どこにいったの?
温泉で。
げた箱で、うろうろしています。
何しているんだう?
こっちに入ってくればいいのに。
見ていると、気付いた温泉の男性が、
「どうなさいました?長靴、ロッカーにお入れしましょうか?」
と長靴を持ち上げています。もう、入れそうです。もう片方の手がロッカーのカギに手がかかっています。
近寄って、
(「いいですよ」って断るのも、なんだから)
「はい、お願いします」
と頼みます。
「これで間違いないですよね」
ん?たぶん、躊躇します。脱いだ後の行動を見ていなかったので。
「たぶん、そうだと思いますが」
なんとも頼りない返事です。
「では、どうぞ」
温泉のひとが、長靴をロッカーに入れて、鍵を閉めます。
あ、入れちゃったな。本当に。入れる必要もないと思うけど。カギ、どうしようか。
職員さんがキーを本人(兄)に渡します。
「ありがとうございます」
風呂から上げって。
何と早い。カラスの行水です。
今日は、1回、湯船につかっただけで、上がってしまいました。
なんて、早いんだろう!?
今日のお帰りです。
げた箱で。
ロッカーのカギをあけて、長靴を取りだすと、
「あ、それ、私の長靴じゃないですか」
とひとりの男性が、足早に近づいてきます。
「え?」
もしかして、やっぱり、こんなことがあるんだ。
ロッカーに長靴をしまわれるとき、なんか、いやな予感がしていたのです。
「私の長靴、こちらの長靴のひとが、間違って履いて行ったのかと思って見ていたんです」
もう1足、長靴があります。黒いものです。中が黄緑っぽいものです。
「新品ですか?」
兄が尋ねます。
「はい、買ったばかりです」
ぱっぱり、やっちゃったよ。間違えたんだ。
そっくりです。黒い長靴。中がブルーです。
よくみると、長靴のかかとのところに、ベージュ色の靴のサイズが記されたシールっぽいものが見えます。
即、私もげた箱へ行って、棚をくまなく調べます。
ありました。それらしい長靴が。
兄に、
「これ、お兄さんの長靴じゃない?出してみてぇ」
「あ、んだ。俺のだ」
「申し訳ありません。間違ってしまいました」
兄も、
「申し訳ありません」
「ちょうど、よかった!いて下さって」
「そうですね。見つかってよかったです」
ロッカーから出したばっかりの長靴です。
持ち主が間髪いれず、言って(指摘して)くれてよかったです。
受付に行って、
「あのう、今日入るとき、若い男の職員さんに、長靴、ロッカーに入れてもらいましたが、
間違いでした。ほかの人のものでした。いつも入れていないので、入れないほうがいいかも」
「あらぁ、そうでしたか。余計なことして申し訳ありません。言っておきますから」
「こちらこそ、申し訳ありません。わたしも見て(脱いでからどうしたか)いれば、良かったんですが、良く見てなかった
ものですから」
翌日、大晦日です。
「あ、昨日のこと、言っておきました」
昨日の女性職員さんです
「はい、すみません。ありがとうございます」
帰りに、
あ、いる、本人です(昨日長靴をしまって頂いた男性職員さん)。
「あ、昨日は申し訳ありませんでした」
「いいえ、こちらこそ、見てなくて悪かったです」
小声で
「ちょっと、兄、物忘れ、認知症入っていますから」
「あのですね。それであれば、何か目印になるものを付けると、いいですよ」
「ん?」
「たとえば、赤い紐とか。洗濯バサミ。ちょっと大きめのやつ。そうすれば、すぐ、わかります」
「そうですね」
と答えながら
何?そこまでしなくともいいじゃん!と思ってしまいます。私が確認してから入れば大丈夫です。
と思ってしまいます。
職員さん、一生懸命、説明を続けています。
言い終えたみたい、と、即、
「わかりました。そうすると、いいかもしれませんね」
「うん、そうされたほうがいいですよ」
職員さん、申し訳ない、面従復背(表面上は同意しましたが、腹の中では、そうではありません。)です。
明日からも、そんなことはしません。
そのかわり、良く見ておこう、と思ったのでした。