ふじあざみラインバス事故現場に立つ
この「ふじあざみラインバス事故」だが、2023/10/13に生じた、下り傾斜路を走行中に多頻度ブレーキの連続から、制動不能を生じ事故現場のカーブを旋回しれなくなり、旋回外側輪を盛り上がったスコリア(火山灰質土)の壁面に乗り上げ、右側に横転する事故で、右最前列乗客が死亡、その他3名ほどの負傷者が生じた事故だ。
この「ふじあざみライン」は事故後の冬期間は積雪および凍結のため閉鎖されており、実のところ3月頃に現地を訪問しようとした際も、未だ閉鎖中で諦めたという経緯がある。その後、先日の5月17日に再訪問を果たしたのだが、富士山5合目に至れる道路は、この他に表富士周遊道経由(静岡県側)と富士スバルライン(山梨県側)と合わせで3本あるが、この「ふじあざみライン」のみ無料通行で5合目に行けるという道だ。ただし、夏期期間中(7-8月)は、すべての5合目に至る道路は、バスとかタクシー以外の一般車は入場不可能となる。
今回は、登坂前はそこそこ好天であったが、事故現場に付く頃には、小雨が降り出しその後雨足は強くなって来た。つまり標高が高いので、雨雲に覆われる状態になったのだろう。だいたい、私は沼津住まいで富士山は沼津も含め伊豆の各地から見ることができるが、概ね午前中は見えることが多いが、午後になると雲に隠れることが多い。それだけ、標高の高い位置にあるのが事故現場ということになる。
さて、事故現場に至る富士あざみラインを登り出したが、前方に2台の大型ダンプがゆっくり登坂しているが、そもそも積車状態の大型車だと、この登坂路の急傾斜だと、いいとこ20-30km/h程度、ギヤ段だと2速か3速での登坂がやっとだろう。頂上(5合目)まで行くつもりもなく、追い越しても途中で路側に止めて事故現場の状況を分析するのが目的なので、しばし停車しつつ、あえて間を開けて再出発した。
ところで、この「ふじあざみらいん」だが入口から3キロほどはほぼ直線路だが、それでも傾斜は結構キツく帰りに直線路でDレンジのままアクセルオフしていてもみるみる加速し、そのままでは100キロを越える越える程にまで至るほどの傾斜のキツさだ。それが、入口から3キロを越えた辺りから左右につづら折れのワインディング路になり、幾らか傾斜を緩めているという状態なのだが、驚くのだがその左右のワイディング路に、センターラインをまたいで幾筋ものドリフト痕があることで、中にはカーブ頂点で一直線に路外へ向いている制動痕まである。つまり、こんな急傾斜路を下りで左右に流す運転はまずできないだろうから、上りでおそらくFR車の2速辺りを使用して、40-50キロの速度で、パワードリフトさせて遊んでいる者が夜間にいるのだろう。思い起こせば、30年程以前の箱根山の三島から箱根峠に至る道で、週末夜間の事故で損傷した事故車を、週明けに立会する場面が多かったのだが、この事故を起こした小僧共に同情する思いはいささかもなかったが、気の毒なのは、巻き込まれた一般車の被害も多かったことだった。
事故現場は、事故直後のブログ記事を記すためにGoogleMAPでこの位置だと認識していたこともあり、即座に判りその手前の道路左脇が空いている場所に停車し、歩行しつつ周辺を観察して見た。この場所は、左右の森林が途切れ、富士山の富士宮側に大沢崩れという場所があるが、あれほど凄くはないが、絶えずスコリア土がむき出しになり、道を横断して上方から下方へ崩れ流れている様な地形だ。GoogleMAPには写っていないが、比較的近年大土木工事して構築したと見える、土石ダムが、道の左右にあり、下方の方は今でもそれに関連した土木工事が行われている様で、ブルトーザーなどの土木機械の動いている様子が見える。
それと、該当事故場所のカーブ前半は左右が森林で路面はアスファルトだが、カーブ後半から幾らかの直線部分、つまり左右に森林がなくスコリア土が広がる地の路面は、多分路盤を強固にする目的で、コンクリート路面で、内部に鉄筋も入れられ、スコリヤ流動で道路が損壊しないようになされている様だ。
該当カーブの曲率は、マップ上からカーブ接線からの垂線の交わる半径を読み取ると、カーブ曲率半径は約50m(R50)と計測できる。ただし、これはカーブ最外側での半径で、一般的なカーブ曲率の呼びは道路中央での呼称だろうから、ここから3m程は小さくなる。また、目視ではあるが、該当カーブは一定なのかの保障はないが、下る方向から見て右カーブだが、カーブ外側が高く内側が低い、カントもしくはバンクがある程度付けられている様だ。ご存じの通り、車両メーカーの高速試験場などもそうだが、カーブ路において、バンクを設計することにより、同じ旋回半径であっても、バンク角により通過可能速度の限界は上がる。
一方、本件事故の原因となったのかは不明だが、現地は下り勾配の右カーブの旋回を終わり直線路に入るあたりでいったん沈み込みその後に持ち上がるような路面の起伏がある。つまり、車体の動きで表すと、沈み込んだ部位でサスペンションは圧縮されるが、その後の持ち上がる部位で車体は上向きに浮き上がる様な動きとなり、サスペンションは伸びきり、極端な場合は車体が浮き上がる様な動きをするだろう。すなわち、タイヤの接地加重が急変する訳で、これがカーブの途中であれば、摩擦係数が急変したに等しい効果を生じることが判る。
本事故は、事故後の報道をウォッチし続けていたが、記憶によると下り坂の多頻度ブレーキ操作によるフェード現象により、事故車は制動不能となり、最終事故地点では90km/hを越える速度に至っていたと聞く。この速度は、営業車に装着が義務付けられているタコグラフ(運行記録計)から読み取った値だろう。
本件事故現場のカーブだが、現地計測も困難なこともあり、GoogleMAP上からカーブ円弧の接線からの垂線の交差点を旋回半径としてPC上で読み取ると、旋回半径はほぼ50m(R50)と読み取れる。そこで、別添資料として付した科捜研編集出版の工学的検査法の旋回速度の項をから、限界速度を計算してみた。この場合、パラメータとしては、速度、旋回半径、路面とタイヤの横摩擦係数が相当する。すなわち、V(速度)>√μ・g・R μ:摩擦係数 g:重量加速度 R:旋回半径と云うことで、√μgRを越える速度V以上では、カーブ外に車両は逸脱してしまうことが判る。従って、μ値を0.7と0.8の場合で、限界速度を以下の通り計算してみた。
・μ=0.7の場合 √0.7*9.8*50=18.5m/sec →時速に換算 18.5*3.6=66.6km/h
・μ=0.8の場合 √0.8*9.8*50=19.8m/sec →時速に換算 19.8*3.6=71.2km/h
と云うことで、μを高めの0.8と仮定しても、現車の速度が90km/hだとすれば、限界速度を26%超える速度であり到底旋回しきれないことが判る。
なお、この事故を知る方には、例えエンジンがオーバーレブして損壊しようが、ムリヤリシフトダウンできなかったのかと云う意見もあるのかもしれない。ところが、バスの場合通称フェンガーシフトと呼んでいるが、シフトレバーは単なるスイッチボックスであり、TMとは一切の機械的結合はされていなく、そのシフトダウンがエンジンオーバーレブを起こす場合は、一切実シフトフォークの駆動はなされないのだ。これが大型トラックであれば、エアシフトとして空気力の助成によりシフト操作力を軽減しているが、機械的接続はなされているので、ムリすれば入る可能性はある。あくまでMTの場合でAMTだと、バスのフィンガーと同様だ。
もう一つ、サイドブレーキは何の効果もなかったのかと云う疑問を持つ方もいるだろう。これなのだが、一昔前(2000年頃)までは、サイドブレーキはTM後端に装着される通称センターブレーキと呼称されるまったく別系統のブレーキだったので、本体ブレーキがフェードしても、ブレーキ能力として劣るが別系統のサイドブレーキは効果があったろう。しかし、現在は、あえてサイドブレーキの拘束効果を高める目的で、ホイールパークブレーキとかスプリングブレーキとも称されるが、メインの後軸ブレーキを極力スプリングで抑え込む方式に変更されているのだ。従って、メインブレーキそのものが、フェードを生じてしまたったら、サイドブレーキはまったく制動効果を失うことになる。
この「ふじあざみラインバス事故」だが、2023/10/13に生じた、下り傾斜路を走行中に多頻度ブレーキの連続から、制動不能を生じ事故現場のカーブを旋回しれなくなり、旋回外側輪を盛り上がったスコリア(火山灰質土)の壁面に乗り上げ、右側に横転する事故で、右最前列乗客が死亡、その他3名ほどの負傷者が生じた事故だ。
この「ふじあざみライン」は事故後の冬期間は積雪および凍結のため閉鎖されており、実のところ3月頃に現地を訪問しようとした際も、未だ閉鎖中で諦めたという経緯がある。その後、先日の5月17日に再訪問を果たしたのだが、富士山5合目に至れる道路は、この他に表富士周遊道経由(静岡県側)と富士スバルライン(山梨県側)と合わせで3本あるが、この「ふじあざみライン」のみ無料通行で5合目に行けるという道だ。ただし、夏期期間中(7-8月)は、すべての5合目に至る道路は、バスとかタクシー以外の一般車は入場不可能となる。
今回は、登坂前はそこそこ好天であったが、事故現場に付く頃には、小雨が降り出しその後雨足は強くなって来た。つまり標高が高いので、雨雲に覆われる状態になったのだろう。だいたい、私は沼津住まいで富士山は沼津も含め伊豆の各地から見ることができるが、概ね午前中は見えることが多いが、午後になると雲に隠れることが多い。それだけ、標高の高い位置にあるのが事故現場ということになる。
さて、事故現場に至る富士あざみラインを登り出したが、前方に2台の大型ダンプがゆっくり登坂しているが、そもそも積車状態の大型車だと、この登坂路の急傾斜だと、いいとこ20-30km/h程度、ギヤ段だと2速か3速での登坂がやっとだろう。頂上(5合目)まで行くつもりもなく、追い越しても途中で路側に止めて事故現場の状況を分析するのが目的なので、しばし停車しつつ、あえて間を開けて再出発した。
ところで、この「ふじあざみらいん」だが入口から3キロほどはほぼ直線路だが、それでも傾斜は結構キツく帰りに直線路でDレンジのままアクセルオフしていてもみるみる加速し、そのままでは100キロを越える越える程にまで至るほどの傾斜のキツさだ。それが、入口から3キロを越えた辺りから左右につづら折れのワインディング路になり、幾らか傾斜を緩めているという状態なのだが、驚くのだがその左右のワイディング路に、センターラインをまたいで幾筋ものドリフト痕があることで、中にはカーブ頂点で一直線に路外へ向いている制動痕まである。つまり、こんな急傾斜路を下りで左右に流す運転はまずできないだろうから、上りでおそらくFR車の2速辺りを使用して、40-50キロの速度で、パワードリフトさせて遊んでいる者が夜間にいるのだろう。思い起こせば、30年程以前の箱根山の三島から箱根峠に至る道で、週末夜間の事故で損傷した事故車を、週明けに立会する場面が多かったのだが、この事故を起こした小僧共に同情する思いはいささかもなかったが、気の毒なのは、巻き込まれた一般車の被害も多かったことだった。
事故現場は、事故直後のブログ記事を記すためにGoogleMAPでこの位置だと認識していたこともあり、即座に判りその手前の道路左脇が空いている場所に停車し、歩行しつつ周辺を観察して見た。この場所は、左右の森林が途切れ、富士山の富士宮側に大沢崩れという場所があるが、あれほど凄くはないが、絶えずスコリア土がむき出しになり、道を横断して上方から下方へ崩れ流れている様な地形だ。GoogleMAPには写っていないが、比較的近年大土木工事して構築したと見える、土石ダムが、道の左右にあり、下方の方は今でもそれに関連した土木工事が行われている様で、ブルトーザーなどの土木機械の動いている様子が見える。
それと、該当事故場所のカーブ前半は左右が森林で路面はアスファルトだが、カーブ後半から幾らかの直線部分、つまり左右に森林がなくスコリア土が広がる地の路面は、多分路盤を強固にする目的で、コンクリート路面で、内部に鉄筋も入れられ、スコリヤ流動で道路が損壊しないようになされている様だ。
該当カーブの曲率は、マップ上からカーブ接線からの垂線の交わる半径を読み取ると、カーブ曲率半径は約50m(R50)と計測できる。ただし、これはカーブ最外側での半径で、一般的なカーブ曲率の呼びは道路中央での呼称だろうから、ここから3m程は小さくなる。また、目視ではあるが、該当カーブは一定なのかの保障はないが、下る方向から見て右カーブだが、カーブ外側が高く内側が低い、カントもしくはバンクがある程度付けられている様だ。ご存じの通り、車両メーカーの高速試験場などもそうだが、カーブ路において、バンクを設計することにより、同じ旋回半径であっても、バンク角により通過可能速度の限界は上がる。
一方、本件事故の原因となったのかは不明だが、現地は下り勾配の右カーブの旋回を終わり直線路に入るあたりでいったん沈み込みその後に持ち上がるような路面の起伏がある。つまり、車体の動きで表すと、沈み込んだ部位でサスペンションは圧縮されるが、その後の持ち上がる部位で車体は上向きに浮き上がる様な動きとなり、サスペンションは伸びきり、極端な場合は車体が浮き上がる様な動きをするだろう。すなわち、タイヤの接地加重が急変する訳で、これがカーブの途中であれば、摩擦係数が急変したに等しい効果を生じることが判る。
本事故は、事故後の報道をウォッチし続けていたが、記憶によると下り坂の多頻度ブレーキ操作によるフェード現象により、事故車は制動不能となり、最終事故地点では90km/hを越える速度に至っていたと聞く。この速度は、営業車に装着が義務付けられているタコグラフ(運行記録計)から読み取った値だろう。
本件事故現場のカーブだが、現地計測も困難なこともあり、GoogleMAP上からカーブ円弧の接線からの垂線の交差点を旋回半径としてPC上で読み取ると、旋回半径はほぼ50m(R50)と読み取れる。そこで、別添資料として付した科捜研編集出版の工学的検査法の旋回速度の項をから、限界速度を計算してみた。この場合、パラメータとしては、速度、旋回半径、路面とタイヤの横摩擦係数が相当する。すなわち、V(速度)>√μ・g・R μ:摩擦係数 g:重量加速度 R:旋回半径と云うことで、√μgRを越える速度V以上では、カーブ外に車両は逸脱してしまうことが判る。従って、μ値を0.7と0.8の場合で、限界速度を以下の通り計算してみた。
・μ=0.7の場合 √0.7*9.8*50=18.5m/sec →時速に換算 18.5*3.6=66.6km/h
・μ=0.8の場合 √0.8*9.8*50=19.8m/sec →時速に換算 19.8*3.6=71.2km/h
と云うことで、μを高めの0.8と仮定しても、現車の速度が90km/hだとすれば、限界速度を26%超える速度であり到底旋回しきれないことが判る。
なお、この事故を知る方には、例えエンジンがオーバーレブして損壊しようが、ムリヤリシフトダウンできなかったのかと云う意見もあるのかもしれない。ところが、バスの場合通称フェンガーシフトと呼んでいるが、シフトレバーは単なるスイッチボックスであり、TMとは一切の機械的結合はされていなく、そのシフトダウンがエンジンオーバーレブを起こす場合は、一切実シフトフォークの駆動はなされないのだ。これが大型トラックであれば、エアシフトとして空気力の助成によりシフト操作力を軽減しているが、機械的接続はなされているので、ムリすれば入る可能性はある。あくまでMTの場合でAMTだと、バスのフィンガーと同様だ。
もう一つ、サイドブレーキは何の効果もなかったのかと云う疑問を持つ方もいるだろう。これなのだが、一昔前(2000年頃)までは、サイドブレーキはTM後端に装着される通称センターブレーキと呼称されるまったく別系統のブレーキだったので、本体ブレーキがフェードしても、ブレーキ能力として劣るが別系統のサイドブレーキは効果があったろう。しかし、現在は、あえてサイドブレーキの拘束効果を高める目的で、ホイールパークブレーキとかスプリングブレーキとも称されるが、メインの後軸ブレーキを極力スプリングで抑え込む方式に変更されているのだ。従って、メインブレーキそのものが、フェードを生じてしまたったら、サイドブレーキはまったく制動効果を失うことになる。