「子どものオーダー」 メモ(その5)
つい最近、わたしのなかの8才の子どもに
7才のともだちができた
名前も知らない
どこに住んでいるかも知らない
でも、気がつくと、8才のわたしの隣に座っていたり、
うしろをついてきたりする
話しかけようとするといなくなる
声のする方をふりむくと
9才の男の子が呼んでいる
笑いながら同じクラスの子どもたちと手をふっている
ありがとう、やっとここに戻ってこれた
今年のお正月は、また友だちから年賀状が届くお正月になったよ
隣で中学生のお姉ちゃんがだまって頭をさげる
男の子がさけぶ
お姉ちゃんの分もありがとう
お姉ちゃんも部活に入れたよ
一年前、男の子を「ふつう」に戻してあげたいと相談があった
男の子は4月から「ふつう」にもどれた
お姉ちゃんは中学入学のかねあいで少し遅れて2学期からもどれた
ふたりにはもうずいぶん会っていない
でも一年前の9才の男の子と、半世紀近くまえの8才の男の子は
いまも近くにいてときどき何か話している
◇
8才の子どもが分けられたくなかった一番の理由は
大好きな女の子の存在だった
その大好きな彼女の、大好きな長い髪に
給食のジャムぬったのは、わたしらしい
8才の子どもが分けられた理由の一つはきっとそれだ
当時の女の子の写真をみると
この世に天使がいたことを思い出す
あれから半世紀、天使のおもかげはみえない
それでもその子が、病気で家族と離れ一人で施設にいると知ったとき、
8才の子どもはおもう
自分がひきとって世話をすることはできないかと
ホームに子どもたちのついでに、
一人くらい元天使のおばさんがいてもいいんじゃないか
現実には無理なことと分かっていながら
自分の人生で最悪な夜だった8才の夜に
わたしをこの世につなぎとめてくれたお礼をしたいとおもった
私の人生をかけて最後までそばにいてあげたいとおもった
自分のなかにそんな思いがあることに驚く
その思いに気づかせてくれたのが、去年友だちになった男の子とお姉ちゃん
そして、最近友だちになった7才の子だった
彼らは、8才の子どもと話をしてくれる
だから、50年という歳月の長さの意味が
わたしにも感じられるようになった
子どものころに大好きだった女の子や仲間たちは
50年のあいだずっとそばにいて
支えていてくれたのだと思い出させてくれる
子どものころ、天使にあったことがある
子どものころ、天使と話したことがある
子どものころ、天使が友だちだった
子どものころ、みんなと一緒だったから
わたしは子どもでいられた
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