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この国のねじ曲がりを示すOBD車検

2022-12-30 | コラム
この国のねじ曲がりを示すOBD車検
 国交省のOBD検査説明のページ(以下)には、OBD車検について、次の様に記している。
 衝突被害軽減ブレーキ等の自動運転技術については、近年、軽自動車を含む幅広い車両への搭載が進んでおります。これらの技術は、交通事故の防止に大きな効果が期待される一方、故障時には誤作動等により事故につながるおそれがあることから、使用時においても、確実に機能維持を図ることが重要です。
このため、令和6年10月から、自動車の検査(車検)において、衝突被害軽減ブレーキ等の自動運転技術等に用いられる電子制御装置の目に見えない故障に対応するための電子的な検査(以後OBD検査)を開始することとしております。

自動車の電子的な検査(OBD検査)について
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_OBD.htmlhttps://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_OBD.html


 このOBD車検の実施は、2024年10月開始予定で進められており、そのためのシステム開発費やデータ集取費などとして、車検時の手数料として(独)自動車技術総合機構(国の検査場の実働部隊としての企業)へ納入する手数料が一台当り一律400円が、昨年(2021年)10月より追加徴収されているのだ。

 このOBD車検というか定期点検でもOBD点検と云う項目は追加されているのだが、この定期点検におけるOBD点検とは、エンジンとかABSなどのOBD機構のチェックランプの点灯と、エンジン始動後(もしくは一定時間経過後のイニシャライズチェック後)にランプの消灯により確認すれば良いだけなのだが、OBD車検では、さらに厳密化した以下の処置を取ると云うことで進めている。

 車検時に、予めOBDの国で定めた特定DTC(トラブル項目)について、国が推奨するスキャンツール(これを法定スキャンツールと呼ぶ)で読み出し、車検受験前に(独)自動車技術総合機構の用意するサーバーに送信しておく。なお、ユーザー車検などでは、車検場で貸し出される法定スキャンツールにて、特定DTCの読み出しと、サーバーへの登録をそこで行う。

 ここで、手数料1台400円(全車検台数2千万台と仮定すれば80億円)の使途は、この特定DTCの決めつけと、それに際する車両メーカーからの基準データ提供料、自動車技術総合機構に構築するサーバーのハードおよびソフト開発料などとなるのだが、当初予算が80億として事後通年でこれ程要するのか疑問な点がある。

 それと、冒頭の衝突被害軽減ブレーキなどのOBD点検は、そのすべてのOBDの機能が車両停止状態で点検できるものではない。つまり、走行中にミリ波データとかカメラのデータの送受が不良で、異常が検出されるという場合もあり得るのだ。そうなると、衝突被害軽減ブレーキなどのASV関係を特定DTCとして設定することは困難となり、特定DTCとして設定できるのは、せいぜいのところ排ガス検出に関わるO2センサー(もしくは空燃比センサー)のDTC、ABS関係のDTC、エアバッグなどのパッシブセーフティ機能のDTCというところに限定されてしまうだろう。しかも、O2センサー系のDTCが未検出だからといえ、100%排気ガス浄化が正常だという保障などはない。これは、あくまで触媒機能の劣化を診断する程度のもので、実際の排ガス浄化機能は、新型車型式指定の際に測定する大掛かり高精度なシャシダイナモを備えた排出ガス分析装置でなければ不可能なのだ。

 ここまで読み進められた方に、改めて意識してもらいたいこととして、冒頭の衝突被害など高度な安全装置があり、それの故障時に備え新たな検査を行うとした、文言と、実際のOBD検査の不整合が生じて来ていることを知ってもらいたい。つまり、OBD検査の理由付けと、実際の運営に論理矛盾が生じて来ていると私は解釈せざるを得ないのだ。

 しかも、2024年10月よりOBD車検が実施されることになるのだが、この特定DTCの検査というのは、旧来から検査官が、予めチェックランプの点灯と、エンジン始動後などのイニシャライズ後の消灯を検査しているのを、わざわざ総合計予想額80億円を要して厳密化させ、多少ともあるのかもしれない、整備工場などのチェックランプの抜き取りとかカバーによるゴマカシを防ぐという効果しかないということが類推できるのだ。

 そもそも、車検という制度は、悪意のある受験者(整備工場など)を前提として、その悪意を見破るという思想で作られたものではないはずだ。あくまで、その受験車両の状態を、検査というある一点における状態で、保安基準上での適合を判断しているのに過ぎない。それがあるからこそ、仮に検査官の見落としにより、検査直後に保安基準不適合が見逃され、車両に内在する瑕疵の問題から事故が生じたとしても、検査官には責任がないと説明していたはずだろう。それを、OBD車検などと、大々的に費用を消費し、つまりこれは車両ユーザーに費用を負荷させて、せいぜいのところ、受験者のゴマカシを防ぐ程度の価値しかない制度とは、よほどねじ曲がった制度ではないかというのが私の考えるところだ。

 なお、国交省の同ページでは、過去審議された「車載式故障診断装置を活用した自動車検査手法のあり方検討会」などでの意見として、電子装置(ASV関連)の不具合として、カメラやレーダーの取り付け角度が狂っていたことによる不具合があったと理由付けされているが、云うなれば誤検出というもので、これはASV極初期の自動ブレーキ時代から起きて来た問題であり、必ずしも取り付け角度の狂いだけに起因して起きる問題ではない。
 ASV関連では、日々新しい機能に更新されているのだが、昨年(2021年11/19付け)にスバルで改善対策(届け出番号630)された事例では、「衝突被害軽減ブレーキの制御プログラムが不適切なため、カーブ路での対向車や路外障害物に対しシステムが衝突対象として過敏に反応することがある。そのため、意図しないところで障害物との接近を知らせる警報音が鳴り、衝突被害軽減ブレーキが作動するおそれがある。」という例(下記リンク)がある。つまり、こういう不具合は、事後の取付角が云々ではなく、そもそも車両はXYZ軸に運動するのが特性であって、そのシステムの正確性はそもそも設計段階での問題に帰する部分が大きいといえるだろう。
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001441537.pdf

 それと、最後に、拙人は交通事故に限らずだが事故の原因精査に関わる業務を通算40年ほど携わって来たが、多くの事故の研究者が分析するところの事故原因は人的、環境的、車両的の3要因が原因となっており、これら3要因が単独もしくは複合して生じるのが事故なのだが、その3要因別に事故の第1原因だけを類別すれば、以下の如くになる。
➀運転者の要因           97.9%
②道路など環境的要因         0.5%
③自動車(機械)の内的要因     0.7%
④その他(歩行者など他の者)要因  0.8%


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