指数の疑問 その5【基表という考え方】
指数(俗に損保指数と云われるもので、国産車および一部輸入車にも適用する作業工数もしくは標準作業時間に相当する時間を目安にした値)が自研センターという損保が出資した研究機関で策定され、現実として国内の多くのボデーリペア(BP)工数として利用されている。なお、以前に記しているが、元々は指数の著作権は自研センターと云うより保険料率算定会(現保険料率算定機構)にあった様だが、何時の間にやら販売権はコグニビジョン(旧日本アウダテックス)に移管されている。なお、コグニ社では自研センターに策定料としての対価を支払っているのだろう。
ところで、自研センターでの指数策定は、その策定車種をすべて実作業を行って時間計測して策定している訳ではない。そもそも、そんなことをやろうとすれば、そもそも初回1回の作業で標準的な時間が計れるものではないし、何度か繰り返して、時間が落ち着いて来たところを見計らって時間を決めなければならないことになり、莫大な納期や作業量、費用が掛かることが予想できる。
そんな訳で、自研センターの説明としては、作業の基本要素として、ボルト(サイズ別)に何本とか、クリップ何カ所とか、取り付けて部品の位置合わせ(アライメント)が何カ所だとか、溶接系で云えばスポット何カ所、何枚合わせ、補修作業としては着ける時はパネル重なりが2枚を超えるとスポット不可なので、プラグ溶接何カ所とか、スポットの方向が水平とか、下から上へと作業姿勢により所要時間が変わる要素を見極め、それを予め集計してある要素別の基表というテーブル表の該当値を積算して正味時間を算出する方式にしているとのことだ。
この基表の考え方は自研センターが考え出したというものでなく、自動車先進国としては欧米があるが、特に欧州で先行していたものを、ある程度考え方を流用したところと聞いている。ちなみに、指数以外にボデーリペアの世界的な工数策定機関の一部を下記に記しておきたい。
日本 自研センター・・・指数 JKC
スェーデン・・・・・・・MYSBY(ミスビー)工数
イギリス・・・・・・・・Thatcham(サッチャム)工数 https://www.thatcham.org
ドイツ・・・・・・・・・アリアンツセンター AZT工数
スペイン・・・・・・・・セスビマップ・セズビ工数
アメリカ・・・・・・・・Mitchell(ミッチェル)工数
モーター・モーター工数・CCC
ソレラ・ADP工数(※)
※アウダテックスは元ドイツの見積作成ソフトウェア企業だったが、米ソレラグループの傘下となっている。欧州アウダテックスも傘下企業。
この様な工数以外にも、各車両メーカーで決めたいわゆるメーカータイム(工数)とかある訳だが、何れも標準作業時間としての思考を持って作られている。その標準というからには、前提となる条件、いわゆる標準条件があり、作業車両、作業工場の工具環境とか人的な要素を一応規定しているのだろう。ただし、いわゆるメカニカルな作業と異なり、BP作業というのは、ボデーの変型なりがあってボデーリペアを行う訳だが、損傷は千差万別であり、何処に基準を置くかと云うことになると、損傷していない状態を基準に置かざるを得ないことになる。また、車両の仕様状態も、経年して様々に腐食や汚損が生じたという前提では標準状態になり得ないので、日本の指数でも新車から数年、2-3万キロ走行で錆び汚れの比較的少ないものという条件にならざるを得ない。それと、実作業もしくは見積を行う場合でも、精度の高い、もしくは全体の作業能率を考慮すれば、適切な変型測定など損傷診断というべきものが必用なのだが、これも除外されている。このことは、メカニカルの故障診断においても、作業の主因たるユニットが悪いとして取り替えて作業完了となる訳だが、いきなりそのユニットが悪いと直ちに判る場合もあるが、得てして判らず、様々な試行錯誤を経て原因が判明する場合がある。これらの場合に、事前の診断料をもらえるのかという問題が昔から云われているが、作業に要した時間をすべて客観妥当なものとして請求できるかは難しい問題が内在していると思える。それは、その作業者のスキルとか知識経験により、どれが妥当なものかの見極めが難しい問題ではある。ただ、どんな優秀で経験豊富な技能者であっても、ある程度の診断時間を要することに異論を持つ者はいないと思う。
さて、自研センターでは構造調査シリーズという書籍を指数策定車については発刊されているのだが、ほとんど役に立つ資料ではない。と云うのも、ほとんど該当車種の指数の解説書止まりの内容しか判らない内容であり意味があるのかという思いで見るのだが、輸入車などで写真中心に掲載してある資料は、その位置関係とか構成が判り易く価値ある場合もあるが、ほとんどパーツリストの図から転用してある図だけの指数解説書ではおおよそ意味はないだろう。なぜ、この様な大して意味ない、従って拡販できる余地のない資料を何故自研センターが出版しているかと云えば、指数策定にあたり、策定対象車種のホワイトボデー入手、補給部品入手、該当実車の入手を含め、指数策定のための最小取付要素の構造調査を行う過程で、その一部として、本構造調査の内容がほぼ自動的にできてしまうことにあると想像できる。そうは云えども、構造調査シリーズには、基表の要素となるボルト点数とかスポット点数が記してある訳でもなく、あえて基本要素が何処まで見ているのかと云うことを、明示させない様な意図を持っていることが分かる。
これに関連して、近年のメーカーの整備マニュアルも、昔は図だけでなく写真を多用しており、周辺状況が判り非常に判読しやすかったが、現在の局部的なイラストというかパーツリストなどや設計図面の3D図から切り出してきた様な図では、そもそもその位置すら判読するのに苦労するものと思える。
さて、指数の基表に戻るが、自研センターでは基表を使って、予め車両の構造の調査を行い、最初単位の構造要素を把握することで指数が策定できる(正味作用時間を推定できる)と公言している。この基表値は過去の修理時間計測実態を分析することで生み出したものであり、基本的に事故車のリペア作業を対象としたものであるから、事故車特有の無損傷車より作業性が悪化することによる特性を包含したものだと説明している。こういう説明を受けると、指数の標準条件はおよそ無損傷車を前提にしている、そうでないとそもそも標準条件が整わないという理屈と矛盾というか混乱が生じて来る訳なのだ。つまり、自研センター指数は、事故車のボデーリペアを前提とした数値であることは間違いないのだが、その標準条件とは事故車なのか無損傷車なのかと云うことだ。
これを見て疑問を思う方は自研センターにお客様相談室というのがありますので聞いて見て戴くのも結構かと思う。ただし、私は過去の実蹟から返答が予想できるので、改めて聞くことはしない。つまり自研センターではこう答えるだろう。「自研センターの指数値はあくまで自研センターの環境で作った参考値です。これを使うのも使わないのも、お客様の自由ですし、もしご不審があるのでしたらば、現実問題として個別保険会社と話し会ってください」てな返答になるだろう。
なお、自研センターの指数はS60年(1985)から開始されたと云われるが、それに先立つ4年前から基表価の研究を開始して基表の完成を終えていると書籍「自研センターのあゆみ-20年小史-1994/3/31発刊」で説明されている。と云うことは、基表というのは、およそ37年前に作られたもので、この時代現在の様な超高張力鋼板とか衝突安全ボデーという強化されたボデー構造ではなかったのだが、基表値が随時更新されているという伝聞は聞いていない。
ただし、新しい工法として例えば、近年出て来た例えばトヨタのLSW(レーザースクリューウェルディング)など、基表にない接合法等は、実測時間を組み合わせて策定しているとの答えであった。
#自研指数 #基表
指数(俗に損保指数と云われるもので、国産車および一部輸入車にも適用する作業工数もしくは標準作業時間に相当する時間を目安にした値)が自研センターという損保が出資した研究機関で策定され、現実として国内の多くのボデーリペア(BP)工数として利用されている。なお、以前に記しているが、元々は指数の著作権は自研センターと云うより保険料率算定会(現保険料率算定機構)にあった様だが、何時の間にやら販売権はコグニビジョン(旧日本アウダテックス)に移管されている。なお、コグニ社では自研センターに策定料としての対価を支払っているのだろう。
ところで、自研センターでの指数策定は、その策定車種をすべて実作業を行って時間計測して策定している訳ではない。そもそも、そんなことをやろうとすれば、そもそも初回1回の作業で標準的な時間が計れるものではないし、何度か繰り返して、時間が落ち着いて来たところを見計らって時間を決めなければならないことになり、莫大な納期や作業量、費用が掛かることが予想できる。
そんな訳で、自研センターの説明としては、作業の基本要素として、ボルト(サイズ別)に何本とか、クリップ何カ所とか、取り付けて部品の位置合わせ(アライメント)が何カ所だとか、溶接系で云えばスポット何カ所、何枚合わせ、補修作業としては着ける時はパネル重なりが2枚を超えるとスポット不可なので、プラグ溶接何カ所とか、スポットの方向が水平とか、下から上へと作業姿勢により所要時間が変わる要素を見極め、それを予め集計してある要素別の基表というテーブル表の該当値を積算して正味時間を算出する方式にしているとのことだ。
この基表の考え方は自研センターが考え出したというものでなく、自動車先進国としては欧米があるが、特に欧州で先行していたものを、ある程度考え方を流用したところと聞いている。ちなみに、指数以外にボデーリペアの世界的な工数策定機関の一部を下記に記しておきたい。
日本 自研センター・・・指数 JKC
スェーデン・・・・・・・MYSBY(ミスビー)工数
イギリス・・・・・・・・Thatcham(サッチャム)工数 https://www.thatcham.org
ドイツ・・・・・・・・・アリアンツセンター AZT工数
スペイン・・・・・・・・セスビマップ・セズビ工数
アメリカ・・・・・・・・Mitchell(ミッチェル)工数
モーター・モーター工数・CCC
ソレラ・ADP工数(※)
※アウダテックスは元ドイツの見積作成ソフトウェア企業だったが、米ソレラグループの傘下となっている。欧州アウダテックスも傘下企業。
この様な工数以外にも、各車両メーカーで決めたいわゆるメーカータイム(工数)とかある訳だが、何れも標準作業時間としての思考を持って作られている。その標準というからには、前提となる条件、いわゆる標準条件があり、作業車両、作業工場の工具環境とか人的な要素を一応規定しているのだろう。ただし、いわゆるメカニカルな作業と異なり、BP作業というのは、ボデーの変型なりがあってボデーリペアを行う訳だが、損傷は千差万別であり、何処に基準を置くかと云うことになると、損傷していない状態を基準に置かざるを得ないことになる。また、車両の仕様状態も、経年して様々に腐食や汚損が生じたという前提では標準状態になり得ないので、日本の指数でも新車から数年、2-3万キロ走行で錆び汚れの比較的少ないものという条件にならざるを得ない。それと、実作業もしくは見積を行う場合でも、精度の高い、もしくは全体の作業能率を考慮すれば、適切な変型測定など損傷診断というべきものが必用なのだが、これも除外されている。このことは、メカニカルの故障診断においても、作業の主因たるユニットが悪いとして取り替えて作業完了となる訳だが、いきなりそのユニットが悪いと直ちに判る場合もあるが、得てして判らず、様々な試行錯誤を経て原因が判明する場合がある。これらの場合に、事前の診断料をもらえるのかという問題が昔から云われているが、作業に要した時間をすべて客観妥当なものとして請求できるかは難しい問題が内在していると思える。それは、その作業者のスキルとか知識経験により、どれが妥当なものかの見極めが難しい問題ではある。ただ、どんな優秀で経験豊富な技能者であっても、ある程度の診断時間を要することに異論を持つ者はいないと思う。
さて、自研センターでは構造調査シリーズという書籍を指数策定車については発刊されているのだが、ほとんど役に立つ資料ではない。と云うのも、ほとんど該当車種の指数の解説書止まりの内容しか判らない内容であり意味があるのかという思いで見るのだが、輸入車などで写真中心に掲載してある資料は、その位置関係とか構成が判り易く価値ある場合もあるが、ほとんどパーツリストの図から転用してある図だけの指数解説書ではおおよそ意味はないだろう。なぜ、この様な大して意味ない、従って拡販できる余地のない資料を何故自研センターが出版しているかと云えば、指数策定にあたり、策定対象車種のホワイトボデー入手、補給部品入手、該当実車の入手を含め、指数策定のための最小取付要素の構造調査を行う過程で、その一部として、本構造調査の内容がほぼ自動的にできてしまうことにあると想像できる。そうは云えども、構造調査シリーズには、基表の要素となるボルト点数とかスポット点数が記してある訳でもなく、あえて基本要素が何処まで見ているのかと云うことを、明示させない様な意図を持っていることが分かる。
これに関連して、近年のメーカーの整備マニュアルも、昔は図だけでなく写真を多用しており、周辺状況が判り非常に判読しやすかったが、現在の局部的なイラストというかパーツリストなどや設計図面の3D図から切り出してきた様な図では、そもそもその位置すら判読するのに苦労するものと思える。
さて、指数の基表に戻るが、自研センターでは基表を使って、予め車両の構造の調査を行い、最初単位の構造要素を把握することで指数が策定できる(正味作用時間を推定できる)と公言している。この基表値は過去の修理時間計測実態を分析することで生み出したものであり、基本的に事故車のリペア作業を対象としたものであるから、事故車特有の無損傷車より作業性が悪化することによる特性を包含したものだと説明している。こういう説明を受けると、指数の標準条件はおよそ無損傷車を前提にしている、そうでないとそもそも標準条件が整わないという理屈と矛盾というか混乱が生じて来る訳なのだ。つまり、自研センター指数は、事故車のボデーリペアを前提とした数値であることは間違いないのだが、その標準条件とは事故車なのか無損傷車なのかと云うことだ。
これを見て疑問を思う方は自研センターにお客様相談室というのがありますので聞いて見て戴くのも結構かと思う。ただし、私は過去の実蹟から返答が予想できるので、改めて聞くことはしない。つまり自研センターではこう答えるだろう。「自研センターの指数値はあくまで自研センターの環境で作った参考値です。これを使うのも使わないのも、お客様の自由ですし、もしご不審があるのでしたらば、現実問題として個別保険会社と話し会ってください」てな返答になるだろう。
なお、自研センターの指数はS60年(1985)から開始されたと云われるが、それに先立つ4年前から基表価の研究を開始して基表の完成を終えていると書籍「自研センターのあゆみ-20年小史-1994/3/31発刊」で説明されている。と云うことは、基表というのは、およそ37年前に作られたもので、この時代現在の様な超高張力鋼板とか衝突安全ボデーという強化されたボデー構造ではなかったのだが、基表値が随時更新されているという伝聞は聞いていない。
ただし、新しい工法として例えば、近年出て来た例えばトヨタのLSW(レーザースクリューウェルディング)など、基表にない接合法等は、実測時間を組み合わせて策定しているとの答えであった。
#自研指数 #基表