俳優の緒形拳さんが亡くなりました。私も、非常に印象深い名優だった方と感じています。71才だったと云いますから、早すぎる死であったと尚更に惜しまれます。
さらに感じることとして、自らの病気のことを周辺に悟らせず、死の至近まで俳優としての仕事を続け、葬儀も密葬で済ましてから世間に報じさせるという、見事な死であったということです。
この方の演技で、何年か前にNHKドラマだったと思いますが、「破獄」という脱獄囚を演じておられた際のことが思い出されます。この「破獄」は、私の愛読する吉村昭氏の小説が原作であり、既に原作は読んでいましたが、原作のイメージにベストマッチする特異な囚人像が演じられていると感じたものでした。
ところで、この吉村昭氏も、死の直前に「死ぬよ」と身内に告げ、自らが点滴の管を抜いて死に去ったことが伝えられています。現在若い方には想像がつかないかもしれませんが、人間50を超えると自分の死の瞬間をことを時々想像し出すものです。私は特に長生きしたいとは思いもしませんが、これら偉大な名優や作家の見事と感じられる死の瞬間でありたいことを願います。しかし、私の様に凡庸な者には適わぬ夢であると思います。