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損保調査員の守備範囲を思う

2022-05-01 | コラム
損保調査員の守備範囲を思う
 元損保調査員として感じるところだが、現代の損保調査員(アジャスターと呼ばれる)の守備範囲というか活躍すべき場がどんどん狭まり、果たしてこのことが保険会社にとって取って、もしくは保険契約者に取って正しい方向なのかと疑問を感じていることを述べてみたい。

 これは、おそらく損保に限らずあらゆる企業で機械化だとか分業化という名目で進められていることに要因はあるのだろう。つまり、損保調査員の主目的は、損害額の適正化にあると思っている者が、損保に限らず自整業だとかBP業にも多いことを知ると、正直元損保調査員としてはがっかりというか、本来はそうではなかったという説明をある場合はするのだが、正直そのことを理解してくれる方は少ない。

 では誰が判ってくれるかと云えば、昔の損保調査員時代から調査員教育の現場にあった方とか、損保損害調査部門に属する本当に一部の方のみ、その理由を理解しているのだが、決してそのことはメジャーな指向とはならず、見かけ上の分業化とか効率化(あくまで見掛け上だ)により、現状のほぼ「見積屋」に成り果てていると云うのが現状だろう。

 現在、自動車の保有台数が頭打ちし反転して減少傾向を示し、一方クルマの技術も、従来のパッシブセーフティ(受動的安全)から衝突被害軽減ブレーキの様なアクティブセーフティ(積極的に事故を防ぐ装置)が実用化されつつある中で、自整業やBP業の事故車リペアの仕事は、対前年比で約10%程度ほども目減りして来ている現状がある。このことから、識者は自整業とかBP業の未来は暗いと警鐘の言葉が出て来るのはある意味当然だが、このことは大きく云えば損害保険会社事態にも云えることであり、その中でも「見積屋」に甘んじている損害調査員など一番影響を受ける職種だろうと拙人は意識している。

 先に記した損保に限定した機械化だとか分業化だが、今や事故受付は24時間稼働のある意味地方(秋田とか沖縄という話も聞く)の事故受付集中センターで行い、それが翌朝朝までには担当すべき損害調査センターに転送されるのだろう。そして、主に女性担当者による情報の確認の一貫として入庫工場の確認がなされ、その概算修理費(工場の言による)が把握されたり、入庫工場が未だ決まっていないと見れば、すかさず当該損保の指定する工場への入庫誘導が積極的になされるというところだろう。

 ここで損保の指定工場とは、当該損保で規定する一定以上の設備を持つ工場が基本となるが、まず台車を無料で出してくれるとかレッカー搬送が24時間できるとか、損保の指数を利用して修理料金を算出するとかあるが、それより大きな側面として損害保険商品(自賠責含む)の契約を一定戴けるというのが大前提になる。なお、最近知るが、ある特定の損保と指定工場の関係であろうが、部品レスまでを損保に対して行っている工場もあることを知り驚く。

 この自整業とかBP工場の実情をあまり知らない方には判らぬところであろうが、特にBP工場とは昔から下受け体質が強い業種出あることがある。つまり事故車修理という宿命もあるが、入庫が自社努力で平準化し難いとか、一般工場では、また何か不具合あったら寄って下さいとはBP工場には云い難いところがあると云うことがあるのだろう。そういう中で、特にディーラーなどはだいぶ以前から内製化と呼ぶがディーラー自身でBP工場を設立して修理も始めているが、特段それが拡大することはなく、逆に近年内製BP工場を集約統合して縮小する気配まで見える。そういう訳で、内製BP工場を持たないディーラーでは、下請けとしての一般BP工場に外注を出しているのだが、その際の工賃レス率は昔は20-30%だったのだが近年は40-50%という実態にあることも聞き及ぶ。なお、トラック系を主に行うBP工場などは、その数が少ないこともあり、そういうレス率を意識することなく、そのBP工場が決めた仕切り価格として該当ディーラーに請求しているので、こういう弊害からは逃れられているのだが、乗用車を主に行うBP工場では、工賃算出の基礎資料となる損保指数が普及していることもあり、このレス率から逃れられないと云う宿命があるのだ。

 それと、内製BP工場がある場合でも、その内製BP工場のキャパシティを越えた場合には、外注BP工場に出すことは当然なのだが、複数以上伝え聞く話しで、軽度なBP修理は内製工場で行い、重度(中、大ダメージ)の事故車は外注BP工場へ出すというから、このことは内製BP工場の技術力がある意味劣っていることを示すことだろうと想像するしかない。
 なお、自整業についても、ある意味で入庫余力が余っていたり、乗用車中心のディーラーでトラックの車検を受注したりすると、その整備作業を一般自整業に外注に出すというケースもある様だが、このことはBP程多くはない。

 さて、損害調査員の話しから、修理工場の内情に振れてしまったので元に戻すが、損害調査員の業務は、現在はある意味「見積屋」に収束している感がある。そして、これは損害調査員は判断しているのではなく、受付担当の女性職員が判断していると思えるが、いわゆる従来写真見積と呼んでいたが画像処理という各県に1カ所程度の画像処理専門センターでの処理がある。ここで、処理を担当するのも損害調査員(アジャスター)だ。ここでの業務実態は、あまりに露骨に記すのは抵抗があるが、これは実態を知ってもらう意味で記しておかねばなるまい。

 つまり画像処理集中センターに送られる損害調査員というべき者の多くは、最初から画像処理センター所属であった訳でなく、最初は各損害サービスセンター所属の外へ出掛けて立会調査をする調査員だったのだ。それが、何らかの理由で画像センターへ移動になっているのだが、拙人が聞く限りのことだが、損害調査センターでの業務中に出先でトラブルが多いとか、所内で書類を溜め込んで処理が遅延してクレームを起こしたとか、良い話は聞こえて来ない。何れにしても、各サービスセンター所属の調査員で、自ら進んで画僧センターへ行きたいと願う者はほとんどないという実態にあることが判る。

 そもそも拙人の損保現役当時は画像センターはなかったが、写真見積という手法を取ることはあり、その判断は担当損害調査員が自ら決めていたし、画像で以来使用が、後日その近くへ他の立会でもあれば、ついでにその写真見積依頼の工場へ不意に訪れ、立会調査に切り替えるという様々なバリエーションがあったのだ。

 拙人は、そもそも自整業やBP業に根っから悪い者など極少ないとは意識しているのだが、こと保険で気軽に請求が行えるとなると、余程律儀な正義感を有した工場であっても、それなりに従業員を擁し工場経営を行って行くためにとか、入庫した知古ある車両所有者の負担をなるべく軽くしてやろうと、出来心が生まれる場合もあるのだ。それを、頭から画像集中センターに回し、相当な例外があっても、途中から立会調査に変更できない硬直さとは、これで保険会社が社会的使命とする公平、公正な査定が担保できるのかと思うところだ。

 それと、損害調査員が見積屋でないところとしては、現場調査と示談、そしてその数は少ないが、絶体防止しなければならない事故として、虚偽の事故報告を行う保険金詐欺の除外があると信じている。これらについて、以下に幾らか補足したい。

 まず、現場調査だが、事故現場に残されたスリップ痕だとか事故車の破片だとかを判断するのが中心になるのだが、これは事故車を見ていて、何が路面にキズを付けたとか、縁石に痕跡を残したのかの一致で判ることなのだ。つまり社外調査機関(損保リサーチ)などの調査で、双方の主張を聴き取り、合わせて現場の状況と付き合わせることも否定はしないが、人の主張というある意味主観より、現場に残された物証の方が客観性があり、重視しなければならないことだろうと意識する。つまり、これら調査をまっとうできるのは、実際クルマを見た調査員であり、それは単に見積技能を持つのみならず、自動車工学的視点で、車両の運動だとか挙動を想定できる知識が求められるということだ。

 次に示談のことだが、現在では対損保同士の示談とか10:0で格別損害額と妥当な代車費程度の要求しかない様な簡易な示談というのは、損保損害サービスセンターの女性担当者が行っていると思う。これはこれで良いと思うが、かなり重度で、無理難題を云う相手側にさえ、苦労して女性担当者が行っているとすれば、これも酷なことではないかと思える。なお、相手方が出てこいとか面談要請があれば、出掛けていくのは男性社員か調査員であろう。この場合、先の現場と同じく、その該当車を見た損害調査員が示談の場面に参加することの重要性を思う。つまり、被害者が主張する評価損だとかちゃんとクルマが直っていないという問題について、クルマを見ていない者は一般論でしか説明しようがないが、そのクルマを見た調査員なら、より具体性を持った説明ができる訳なのだ。また、過失割合を認めない相手に付いても、クルマを見た調査員が自動車工学とか事故時の車両の物理的挙動という客観性のある説明を行うことにより、感情論に流されがちな問題を、動かしがたい物証で説明できる予知あるのは損害調査員だけだと思っている。

 なお、以前損害調査と示談という表題で、損害査定は抵抗なくできるが示談は苦手という調査員のことを記した記憶があるが、こういう調査員に対し云いたい。あなたは公権力者ではないのだから、幾らあなたが正当だと確信する見積を作れたとしても、その妥当性を対する相手に無理なく理解させる説明力が欠けているとすれば、あなたの見積能力は落第だと云えることだ。つまり見積協定と示談はまったくエッセンスとしては同一で、説明、説得力に掛かってくるとう理解をしているのだ。

 最後に虚偽の事故報告とか保険金詐欺に関わる除外だが、これも該当車両のできれば双方と事故現場を同一調査員が見ていればこそ達成できる問題だと確信している。これは、ある意味、調査担当者が仮に運転していたとして、操作ミスなどから起こり得るのか思考して見ることが必要ではないかと思える。

 ここで終わろうと思ったが、追記として1点述べたい。数年前、埼玉県で修理費訴訟があり、1審(地裁)は保険会社の勝訴、2審(高裁)は保険会社の敗訴、3審(最高裁)は却下で2審の保険会社敗訴が確定した、いわゆるレバーレート訴訟があったのだが、知っておられるだろうか。この事件の様々な内容を拙人なりに情報収集し、そのことは本ブログでも記しているのだが、この事故に損害調査員はほとんど関わっていないと思える。つまり、本気で損害調査員が関わり、その者の情報収集、集約能力に負うところもあるが、担当弁護士に十分この意味を伝えることができていれば、この事件の場合、損保が負けることはなかったと信じるところだ。つまり、この事案は三井住友社だったと思うが、損害調査員の能力をあまりに軽んじ、端から担当弁護士との下打ち合わせなどに参加させなかったところに敗因があったと理解しているのだ。


#損保調査員は終末か #損保調査員のポテンシャルをあなどるな


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