今回は、ある意味保険会社同士の戦いともなる案件として紹介してみます。
事案は、ある整備工場で車検整備が行われ、整備完了し納車後、約2ヶ月走行30キロしか経てないクルマがエンジンルーム内から出火し全損となり、某損害保険会社で車両火災保険が支払われたことによります。損害保険会社において車両火災の支払いが行われますと、この際に第三者に原因が帰する場合は、当該保険会社はその第三者に請求する権利を持ちます。正確には、これを代位請求権と云うのですが、今回は、この代位請求として、車検整備を実施した整備工場に請求の意志が示されるに至った訳です。
以前にも記したことがありますが、顧客のクルマを受託する整備・鈑金工場というのは、結構高価なクルマを預かりますから、リスキーな部分があります。例えば、受託中にぶつけて損壊してしまったり、リフトから落としてしまう様なケースもあります。また、今回の様に、整備の瑕疵が疑われる様なケースの中には、ブレーキが効かなくなり事故を生じるという場合もあります。
この様な、整備・鈑金等のモータービジネス業のリスクをカバーするため、自動車管理者賠償責任保険(自管賠)や生産物賠償責任保険というのが用意されています。今回の事案では、該当整備工場からこの生産物賠償責任保険の案件として、相談を受けることとなった訳です。
この様な他損保からの挑戦というのはある意味で「燃える」ものです。まあ、「小癪な、そんなものは撃墜してやろうじゃないか!」なんていう思いです。まあ、以上は冗談ですが、代位請求する某損害保険会社からは、「意見書」なる車両火災の原因を記した書面が該当整備工場に提示されましたので、早速読み込んで、妥当性の確認を行った次第です。
某損害保険会社の意見書の要旨としては、車検整備後2ヶ月でその間の走行距離30キロであり、該当車はほとんど車庫に保管されていたものであり、エンジンルーム内の焼損状態から、燃料ホースからの燃料漏れの恐れが強いとしたもので、整備の不良もしくは見落としがあったのだと結論付けているものです。
該当車両は英国ダイムラー(ジャガーの双子車)のダブルシックス(V12エンジン)なのですが、私の頭の中には、あのダブルシックスのエンジンルーム内のギッシリ詰まった様子が直ちにイメージされました。多分、この年式では、燃料系はLジェトロニックという燃料噴射機構が使用されていますが、日本車でもそうでしたが、以前のものは、各インジェクターとデリバリーパイプ間等にラバーホースが多用されており燃料漏れを生じ易い傾向があるのです。現在のクルマでは、Oリングや金属パイプを使用し、ラバーホースの使用を最小限にしていますから、そんなことはまずないのですが、フォードに吸収される前のジャガーは、旧態依然とした構造で作り続けて来た傾向がありました。
私の意見としては「車検整備と火災事故の因果関係について」(別添)を参照してもらいたいのですが、要旨としては「因果関係の照明は困難である」とするものです。つまり、車検整備の際に触れてもいない部分や目視点検できる範囲にも限度があり責任はないであろうとする内容を記しました。
この私の意見書を逆提示してから、某損害保険会社からはの代位請求が継続なされることはなくなりました。