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寺子屋指南 その15 組織体における研修の価値感

2021-04-23 | 賠償交渉事例の記録
 拙人が損害調査企業を離職して、既に10年近くを経る。そんな中で組織体が研修というものに置いている価値観は薄れて来ている様に感じ、このまま進むとその業そのものに対する信用とか価値を低下させる要因になりはせぬかという懸念を持つことを記して見たい。

 この研修や教育の減少ということに間しては、拙人が属した損害保険業界には、業界が往時の全社で組織した(株)自研センターという組織(千葉県市川市)がある。この組織の使命を大きく大別すると、損害調査員などの損害査定に対する研修、指数(自研センター指数とも呼ばれる)の策定という2つだ。その研修だが、従前は損保各社の全国から受講者が集合し研修を行って来ていたのだが、昨年からの新コロナ(中共ウィルス)蔓延問題で、本年度から集合研修を取り止めているということを聞いている。

 損害調査員の研修については、その規則に沿って、損害調査員に成り立ての際に受講しなければならない見習いコース、損害調査員の資格ランクには初級、3級、2級といった、技能ランクがあるのだが、それぞれの技能ランクにおいて受講する、いわゆる義務研修がある。また、主に2級という最上位研修者を対象に、もっと特定科目を集中的に実施する専門コースがある。

 この自研センターの運営費の約半分は、先に述べた各研修の受講費を参加各社から受講費として徴収することで行っているそうだ。この研修が、本年度から自研センターへの集合で行うことを取り止めているそうだが、先に述べた規則に決められた義務研修をどうしているのだろうか?

 正確なことは知らぬが、規則を変えて研修なしとする訳にも行かぬだろうから、予め自研センターで作成したビデオ教材を損保各社に配布し、受講者に視聴させると共に、それに付随する講義は各社マターで行う様にしているのではないかと想像している。

 今次の病変では、企業等組織体の研修という教育だとか、従来の集っての会議開催ということに、ある意味大きな影響を与えていることは確かだろう。そんな中、zoomなどによるネット回線経由の会議だとか研修が普及しつつあることは聞いているが、技能職とかで現場実物を見せて、見て触れて実体験する研修までをIT技術で包含するのはなかなか難しい側面がありそうだと想像している。

 また、各社マターで任された講義も、それぞれの企業において、担当する講師の力量だとか企業の研修自体に対する熱意も格差があるだろうから、研修効果と云った意味では、低下して行く傾向にありそうだとも想像もする。

 そもそも、今次病変の勃発以前の拙人が損害保険業の構成員を離れるちょっと以前から、各損保の研修と云う従業員教育に対する熱意は明らかに低下する傾向は芽生えていた。この理由は、バブル経済の崩壊と共に、損害保険業界の大合併の時代を迎え、人経費だとか教育費を圧縮しつつ、何とか利益を残したいという動きが顕著になって来たことが上げられるだろう。

 このことを、若干補足すると、損害保険業の場合、収入は各保険契約者多数が支払う収入保険料となる。これに対して、一部の善良な契約者が急激、偶然、外来の事故を生じた場合に、その損害を補填するのが支払い保険金で、収入保険料に対する支払い保険金の比を、ロスレシオと呼ばれる。ロスレシオは、保険種目により異なるが、保険種目を火災・新種と自動車に2区分したとすると、後者である自動車保険は収入保険料の比率は6、70%程度と大きいが、ロスレシオは前者の火災・新種より高い60%程度が実態だ。

 この保険会社の収入保険料に対する支払い保険金以外に、営業費、損害調査費、コンピューター機器によるデータ管理費など社業をまっとうするための事業費が当然のこととして要する。従って、収入保険料から支払保険金と事業費を引いた残りが利益となる構造だ。

 ここで、何故バブル崩壊後損保の大合併が起こったのかということだが、銀行など他の金融業も同様だが、規模を大きくすることで事業費を圧縮したいということが主であった。例えば、損保各社では、基幹系と呼ばれるがホストコンピューター置き、場合によっては遠隔地にバックアップ用のホストコンピューターも配置し、全国を専用線で結ぶ全国オンライン網に要するコストなどは、小規模損保ほど、そのコスト負担は大きいが、合併により基幹系と呼ばれるホストコンピューターを統合できれば、事業費に占める負担を大幅に圧縮することができる。

 ということで事業費を圧縮することが合併以後も各損保には強く求められることになったのだが、人件費の圧縮と共に研修費など教育費の圧縮も必然として生じて来たのだ。

 ここで、冒頭に記した自研センターなる当時の全損保が共同で出資して研修センターを設立したことの意味を再考してみたい。損保はロスレシオが上がり利益が得られなくなった場合、保険料の値上げという形で、企業の存続を計ると云う構図は当然あるが、無闇に保険料を値上げすることは、善良な契約者に対する信頼を低下させることにもなりかねない。そこで、損保の従業員に対して、必用な教育を行い、公正とか妥当な保険金の算出をできる能力を付与することで、いたずらに保険料の値上げをしないで、契約者負担の増加を食い止めたいという理念が、自研センター設立の主旨となったのだと理解している。

 ここで、今次病変以前から、各損保の研修という教育に要するコストを減らして来た動きは、ある意味大きな危険を生む余地がある様にも思える。つまり、損保に勤め損害保険金の算定に関わる者の知識を低下させたり、志気モチベーションの低下が、そもそも善良な契約者を対象としたのが損害保険なのだが、端的に記せば保険金詐欺に類する不良契約者の増加を招きはせぬかということなのだ。

 ところで、Net記述などで、損保のことを保険屋と揶揄しつつ、ちょっと揉めると直ぐ弁護士を出してくるとか非難されている記述も時々見ることがある。一方、損保がことの真実性だとかを争い訴訟にまで発展している事案は、案外と従来より減って来ている様にも感じる。

 このことについて、元損保関係者としては、大した意味も少なく、対相手にとっては恫喝とも受け取られかねない安易な弁護士委任は、元来強者である損保として弱者となる一般人に大して乱用してはならないことだと考える。しかし、公益的な善良な契約者を対象として公平、公正を理念に掲げている損保が、過剰な請求だとか保険金詐欺に類する案件でも、訴額が小さいからと、安易に支払いを行うことも、これもまた善良な契約者に対する裏切り行為だと思っている。これは、直接聞いたことではなく間接的に聞いたことだが、何処かの損保の高位職にある者が、「今どき訴訟までして払わないと主張するのはデメリットで、そこで支払えば、良い損保だと新しい契約が取れるのだ」というような発言もあったと聞き、現職時代は常に公平だとか公正を金額の多小に関わらず念頭に置いてきた者としては、そんなことを宣う損保高位者がいるのだろうかと呆れたことがある。

※写真は(株)自研センターが20年位前に出版した「自研センターのあゆみ」(非売品)で、自研センター設立までの経緯(歴史)だとか、現状の業務内容などが記されている冊子だ。非売品ながら、当時自研センター講師を行っていた関係者として謹呈を受けたものだ。



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