私の思いと技術的覚え書き

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リベット(鋲)接合のこと

2018-03-28 | コラム
 クルマの世界でリベット(昔の日本語では鋲:びょう)接合が目立つところは、架装車としてのアルミバンとかウイングボデー(フラップと呼称する製造企業もある)の開閉部分のアルミパネル(多くはプレス成型で長手方向に波板状になったコルゲートパネルと呼ばれる)の固定に使われるブラインドリベット(POPリベットとか引き抜きリベットとも呼ばれる)だろう。これは、片側からの作業でリベット接合できるので、利便性が良いという特徴がある。

 現在では、新しい大きな建造物とか構造物にリベットの姿を見掛けることは少なくなったが、かつては橋だとか船舶など、非常に多くのリベットが先の大戦前くらいまでは使われており、現在でも橋などで姿を見掛けることは多い。我が住まい地にも、市中心部に位置した橋に、そんなリベット盛り沢山というべき橋が現用として使用されている。しかも、この橋、路盤上から2m程の部位に凹損が何カ所か見られるが、これは先の戦争で米軍の機銃弾による弾痕だそうだ。我が町は人口20万そこそこの大して大きな都市でないが、戦時の空襲を受けたという記録を見る。それは何故かといえば、駅北側の広大な地を軍が接収し、海軍工廠(こうしょう=工場)が存在していたからだと知る。

 ところで余談となるが、これは実際を見た訳でなく昔聞いた話しなのだが、橋のリベット(軸径15mm程か)を接合する場合の情景のことを記してみたい。その情景とは、まず橋の下部の方で、炭火でリベットを真っ赤に焼く。そして、鉄火箸でつまんでかけ声一声、橋上部の足場に居るリベット打ち作業者に向け放り上げる。受け手(リベット打ちの受け手)は、金属板のミット状の容器で受け止め、素早く”やっとこ”(現代のペンチ)でリベットを掴んで挿入すると共に、リベットを受け具(ドリー?)で押さえる。そして、反対側に位置するリベット打撃者はエアハンマー(現代でいうインパクトレンチの回転でなく前後方向へのインパクト)でリベット頭を潰してカシメる。と、いうような正にアクロバティックな職人芸を一つの橋で何千(大きな橋では何万だろう)が繰り返され橋は完成したとのことだ。

 そんな苦労があったリベット作りの橋だが、現在作られる橋は製造メーカーで重量トレーラーで運搬可能なサイズを溶接接合のユニットとして製造され現場へ輸送される。現場で各ユニット同士を多数本のボルトで締結するという工法に変わった。従って、基礎工事さえ完了していれば、驚くほど早く橋は完成してしまうのだ。こういう仕業は、造船の世界で早くから取り入れられてきた。いわゆるブロック工法というもので、各部位をブロックとして別々に平行して作り、完成したブロックをクレーンで移動して、こちらはボルドでなく溶接して接合し一体化させるというものだ。

 現代めっきり減ったリベット接合だが、今でも変わらぬリベット接合が行われていることを私が知る事例2つを記してみたい。
 一つは航空機なのだ。最新のボーイング787は胴体がドライカーボン製(三菱重工製造:カーボン素材は東レ)となっているが、翼とかはアルミニウム合金(ジュラルミン含む)だから、リベット接合だろう。B787以前の747とかすべてリベット接合だ。やろうと思えば、初代NSXみたいにアルミ材のスポット溶接とかMIG(イナートガスにアルゴン使用)を使用できるだろうが、何故か使用しないのだ。この件、明確な理由を述べられる自信がない。なお、昔の航空機はリベット頭が半球形に出っ張っていたが、現在では皿ビス状に平面化(枕頭鋲)したもので、遠目にはリベット打ちが判らない。更に付け加えるが、この枕頭鋲を最初に採用したのは我が国の三菱(自ではない)製作の零戦だった。なお、戦時中は我が国でも女子供まで工場へ動員され、豊橋の海軍工廠などでは、米軍の集中爆撃で多くの死傷者を出したと伝える記録を見ると心が痛む。その様な時代、対する工業大国たる米国でも、女性が駆り出され航空機のリベット打ちをしていたことを知るとちょっと驚く。彼女達はリベッター・ルージーと呼ばれたそうだ。彼のマリリン・モンローもそのルージーの一人だったそうだ。

 二つ目だが、トラックのラダーフレームなのだ。これは、営々とリベット接合を踏襲している。但し、同じリベット接合でも、昔のトラックでは、フレームの荷台部分についてのクロスメンバーとの接合面をフレームの垂直面でなく水平面で行うことが多かった。しかし、現在では、ほぼ荷台部分の水平面にはリベット頭はなく、垂直面(ウェブ)で締結される様になった。これは、水平面を平らにし架装性を向上するためだそうだ。一般的なトラックはこの様にリベット締結しているが、同じくフレーム構造をとるランドクルーザーとかハイラックスサーフはどうであろうかと比べてみたい。こちらのフレームは、コの字断面でなく箱断面のフレームにクロスメンバーは同じく箱断面やコの字断面のものがすべて溶接で接合され組立られている。何故、荷を積むトラックだけがリベット接合を続けているのだろうか? この疑問についてはかなり以前から感じ続け、何度かメーカーの方にも質したことがある。しかし、何故に設計部門の方でなく、十分納得できる明確な回答を得るには至っていない。しかし、私見ながら説明出来るとしたら、こういう理由だろうという推定はしている。その推定は控えるが、ここまで目を通してくれた皆様なら、なんと答えるだろうか聞かせて欲しい。


追記
 橋のところでリベットを赤熱軟化させてリベットをカシメると記したが、現在の新車トラックフレームの製造における作業は、油圧式のコールドリベッターという機具を使用して行っているそうだ。感心ある方は、以下リンクを参照して欲しい。


吉野機械製作所

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