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アークブレージングルーフの取替

2022-07-05 | コラム
アークブレージングルーフの取替
 ちょうど1月前の6月2もしくは3日に、関東から東北辺り各地でゴルフボール大の「ひょう」が降り注いだという災害があり、これら災害の生じた地域ではBP工場での施行が各地で多く行われているだろう。ただし、直すのは車両保険の付帯された車両が多いことだろう。車両保険には一般(フルリスク)とエコノミー(車対車限定)とあるが、落下物などの走行リスク以外はエコノミーでも担保なされる。

 ご存じの通りひょう災害は、ボンネットやフロントガラス、そしてルーフパネルなど水平面かつ高面積パネルほど生じ易い。ボンネットなどはボルト系パネルで取替は簡単で、程度の良い同色パネルでも入手できれば、誠に簡単に直せるのだが、ガラスは交換するしかない。一番問題となりのがルーフパネルとなるが、これは溶接系パネルで手間も費用も要すとか、下取り査定で修復歴車となることがある。

 まあ、ひょう災害の凹みがさほど多くなく部分パテ程度であれば、なんとか板金で生かしたいところだが、全面パテとなるとなかなか難しいところだろう。特にプリウスなどは、薄いルーフの張り剛性を上げる目的もあるのだろうが、プレスラインがあったりと、手作業でのパテ研ぎは難しい要素が多分にある。

 ところで、この取替の指数値はプリウスで確か4.5だったと思うが、ヘッドライニングやシートや前ガラスやバックドアは別としても、この数値で取替できるかとなると、なかなか相当手慣れた工場でも難しいことの様に想像できる。

 さて、今回の本論だが、輸入車のVW&アウディ系でかなり以前から採用されていた、ルーフパネルの結合にスポット溶接でなく、アークブレージングというろう付け接合を行った車種がある。これの見分けは、ルーフパネルの左右縦のラインに溶接部をカバーするモール(モヒカンモール)のないことで見分けることができる。

 このアークブレージング工法のルーフだが、国産車でも増えつつあって、現在把握しているのはN-BOX(JF3,4系)、レクサスLS(50系)、レクサスIS(30系)、そして未だほとんど市場には出ていない様だがアリアも採用している様だ。

 このアークブレージングとは、レーザービームを使用した局所入力の高温でろう材(しんちゅうロウだと思われる)をルーフパネル左右の端部とルーフサイドレールを連続ろう付けしているというもので、メーカーの採用理由はルーフモールが不要でシーリング工程も不要となりコスト低減できると云うことになるのだろう。デザイン的にもルーフモールがなく、スッキリとさせる効果もあるだろう。

 車両メーカーでは大掛かりな組み立てジグとレーザービームとろうざい自動供給装置を持ち、ろう付け直後に専用の自動仕上げグラインダーでろう付け部位の仕上げ処理まで一貫して行っている様だ。ただし、補修作業としてこの工法のルーフパネルの取替作業は結構な大変さが予想される。

 ここで、国産のN-BOXおよびレクサス2車種のボデー修理書より該当部を確認しつつ、幾つか図を転載させてもらうが、3車種共に共通するのは、再接合は接着剤を使用して固定するのだが、おそらく新車施工のロウ接合の断面積が小さいことがあるのだろうが、3車種共に、別途の金具(BKT)をルーフ側とルーフサイド側のルーフ内側にそれぞれ用意して付け、その間をボルトで結合すると云う補強構造を指示していることだ。

 ここで幾らかましと思えるのはホンダのN-BOXで、補給部品のルーフには既に別途のBKTが溶接で装着済みという点がある。レクサスの2車種は、ルーフ側、ルーフサイド側それぞれ接着および溶接でBKTを位置合わせして取り付け、ボルト締結するというものだ。





 それと、この修理工程を観察して、このBKT類を位置合わせしつつ、場合によっては中間に挟むスペーサーの厚みを選択して組み付けろと指示してあり、初めてやる工場は相当に手を焼くのではないだろうか。そんな中、一番作業の中で時間が掛かりそうなのが、ルーフのアークブレージング部位至近で粗切りするのは良しとして、この残りのルーフ残部とろう材を、ベルトサンダーで削り落とすという作業が如何にも手間を要しそうだ。片側1.5m程で左右で約3mの長さを、ベルトサンダーで削りつつ、なるべくルーフサイド側にキズを付けない様に研削すると云うのは、結構時間を要すのではないだろうか。おそらくベルトサンダーの替えベルトは10枚ほどは消費する様に思える。

 もし、ろう材がハンダの様な低融点のものなら、バーナーで炙ってさほど昇温しなくても、ワイヤーブラシでろう材を書き落とすことができるのだろうが、しんちゅうロウでは加温を相当しなければならず、ルーフサイドなどに熱歪みや塗膜の焼けなどの熱影響を高範囲に与えてしまいそれができない。



 ちなみに、損保指数も調べてみたが、以下の通りだ。
・N-BOX JF3,4 12.9
・レクサスLS 50系 12.9 ムーンルーフ付き 13.1
・レクサスIS 30系 11.5 ムーンルーフ付き 11.6

 従来工法のルーフの事例でプリウス30の取替指数が4.5だが、米ミッチェル工数は13.4(前ガラス、ヘッドライニング、シート脱着分を控除した補正値)だが、指数の3倍値だ。今次の指数値はそれなりに従来ルーフより増やされているが、相当厳しい値であると想像できてしまう。
#ひょう災害 #ルーフ取替 #アークブレージングルーフ取替


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