私の思いと技術的覚え書き

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BMW i3 事故車のこと

2015-07-25 | 技術系情報
 BMW i3 であるが、あくまでも個人的主観ですが、クルマそのもについてはまったく魅力を感じるものではありません。ただ電気自動車であるのは驚くべきことでもないが、ボデー関係のエンジニアリングには感心を持つクルマだという思いがあります。

 そのボデーエンジニアリングの根幹ですが、モノコックシェルにカーボンファイバーの一体成形(といっても中空部を含め一体で成形できるはずもなく、パートパーツの成型品を接着し一体化してるのでしょう)を使用しているが、従来数千万円以上の極少量生産ハイエンド・スーパーカーしか採用できなかったものを、400万円台の量販車に採用したということからです。

 炭素繊維複合材(CFRP)の生産技術ですが、オートクレーブ方式と云われる従来工法は、長尺炭素繊維をエポキシ樹脂に含浸させたプリプレグと呼ばれるシートを、型に積層(手作業)し、真空引き(内部気泡の除去)後、オートクレーブで長時間の高温高圧で焼き上げるものです。これを製造単価低減を主目的として、短工数で量産しようとRTMという工法が採用されたと聞きます。RTMとは、素人が説明できる内容としては、上下金型で炭素長尺繊維を包み込み、そこに樹脂を流し込んで、そのまま加温し硬化させるというものです。金型など初期投資は大きくなりますが、10分程度の短工数で寸法精度の高い製品が量産できるというところが大きな利点となります。RTM製品は、強度的にはオートクレーブ方式より若干見劣りする部分もある様ですが、元々炭素繊維の比強度は鋼の10倍以上も大きい訳ですから、アルミ基材と比べても軽くて強いボデーが作れるという訳です。

 さて、製品はできるが、それを走らせるというリアルワールドな話となると、衝突による損傷で修理が出来るのかということが問題になってきます。結論から云うと、まず表面的な極浅いキズ程度のものなら可能でしょうが、深い亀裂や割損など、メーカーでは禁じているはずです。これは、アルミ基材でも、ダイキャスト部分とか、引き抜き(もしくは押し出し)材部分は、クラックや変形の修理をメーカーでは禁じています。これらは、設計強度の復元が保証できないということからでしょう。

 BMW i3 について、そんな感心を持っていましたが、最近のこと複数の事故車ネットオークションの業社で、該当車の販売がされていました。どちらも、それなりに損傷は大きく、フロント部分のアルミサブフレームは当然交換が必用になりますが、これはボルトで装着される部品なので問題ないでしょう。問題は、その後方にあるモノコックシェル本体の、サブフレームとの取付ボス部位とか、ドアが取り付くフロントピラー下部付近のクラックがどうかということです。写真では、直接のクラックまでは判りませんが、従来のGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)が、一見して外見の形状は保ちつつも、かなり広い範囲にクラックが拡散しているのを何度か見ています。表面上は極細かいキズに見えても、深く浸透したクラックであった場合、大幅に強度は低下するでしょうし、小さなクラックでも繰り返しの応力集中によりクラックは成長して行くことでしょう。

 写真のクルマは、想像ですが保険事故全損と判断されたと思われます。それを幾らの値が付くか知りませんが、表面上のキズとして修正しペイントされたとすれば、外観上は判別することは不可能でしょう。しかし、そのクルマの使用過程において、クラックは成長しつつ、破断の時を迎えるのだとしたら怖いことだとも思えます。



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