しくは近接する都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、道路における車両の通行が停止し、又は著しく停滞し、車両その他の物件が緊急通行車両の通行の妨害となることにより災害応急対策の実施に著しい支障が生じるおそれがあり、かつ、緊急通行車両の通行を確保するため緊急の必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、その管理する道路についてその区間を指定して、当該車両その他の物件の占有者、所有者又は管理者(第三項第三号において「車両等の占有者等」という。)に対し、当該車両その他の物件を付近の道路外の場所へ移動することその他当該指定をした道路の区間における緊急通行車両の通行を確保するため必要な措置をとることを命ずることができる。
2 道路管理者等は、前項の規定による指定をしたときは、直ちに、当該指定をした道路の区間(以下この項において「指定道路区間」という。)内に在る者に対し、当該指定道路区間を周知させる措置をとらなければならない。
3 次に掲げる場合においては、道路管理者等は、自ら第一項の規定による措置をとることができる。この場合において、道路管理者等は、当該措置をとるためやむを得ない限度において、当該措置に係る車両その他の物件を破損することができる。
一 第一項の規定による措置をとることを命ぜられた者が、当該措置をとらない場合
二 道路管理者等が、第一項の規定による命令の相手方が現場にいないために同項の規定による措置をとることを命ずることができない場合
三 道路管理者等が、道路の状況その他の事情により車両等の占有者等に第一項の規定による措置をとらせることができないと認めて同項の規定による命令をしないこととした場合
4 道路管理者等は、第一項又は前項の規定による措置をとるためやむを得ない必要があるときは、その必要な限度において、他人の土地を一時使用し、又は竹木その他の障害物を処分することができる。
これら国土交通大臣の権限は、地方整備局(東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州の8地方整備局)長又は北海道開発局長(沖縄県については、内閣府沖縄総合事務局開発建設部ですが、規定なしか)に委任されているようですが(
災害対策基本法施行令33条の5)、これまで日本では災害時に例えば交通を阻害している車があり、それに対処する法律があっても、手出しが難しかったということなのでしょう。世界では当たり前にある緊急事態条項が無かった(
【正論】国防と緊急事態の扱いは同一に 駒沢大学名誉教授・西修 産経新聞 2018.10.16 >国防条項と緊急事態条項の設定は、各国の憲法構造において不可避である。私が世界の全憲法を調査したところ、ある程度の人口と面積を備えた国家でそれらを欠いた憲法はほとんど見当たらない。とくに1990年以降、まったく新しく制定された憲法をもつ103カ国中、緊急事態条項を欠いている憲法は皆無である)から。
車は勿論個人の貴重な財産です。でも災害時には放置された車が邪魔になって交通を阻害する可能性があります。交通が阻害されていたら、緊急車両の通行もできませんから、速やかに撤去する必要がある訳ですが、これまで国土交通省の局長の判断では移動というか破損させる(第七十六条の六の3)ことが難しかったのではないかと思います。災害時に必ずしもレッカー移動する余裕がある訳ではなく、壊して速やかに通行を確保するべき時はあると思います。災害対応はスピード命です。勿論「やむを得ない限度において」という規定がありますから、これ幸い災害時にバンバン車を破壊するということでは全く無く、プロの責任者の判断において不必要かつ過剰にこの規定を利用することは無いということでもあると思います。
日本国憲法第二十九条
財産権は、これを侵してはならない。
財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
用いることは出来るようですが、侵してはならないと書いている訳ですし、正当な補償があっても破損させることは出来ない可能性はあると思います。また、首都直下地震や南海トラフ地震クラスの大規模災害時に、全て補償できるのか(補償できないからといって必要と思われる措置をとらなくていいのか)という論点があってもいいと思います。いや自分にとって車は命より大切だ(本気かもしれません)と訴えられる恐れもあって、とにかく憲法を盾に災害に乗じた権利濫用を防ぐ必要はあるんだろうと思いますし、現実にそれを恐れてこれまで必要な措置が中々とられてこなかったという経緯があるんだろうと思います。緊急時だから憲法を曲解していいとも言えませんし(それをやると平時に戻って裁判で負ける可能性もあります)、実際にそうされてこなかったということでもあります。
クレーン車(東京消防庁)
>このクレーン車は、震災時における救助活動や各種災害現場で使用する車両です。
・・・吊り上げて車を移動させる訳ですが、これを実施した後、車が傷ついたんだがどうしてくれる?みたいなクレームも考えられます(穿った見方をすれば後で自分で傷つけることは出来ます)。まぁ消防庁の過失で補償も考えられはするんでしょうが、平和な日本と言えど世の中そんなに甘いものでもなく、是幸いで詐欺を働こうとしう方もいらっしゃるかもしれず(詐欺が無ければ警察は必要ありません)、言いがかりから政府・自治体を守る憲法的根拠が必要とも考えられます。
東日本大震災においてがれきの撤去に関連して現行憲法の規定に問題があるのではないかという自治体首長の声もあったようです。
次に職務従事命令に移ります。
災害対策基本法
(都道府県知事の従事命令等)
第七十一条 都道府県知事は、当該都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、第五十条第一項第四号から第九号までに掲げる事項について応急措置を実施するため特に必要があると認めるときは、災害救助法(昭和二十二年法律第百十八号)第七条から第十条までの規定の例により、従事命令、協力命令若しくは保管命令を発し、施設、土地、家屋若しくは物資を管理し、使用し、若しくは収用し、又はその職員に施設、土地、家屋若しくは物資の所在する場所若しくは物資を保管させる場所に立ち入り検査をさせ、若しくは物資を保管させた者から必要な報告を取ることができる。
災害救助法
(従事命令)
第七条 都道府県知事は、救助を行うため、特に必要があると認めるときは、医療、土木建築工事又は輸送関係者を、第十四条の規定に基づく内閣総理大臣の指示を実施するため、必要があると認めるときは、医療又は土木建築工事関係者を、救助に関する業務に従事させることができる。
2 地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)は、都道府県知事が第十四条の規定に基づく内閣総理大臣の指示を実施するため、必要があると認めて要求したときは、輸送関係者を救助に関する業務に従事させることができる。
3 前二項に規定する医療、土木建築工事及び輸送関係者の範囲は、政令で定める。
4 第五条第二項の規定は、第一項及び第二項の場合に準用する。
5 第一項又は第二項の規定により救助に従事させる場合においては、その実費を弁償しなければならない。
(協力命令)
第八条 都道府県知事は、救助を要する者及びその近隣の者を救助に関する業務に協力させることができる。
(都道府県知事の収用等)
第九条 都道府県知事は、救助を行うため、特に必要があると認めるとき、又は第十四条の規定に基づく内閣総理大臣の指示を実施するため、必要があると認めるときは、病院、診療所、旅館その他政令で定める施設を管理し、土地、家屋若しくは物資を使用し、物資の生産、集荷、販売、配給、保管若しくは輸送を業とする者に対して、その取り扱う物資の保管を命じ、又は物資を収用することができる。
2 第五条第二項及び第三項の規定は、前項の場合に準用する。
(都道府県知事の立入検査等)
第十条 前条第一項の規定により施設を管理し、土地、家屋若しくは物資を使用し、物資の保管を命じ、又は物資を収用するため必要があるときは、都道府県知事は、当該職員に施設、土地、家屋、物資の所在する場所又は物資を保管させる場所に立ち入り検査をさせることができる。
2 都道府県知事は、前条第一項の規定により物資を保管させた者に対し、必要な報告を求め、又は当該職員に当該物資を保管させてある場所に立ち入り検査をさせることができる。
3 第六条第三項から第五項までの規定は、前二項の場合に準用する。
災害対策基本法と災害救助法によれば、都道府県知事は災害時に医療、土木建築工事を救助業務に従事させることが出来、地方運輸局長(運輸監理部長を含む)は輸送関係者を救助業務に従事させることが出来るようです。他にも物資の保管を命じたり出来るようですが、これが(災害時に県内や地方運輸局内の業者を命令によって動員することは)憲法第22条居住移転の自由に反する恐れがあって(動員に法的根拠があっても訴えてくる論外な外国もあって今正に問題になっているところですが)(災害復旧は1日して成りませんし、被災地に止まって救助する必要があるのですから、一時的に居住・移転してもらう必要はあろうかと思います)、実際は東日本大震災においてボランティアで協力はしてくれたようですが、キチっとした法的根拠は必要でしょうし、その範囲に関して(広範囲に協力要請すると)憲法上問題があるという話もあるようです。「公共の福祉に反しない限り」という但し書きはあるのですが、公共の福祉って分かり難い概念でいろいろ議論もあるようですし、憲法は国民が読んで分かりやすいようにあるべきだと思います。
日本国憲法第二十二条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
自衛隊法に関して言えば、第九十四条の三「第八十三条第二項の規定により派遣を命ぜられた部隊等の自衛官は、災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)及びこれに基づく命令の定めるところにより、同法第五章第四節に規定する応急措置をとることができる」に基づき、例えば災害対策基本法第六十五条「市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、応急措置を実施するため緊急の必要があると認めるときは、当該市町村の区域内の住民又は当該応急措置を実施すべき現場にある者を当該応急措置の業務に従事させることができる」の実施が緊急事態条項が無いと難しいのかもしれません。職業選択の自由があるから、応急措置の業務に従事してくれと要請されても嫌だよという訳です。
また、さすがに現役自衛官が任務拒否は無いにせよ、予備自衛官の災害招集で職業選択の自由で拒否が有り得る可能性もあります。予備自衛官に他の仕事もあるかもしれませんが、その場合でも災害時に動員し得るのかという議論があってもいいような気もします。日本は首都直下地震や南海トラフ地震のクラスの災害が有り得る国な訳ですから、人手が足りない可能性は有り得ますし、災害対応は速やかに行うことが重要です。救助活動の現場では災害後3日(72時間)が勝負と言われているそうです(
72時間pdf 内閣府防災担当)。
国民保護法に関して言えば、
国民保護法とは(内閣官房 国民保護ポータルサイト)を参照しましたが、住民の避難に関する措置があるようですが、これも居住、移転の自由を犯す恐れもあるのかもしれません。
災害時の避難に関する検討課題 防災・災害情報(中央防災会議「災害時の避難に関する専門調査会」第6回資料)によると、災害時に避難を呼びかけても結構避難しない方もいらっしゃるようで、命令口調で呼びかけて効果があったという話もあるようです。印象も大切でしょうが、避難指示に対して抵抗を誘発する権利を制限する憲法根拠がある方が平時からの訓練もし易く、住民の事前の理解が得られるとも考えられます。少なくとも居住・移転の自由があるなら、避難指示が出たところで、いや自分はここを動かない!と主張する余地があって、実際にそう考えてしまう方がいるようですから、そういう方が亡くなったとしてその人の自由ですからでいいのかということになります(確信犯的に動かない人はそれでいいと考える余地はありますが、認知症等で判断力がない方もいらっしゃいますし、実際問題自分が被害を受けるような気がしなかったというレベルの認識で避難しない方もいるようです)。自治体は極力犠牲者を少なくするのが務めと思います(訴えられなかったら問題なしでもないでしょう)。
新型インフルエンザ等対策特別措置法に関して言えば(これが古屋議員の仰るパンデミック法か分かりませんがとりあえず)、第四十五条「感染を防止するための協力要請等」が憲法が保障する権利に抵触する恐れがありそうです。例えば「生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる」ようですし、例えば興行場に対して「施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる」ようです。要するにパンデミックを誘発する恐れがあって、皆家でジッとしててほしいので、パチンコ場は閉鎖しててねという要請が考えられますが、商魂逞しすぎる方々の抵抗があったらどうするのかと考えてみることが出来るのかもしれません。まぁこれはあくまで要請に過ぎないようではありますが。
安倍政権下での憲法改正に徹底抗戦している野党第一党の党首の憲法観ですが、「東京新聞:性急な改憲議論「首相の趣味」 枝野氏「必要性感じない」」というニュースもあった(2018/01/05 リンク切れ)ようで、この程度の男が東日本大震災当時の官房長官だったことは日本の不幸だったのかもしれませんね。緊急事態対応に関連して、菅直人政権は十分な対応が出来なかったのであって、その原因は現行憲法に緊急事態条項が無かったことにあるのではないですか?だとしたら、憲法改正に関連して緊急事態条項を話し合わねばならないと思います(審査会は野党第一党が徹底反対したら動かず、実際議論が出来ていないようです)。フルアーマーが話題になりましたが(護憲系の支持者が反対するかもしれませんが)、自分を守ることが仕事ではありません。
現行憲法下で災害対策の法律があるからと言って、十二分に機能してきたとは限りません。憲法が規定する権利が緊急時に問題になるのであれば、制限する根拠も明快に必要になります。勿論法的根拠が必要ですから、憲法に緊急事態条項があるからと言って、滅茶苦茶なことが行われるということになりません(大陸法の国ですし法律に書かれていないことは実行する根拠がありません)。災害対策関連法案があったとして、画竜点睛を欠いていたという訳です。
これまでの自民党の震災対策(自民党ホームページ)
古屋議員は憲法改正を当初から訴えてきており、緊急事態条項や防災等にも詳しいようです。筆者は緊急事態条項は憲法改正の足を引っ張りかねないと思ってはいたのですが、勉強不足だったのかもしれません。
緊急事態条項に関連してこれまで国会議員の任期延長の話が中心だったようですが、大規模災害時に選挙どころではないは分かります。憲法に規定を設けて選挙延長は考えられると思います。
筆者としては他に東日本大震災クラスの震災で自治体が壊滅した場合を考えておく必要もあるんじゃないかと思います。東日本大震災において実際に町長が死亡したり、機能を喪失した自治体もあったと言います。幾ら法律に政府の権限が明記されていたとしても、その権限を持つ人物が死亡している場合、仕事の指示を出せるものがいないということになりかねません。これは憲法関連のマターではないかもしれませんが、緊急事態が何処まで想定されているか分からない気もしますので、あえて書いておきます。
また首都直下型地震の場合は、権限を持つものが死亡する等して災害関連の法律における憲法的根拠すら失われる可能性もあるかもしれません(例えば国会が開かれなければ国会の承認等得られません)。官房長官等、東京を離れないのが原則の仕事もある訳ですが、例えば防災担当大臣が首都直下地震でも政府機能が喪失しないように何らかの権限・制限をもたしたり、首都機能(防災)の一部移転をしておくことは考えられるのかもしれません。