電子制御燃料噴射の昔話 その2
ここでは、前回に続きガソリンエンジン用電子制御燃料噴射の昔話その2として記録したい。
ガソリンエンジン用燃料噴射は、最初は航空機(戦闘機用)エンジンンとしての採用から始まった様だ。つまり、戦闘機においては、その飛行姿勢が2次元的と云うより3次元的に飛行し、なおかつ高G下での旋回とか、はたまた急降下から上昇するとか上昇から弾道運動用に下降する経過においては無重力の状態になり、一方背面飛行まで行うとか、空気の薄い高々度までの飛行を、そのそもキャブレターという基準液面を保つフロート室で行うと云うことの困難さを、燃料噴射で解決できるという可能性を求めた故だったのだろう。この時代、独では2つの燃料噴射機構がそれぞれ2機種のエンジンで試みられていたことを、ものの本で知る。その一つが、ポート噴射であるが、ディーゼルエンジン用機械式列型噴射ポンプで行うフォッケウルフ(FW190)に搭載されていたBMWエンジンとクーゲルフィッシャー燃料噴射装置だ。そして二つが、メッサーシュミット(Bf109)に搭載のダイムラーベンツ社の倒立V12エンジンに採用されたという同じくディーゼルエンジンン同様の列型機械式噴射ポンプによるシリンダー筒内ダイレクト噴射だったのだ。
このメッサー・ダイムラーベンツエンジン(DB600シリーズ)は、日本の川重(陸軍要請で飛燕に搭載)と愛知航空機(現愛知機械・彗星に搭載)と別々にライセンス供与(つまり別々に国費を費消した)という曰く付きの和製DB600を誕生させたのでした。しかし、それまで中島航空機などで大排気量多シリンダーエンジンは、2重星形までの空冷エンジンで成立させてきた日本の工業技術というか工作機械の精度では、この様な長物回転エンジンの高精度な加工技術には到底付いてゆけず、せっかくラインセンス供与を受け図面とかそのものズバリのエンジンの提供も受けたと思われますが、同じ高精度のエンジンができなく、故障が多いエンジンという評価で、とても本来のポテンシャルを発揮できなかった様だ。飛燕にしても彗星にしても、生産途中でエンジンなしの機体がならび、後に窮余の策として星形エンジンに換装されて空を飛ぶということがあったやに本の記述を見る。
しかし、戦前までこんな工作機械しかできなかった日本が、何故かマザーリングマシンとしてマシニングセンターとか様々な工作機械果てはロボットという分野で、世界No1のシェアを奪うまでになったという事は皮肉なこととも感じる。そして、ジェットエンジンの完成品こそ未だ正式の日本製はないが、ジェットエンジンンのサプライヤーとして、日本のIHIの作り出すメインシャフトとか、ベアリングメーカーが作り出す高精度ベアリングがないと、世界の3大ジェットエンジンメーカー(米GE、プラット&ホイットニー、英ロールスロイス)は、その生産すらできない状態になっていると聞く。
またまた、航空機用レシプロエンジンの燃料噴射話が、拡大してしまった。話しを戻すが、航空機用燃料噴射は、純機械的なプランジャポンプで燃料を圧送する、ちょっと以前のディーゼルエンジンの機械式燃料噴射とほぼ類似構造だった。ここで、ガソリンの燃料噴射では、空燃比が極狭い領域でなければ、まともな稼働ができないと云う極めて重要なファクターとなるのだが、ディーゼルではその様な空燃比の問題がないということを知らなければならないだろう。
つまり、ディーゼルエンジンの出力制御は、そもそもスロットルバルブのないエンジンも多く、あったとしても特定の条件で閉めるだけで多くの運転条件では全開になったおり、エンジン出力は噴射量の量だけで行っているという特徴があるのだ。つまりディーゼルの軽負荷運転においては、ガソリンエンジンの超希薄混合気の運転と同様に、相当薄い空燃比での運転が自然にできてしまうという根源的な理由があるのだ。
一般にディーゼルの熱効率だとか燃費が良いのは、その圧縮比が高いことを持って説明がなされることが多いが、この軽負荷とか定常運転域での希薄運転による燃費への寄与という要素が欠かせない理由なのだ。この希薄運転のことを、別名空気余剰率という云い方もする。ただし、何時もスロットル(給気管絞り弁)全開という機構上の欠点として、給気管負圧が生じないので、ブレーキブースターとかに給気管負圧のサーボを使用したい場合は、専用のバキュームポンプを接地する必用がある。
と云うことで、先の戦争中にガソリン航空機用として機械式燃料噴射は生まれ、その後もレーシングエンジンなどでも活躍することになるのだが、航空機もレーシングエンジンも、その運行の多くがスロットル全開みたいな高負荷運転が中心であり、中低速の過渡域(パーシャルスロットル)のドライバビリティと多少劣ろうが、全開出力時の燃料供給が追い付かなくなるキャブレターエンジンより、燃料噴射は利点があったということだろう。
戦後、このクーゲルフィッシャー社は独自に一部の車両に搭載などされていたが、独大手サプライヤーのボッシュ社に吸収されてしまう。なお、市販車用の機械式燃料噴射は、空燃比制御が粗すぎ普及しなかったのだが、主に競技中の全開率が高いレーシングエンジン用としては、英ルーカス社の燃料噴射(ポート噴射式)が多用された時代があった。
こんな中、ボッシュ社では、Kジェトロニックという機械式燃料噴射だが、噴射ポンプに機械的リンク機構を持つエアーフローメーターを備え、吸入空気量に応じた空燃比を生み出せる燃料噴射装置(Kは独語"Kontinuierlich"(連続的な)を意味)が1973年に開発され、独車を中心に、主に欧州市販自動車用として広い運転領域でのドライバビリティを確保した燃料噴射装置として普及するに至るのだ。
今回はここまで、次回は燃料噴射の根源的なメリットとか、その他次項を記して行きたい。
##燃料噴射の昔話 #燃料噴射ガソリンとディーゼルの違い
ここでは、前回に続きガソリンエンジン用電子制御燃料噴射の昔話その2として記録したい。
ガソリンエンジン用燃料噴射は、最初は航空機(戦闘機用)エンジンンとしての採用から始まった様だ。つまり、戦闘機においては、その飛行姿勢が2次元的と云うより3次元的に飛行し、なおかつ高G下での旋回とか、はたまた急降下から上昇するとか上昇から弾道運動用に下降する経過においては無重力の状態になり、一方背面飛行まで行うとか、空気の薄い高々度までの飛行を、そのそもキャブレターという基準液面を保つフロート室で行うと云うことの困難さを、燃料噴射で解決できるという可能性を求めた故だったのだろう。この時代、独では2つの燃料噴射機構がそれぞれ2機種のエンジンで試みられていたことを、ものの本で知る。その一つが、ポート噴射であるが、ディーゼルエンジン用機械式列型噴射ポンプで行うフォッケウルフ(FW190)に搭載されていたBMWエンジンとクーゲルフィッシャー燃料噴射装置だ。そして二つが、メッサーシュミット(Bf109)に搭載のダイムラーベンツ社の倒立V12エンジンに採用されたという同じくディーゼルエンジンン同様の列型機械式噴射ポンプによるシリンダー筒内ダイレクト噴射だったのだ。
このメッサー・ダイムラーベンツエンジン(DB600シリーズ)は、日本の川重(陸軍要請で飛燕に搭載)と愛知航空機(現愛知機械・彗星に搭載)と別々にライセンス供与(つまり別々に国費を費消した)という曰く付きの和製DB600を誕生させたのでした。しかし、それまで中島航空機などで大排気量多シリンダーエンジンは、2重星形までの空冷エンジンで成立させてきた日本の工業技術というか工作機械の精度では、この様な長物回転エンジンの高精度な加工技術には到底付いてゆけず、せっかくラインセンス供与を受け図面とかそのものズバリのエンジンの提供も受けたと思われますが、同じ高精度のエンジンができなく、故障が多いエンジンという評価で、とても本来のポテンシャルを発揮できなかった様だ。飛燕にしても彗星にしても、生産途中でエンジンなしの機体がならび、後に窮余の策として星形エンジンに換装されて空を飛ぶということがあったやに本の記述を見る。
しかし、戦前までこんな工作機械しかできなかった日本が、何故かマザーリングマシンとしてマシニングセンターとか様々な工作機械果てはロボットという分野で、世界No1のシェアを奪うまでになったという事は皮肉なこととも感じる。そして、ジェットエンジンの完成品こそ未だ正式の日本製はないが、ジェットエンジンンのサプライヤーとして、日本のIHIの作り出すメインシャフトとか、ベアリングメーカーが作り出す高精度ベアリングがないと、世界の3大ジェットエンジンメーカー(米GE、プラット&ホイットニー、英ロールスロイス)は、その生産すらできない状態になっていると聞く。
またまた、航空機用レシプロエンジンの燃料噴射話が、拡大してしまった。話しを戻すが、航空機用燃料噴射は、純機械的なプランジャポンプで燃料を圧送する、ちょっと以前のディーゼルエンジンの機械式燃料噴射とほぼ類似構造だった。ここで、ガソリンの燃料噴射では、空燃比が極狭い領域でなければ、まともな稼働ができないと云う極めて重要なファクターとなるのだが、ディーゼルではその様な空燃比の問題がないということを知らなければならないだろう。
つまり、ディーゼルエンジンの出力制御は、そもそもスロットルバルブのないエンジンも多く、あったとしても特定の条件で閉めるだけで多くの運転条件では全開になったおり、エンジン出力は噴射量の量だけで行っているという特徴があるのだ。つまりディーゼルの軽負荷運転においては、ガソリンエンジンの超希薄混合気の運転と同様に、相当薄い空燃比での運転が自然にできてしまうという根源的な理由があるのだ。
一般にディーゼルの熱効率だとか燃費が良いのは、その圧縮比が高いことを持って説明がなされることが多いが、この軽負荷とか定常運転域での希薄運転による燃費への寄与という要素が欠かせない理由なのだ。この希薄運転のことを、別名空気余剰率という云い方もする。ただし、何時もスロットル(給気管絞り弁)全開という機構上の欠点として、給気管負圧が生じないので、ブレーキブースターとかに給気管負圧のサーボを使用したい場合は、専用のバキュームポンプを接地する必用がある。
と云うことで、先の戦争中にガソリン航空機用として機械式燃料噴射は生まれ、その後もレーシングエンジンなどでも活躍することになるのだが、航空機もレーシングエンジンも、その運行の多くがスロットル全開みたいな高負荷運転が中心であり、中低速の過渡域(パーシャルスロットル)のドライバビリティと多少劣ろうが、全開出力時の燃料供給が追い付かなくなるキャブレターエンジンより、燃料噴射は利点があったということだろう。
戦後、このクーゲルフィッシャー社は独自に一部の車両に搭載などされていたが、独大手サプライヤーのボッシュ社に吸収されてしまう。なお、市販車用の機械式燃料噴射は、空燃比制御が粗すぎ普及しなかったのだが、主に競技中の全開率が高いレーシングエンジン用としては、英ルーカス社の燃料噴射(ポート噴射式)が多用された時代があった。
こんな中、ボッシュ社では、Kジェトロニックという機械式燃料噴射だが、噴射ポンプに機械的リンク機構を持つエアーフローメーターを備え、吸入空気量に応じた空燃比を生み出せる燃料噴射装置(Kは独語"Kontinuierlich"(連続的な)を意味)が1973年に開発され、独車を中心に、主に欧州市販自動車用として広い運転領域でのドライバビリティを確保した燃料噴射装置として普及するに至るのだ。
今回はここまで、次回は燃料噴射の根源的なメリットとか、その他次項を記して行きたい。
##燃料噴射の昔話 #燃料噴射ガソリンとディーゼルの違い