昨今はAI見積なんていう言葉が聞かれる時代になった。過去数十年におよび、事故損傷車や故障車の見積に関わり、自分が最高の技術を持っているなんて意識はないが、ヘタな者(例えスーパーコンピューターとビッグデータを駆使するというAIシステムがあったとしても)には負けない見積技術を保持しているといささか自信過剰ではあるが、そこはプロ意識を持っている。
そんな自称プロが、見積の極意の一つを述べよと問われたら、「見積とは、外形上の損傷は誰でも判る問題であり、隠れた部分の損傷を何処まで的確に予見して見積もるか」だと述べて来た。だから、よく分解しなきゃ見積できないみたいな言い訳を抜かす先輩とか後輩を、「まるで判ってないな」と、そうは云わぬが見込みのある者には諭して来たのだが・・・。しかし、昨今の損保の調査員の行動を見ていると、とても見積対象者に向ける視線に、およそ感心が薄いのが見通せるなど、到底私が考えるプロのレベルには及びも付かず、この見積という業務は終わったと思える。
前言が長くなったが、本論に入りたい。写真1の様な形態の事故車で、右前部に入力を受け損傷を生じているのだが、左前部のヘッドライトには外見上の損傷はないが、その内部には損傷がある場合があると云う事例だ。
この様な該当の直接的な損傷でなく、関連しての間接的な損傷を、誘発損傷とか二次損傷とか呼んでいる場合が多い。私は、これをイナーシャダメージと表したい。すなわち慣性損傷という意味だ。
事故の場合、車体に与えられる入力は、F=m・α(力積)という力が作用する。mは質量、αは加速度(減速度)で、α=Ve(速度の変化量)/Δt(衝突時間)で計算できる。例えば、ブレーキによる急制動など、かなりの減速度を実感できるが、所詮タイヤの摩擦係数が限度となるので、一般的には0.8G程度のものだ。しかし、衝突となると、Δtは0.1secと極めて短時間に速度変化を起こすので、高速衝突になる程、生じる減速加速度は桁違いに大きくなる。例えば、36km/hで壁にぶつかりそこで停止したとすれば、10(m/sec)/0.1=100m/sec2≑10Gの減速加速度が働く。そこで、ヘッドライトの外見に損傷がない場合でも、内部のランプユニットが仮に0.5kgだとしても10倍の5kgが作用することになる。実際には、0.1秒の衝突時間の平均減速度としての10Gだから、ピークGはもっと高いだろう。実際の衝突分析では、高速度カメラや高応答高分解能のGセンサーで計測している様だが、ローパスフィルターでならしてやって、理想的なサイン波に近似するとして、ピークGは1.4倍相当になる。つまり、0.5kgのパーツに7kgの負荷が作用する訳だし、極々短時間だと2倍、3倍の負荷が作用する場合もあり得るだろう。
ここでは、過去何例か見て来たBMWミニR56のヘッドライトで、ハロゲンランプとキセノンランプのピボット部(ボールジョント)樹脂の割損の事例を写真で紹介してみる。これらは、ヘッドライトレンス(透明部)とボデーはブチルゴムで接着されており、加温するなどして軟化させて切り離し、該当損傷を確認し修理して来たものだが、一般的にはライトユニット交換となる事例だろう。しかし、キセノンタイプなど、新品価格はドンガラユニットでも20万円近くと高額だ。そして、この様な損傷を起こしやすいのは、キセノンタイプが多いと云うのも確実だということだ。これはキセノンタイプは、光源が高温となることもあり、反射鏡が金属、プロジェクターレンズが樹脂でなくガラス、光軸の上下切り替えのシャッターソレノイド機構などが付属し、圧倒的にランプ可動部本体の重量が重いためだ。
写真1:イナーシャ損傷概念図、2:R56ハロゲン、3:R56キセノンのレンズ切り離し、4:R56キセノンのピボット付近樹脂の割損。
そんな自称プロが、見積の極意の一つを述べよと問われたら、「見積とは、外形上の損傷は誰でも判る問題であり、隠れた部分の損傷を何処まで的確に予見して見積もるか」だと述べて来た。だから、よく分解しなきゃ見積できないみたいな言い訳を抜かす先輩とか後輩を、「まるで判ってないな」と、そうは云わぬが見込みのある者には諭して来たのだが・・・。しかし、昨今の損保の調査員の行動を見ていると、とても見積対象者に向ける視線に、およそ感心が薄いのが見通せるなど、到底私が考えるプロのレベルには及びも付かず、この見積という業務は終わったと思える。
前言が長くなったが、本論に入りたい。写真1の様な形態の事故車で、右前部に入力を受け損傷を生じているのだが、左前部のヘッドライトには外見上の損傷はないが、その内部には損傷がある場合があると云う事例だ。
この様な該当の直接的な損傷でなく、関連しての間接的な損傷を、誘発損傷とか二次損傷とか呼んでいる場合が多い。私は、これをイナーシャダメージと表したい。すなわち慣性損傷という意味だ。
事故の場合、車体に与えられる入力は、F=m・α(力積)という力が作用する。mは質量、αは加速度(減速度)で、α=Ve(速度の変化量)/Δt(衝突時間)で計算できる。例えば、ブレーキによる急制動など、かなりの減速度を実感できるが、所詮タイヤの摩擦係数が限度となるので、一般的には0.8G程度のものだ。しかし、衝突となると、Δtは0.1secと極めて短時間に速度変化を起こすので、高速衝突になる程、生じる減速加速度は桁違いに大きくなる。例えば、36km/hで壁にぶつかりそこで停止したとすれば、10(m/sec)/0.1=100m/sec2≑10Gの減速加速度が働く。そこで、ヘッドライトの外見に損傷がない場合でも、内部のランプユニットが仮に0.5kgだとしても10倍の5kgが作用することになる。実際には、0.1秒の衝突時間の平均減速度としての10Gだから、ピークGはもっと高いだろう。実際の衝突分析では、高速度カメラや高応答高分解能のGセンサーで計測している様だが、ローパスフィルターでならしてやって、理想的なサイン波に近似するとして、ピークGは1.4倍相当になる。つまり、0.5kgのパーツに7kgの負荷が作用する訳だし、極々短時間だと2倍、3倍の負荷が作用する場合もあり得るだろう。
ここでは、過去何例か見て来たBMWミニR56のヘッドライトで、ハロゲンランプとキセノンランプのピボット部(ボールジョント)樹脂の割損の事例を写真で紹介してみる。これらは、ヘッドライトレンス(透明部)とボデーはブチルゴムで接着されており、加温するなどして軟化させて切り離し、該当損傷を確認し修理して来たものだが、一般的にはライトユニット交換となる事例だろう。しかし、キセノンタイプなど、新品価格はドンガラユニットでも20万円近くと高額だ。そして、この様な損傷を起こしやすいのは、キセノンタイプが多いと云うのも確実だということだ。これはキセノンタイプは、光源が高温となることもあり、反射鏡が金属、プロジェクターレンズが樹脂でなくガラス、光軸の上下切り替えのシャッターソレノイド機構などが付属し、圧倒的にランプ可動部本体の重量が重いためだ。
写真1:イナーシャ損傷概念図、2:R56ハロゲン、3:R56キセノンのレンズ切り離し、4:R56キセノンのピボット付近樹脂の割損。