僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

田村隆一 帰途

2019-01-10 18:32:55 | 
詩を読むと心が豊かになるのだろうか。
瑞々しい言霊に震えるほど感動を覚えることも
ひょっとしてあるかもしれない。

言葉について書いた田村隆一の詩を下に示すが・・・

人は悲嘆に暮れているとき、言葉は無力だ。
無力だが立ち直るのも言葉が知らしめてくれるのだろう。







帰途

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで掃ってくる