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寺子屋指南 その7 慣性損傷の視点での観察

2021-04-03 | 賠償交渉事例の記録
 本シリーズも第7回目となったが、今回はいわゆる慣性が作用することによる損傷の視点で考えてみたい。

 図は2ドア車の車体後部側面を示すが、この様なボデー形状ではフロントドアとリヤホイールアーチの間に比較的広い空間を持つ場合が多い。この比較的広い空間に、あたかもパネルがたるむ様に凹む損傷が生じる場合があるが、その要因は2つの場合が考えられる。様に

 1つは車両後部に追突などで強い外力を受けた場合で、車体後部の変形に伴い、その損傷変形は深部に及びつつ、リヤホイールハウスを前方に移動させる様な場合がある。この場合は、同部位に先の様な変形が生じるものだ。なお、これは云うまでもないことだろうが、作業の想定に当たっては、後方への引き作業、場合によってはクォターパネル外板後端部を直接後方へ引く作業を中心として、復元を行う手法が基本となる。

 もう一つの場合だが、比較的強い前方への衝突を生じた場合で、同部位に変形をしょう実場合があることだろう。仮に前方からの衝撃がサイドシルとかフロアパネルやルーフサイドレールを伝わったにしても、同部位にこの様な変形は生じることは考え難いだろう。この様な変形は、リヤボデー総体としてのボデー重量(つまりボデーのみならずリヤサスペンションや燃料タンクなどの総重量)が事故の極短時間(0.1~0.2sec)の中で速度変化する中で生じる大きな減速度で生み出される慣性力が働いた結果として生じたものと考えられる。

 なお、同様の損傷は外板パネルだけでなく、フロアパネル中央トンネル部の前席と後席の間にも表出しているケースを見ることもある。

 さらに云えば、事故現車のラジエーターとクーリングファンは離れているにも関わらず、事故の瞬間に接触した痕跡を見ることもある。これは、前部事故によるラジエーターの後退と同時に、エンジン本体が慣性力で前に移動した相乗効果によるのだろう。また、エンジンマウント(特に液封マウント)が切断したり、後部トランスミッション部を支えるリヤマウントがアルミ製など、脆性の弱い材質だと割損する場合も多いが、単にエンジン部が後方に押し込まれたのみならず、慣性力で前方へ移動したと考えられる場合も多い。

 もっと慣性力は強く働く野田と認識する事故形態に、車体が高速で横滑りしつつ、車体側面をその重心点付近に電柱などのポール状物に強くぶつけるような自損事故がある。この場合、車体上方から見ると、電柱様物により強打した凹損のみならず、車体の前後が入力と反対方向に折れ曲がり、車体全長に対して弓なりに変形しているとか、事故現場の様子を見れば、あたかも電柱に巻き付いた様になっている姿を晒している場面がある。これも強烈な慣性力が生み出した変形だと云えよう。


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