私の思いと技術的覚え書き

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艦首切断から

2011-02-15 | 技術系情報
 歴史小説というか記録作家である吉村昭氏の短篇に「船首切断」というのがあります。
 昭和10年の海軍演習中に40隻余りの艦隊が、岩手県沖にて折からの台風に突入し、半数近い艦艇に何らかの損害を生じたという事件を記録したものです。損害の酷い物は、艦首から艦橋前部に掛けてもぎ取られてしまうという、大損害を生じたそうです。
 当時は艦船の組み立て製造における接合方法が鋲接(リベット)から溶接に変わろうとしていた頃であり、被害の大きかった新鋭間に溶接接合が使われていたことから、当時の軍令部では、艦船の主要構造に溶接を使用することを禁じたそうです。
 この問題は、後年鋲接と溶接の接合強度の違いではなく、艦船としての基本設計の強度的な問題であることが判明しているそうです。何れにしても、本事件後、第2次大戦に完膚無きまでの敗戦するまでの間、日本の艦船は主要構造の接合部に鋲接が使われ続けることになります。ですから、秘密兵器として密かに建造された大和や武蔵なども、艦の主要部の接合は鋲接だった訳です。
 鋲接は、艦船だけでなく、橋梁や建築物、鉄道や航空機、自動車など広範工業製品に使用されて来ましたが、近年はその採用は激減したと思います。この理由は、ひとえに溶接技術の発達にあったのだろうと思います。溶接は当初の酸素・アセチレンガスによる溶接であったものが、電気による被覆アーク溶接や、抵抗スポット溶接、アルゴンガスなどの不活性ガス中でアーク放電させるイナートガスアーク溶接と発達してきました。
 かつてのバスなど、車体外板に多数のリベットが並んでいた姿を記憶されている方も多いと思います。橋梁などの建築物でも、古いものは多数のリベットが並んでいる姿が残されていますが、比較的新しいものは、ほとんど溶接で組み上げられ、大物部品同士の接合部のみ多数のボルト締結とされていますのが判ります。
 ところで、クルマでリベット接合が変わらず続けられているものがあります。それは、思い当たる方も多いと思いますが、貨物車のシャシフレームです。これらはコの字断面のチャンネルをハシゴ型に組み上げたものですが、縦2本のサイドフレーム間を接続するクロスメンバーとは現在でもリベット接合され続けています。しかし、RV車などでボックス断面のシャシフレームのものは、同じハシゴ型フレームでも溶接で接合されています。この貨物車でのシャシ・フレームでのリベット接合を行ってる理由ですが、明確に聞いた訳ではないのですが、以下の理由によると想像されます。これは、リベット接合することにより適度な逃げを許すことによる応力集中を避け、もってフレームの亀裂などを防止することでしょう。なお、貨物車の後方部などはクロスメンバー数も少なく、恣意的に捻れ剛性を落としている様に思われます。これにより、ロングホイールベースの上に少ないサスペンションストロークを補って、後輪の接地性を確保するための様に想像されます。


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