私の思いと技術的覚え書き

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ルポルタージュ・損害調査員 その17【損保調査員の思い】

2022-07-05 | コラム
ルポルタージュ・損害調査員 その17【損保調査員の思い】
 17回目のルポルタージュとして、損保調査員(技術アジャスター)の立場というより思いとして、あるBP工場が記した添付の資料を見る機会があったので、これについて元アジャスターとして思いたる意見を記してみたい。


➀アジャスター検定(資格)は民間資格について
 そもそも、従前のアジャスターの歴史でも記したが、アジャスター制度として損保業界が資格制度を構築したのは昭和50年(1975年)のことだ。それ以前は、「調査人」もしくは「保険料率算定会損害鑑定人」という制度があり、後者の鑑定人は全国でも200名に満たない数で、あまり一般的でなく特別の高損害とか特殊車両に限定して修理費の確定調査を行っていたという現実があるが、増加する自動車保有台数と保険契約と必然として増加した物損事故に対応するものとして、請負出来高払いの現在で云えばウーバーイーツの配達員みたいな雇用形態での成り立ちが調査人の時代だったと想像する。これが昭和50年にアジャスター制度が決められ業界資格として、自研センターでの専門教育と共に資格制度も確立したということであろう。

 従ってここに記してある、民間資格というのはその通りだ。こういう民間資格というのは、アジャスター以外にも自動車査定士とか数え上げたら幾らもあるだろう。

 ところで、もしアジャスターが国家資格制度で、しかも税務職員とか労働基準監督職員みたいな捜査権ある職種だったらすべて巧く動くだろうかと考えた時、もしそんなことになったとしたら、正に自整BP業や車両ユーザーにっとって公平ある査定ができるかどうか疑問なところと思える。

 ただ、私も損保に属することになり、相当以前のことらしいが、何処まで具体化したものであったのかまでは不知ながら、損保の共同査定という構想があったやに聞く。つまり、各保険会社は営業のみ各社マターで行い、保険事故が起こると、その査定は各社マターではなく、全損保が共同で行う査定専門の組織体で不公平ない査定を行うという理念だろうと想像できる。これは現在の自賠責の査定がそういう仕組みとして採用しているのだが、これを広範囲に広げたものと考えれば良いだろう。ただし、これもあまりにもその組織の権威が強くなると、公平とは云いながら、一方通行の公平になる可能性が出て来るという点では同じことであろう。何れにしても、この思考は反対する損保もあったのであろう、査定は各社マターということで続いている。

 ところで、現職アジャスターの時代から、昨今でも聞くが、担当アジャスターが「家では認められません」という云い方をしているのを聞いて、特に損保自由化以降は約款も多少は各社での差異も出て来て、会社によって認められる認められないはあるのだろうが、「家では」とは当社として認められないという言葉をよく云えるものだと、ある意味その発言者を呆れ返って見てきた。そのアジャスターにしてみれば、他の損保は認めるところもあるのかもしれないが、当社としては認め難いという言い回しなのだろうと良心的に聞けば解釈できるのだが、幾ら損保が約款も含め自由化したといえ、保険で支払える偶然外来急激な損害とか、対物であれば民法709条の不法行為による損害賠償権に相当する対象を損害に認めることはいささかも変わりはない。元アジャスターとして、現職当時に相手の要求を否定する言葉として、家ではとか当社では認められないと云う云い方をしたことは金輪際なかった。認められない場合は、例え他の保険会社でも、道理として認められないという確信を持っているからこそ、そういう云い方を控えたということであろうと思ってる。

 ところで、車両盗難絡みの事故調査を行って来たりする中で、現在も特定車種の連続盗難が数こそ往時より少なくなったとはいえ続いているのだが、事故車の販売御者だとかヤフオクなどで、大破車だとかフレームとドンガラボデーのランクルが、書類付き100万とかで出品なされているのを見ると、これは間違いなく盗難車を別の車体番号にして復活させている事例であろうと数十年も前から思って来た。このことを下記のブログ記事で取り上げているのだが、英国での事例だが、交通事故で全損の車両が生じると登録原簿に「condition alert」(要注意車両)が記録されるという。この届け出を行うのは、現状だと取り扱い保険会社の技術アジャスターの領域ではないかと思える。この登録原簿に「condition alert」が記録された車両を復活するには、修理し精緻な検査を行い、「condition inspected」(検査済み)に差し替えられた場合のみ登録が可能になるという制度だ。盗難車のすべてが密輸されているとも思えず、この車体番号付け替えにより国内還流していることは、その極一部が発見されている事実から明らかで、こういう活躍の場もあるのだろうと思っている。

事故などいわゆる全損車の登録原簿への記録の提案
2021-02-02 | 問題提起
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/9438b1cfc9e2ab7a7eb1e39b52534b6a

②アジャスターは見積のプロだが何でも知っているとは限らないについて
 そもそも、過去何度も記しているが、私はアジャスターという用語が好きになれないし、しかも見積屋という意識も希薄なのだが、特に自整BP業の方は見積屋という意識が強い様だし、分業化された現代アジャスターそのものが見積屋という自己意識でいると感じることも多い。かといって、見積に精通したりするのに、見積研修とか云うのを自研センターは繰り返して来たのだが、私に云わせりゃそんな通り一辺倒な見積研修で見積が判った様に思っているとしたらお笑いぐさと思っている。

 私が数十年前に過去2年間自研センターに派遣されていたことがあることは以前にも記しているのだが、この時やっていたことは多くのアジャスター向け研修の下働きというか裏方業務が多かったのだが、この5日間の研修にはだいたい2日半ほどの作業観測がある。事前に各自が自己見積を作成し、その後作業観測を行い、完全に作業は終了しないまでも、塗装部門に回せる状態まで事故車を復元する作業を受講生に見せるというものだ。この作業観測も繰り返し見ていると、あの作業者は失敗しているなとか、これで直ったと宣言したが嘘だなということが判ってくる。つまり受講生は既にそこにはいないが、作業者は受講生がいない場所で、やり残した直ったと宣言した場所を手直ししている姿を何度も見てきたのだ。こういう繰り返しをしつつ、しかも作業者のきげんを損ねない様に気を使い、「やはりねぇこの部分は手間係りますよねぇ」などとやりとりすると、本当の真実というのが判って来るものだ。

 それと、見積の訓練は、改まった見積研修ではなくて、立会工場での目的外車両の作業途上の一瞬でさえ、こういう直し方があるんだとか、再立会により巧く進んでいるかとか、技量の良し悪しまで判ってくるものだ。だた、最近の名前も知らぬアジャスターを希に知り合いの工場で見掛けると、とにかく工場担当者との会話が少なすぎる様に感じてしまう。例えば、私の現役時代再立会などして、予想以上に進展が早く、しかも作業環境も整然とした環境でこなしている工員を見たりすると、その工場経営者との話しで、あの作業者なかなか腕が良い技術者ですねなどと御世辞を込めて話し掛けるということもある。こういう言葉に対し、その経営者はまんざら悪い気持ちも抱かずに「だがなぁ、クルマによっては丁寧すぎるところがあるんだなぁ」という本音も聞こえて来る訳だ。つまり。トラック、商用車、タクシーなど、そこまで手間掛けなくて良いのにという経営者の本音が聞こえて来るという訳だ。

③サラリーマン化したアジャスターは上に通る見積を作る必用があるについて
 これはアジャスターだけの話しでなくて、ある意味自整BP業の工員でも同じことで、使用人といういう意味で、良い意味での昔のプロ意識が希薄化してしまっていると云える。それと、アジャスターも自整BP業の工員も経営者も類似したところがあるが、伝えたり説得したりするする能力が劣るとか、浅知恵というベき意味のないコメントと云うか単なる言い訳に終始しているケースが多いのではないだろうか。また、そもそも見積技能が高いからアジャスターが出世する訳ではないのはサラリーマンでも組織体では同様で、なんでこんな奴がやれ部長だ課長だとなるのだという事例は枚挙にいとまがないだろう。つまり世渡り上手とか、アジャスターを牛耳る保険会社職員との関係というのを考えて見れば理解できる。そもそも、出世したアジャスターというのは自分がさまざまな矛盾の中で過ごして来たことを、その改善できる立場になったとたん、忘れたごとくその矛盾を改革しようともせず部下に矛盾を押し付け続けるという手合いが多い様に思えるところだ。

④アジャスターの中には人間関係を築くことが苦手な方がいる
 このことは昔からあったことで、対自整BP工場だけではなく、代理店、契約者、被害者との関係で、意志疎通が巧みかどうかという問題で、それができない者はこの仕事を去って行ったたと思い出す事例が結構ある。様は人の機微(英語のtact)に類する能力ではないだろうか。

⑤アジャスターの発言は、自整BP業やエンドユーザー(オーナー)の立場を無視する場合がある
 これも、先のtactの意味するところで、立場は違うので、その目的は異なることはある意味当然なのだが、何処まで相手の立場を気遣って配慮できるかと云ういうところに結び付く。こういう反発が続くと、その該当アジャスターにもそれなりのダメージが蓄積し、心の病となるか離職するかという問題になり得る。ただし、反発を怖れすぎ、自らの主張をまったく展開できなくなった場合も、存在価値を自己否定することになるのであろう。

⑥対応単価など権限がない
 これは、アジャスターでなくても勤め人の宿命と云える。公式に云えば、調査員は支払い決定権はなく、支払いの約束をしてもいけないことになっているのだ。ただし。これも考え方で、やたら単独で先走るのは問題だが、最寄りの意志決定権者(必ずしも自分の上司とは限らない)との事前打ち合わせとか内諾、根回しにというか、大げさに記せば企業の意思を明確しにて取り組めば、単なるメッセンジャーボーイとはならずに済むのだろうと思っている。そうでなければ、この仕事は続けられないとも思うところだ。

追記
 昨晩、あるBP業に先週から頼んでいたR52(BMWミニオープン)の小さな塗装修理があったのだが、ちょうど仕事が切れたので施行できるとの連絡を受け、夕刻から車両を持ち込んだ。その帰途、最近の保険会社の対応はどうかねなどと探りを質問をして見た。

 こうやって、元現業の様子を探るのも、やはり関心を持ち続けているところなのだが、その返答が最近の話しらしいが、軽のバモスで総額120万円の協定を行い、1月を越えても支払いがないので、その保険会社に連絡を入れたところ、未だ未協定(つまりレポートが提出されていない)ということを電話に出た女性が宣い、担当者が居るんで代わりますすとなったという。そしたら驚いたことに、「あのねこの金額ヤバいんだ、修理料金とか代車料を再考してもらえませんか」と云って来たと云うのだ。
 この話しを聞いて、今でもこういうタイプがいるんだなぁ。おそらく、この様子じゃ、不在時など伝言メモだとかクレームの嵐だろうし、年齢層も聞きはしなかったがこの仕事に向いていないタイプだなぁと思わざるを得なかった。協定後に値下げ要求するのも問題外だが、もしどうしてもそうであるなら、もっと早く自ら出向いてそれなりの訳を話していなければ話しにならないだろう。それを相手から掛かってた電話で、自分の都合をよく云えたものよと思わずにいられない。

 だいぶ以前のことだが、確かNetのBP業の記述で見たのだが、「アジャスターと協定して支払いがなされないので問い合わせると、女性担当者がその件保険料未入金で免責ですよと答えられてあまりの無責任さに愕然とし、もう保険会社の仕事はやりたくない」などと記してあった。契約の有無責などは女性担当者がやるが、必ず担当アジャスターに連絡なされるはずだ。また、もし連絡なしが判ったとしたら、叱りつけていることだろう。そしたら、まずは協定未協定に関わらず、即座に連絡するのが担当調査員の責務だろう。

 自分のことであるが、日本のBP業は人が良いというか入金に無頓着の方が多い。対物事案などでは過失割合で揉めて解決が遅延する場合もある。こういう遅延した場合も、相手から支払い督促を受ける前に、こちらからこういう訳で遅延していると連絡するのが、tactというものだ。ただし、その中には「あなたの契約者が頑張っちゃってるから解決できないんだ。日時を区切ってお客に請求して欲しい。そうすればお客も引っ込むから」と付け足すことを忘れてはいけない。


#ルポルタージュ・損害調査員 #調査員の思い #tact


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