私の思いと技術的覚え書き

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クランクシャフトの振動と関連部品の破壊

2016-12-14 | BMWミニ
 内燃機関のクランクシャフトは、吸入、圧縮、燃焼、排気という各行程において、その回転角速度は絶えず変動(捻り振動)しており、振動が生じれば何らかの共振点を持つ。また、シャフト自体の直線度を偏向させうる曲げ振動も生じ、これも共振点を持つ。これら振動共振は、ある回転域において顕著になり、乗員に不快な「こもり音」や「ゴロゴロ音」などのノイズとして伝わる。一方、捻りにしろ曲げにしろ振動を生じるということは、応力が働いているのだから、前にも述べた素材の疲労の視点から、応力の大きさや繰り返し回数にける蓄積を無視することはできない。

 最近はクランクシャフト長が短い4気筒エンジンでも装着される場合があるが、昔から直列6気筒エンジンの場合、ほとんど前端のクランクプーリーにトーショナルダンパーが装着されている。これは、長いクランクシャフト故に、長期間稼働による捻り振動の蓄積により、疲労によるクランクシャフトの折損など破壊が起こらない様にというものだろう。近年使われる4気筒など短長クランクでのトーショナルダンパーは、動力性能的には回転マスとして軽いに超したことはないが、軽さを優先したがために疲労寿命を短くしたくはないというためのものだろう。(写真1はBMWミニR56に使用のトーショナルダンパー付きクランクプーリー)

 ところで、近年のクランクダンパーでディアルモードダンパーなるものがある。外周内側に設けられたゴム層による捻り振動の吸収だけでなく、内周に設けられたマスを上下に動く様にラバーを介して制震するもので、クランクの曲げ振動を吸収するものである。これも、エンジン振動やゴロゴロ音を押さえ、しかも重量を抑えつつ疲労から保護するという目的のものだ。(写真2の図参照)

 話は転じて、2002年10月19日に、山口県の山陽自動車道、野毛IC料金所を減速せず爆走通過し、その先の県道脇の歩行者用地下道のコンクリート壁に激突して運転手が死亡した事故のことに移す。この事故直後に実況見分調査した警察は、車両側の問題を疑いメーカーの三菱ふそうに構造的問題がなかったかの調査の依頼した。これは後になって判ることだが、該当車のクラッチハウジング(通称ベルハウジング)が全面的に破壊され、後輪からの減速トルクで振り回されたトランスミッションがフレーム内面のブレーキ配管を断裂していたという車両自体に起因する事故であったのだ。恐らく、ベルハウジングは、予てから疲労破壊が着々と進行していて、該当IC料金所手前でシフトダウンを行った瞬間、最終破断と死への道が開かれてしまったのだろう。なお、事故直後に車両の調査を行った三菱ふそうは、当然ベルハウジングの破壊を気付いたはずだが、何ら警察には異常はなかったと報告していたそうだ。そこで、警察では当該死亡運転者を安全運転義務違反として起訴している。

 しかし、その後、横浜でのフロントハブ亀裂による前輪脱落による死亡事故や、内部告発的な情報提供を切っ掛けとた、極めて大規模なリコール隠蔽が発覚し、その中で本ベルハウジングも構造的欠陥が明らかになったのだった。さて、リコールの内容(写真3図参照)であるが、該当車のベルハウジングの強度不足として、対策品と替えるというものだが、そもそも疲労破壊の要因となった振動対策としての内容が欠落している様にも感じる。それでなくとも、種々の解説には、エンジンとトランスミッションとの結合剛性不足は、図のシミュレーションの様(写真4図参照)に応力が働き、騒音や破壊にまで至ることが解説されている。となると、単にベルハウジングの強度アップで済む問題なのか。エンジンブロック、オイルパン、もしくはスティフナ-プレート、トランスミッションなどを含めた結合強度や、クランクシャフト、フライホイール、クラッチ、トランスミッションなどなど、様々な要因が絡んでくる問題にも思えるのだが・・・。

余談
 R56のクランクプーリー写真であるが、クランクシャフト勘合部にキー(およびキー溝)がないことに気付くだろうか?
 この話をすると、プロ整備屋でも「ほんとかい?」と疑うが、現実のことだ。同エンジンではカムのスプロッケットの固定も同様にキーがない。固定は、締め付けボルトの締結力だけなのだ。この手のエンジンは、クランクロックツールにて、特定クランク位置でロックして、ボルトの弛め締めを行わなければならない。それを知らずに、「フロントオイルシールからオイル漏れかー、簡単な修理」なんて、インパクトで弛めた瞬間、バルブタイミングは狂うのだ。





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