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日野自の型式指定取消と今後予想される流れ

2022-06-25 | コラム
日野自の型式指定取消と今後予想される流れ
 国交省が3/29付けで日野自動車(トヨタといすゞ宛てにも処分が下されているがエンジンOEM先メーカーで販売中断だが直接の責任はない)に対し、エンジン型式が4型式搭載車の型式指定取消という重い処分が下された。恐らく型式指定取消という処分は日本で初のものだろう。従来までの日本の国交省および通産省と車両メーカーの関係からだと、この程度ではここまで重い処分とならなかったのだが、数年前の三菱自の燃費データ虚偽報告事件を受けて、法令を厳格化させていたこともあり、恐らくだが国交省や通産省では、こんな重い処分を下すことは大メーカーでないだろうと考えていたところに、見事にジャストマッチして下さざるを得なかったというところだろう。


 この型式指定の取消のとなった4機種エンジン搭載車だが、違反内容が2種に分かれる。4機種中の3機種は燃費の虚偽報告であり、残りの1機種が排ガス試験の方法の不適当というものだ。深刻度から見れば、燃費の虚偽報告は、しかるべき時期を見て、改めて燃費試験の結果を提出し直し、多少カタログ燃費が落ちようが再度型式指定を取得するのに大きな問題はないだろう。




 深刻度が大きいのはエンジン型式:A05Cというエンジンでの排ガス試験の途中で排ガス浄化触媒を黙って交換していて、排気ガス試験性能の基準を満たしていなかったと云うものだ。

 このA05Cエンジンだが、排気量約5LのL4ターボ付きディーゼルエンジンだが、排気ガス浄化の内、Nox浄化に尿素水を使用しないで済むHS-SCR方式というのを日野自が開発して、下記の通り昨年3月に2020年触媒学会賞を受賞したというものだったのだ。
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NOx浄化用触媒システム 「HC-SCR」が 2020年度触媒学会賞(技術部門)を受賞しました 2021.03.16
 日野自動車と共同開発した「軽油によるNOx選択還元反応を用いたディーゼル排気浄化システム」が、2020年度触媒学会賞(技術部門)を受賞しました。
 本システム(HC-SCR)は、2017年4月以降に発売した「日野レンジャー」および「日野デュトロ」に搭載されています。
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 今回の日野自の排ガスおよび燃費に関わる虚偽事件の発覚は、公式には日野自自身が自首的に届け出たということになっている。ただし、遡る昨年、日野自は対米輸出仕様のエンジンで、同じく触媒の長期劣化の問題を認識しており、この対処として対米仕様のエンジンは米カミンズ社のエンジンを搭載することで認可を受けていたという経緯があった様だ。ここからは拙人の想像も含む前提で記すが、日野自は今回の問題を少なくとも1年以上前から認識していたと想像できる。それを国内発表を伸ばしに伸ばして来たのだが、いよいよ自主申告せざるを得なくなったのは、北米の一件からだろうか? どうもタイミング的に不自然だし、かってな想像だが、日野自の北米での型式指定などの届け出担当者は、この自社エンジンでの認可不可能の結論をもって、何らかの不利益処分を受けているのではないだろうか。その担当者が、さまざまな立証データ共に、国交省に告ったのではないだろうか。そこで、国交省からおたずねが出され、いよいよ自首届け出をせざるを得なくなったと云うのはあくまで想像だ。

 ところで、このA05CのHS-SRCの触媒長期劣化の問題を解決するには、相当の困難性が予想できる。つまり、触媒学会賞を受賞したと云えども、その長期信頼性までが確認されたものでなく、同じHS-SRC触媒で長期信頼性を確保するには、エンジン型式から新設計したとしても、触媒の機能的に不可避な要素があるかもしれない。となると、新たに尿素SCR方式触媒で型式審査を取り直すにしても、エンジンの改修期間やコスト、長期テストには半年以上要するとか聞くので、現時点で日野自の方針は決定したのだろうか。

 再型式認可に向けて選択できる手法は、➀すべて自社新型エンジン開発と尿素SCR触媒を開発する、②いすゞその他他車から同クラス排気量エンジンを調達する、の2択しかないだろう。大型4社トップメーカーの日野自としては、②の他車エンジン調達はプライドが許さないところがあるだろうが、1年前後で再販売復帰しないと業績不振で自滅する可能性すらあるだろう。

 なお、これもあくまで想像だが、企業合併によりこの窮地を回避すると云う案も出ている様に想像できる。合併するとしたら、いすゞしかあり得ないだろうし、日野自およびいすゞのバス部門は、J-BUSで観光系を日野自が路線系をいすゞが共有していることがあるし、日野自の株式の半分はトヨタが保有しているが、いすゞもトヨタが5%程度株式保有している。この合併については、おそらく日野自は反対派が多数だろうが、トヨタ主導で進められる余地も大きい様に思えて来る。なお、その場合、存続会社はいすゞであって、日野自はあり得ないだろう。(だから日野自は反対派が多数となる。)

 ところで、2015年に米国でVWのディーゼル詐欺というべき事件があった際、当然型式指定は取り消され、VWディーゼルの米国での販売はできなくなったのだが、既販売車50万台をどうするかという問題を、米国とVWの間で話し合われた様だが、VW側としてはリコール対策での解決は不可能との結論に達し、既販売50万台の全量をVWで買い取りすることになった。その総額2兆円と聞くので、1台あたり平均400万円相当になる計算だ。

 しかし、このあたりは日本はメーカーに優しい国で、型式指定の処分表の最末尾には「(注) 型式の指定取消しに関ては、取消しの日までに製作された自動車、共通構造部及び装置ついては効力ばなものとする。」なんてこんなのありかよという文言が記されている。なお、既販売車はリコール公示がなされているが、あくまで暫定で、触媒の再活性を行う程度で、恒久対策が決まったら改めて実施するとなっている。

 ちなみに、今回の日野自の型式指定が既販売車におよび日野自がリコール守勢不可能と判断し、買い上げとなった場合、販売総数は46,000台程度だが、レンジャーシリーズでもリヤボデー架装により価格は相当上下幅があると思えるが、1台千万とすると約5千億円を要することになる。まあ、先の既販売車の型式指定の除外文書にも現れている通り、適当な対策でお茶を濁してお終いになるのかもしれない。



#日野自 #型式指定取消問題 #今後予想される流れ


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