ワニなつノート

≪ものがたり≫ 良の教室(1)



1.給食

「良くん、これ運んでくれるかなー」
良がふりむくと、岡田先生が机の上の給食を指さしている。

「いいよー。どこに持ってくの? うしろ? 翔の席?」
「あっ、ちがうの。職員室に持っていってくれるかな」
先生がちょっとあわてて言う。

「職員室? そんな遠くまでー」
「何言ってるの、そんなに遠くないでしょ。
お願いね。教頭先生が待ってるから」

「あーあ、いいよなんて言わなきゃよかった。」
ちょっと後悔した。

でも、ま、しょうがないか。そう思いなおして教室を出る。
「いってきまーす」

みんなは給食の準備でにぎわっている。
岡田先生がよってきておぼんの上の牛乳ビンを横にした。
「落とさないでね」
「そんなにドジじゃないや」

廊下に出ると、となりの教室もその隣もなんだかうれしい匂いがする。
今日は、クリームシチューかぁ。まあまあかな。
でも、この4分の1リンゴはしょぼいよなぁ。
…それにしても、これ、誰の分だろ?

「教頭センセー、きたよー」
「はいはい。ご苦労さま。こっちにおいてくださいね」
教頭先生がめずらしく愛想がいい。
だけど、教頭先生の机にはもう給食が置いてある。
二人分、食べるのかなー。
教頭先生のお腹をみて、そう思った。

職員室を出るとき、翔とすれちがった。
珍しく保健室のおばちゃんが車椅子を押している。
いつもは車椅子にも触りたがらないくせに。

保健室の先生は苦手だ。
翔、具合悪いのかな。もう帰るのかな。
そういえば、ちょっと元気なかったかなぁ。

お昼の放送が始まった。
教室に戻ると、みんなはもう給食を食べ始めていた。
なんだよ、待っててくれてもいいのに。
「ああ良くん、ご苦労さま」
先生が、あっさりと言う。

「どこ行ってたの?」
圭がパンをかじりながら聞く。
「職員室」
「へえ、なんか怒られたの?」
「違うよ。先生に頼まれて給食運んできたのに、
みんな先に食べてんだもんなぁ、冷たいよなあ」

ふと、後ろをみると、翔の席だけぽつんと空いていた。
やっぱり、帰っちゃったのかな…。
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