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最小回転半径に関わる考察

2019-06-23 | BMWミニ
 ステアリングを左右どちらかに一杯切って、超微速で旋回するときの回転半径を最小回転半径と云います。これは誰もが判ることで、だいたいのクルマのカタログなどに記してあります。ところで、カタログなどの諸元として記される最小回転半径値は、実際にクルマを走らせて計測しているのではなく、理論的な計算値だということまでは、知らぬ方もいるのかもしれません。

 この理由ですが、実際に計測しようとすると、計測場所の水平面の平坦性だとか速度、計測誤差などで種々難しさがあることによる様です。なお、最小回転半径は、外側輪のタイヤ軌跡の中心線の値であり、この値+ボデーオーバーハング量を加算した数値が、現実の最小回転半径となります。ですから、自動車教習所のコースみたいに路面からボデーがはみ出せる環境であれば、この最小回転半径値近くで曲がりきることが可能ですが、現実の道で建物や塀に囲まれた環境では、ボデーオーバーハング量の大きさが大きく関わって来ます。このことは、キャブオーバーの大型トラックと大型バス(リヤエンジン)を比べた場合、バスはフロントオーバーハングが長いですから、道路外側が平地ではみ出せるなら曲がれても、建屋などではみ出せない場合とはかなり差異が出ることでしょう。

 さて、結構複雑そうに見える計算式ですが、最小回転半径に大きく関わるパラメーター(変動値)としては、ホイールベースと左右前輪の切れ角であることは誰でも判るでしょう。ここで左右前輪の切れ角ですが、整備士資格保持者なら何処かで聞いた「アッカーマンジャント理論」というのが頭に浮かぶはずでしょう。つまり、前輪の左右操舵ナックルアームの内側への傾きの延長線は、後者軸上で交わるというものです。これにより、外側輪より内側輪は適度に大きく切れスムーズに旋回できるという理論ですね。ちなみに、仮にホイールベースが∞のクルマを仮定したら、ナックルアームの内傾はゼロで良いということになります。逆に云うと、ホイールベースが短いほど、内傾角も大きく(つまり内外輪の切れ角差が大きく)なるということでしょう。

余談
 ステアリングのギヤ比を表す時、ギヤBOX単体でのギヤ比を呼ぶ場合もありますが、オーバーオールギヤ比と呼ぶ、前輪切れ角とステアリングホイールの回転角の比を呼ぶ場合があります。ここで、前輪切れ角は、内外輪の中間の値とし、ステアリングホイールの回転角は、ロックツウロック(左右どちらか一杯切って、反対側に何回転切れるかの角度・以下LtoLと記す)とします。一般的な乗用車で、LtoLロックが3回転(360*3=1080)ほどと仮定し、前輪切れ角中間値が37度だとすれば、1080÷37≑29 ということになり、運転中ステアリングを半周(90度)回したら、およそ1/30の3度前輪は切れているという感じとなるでしょう。なお、LtoLは、ちょっとスポーティな味付けのクルマで2.5程、かなりスポーツなクルマで2.0ほどだと思います。ちなみにF1は最大切れ角も20度ほどしか切れませんが、LtoLも1.0程度だろうと想像します。また、大型トラックやバスなど、LtoLは5.0近くあり、しかもステアリングホイールも昔より小さくなって来ましたが乗用車よりかなり大きく、左右大転蛇が続く道では忙しいことになります。

 ステアリングギヤ比は、昔のPSがない前提のクルマでは操舵力としての限界があり、LtoLを大きくせざるを得なかった訳です。しかし、現在はPS付きが前提ですので、アシスト比を大きくすれば、F1並みの市販車もあり得る訳ですが、切り過ぎだとか、鋭敏過ぎることによる車両挙動の不安定を防止する観点から、クルマに応じての味付けを行っているのでしょう。個人的好みから云えば、乗用車でのLtoLは2.5ほどがほど良く、3.0以上では、トロイクルマだと感じてしまいます。

※エクセルでの計算式を入力したシミュレーション例を4車種ほど紹介してみます。クラウンの MS80 だけは保有の修理書から最大切れ角(内外)が判ったので、計算式が正しいか検証用に使用しました。その他の3車種は、切れ角以外はカタログ諸元に出ているので、それを元にステア角を入れ替え、最小回転半径が近似値になるステア角をシミュレーションしてみたのです。
 こうして見ると、昔から欧米車はハンドルが良く切れる(小回りが効く)という話もまんざらではないと判ります。また、初代の BMWミニは小さいクルマですが、E46 より最小回転半径が大きいことが乗っていて実感されますが、ステアリング角が非常に小さめであることが判ります。その理由は、5ナンバー規格に抑える中で、横置きエンジン+トランスアクスルによりサイドフレームスパン(間隔)が広く、タイヤが当たってしまい切れ角が制限されてしまうためでしょう。この様なケースは、今でも、軽などで同じプラットフォームだけど、タイヤが大径のクロカン風のモデルだと切れ角が異なっていたり、ワイド大径タイヤを付けると、ハンドル一杯切ると異音がしてタイヤとインナーフェンダーなどの緩衝に気付くことがあります。







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