コーチビルダーという語源は、元来は馬車の製造を行っていた業者を指しますが、その後の自動車の発達と共に、車両メーカーにより完成された車台(シャシー)に、別途の車体(ボデー)を架装する業者を呼ぶ名称となりました。昔のクルマでは、フレーム付き構造が当たり前でしたが、手間が掛かりクルマという超高価な商品を購入できる特別な顧客の需要の答えるために、その様な流れになったのだと想像されます。しかし、モータリゼーションが成熟して、クルマは大量生産により安価なものとして多くの顧客の需要に答えるために、車両メーカーによりボデーまでの一貫生産が行われることが一般的なものとなりました。それでも、イタリヤのカロツェリアに代表される特殊なクルマも一部にはある訳ですが、それも全体から見れば極一部の限られた市場のことです。
以上は、乗用車の世界でのことですが、トラックやバスでは乗用車でコーチビルダーが一般的でなくなった後も、引き続いて特別の架装としてのコ ーチビルドが行われてきました。
今から40年以上前、国道等の幹線路を走る新車陸送中のトラックの姿のことを覚えている年配の方もいると思います。その頃の新車トラックは、シャシーとエンジンルームを覆うボンネット辺りまでが車両メーカーで製作され、そんな丸裸の状態のトラックシャシーに、タオルでマスクしたドライバーが、木製ミカン箱の簡易シートに座り運転している姿を見掛けることが多くあったものです。現在でも、大・中型トラックでは、運転台(キャブ)はあるものの、荷台はなくシャシーがむき出しの状態で陸送されている姿を見る機会は結構にあるものです。従って、荷台部分は、車両メーカーとは別の業者で、顧客の需要に応じた架装がなされている訳です。具体的には、ドライバンや冷凍車、ダンプ車、ミキサー車、タンクローリー、消防車等々となります。そんな、トラック系のコーチビルダーたる架装メーカーも、現在は車両メーカーの収益低下から、車両メーカー自身が架装したり、メーカー系列の架装業者により製作架装が行われるケースが増えています。
もう一つのバスですが、これも昔はトラックと共用のシャシーの上に、バスボデーを架装する方法によりコーチビルダーたる架装メーカーにより製作されていました。しかし、乗り心地が悪かったり、床が高く乗り降りに不便だったりという不具合から、専用シャシーの採用や、モノコック構造や部分フレームによるセミモノコック構造(スケルトン構造等と呼ぶ)に変化して来ました。また、昔のバスボデーの接合方法には、リベット接合が多用されていたものですが、今や溶接による接合が一般的であり、乗用車と同様に車体外面に接合痕が見られる様なバスはありません。これら構造の変化と共に、トラックと同様に車両メーカーの収益悪化の影響だと思いますが、バスボデーのコーチビルダーも大幅に圧縮されて行き、車両メーカー系列の数社が存在するだけとなっています。また、現在の大型トラックおよびバスの車両メーカーは4社がある訳ですが、バス車体はメーカー間で共用され、実質2系列に統合されてしまっています。
※写真は昭和5年頃の国内最初のバス。(国鉄[当時]が運行)