2. 《たからもののちーず》
「あきちゃんはくちがタイですか?」
カズキがめずらしく小さな声でわたしに聞く。
「何がタイですか?」
話がみえないときは、聞き返すのが一番。
そのうちヒントがみつかる。
「くちです」
「口ですか…」
わからない。
「どうですか?」
「どうでしょう。
わたしがタイじゃないと、どうですか?」
「こまりましたです…」
「そうですか…」
困っているのはわたしの方だ。
「ひみつのないしょですからねぇ」
「そうですか。秘密のねぇ」
「はぃ。だいじのひみつです」
「…わかりました!大丈夫ですよ!
わたし、口はかたいわよ」
わたしが答えると、カズキはうれしそうに笑った。
「ほんと、よかった。
そうだとおもったんだ。
あのね、ひみつなんですけど、
たからもののちーずがあるです」
「たからもののチーズですか」
「はい、ちーずです」
「地図ですね」
「はい、ちーずです」
「食べられない地図ですね」
「はい、たべられないちーずです」
カズキがまじめな顔でこたえる。
何かのゲームだろうか?
「それで?」
「おしえてほしいです」
「なにを?」
「あきちゃんのたからもの」
「わたしの?」
「はい」
カズキがうれしそうにうなずく。
「でも宝物は、地図で探すんでしょ?」
「はい」
「そしたら、わたしの宝物を聞いても仕方ないんじゃないの?」
「はぁ…」
カズキがさびしそうにうつむく。
「でも、ぼくのちーずは何もかいてないです…」
何も書いてない宝物の地図?
わたしの方が迷子になってる…。
「そうだ、カズキ。その地図、見せてくれる?」
「はい」
カズキはランドセルをひっくり返した。
コンビニのレシートや駅前で配っているティッシュや
カラオケの割引券がいっぱい落ちてきた。
それから一冊のノートを取り出した。
「はい」
「……はい」
「どうですか?」
「ノート…ですね」
「はい、のーとのちーずです」
「ノートの地図です…か」
「はい、たべられないちーずです」
「そうね。食べられないわね」
ノートの最後のページに☆印がある。
☆のよこにはたしかに『たからもの』と書いてある。
でも、他には何も変わったところはない。
ふつうのノートだ。
どうして、これが宝物の地図なんだろう。
相手がカズキじゃなかったら、だまされたと思うところだ。
でも、カズキは人をだましたりしない。
じゃあ、カズキがだまされてる?
それはよくあることだけど…。
「ねぇ、カズキ」
「わかりましたか?」
「んー、まだよく分からないんだけど、
宝物ってどんなものかなぁ」
「すごくいいものと思います」
「そうね、いいものは分かるんだけど…」
「はい、とてもいいものです」
「徳川の埋蔵金とか?」
「ぞうきんは、たからものじゃないですねぇ」
そうね、そんなわけないわよね。
そうだ、大事なことを聞くのを忘れてた。
「カズキ、これ、誰にもらったの?」
「それは……」
「それは?」
「アキちゃんは、くちが…」
「かたいわよ」
そう言ってわたしはニッコリ笑う。
つられてカズキも笑う。
「さんたさんです」
「サンタ、さん?」
「はい。さんたさんのぷれぜんとです」
「そっかぁ、サンタさんかぁ」
「しぃー、だめです、おおきなこえは」
「ごめん、ごめん、内緒の秘密だったね」
「はぃ、ひみつのないしょです。」
そうか、サンタさんにもらったんなら本物だ。
カズキのところにくるサンタさんは本物に決まってる。
「でも、カズキ、どうしてこれが宝物の地図なの?」
「たからものってかいてあります」
「そうだね、どんな宝物なんだろうね」
「きっといいものです。ハクテンより」
「ハクテンより?」
「いいもの」
「ハクテンよりいいものって、何かしら?」
「そうそう、それです。
ハクテンよりいいものって何ですか」
そう言って、カズキはランドセルから赤い封筒を取り出した。
そして、ニッコリ笑ってわたしに差し出した。
そこには、そりに乗ったサンタクロースの
イラストが描かれている。
サンタクロースの国の切手もはってある。
「すごいね。ほんものだね」
「…」
カズキはうれしくて声が出ない。
「開けてもいいの?」
「…」
カズキは声がでないので、
子犬のように「うん、うん」とうなずく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
…てがみのおれいに、たいせつなたからも
ののちずをおいていきますね。
きっとハクテンよりいいものがみつかると
おもいます。
ハクテンよりずっとずっとおかあさんがよ
ろこぶ、たからものです。
でも、このちずは、ひとりではよめないか
もしれません。
だから、いっしょにたからものをさがして
くれるひとを、みつけてください。
かずきくんのだいすきなひとといっし
ょに、たいせつなたからものをさがし
てください。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
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