タイタニック見学ツアーの深海潜水艇の悲劇
100年以上前に処女航海で沈没したタイタニック号の見学ツアーは一人25万ドル(3500万円)という、富裕者が参加出来るというものだったが、遭難から4日経過する中で、ツアー運営会社が参加者5名は全員死亡と声明を発表したそうだ。
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潜水艇「タイタン」の一部を発見「全員亡くなったとみられる」
日テレNEWS 6/23(金) 4:06配信
北大西洋に沈没した豪華客船「タイタニック号」の残骸を探索する潜水艇が消息不明となって4日が経過するなか、つい先ほど、ツアーの運営会社は「5人全員が亡くなったとみられる」とする声明を発表しました。
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なお、Net上の別記事では、米海軍がおそらく潜水艦のソナーで、潜航艇の潜行開始から深度2500m程の位置で、ツアー行う潜航艇「タイタン」の圧壊音をキャッチしていたと報じている。当然、この音は潜水艦機器のデジタルデータとして記録されていることだろう。潜水艦映画は好きなジャンルで、好んで見るが、相手のスクリュー音とか原子力船など停止時のPU作動音など、ソナーのデジタル音は総てデジタル化されて、データベース化されており、相手音源をキャッチすると、既存のデータとの一致により、相手の艦船を特定するということが日常的に行われていると承知している。
ところで、日本も海洋国として、国の総てを海に囲まれ、深海潜水調査のために「しんかい6500」などの深海潜水艇を保有しているのだが、今回の事故を起こした「タイタン」が6500mまで潜行可能かは不知ながら、既にタイタニックのツアーを何度か繰り返していたというのだから、少なくとも4000mまでの潜行はスペック上は可能であったのであろう。
しかし、「しんかい6500」などの深海潜水艇が、その概観とは異なり、実際に人が乗れるスペースは、完全に球体の耐圧殻という部分だけということを知ってはいた。その点で、今次の「タイタン」はツアー客5名+操縦担当者が1名もしくは2名いたはずだから、総員7名が搭乗していたと想定できる。そこで「深海6500」の場合は、直径mの部厚いチタン製球体であり、おそらくどんなに乗れても4名が限度だろう。とすると、「タイタン」の耐圧殻は球形でなく、通常の潜水艦の様な円柱状でその前後を半球型で覆った形状であろうと想像しつつ、Netで「タイタン」内部の様子を検索して見たところやはりそうであった。
ここで、深海潜水艇で何故耐圧殻を球体にするのかだが、仮に4000mの水深だとすれば400気圧(=413kgf/cm^2)という1平方cm当たり413xkgが作用する訳だが、なるべく表面積を小さくした方が総圧力は小さくなる理屈なのだ。だから一般の潜水艦などは、艦内の設備機器とか搭乗員も多いので、広い管内体積を確保するため円柱状の耐圧殻となるのだが、それでも耐圧殻の強度上から、正式には軍事用潜水艦の最大可能深度は非公開だが、最新鋭艦でも800m程度が限界深度らしい。第2次世界大戦の頃の、Uボートとか日米の潜水艦は200m程度が最大潜行可能深度だった様だ。
そんなことを思いつつ、Net探索していると、今回の「タイタン」だが、5年前に既に安全性に懸念が指摘されていたというBBC発の記事が翻訳されてあったので以下に転載しておきたい。
この要約としては、深海潜水艇は一般に耐圧殻はチタン製球体であるが、タイタンはカーボンファイバー製の円柱形であること。前後のエンドプレート(半球形状部)はチタン製で片側には窓がある。カーボンファイバーは、鋼鉄やチタンより単位強度は高いが、深海底での安全性が試されたことはない。タイタンののぞき窓も素材メーカーは1300mの水圧しか認証していなかった。
ちなみに「しんかい6500」ののぞき窓は特殊な樹脂製であるが積層構造を持ち厚さ138mmに達する台形で、海中に接する側の径は、タイタンより余程小さく、水圧の受ける面積を制限していることが判る。
これら記事を見ていて思うのだが、金属でも樹脂でも同じなのだが、素材には「疲労」という現象が必ずある。それと、カーボンファイバーの場合、髪の毛の断面より細いファイバー繊維は、同断面の鋼の10倍を超える強度を持つが、それを包み込む強度に優れる熱硬化型エポキシ樹脂だが、繰り返し過重を受けると、マイクロクラックが生じる場合があると知られている。疲労破壊とは、この様な素材のある弱点を基点にして、その破壊が進行しつつ、最終破壊に至るというものだが。つまり、まとめとして、「タイタン」は数年前の当初の試験潜行とかツアーでは、十分な強度を得ていたが、マイクロクラックとか様々な要因により素材の疲労が進行していて、米海軍情報にれば僅か2500m潜行の時点で圧壊してしまったという想像をするのだ。
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行方不明の潜水艇、安全性に懸念 5年前に指摘
BBC News翻訳 6/22(木) 15:17配信
大西洋で「タイタニック」の残骸を見に潜航中に行方不明となった潜水艇「タイタン」について、運航会社「オーシャンゲート」の元従業員が2018年の時点で、安全面で問題がある可能性を指摘していたことがわかった。捜索は21日夜(日本時間22日午前)も続いている。
米裁判所の文書によると、オーシャンゲートの海洋オペレーションのディレクターだったデイヴィッド・ロクリッジ氏が、検査報告書で懸念を表明していた。
検査報告書には、「重大な安全上の懸念を呼ぶ数多くの問題が指摘されていた」という。問題とされた中には、船体のテスト方法も含まれていたとされる。
ロクリッジ氏は、「タイタンが極限の深さに達すると、乗客に危険が及ぶ可能性を強調した」とされる。同氏は警告が無視されたと考え、オーシャンゲートの上司らとの会議を求めたが、解雇されたという。
オーシャンゲートは、ロクリッジ氏が秘密の情報を暴露したとして同氏を提訴。同氏は不当解雇だとして反訴した。この訴訟は和解が成立したが、詳細は明らかにされていない。BBCはロクリッジ氏に取材を試みたが、コメントは得られなかった。
■「実験的」手法への懸念
一方、海洋技術協会(MTS)が2018年3月にオーシャンゲートに送った書簡には、「オーシャンゲートが採用している現在の『実験的』アプローチは(中略)負の結果(軽微なものから壊滅的なものまで)をもたらす恐れがある」と記されていた。米紙ニューヨーク・タイムズがこの書簡を入手して報じた。
オーシャンゲートの広報担当は、ロクリッジ氏とMTSが提起した安全面での問題について、コメントを避けた。
同社が「実験的」だとするタイタンは、深海艇にはあまり使われない素材で作られている。船体(乗客が座る空間の周囲)はカーボンファイバー製で、エンドプレートはチタン製で、片方の端には小さな窓がある。
英ポーツマス大学講師のニコライ・ロターダム博士(海洋生物学)は、「深海潜水艇の人間を収容する部分は、典型的には、直径2メートルほどのチタン製の球体だ」と説明した。
深海の大きな水圧に耐えるには、極めて強力な素材が必要だ。カーボンファイバーは、チタンや鋼鉄より安価で、強度も非常に大きい。だが、タイタンのような深海艇で試されたことはほとんどない。
■のぞき窓についても
裁判所の文書では、ロクリッジ氏は船体が適切にテストされていないと主張。タイタンの小型模型を使った圧力テストで、カーボンに欠陥が見つかったとした。
ロクリッジ氏はまた、タイタンのガラス製ののぞき窓についても、素材メーカーは深度1300メートルまでの使用しか認証していないとした。
オーシャンゲートは2018年12月の声明で、タイタンが深度4000メートルの潜水を完了し、「オーシャンゲートの革新的エンジニアリングと、カーボンファイバーとチタンの船体構造が有効であることを完全に証明した」としていた。
同社のストックトン・ラッシュ最高経営責任者(CEO)は2020年、米テクノロジー関連のニュースサイト「ギークワイア」のインタビューで、タイタンをテストしたところ、船体に「繰り返し疲労の兆候が見られた」と述べていた。
タイタンは形状も独特だ。深海潜水艇は球形が一般的だ。そうすることで、どの箇所でも水圧を均等に受けるられる。ところが、タイタンはチューブのような形をしており、水圧が均等に分散されない。
「タイタンは、研究で使われる潜水艇とはかなり異なる」とロターマン博士は言う。
「しかし、複合素材を使ったこのデザインが構造上の弱点になっているかどうかは、エンジニアが判断することだ」
■認証されていなかった
裁判所の文書では、ロクリッジ氏はオーシャンゲートに対し、タイタンが検査と認証を受けるよう強く促したとしている。
潜水船は、アメリカやノルウェーにある認証機関によって、認証または「クラス分け」を受けることができる。強度や安全性などが一定の基準を満たしている場合に認証される。
しかし、潜水船の認証は義務ではない。
タイタンは認証もクラス分けもされていない。オーシャンゲートは2019年のブログ記事で、「オーシャンゲート設立時の目標は、有人潜水艇の設計と運用において、合理的な最高レベルのイノベーションを追求することだった。定義上、イノベーションとは、すでに受け入れられているシステムから外れることだ。しかしこれは、オーシャンゲートが適用される基準を満たすという意味ではなく、イノベーションはしばしば、業界の既存のパラダイムから外れることを意味する」としていた。(英語記事 Experts had warned about safety of missing sub)(c) BBC News
100年以上前に処女航海で沈没したタイタニック号の見学ツアーは一人25万ドル(3500万円)という、富裕者が参加出来るというものだったが、遭難から4日経過する中で、ツアー運営会社が参加者5名は全員死亡と声明を発表したそうだ。
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潜水艇「タイタン」の一部を発見「全員亡くなったとみられる」
日テレNEWS 6/23(金) 4:06配信
北大西洋に沈没した豪華客船「タイタニック号」の残骸を探索する潜水艇が消息不明となって4日が経過するなか、つい先ほど、ツアーの運営会社は「5人全員が亡くなったとみられる」とする声明を発表しました。
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なお、Net上の別記事では、米海軍がおそらく潜水艦のソナーで、潜航艇の潜行開始から深度2500m程の位置で、ツアー行う潜航艇「タイタン」の圧壊音をキャッチしていたと報じている。当然、この音は潜水艦機器のデジタルデータとして記録されていることだろう。潜水艦映画は好きなジャンルで、好んで見るが、相手のスクリュー音とか原子力船など停止時のPU作動音など、ソナーのデジタル音は総てデジタル化されて、データベース化されており、相手音源をキャッチすると、既存のデータとの一致により、相手の艦船を特定するということが日常的に行われていると承知している。
ところで、日本も海洋国として、国の総てを海に囲まれ、深海潜水調査のために「しんかい6500」などの深海潜水艇を保有しているのだが、今回の事故を起こした「タイタン」が6500mまで潜行可能かは不知ながら、既にタイタニックのツアーを何度か繰り返していたというのだから、少なくとも4000mまでの潜行はスペック上は可能であったのであろう。
しかし、「しんかい6500」などの深海潜水艇が、その概観とは異なり、実際に人が乗れるスペースは、完全に球体の耐圧殻という部分だけということを知ってはいた。その点で、今次の「タイタン」はツアー客5名+操縦担当者が1名もしくは2名いたはずだから、総員7名が搭乗していたと想定できる。そこで「深海6500」の場合は、直径mの部厚いチタン製球体であり、おそらくどんなに乗れても4名が限度だろう。とすると、「タイタン」の耐圧殻は球形でなく、通常の潜水艦の様な円柱状でその前後を半球型で覆った形状であろうと想像しつつ、Netで「タイタン」内部の様子を検索して見たところやはりそうであった。
ここで、深海潜水艇で何故耐圧殻を球体にするのかだが、仮に4000mの水深だとすれば400気圧(=413kgf/cm^2)という1平方cm当たり413xkgが作用する訳だが、なるべく表面積を小さくした方が総圧力は小さくなる理屈なのだ。だから一般の潜水艦などは、艦内の設備機器とか搭乗員も多いので、広い管内体積を確保するため円柱状の耐圧殻となるのだが、それでも耐圧殻の強度上から、正式には軍事用潜水艦の最大可能深度は非公開だが、最新鋭艦でも800m程度が限界深度らしい。第2次世界大戦の頃の、Uボートとか日米の潜水艦は200m程度が最大潜行可能深度だった様だ。
そんなことを思いつつ、Net探索していると、今回の「タイタン」だが、5年前に既に安全性に懸念が指摘されていたというBBC発の記事が翻訳されてあったので以下に転載しておきたい。
この要約としては、深海潜水艇は一般に耐圧殻はチタン製球体であるが、タイタンはカーボンファイバー製の円柱形であること。前後のエンドプレート(半球形状部)はチタン製で片側には窓がある。カーボンファイバーは、鋼鉄やチタンより単位強度は高いが、深海底での安全性が試されたことはない。タイタンののぞき窓も素材メーカーは1300mの水圧しか認証していなかった。
ちなみに「しんかい6500」ののぞき窓は特殊な樹脂製であるが積層構造を持ち厚さ138mmに達する台形で、海中に接する側の径は、タイタンより余程小さく、水圧の受ける面積を制限していることが判る。
これら記事を見ていて思うのだが、金属でも樹脂でも同じなのだが、素材には「疲労」という現象が必ずある。それと、カーボンファイバーの場合、髪の毛の断面より細いファイバー繊維は、同断面の鋼の10倍を超える強度を持つが、それを包み込む強度に優れる熱硬化型エポキシ樹脂だが、繰り返し過重を受けると、マイクロクラックが生じる場合があると知られている。疲労破壊とは、この様な素材のある弱点を基点にして、その破壊が進行しつつ、最終破壊に至るというものだが。つまり、まとめとして、「タイタン」は数年前の当初の試験潜行とかツアーでは、十分な強度を得ていたが、マイクロクラックとか様々な要因により素材の疲労が進行していて、米海軍情報にれば僅か2500m潜行の時点で圧壊してしまったという想像をするのだ。
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行方不明の潜水艇、安全性に懸念 5年前に指摘
BBC News翻訳 6/22(木) 15:17配信
大西洋で「タイタニック」の残骸を見に潜航中に行方不明となった潜水艇「タイタン」について、運航会社「オーシャンゲート」の元従業員が2018年の時点で、安全面で問題がある可能性を指摘していたことがわかった。捜索は21日夜(日本時間22日午前)も続いている。
米裁判所の文書によると、オーシャンゲートの海洋オペレーションのディレクターだったデイヴィッド・ロクリッジ氏が、検査報告書で懸念を表明していた。
検査報告書には、「重大な安全上の懸念を呼ぶ数多くの問題が指摘されていた」という。問題とされた中には、船体のテスト方法も含まれていたとされる。
ロクリッジ氏は、「タイタンが極限の深さに達すると、乗客に危険が及ぶ可能性を強調した」とされる。同氏は警告が無視されたと考え、オーシャンゲートの上司らとの会議を求めたが、解雇されたという。
オーシャンゲートは、ロクリッジ氏が秘密の情報を暴露したとして同氏を提訴。同氏は不当解雇だとして反訴した。この訴訟は和解が成立したが、詳細は明らかにされていない。BBCはロクリッジ氏に取材を試みたが、コメントは得られなかった。
■「実験的」手法への懸念
一方、海洋技術協会(MTS)が2018年3月にオーシャンゲートに送った書簡には、「オーシャンゲートが採用している現在の『実験的』アプローチは(中略)負の結果(軽微なものから壊滅的なものまで)をもたらす恐れがある」と記されていた。米紙ニューヨーク・タイムズがこの書簡を入手して報じた。
オーシャンゲートの広報担当は、ロクリッジ氏とMTSが提起した安全面での問題について、コメントを避けた。
同社が「実験的」だとするタイタンは、深海艇にはあまり使われない素材で作られている。船体(乗客が座る空間の周囲)はカーボンファイバー製で、エンドプレートはチタン製で、片方の端には小さな窓がある。
英ポーツマス大学講師のニコライ・ロターダム博士(海洋生物学)は、「深海潜水艇の人間を収容する部分は、典型的には、直径2メートルほどのチタン製の球体だ」と説明した。
深海の大きな水圧に耐えるには、極めて強力な素材が必要だ。カーボンファイバーは、チタンや鋼鉄より安価で、強度も非常に大きい。だが、タイタンのような深海艇で試されたことはほとんどない。
■のぞき窓についても
裁判所の文書では、ロクリッジ氏は船体が適切にテストされていないと主張。タイタンの小型模型を使った圧力テストで、カーボンに欠陥が見つかったとした。
ロクリッジ氏はまた、タイタンのガラス製ののぞき窓についても、素材メーカーは深度1300メートルまでの使用しか認証していないとした。
オーシャンゲートは2018年12月の声明で、タイタンが深度4000メートルの潜水を完了し、「オーシャンゲートの革新的エンジニアリングと、カーボンファイバーとチタンの船体構造が有効であることを完全に証明した」としていた。
同社のストックトン・ラッシュ最高経営責任者(CEO)は2020年、米テクノロジー関連のニュースサイト「ギークワイア」のインタビューで、タイタンをテストしたところ、船体に「繰り返し疲労の兆候が見られた」と述べていた。
タイタンは形状も独特だ。深海潜水艇は球形が一般的だ。そうすることで、どの箇所でも水圧を均等に受けるられる。ところが、タイタンはチューブのような形をしており、水圧が均等に分散されない。
「タイタンは、研究で使われる潜水艇とはかなり異なる」とロターマン博士は言う。
「しかし、複合素材を使ったこのデザインが構造上の弱点になっているかどうかは、エンジニアが判断することだ」
■認証されていなかった
裁判所の文書では、ロクリッジ氏はオーシャンゲートに対し、タイタンが検査と認証を受けるよう強く促したとしている。
潜水船は、アメリカやノルウェーにある認証機関によって、認証または「クラス分け」を受けることができる。強度や安全性などが一定の基準を満たしている場合に認証される。
しかし、潜水船の認証は義務ではない。
タイタンは認証もクラス分けもされていない。オーシャンゲートは2019年のブログ記事で、「オーシャンゲート設立時の目標は、有人潜水艇の設計と運用において、合理的な最高レベルのイノベーションを追求することだった。定義上、イノベーションとは、すでに受け入れられているシステムから外れることだ。しかしこれは、オーシャンゲートが適用される基準を満たすという意味ではなく、イノベーションはしばしば、業界の既存のパラダイムから外れることを意味する」としていた。(英語記事 Experts had warned about safety of missing sub)(c) BBC News