交通事故の現状/自動ブレーキが与えた事故減少効果
ここでは、近年の交通事故の現状と、近年各車両メーカーがEV化と共に懸命に開発している自動ブレーキ(正しくは衝突被害軽減ブレーキ)などASV(先進安全車)が与える事故の減少効果を考察する目的で記してみたい。
なお、これら事故の減少は、社会としては望ましいことではあるが、一方事故に関係する商売を行っている業種というのも世にはあり、これら業種に将来的に起こしつつある影響などにも若干言及して見たい。
1.ここ10年の事故減少状況
まず、下記グラフがここ10年程の事故発生件数と死亡数をまとめたものである。ただし、ここでの事故件数は警察に届けた事故であり、警察に届けることなかった軽微な物損事故や、ちょいと塀に車体を擦ったと云う様な事故は含まれていない。また、警察の死亡統計は事故から24h以内に死亡した数で、実際にはもっと多いし、実のところ死亡はしなくとも重度後遺障害者(いわゆる植物状態など)数も含まれていない。
警察に届けとない細かい事故まで入れれば、実際のところこの数の何倍もの数が生じているのだろうが、何れにしてもその数と、今回の事故件数とか死亡者数は、何れも一定の相関することは理解してもらえるだろう。
なお、2020、2021年とそれ以前より急減しているが、これは新型コロナ蔓延による人流の減少が招いたものであることは疑う余地はないだろうう。2022年の統計は入っていないが、Gotoなどや巷道路を走行していて、コロナ以降ほとんど見ることなく2年を経過した観光バスの姿を、未だそれ以前のレベルで見掛ける様になって来た訳ではないものの、幾らか見る機会が増えてきたと云うことは、人流が復調の兆しにあることは確かだろう。しかし、インバウンドやホワイトカラー業種などのテレワーク業務から、今後完全に元に戻ることはないだろうと感じている。
2.整備白書が示すASVの事故減少効果
次に、これは従前のブログ記事でも示したものだが、日整連が毎年発行している整備白書の中で公表している、個別事業者当り整備入庫平均台数を集計したデータで、2020年と2021年の両年のデータを編集並記したものだ。
このデータで、注目してもらいたいのは、事故整備なのだが、台数を見てもピンとこないので、対前年減少率を注目してもらいたい。そして、集計は整備事業をディーラーとそれ以外に分けて集計されているだ、それぞれの下段に記された対前年比の減少率に注目したい。
まず、全事業所の平均としては、2020年が対前年-9.8%、2021年が対前年-9.6%とそれぞれ概略約10%減少していることである。そして、業態別にディーラーの同項目を見ると、2020年がー12.9%、2021年がー21.3%と全体平均の10%の倍ほども減少率が大きいことに注目しなければならないだろう。
この情報をどう読み解くかだが、私の意見は以下の通りだ。ディーラーの入庫平均車齢というのを一般工場と比べれば、比較的新しい車両がディーラーに入庫し、一般工場にはディーラー平均よりある程度旧年式車が入庫する傾向にあることは、この道40年の私ばかりでなく、車両関係の業種の方なら理解されるところだろう。
そういう中、現在販売されている新車のほとんどには、既にASV装置として衝突被害軽減ブレーキが装備(法整備としては2021年11月より適用実施だが、それ以前にほとんど装着)されていることである。つまり、すべてがこの衝突被害軽減ブレーキだけではないだろうが、他のASV機構とかも含め、相当数がこの新装置の効果が占めていると理解するところなのだ。
3.人口動向と保有台数の減少が予測されることについて
国民の高齢化が云われて久しいが、正直事故報道などを見ていても、事故分析者としてはあまりに偏向したと感じる「また高齢者が事故」なる報が多過ぎるとも感じるが、実際のところ国民の高齢化と共に高齢者事故数は増えているところは事実だろう。しかも、警察の免許更新では75才以上の免許更新に際し、認知症の検査とか、教習所での実技運転教習の義務化など、なるべく高齢者に車両の運転をさせない方向に促していることは事実だろう。
一方、日本の車両保有台数は現在82百万台だが、微減しつつある状況を示している。また、人口予測によると現在1億2千万の人口は、2060年(38年後)には40%弱減少し8千万人台になると予測されるという。また、2042年(20年後)には、75才以上の高齢者人口が約4千万に達しピークになると予測されている。
また、ASVの普及だが、私は何処でも何時でもレベル5の無人運転の実現はかなり困難とは見ているが、レベル4の条件限定(場所や走行速度)の無人運転車はできるし、既に一部実験走行が開始されていることを聞いている。もし、このレベル4で条件限定といれども無人走行まで可能な車両が一定台数普及すると、統治者はある程度の猶予期間とか年齢制限の複合条件を前提とするであろうが、道路を走る車両をこのレベル4条件限定付き車でなければ走行禁止とすべき道路交通法を改定してくる動きになろうと予測せざるを得ない。
そもそも、このレベル4条件付き無人運転車が普及する時代で、それなくしては道路を走行できなくなると仮定すれば、特別の富裕者でない限り車両を所有する価値はなくなると想像できる。スマホとかPCで車両を呼べば、レベル4無人運転車は低速で自宅前まで配車され、それに搭乗して電子運転免許証を提示すれば有人自動運転車として制限速度内での運転が、運転免許提示がない場合でも低速度だが目的地に無人運転で到達することができる。
目的地到着後は、特別駐車場を気にする必用もなく降車すると、無人運転車は勝手に車庫に帰って行く。この時代、自動車の保有台数は、おそらく現在の半分どころか、1/3程度にまで低下するのではないだろうか。このことは、道路を走行していれば、走るクルマより、駐車など保管状態にある車両の方が、よほど多い状況から当然の帰結となるだろう。
4.関連業種に与える効果
この人口減少、高齢者増大、そしてレベル4自動運転車普及の時代が訪れると、交通事故はよほど特殊な事案に限られることになり、ほとんど根絶された状態に至るだろう。この時代に至る以前に、自動車運転者の普及は、車両の作り方とか販売方法に大きな変化を起こすだろうと予測する。
その車両の作り方の変化とは、まず「操縦性」とか、「ステアフィーリング」とか、車両の操縦を楽しむと云う要素が車両メーカーに喪失することがある。つまり車両は十分な乗り心地と静粛性があれば十分となれば、車体の作り方などに大幅な合理化とか共通化というべき方向に行くことは間違いないところだろう。現代車で例えて見れば、タクシー仕様車などに共通する思想だろう。それと、いきなり一切の事故がなくなる訳でもないのだが、事故率が減少することになり、しかも個人が所有しないとなれば、個人が直すと云うより、ある程度の大規模工場で、リビルトするなりというまったく思想が異なる修理形態になりそうだと想像できるし、そもそも車検という制度の論議が改めてなされるだろう。
次に、自動車関連業種への影響だが、まずディーラーが車両販売とかの権益を失い、ディーラーという業種そのものがなくなる可能性がありそうだ。つまり、現在テスラが始めている様な、メーカーが直販する形態が一つの一過程として普及し、その後一般庶民は車両の保有を止めることになるので、メーカーがそれとも大規模リビルト&リサイクル協力工場が運営するのか、その様な大規模工場での車両の保有、管理、維持、リサイクルまでが行われる様になりそうだ。
この時代、自動車保険も大幅に収入保険料を落とさざるを得ないだろう。ただし、車両メーカーとか、大規模リビルト工場向けにPL保険は開発なされるだろうが、事故の実数が減るという事実は、保険料として大幅に減収せざるを得なくなるだろう。
その他、車両関係で影響がありそうな業種としては、コーティングに代表される様なカーディテーリングとかカー用品店というのも壊滅しそうだ。人身事故での負傷者も減るから、主に整形外科を中心とする病院患者の減少、それとか駐車場業というのも大幅に減るが、一方ユーザー要求に備え、各地に新設される自動運転車用の車庫もしくは基地というべき施設が、各地に設営されることだろう。
ここでは、近年の交通事故の現状と、近年各車両メーカーがEV化と共に懸命に開発している自動ブレーキ(正しくは衝突被害軽減ブレーキ)などASV(先進安全車)が与える事故の減少効果を考察する目的で記してみたい。
なお、これら事故の減少は、社会としては望ましいことではあるが、一方事故に関係する商売を行っている業種というのも世にはあり、これら業種に将来的に起こしつつある影響などにも若干言及して見たい。
1.ここ10年の事故減少状況
まず、下記グラフがここ10年程の事故発生件数と死亡数をまとめたものである。ただし、ここでの事故件数は警察に届けた事故であり、警察に届けることなかった軽微な物損事故や、ちょいと塀に車体を擦ったと云う様な事故は含まれていない。また、警察の死亡統計は事故から24h以内に死亡した数で、実際にはもっと多いし、実のところ死亡はしなくとも重度後遺障害者(いわゆる植物状態など)数も含まれていない。
警察に届けとない細かい事故まで入れれば、実際のところこの数の何倍もの数が生じているのだろうが、何れにしてもその数と、今回の事故件数とか死亡者数は、何れも一定の相関することは理解してもらえるだろう。
なお、2020、2021年とそれ以前より急減しているが、これは新型コロナ蔓延による人流の減少が招いたものであることは疑う余地はないだろうう。2022年の統計は入っていないが、Gotoなどや巷道路を走行していて、コロナ以降ほとんど見ることなく2年を経過した観光バスの姿を、未だそれ以前のレベルで見掛ける様になって来た訳ではないものの、幾らか見る機会が増えてきたと云うことは、人流が復調の兆しにあることは確かだろう。しかし、インバウンドやホワイトカラー業種などのテレワーク業務から、今後完全に元に戻ることはないだろうと感じている。
2.整備白書が示すASVの事故減少効果
次に、これは従前のブログ記事でも示したものだが、日整連が毎年発行している整備白書の中で公表している、個別事業者当り整備入庫平均台数を集計したデータで、2020年と2021年の両年のデータを編集並記したものだ。
このデータで、注目してもらいたいのは、事故整備なのだが、台数を見てもピンとこないので、対前年減少率を注目してもらいたい。そして、集計は整備事業をディーラーとそれ以外に分けて集計されているだ、それぞれの下段に記された対前年比の減少率に注目したい。
まず、全事業所の平均としては、2020年が対前年-9.8%、2021年が対前年-9.6%とそれぞれ概略約10%減少していることである。そして、業態別にディーラーの同項目を見ると、2020年がー12.9%、2021年がー21.3%と全体平均の10%の倍ほども減少率が大きいことに注目しなければならないだろう。
この情報をどう読み解くかだが、私の意見は以下の通りだ。ディーラーの入庫平均車齢というのを一般工場と比べれば、比較的新しい車両がディーラーに入庫し、一般工場にはディーラー平均よりある程度旧年式車が入庫する傾向にあることは、この道40年の私ばかりでなく、車両関係の業種の方なら理解されるところだろう。
そういう中、現在販売されている新車のほとんどには、既にASV装置として衝突被害軽減ブレーキが装備(法整備としては2021年11月より適用実施だが、それ以前にほとんど装着)されていることである。つまり、すべてがこの衝突被害軽減ブレーキだけではないだろうが、他のASV機構とかも含め、相当数がこの新装置の効果が占めていると理解するところなのだ。
3.人口動向と保有台数の減少が予測されることについて
国民の高齢化が云われて久しいが、正直事故報道などを見ていても、事故分析者としてはあまりに偏向したと感じる「また高齢者が事故」なる報が多過ぎるとも感じるが、実際のところ国民の高齢化と共に高齢者事故数は増えているところは事実だろう。しかも、警察の免許更新では75才以上の免許更新に際し、認知症の検査とか、教習所での実技運転教習の義務化など、なるべく高齢者に車両の運転をさせない方向に促していることは事実だろう。
一方、日本の車両保有台数は現在82百万台だが、微減しつつある状況を示している。また、人口予測によると現在1億2千万の人口は、2060年(38年後)には40%弱減少し8千万人台になると予測されるという。また、2042年(20年後)には、75才以上の高齢者人口が約4千万に達しピークになると予測されている。
また、ASVの普及だが、私は何処でも何時でもレベル5の無人運転の実現はかなり困難とは見ているが、レベル4の条件限定(場所や走行速度)の無人運転車はできるし、既に一部実験走行が開始されていることを聞いている。もし、このレベル4で条件限定といれども無人走行まで可能な車両が一定台数普及すると、統治者はある程度の猶予期間とか年齢制限の複合条件を前提とするであろうが、道路を走る車両をこのレベル4条件限定付き車でなければ走行禁止とすべき道路交通法を改定してくる動きになろうと予測せざるを得ない。
そもそも、このレベル4条件付き無人運転車が普及する時代で、それなくしては道路を走行できなくなると仮定すれば、特別の富裕者でない限り車両を所有する価値はなくなると想像できる。スマホとかPCで車両を呼べば、レベル4無人運転車は低速で自宅前まで配車され、それに搭乗して電子運転免許証を提示すれば有人自動運転車として制限速度内での運転が、運転免許提示がない場合でも低速度だが目的地に無人運転で到達することができる。
目的地到着後は、特別駐車場を気にする必用もなく降車すると、無人運転車は勝手に車庫に帰って行く。この時代、自動車の保有台数は、おそらく現在の半分どころか、1/3程度にまで低下するのではないだろうか。このことは、道路を走行していれば、走るクルマより、駐車など保管状態にある車両の方が、よほど多い状況から当然の帰結となるだろう。
4.関連業種に与える効果
この人口減少、高齢者増大、そしてレベル4自動運転車普及の時代が訪れると、交通事故はよほど特殊な事案に限られることになり、ほとんど根絶された状態に至るだろう。この時代に至る以前に、自動車運転者の普及は、車両の作り方とか販売方法に大きな変化を起こすだろうと予測する。
その車両の作り方の変化とは、まず「操縦性」とか、「ステアフィーリング」とか、車両の操縦を楽しむと云う要素が車両メーカーに喪失することがある。つまり車両は十分な乗り心地と静粛性があれば十分となれば、車体の作り方などに大幅な合理化とか共通化というべき方向に行くことは間違いないところだろう。現代車で例えて見れば、タクシー仕様車などに共通する思想だろう。それと、いきなり一切の事故がなくなる訳でもないのだが、事故率が減少することになり、しかも個人が所有しないとなれば、個人が直すと云うより、ある程度の大規模工場で、リビルトするなりというまったく思想が異なる修理形態になりそうだと想像できるし、そもそも車検という制度の論議が改めてなされるだろう。
次に、自動車関連業種への影響だが、まずディーラーが車両販売とかの権益を失い、ディーラーという業種そのものがなくなる可能性がありそうだ。つまり、現在テスラが始めている様な、メーカーが直販する形態が一つの一過程として普及し、その後一般庶民は車両の保有を止めることになるので、メーカーがそれとも大規模リビルト&リサイクル協力工場が運営するのか、その様な大規模工場での車両の保有、管理、維持、リサイクルまでが行われる様になりそうだ。
この時代、自動車保険も大幅に収入保険料を落とさざるを得ないだろう。ただし、車両メーカーとか、大規模リビルト工場向けにPL保険は開発なされるだろうが、事故の実数が減るという事実は、保険料として大幅に減収せざるを得なくなるだろう。
その他、車両関係で影響がありそうな業種としては、コーティングに代表される様なカーディテーリングとかカー用品店というのも壊滅しそうだ。人身事故での負傷者も減るから、主に整形外科を中心とする病院患者の減少、それとか駐車場業というのも大幅に減るが、一方ユーザー要求に備え、各地に新設される自動運転車用の車庫もしくは基地というべき施設が、各地に設営されることだろう。