私の思いと技術的覚え書き

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IT分野の日本の競争力衰退への回想

2023-03-11 | コラム
IT分野の日本の競争力衰退への回想
 2020年現在でIT分野で日本のシェアを保つのは、ぶっちゃけゲームアプリを内包した独自ハードウェアだけで、純ソフトウェアはほぼ壊滅したといえる様に思える。

 こういう状態に至っているのだが、私の業務の土壌としては、自動車の制御ソフトの要であるエンジンECUの制御ぶりなどと日(デンソーや日立)とドイツ(ほぼボッシュ)と比べると、その制御の精緻さとかコントローラビリティというべきアルゴリズムの妥当性では日本優位にあるのが現状ではないかと感じている。

 このことを端的に感じる機会として、エンジンが要求するオクタン価以下の燃料を使用した場合の、点火遅角のアルゴリズムの差異があまり違いがあることから思うところだ。
 実例としては、日本車でハイク仕様車にレギュラーガソリンを入れ走行した場合、暖加速などで加速初期に小さなノック音は生じるが、そのノック音も継続することなく消えてしまい、大きな問題は生じない。ただし、エンジンのトルク感は全般に低下し燃費も悪化するということはあるだろう。
 輸入車の実例だが、BMW車で本国レギュラー指定だが、日本のレギュラーとRON値に違いがあり、日本ではハイオク仕様車となるのだが、これに日本のレギュラーを入れた場合、アイドルや空吹かしでは問題なく、極めて暖加速しているのなら大きな破綻はないが、ちょっと負荷を大きくすると、驚くべき失火が連続したかの様な、車両が前後にガクガクする息付き感(へジテーションと云うべきか)が発生する。ノックコントロールは、ノックセンサー信号により、一定遅角しつつ、ノックが止まるかというアルゴリズムを行っていると想像するのだが、ドイツ車の例では、とんでもなく大きく連続遅角が進行しつつこのような症状が出るのではないだろうか。
 もう一つBMW車での事例として記す。連関始動し、20秒以内程度でエンジンを停止する。このことを比較的短時間(10分以内とか)で複数以上繰り返すと、以後エンジン始動において初爆が感じられずエンジン始動不能となった感を生み出す。このような事例では、アクセル全開で長めのスタータークランキングでエンジンは掛かるのだが、それを知らないとエンジンが掛からなくなったという故障の申告に至る事例がある。このことは、始動増量として不適切さが内在していることを感じ取る。

 ところで、車両エンジンECUのOSが何かなど一切公表がなされていないのだが、少なくともマイクロソフトウインドウス(カーネル)とかアップル(カーネル)、グーグル(iOS)ではないようだろうと思える。OSはともかく、その上で各種エンジン状態を制御するアルゴリズムだとかテーブル参照(点火およびカム進角マップ)が行われているのだが、日本製エンジンECUのプログラムの方に適切さがある様に感じる。

 ついでにクルマ用電子制御エンジンの原形を作ったのはドイツボッシュ社であったが、初めてO2センサーフィードバック制御と三元触媒を実用化したのは日本(トヨタ)だ。また、コモンレールと名付けたのはボッシュだが、ディーゼルに超高圧燃料での電子制御噴射機構を最初に実用化したのはデンソーだ。また、コモンレール噴射では、噴射ノズル個別のバラツキがあり、従来そのバラツキ度合いをバーコード記録してある初期値をエンジンECUに書き込むセットアップが必用だった。つまり、ちょっと以前の自動ブレーキなどASVのエーミングと云われる内容と似ている動作だ。

 ところが、デンソーの最先端ディーゼルで”i-ART”※だが、噴射ノズルのバラツキを初期値も使用過程で生じるバラツキもすべて、そのエンジンの生涯において検出して制御してしまうという新たなセンシングとアルゴリズム技術が採用されている。

※乗用車で世界初の燃料噴射技術「i-ART」って?
2018.04.25 Whats VOLVO
https://www.sweden-cars.jp/blog/%E4%B9%97%E7%94%A8%E8%BB%8A%E3%81%A7%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%88%9D%E3%81%AE%E7%87%83%E6%96%99%E5%99%B4%E5%B0%84%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%80%8Ci-ART%E3%80%8D%E3%81%A3%E3%81%A6%EF%BC%9F/

 話しが自動車へ振ってしまったが、通常のインターネット、PC、スマホなどIT機器の世界へ引き戻すが、今やLSI等も最先端からは大きく落ち込み、同じく微細技術が要求される液晶モニターといったハードウェアでも日本の優位は低い。また、ソフトウェアに至っては、米系ITテック企業(GAFAやマイクロソフト)に占有され、日本製のソフトウェアもしくはベースとなる基盤アプリとかOSでは、日本の影はほぼない。かつての、日本のビジネス用PCの黎明期には、一太郎とか本当に日本語ワープロに特化した使い易い優秀なソフトがあった(今も残るがシェアは低い)が、何故、ここまでマイクロソフトオフィスソフト群とアドビ(pdf)に占有されてしまったのだろうか。

 今回のコロナ下で、遠隔コミュニケーションソフトのZOOMやマイクロソフトチームス等は大きく売上を伸ばしたが、日本製ソフトで類似なものは登場しなかった。ITソフトにおいて、ゲーム以外で日本の出番がどうしてこうも低下してしまったのだろうか?

 この理由を考える時2つの岐路があった様に思える。

➀トロン(TRON)OSの挫折
 これは、1980年代、日本が世界のIT産業の半分を超えるシェアを持ち、LSI、ハードディスク、表示用モニターなどで当時の世界最先端商品を作り出している頃、当時の東大助教授の坂村健氏が提唱したPCおよびモバイル機器用OSだった。当然、ウインドシステムによるマルチタスク機能を持つことや、小さい個別部品までコンピューターとの通信を行う「どこでもコンピューター」(ユビキタスコンピューティング)という思想など今やっとウインドウズとかマックで実用化されようとしているアイデアを先取りしていたOSだったのだ。
 実際のところ。小中学校へのPC導入に際し、この国産トロンOSを前提に論議がなされていたのだが、現在の米中断交とほぼ同じ動きで米日断交が始まり、潰されてしまったというところなのだ。つまり、現在の様なIT社会になってみれば判ることだが、OSとは国家安全保障のベースともいえるコンピューターの基本要素であり、ここを安易に譲ってしまったことは日本のソフトウェア開発への大いなる損失に結び付いていると思える。
 なお、トロンOSの中心(カーネル)部分は、リアルタイム性に強く、比較的その記述内容がコンパクトであり機器組み込み用OSとしてのシェアは今でも高く、現在はIEEE(アイトリプルイー)に公認されているOSとなっている。

➁ウィニー(Winny)アプリの挫折
 これは、俗にファイル交換ソフトと呼ばれる、大きな容量のデータを、不特定のネット経由で中間にサーバーとか個人PCを経由して、送受者間でファイルの転送ができるというソフトで、現在電子通貨とか高度かつ高信頼で比速度も高い通信として発達し続けている技術の先駆けたる通信アルゴリズムの発明だった。しかし、このソフトが発表されて以来、違法海賊区ソフトが出回ることになり、そのソフトの開発者も共謀罪であるとして警察逮捕、一審有罪となり、二審、最高裁と無罪となったが、7年もの間、このソフトの開発者は悪者と決め付けられた。この間、故安倍首相等は、このウイニーなる危険なソフトを使用しない様にと演説までしている。つまり、ソフトが悪いのではなく、そのソフトが悪用されたというところだったのだが、ソフト開発者とか企業の開発意欲を大きく潰してしまったという負の面だけが、日本の競争力を奪ったとも云える。


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