1. はじめに
地域医療を支援する病院では、外来・救急・入院・コンサルト場面での幅広い診療能力が必要となります。今回は、研修医のための内科診療の原則について述べます。(以下敬称略)
2. 医療面接medical interview
医療面接medical interviewに必要な基本的スキルを身に付けて問診historyまたは病歴聴取history takingを行う。適切な患者医師関係を構築できるように努める。そのためには、医療面接は原則として開放型質問open-ended questionから開始し、患者への共感empathyと適切な非言語的コミュニケーションnon-verbal communicationの使用を心がける。
3. 主訴chief complaintと現病歴history of present illness
主訴には「時間的情報」も加える。例えば「7日前からの発熱・頭痛」などのように記載する。時間的情報を付加することにより効率的な鑑別診断のスタートを切ることができる。現病歴を記載(またはプレゼンテーション)する場合、経過時間を示すため、来院からさかのぼっていつから始まったかを示す。例として、「来院日の7日前から発熱・頭痛があり、3日前から発疹が出現し、前日から食欲不振あり」などのように記載する。
4. 包括的病歴聴取
主訴、現病歴に加えて、包括的な病歴聴取には、既往歴(内科的疾患、手術、外傷、内服薬、アレルギー歴)、社会生活歴(喫煙歴、飲酒歴、必要に応じて性生活歴)、家族歴が含まれる。重要な慢性疾患(糖尿病、心肺疾患)の情報は現病歴に加える。女性では月経歴(最終月経がいつからいつまであったか)と妊娠可能性も聴取する。高齢者では、日常生活活動activity of daily living (ADL)レベルを確認する。高齢者ではまた、多数の内服薬polymedicationを服用している場合があり、副作用の頻度が高いので注意する。
5. 鑑別診断differential diagnosis
効率的な鑑別診断のために各論症候学symptomatologyの視点から問診を行う。そのためには、閉じた質問closed questionを加え、重要な症状の有無を確認する。鑑別診断に挙がった疾患を能動的に絞り込むために、重要な症状のうち患者が有するものimportant (pertinent) positiveと、重要な症状のうち患者が有しないものimportant (pertinent) negativeも聴取する。見落としてはならない重篤な疾患do-not-miss diagnosisの可能性にはつねに注意を払う。症候学には多くの臨床的英知clinical pearlsがあり、これらを多く身につけると、効率的な鑑別診断に役立つ。
6. 系統的レビューReview of Systems (ROS)
症候学symptomatologyの視点からの問診を終えたあとは、系統的レビューの問診を行う。系統的レビューは問診を補完するためのチェックリストである。患者の訴えには含まれていなかった問題点を拾い上げることができる。
7. 問題リストproblem list
総合診療外来には、医学的にも心理社会的にも単純に解決できない問題を抱えて受診する患者が多い。訴えを整理して問題リストを作成し、急いで対応すべき問題と時間をかけて対応してもよい問題に分ける。外来の時間制約も考慮しながら、数回に分けて対応可能な問題かどうかも見分ける。
8. 身体診察physical examination
バイタルサインの評価と全身状態general appearanceの把握は必須である。系統的な診察により、基本的な所見はできるだけもれなく診察する。身体診察は仮説演繹的アプローチhypothesis deductive approachに基づいて行う。病歴から得た情報からフィットする診断モデルを想定し、確認すべき所見を前もって想定し能動的に身体所見を取る。例えば、病歴聴取より、発作性夜間呼吸困難paroxysmal nocturnal dyspnea (PND)と起座呼吸orthopneaから心不全を想定したとき、確認すべき身体所見は静脈圧上昇、S3ギャロップ、心尖拍動の左側移動、クラックル音(非連続性呼吸複雑音discontinuous adventitious soundの一種)、浮腫の有無などである。全例で必須ではないが、腹部症状を訴える患者や消化管出血を疑う患者などでは直腸診rectal examinationは必須である。
9. ショパンの法則Rule of Chopin
最近「エビデンスに基づく身体診察」を強く支持する意見もあるが、これにより身体診察熟練者の能力を軽視する危険性がある。エビデンス(ある所見の感度・特異度)を生成した臨床研究の多くが非熟練者によって行われたデータであることが多いため、ある診察法の難易度が高いと一般の医師が実施困難なためにエビデンスが低い所見とされる恐れがある。音楽に例えると、ショパンの曲の演奏は難易度が高いとされといるが、実際にショパンの曲を演奏できる音楽家は多数いるのである(ショパンの法則Rule of Chopin:Joseph D. Sapiraよりpersonal communication)。また、感度・特異度は患者背景で異なる。発症からの時間経過、高齢者、精神疾患、内服薬の影響などで所見が変化することが多い。臨床研究から得られた患者背景に一致する症例を診ることは以外に少ない。
10. 検査と治療の適応
病歴と身体診察により検査前確率pretest probabilityを想定する。検査前確率が治療閾値treatment thresholdを超えているときには検査を行わずに治療を行う。逆に、検査前確率が検査閾値test threshold未満であれば検査を行わずにその診断モデルを棄却する。検査前確率が検査閾値と治療閾値の間にある場合、検査を行って検査後確率posttest probabilityを求める。検査によって尤度比likelihood ratioが異なるので注意を要する。
11. 問題指向方式Problem-oriented System (POS)
診断から治療までの一連の流れを問題指向方式に基づいて記録するProblem-oriented Medical Record (POMR)。この方式は4つの主要項目からなる。Subjective (S) , Objective (O), Assessment (A), Plan (P)である。Assessmentには問題リスト別にアセスメントを記載する。問題リストのすべての項目にアセスメントを記載すべきである。Planには、診断検査プランdiagnostic plan、治療プランtreatment plan、患者教育プランeducational planを含める。アセスメントのすべての項目にプランを記載すべきである。
次ブログに続く・・・
地域医療を支援する病院では、外来・救急・入院・コンサルト場面での幅広い診療能力が必要となります。今回は、研修医のための内科診療の原則について述べます。(以下敬称略)
2. 医療面接medical interview
医療面接medical interviewに必要な基本的スキルを身に付けて問診historyまたは病歴聴取history takingを行う。適切な患者医師関係を構築できるように努める。そのためには、医療面接は原則として開放型質問open-ended questionから開始し、患者への共感empathyと適切な非言語的コミュニケーションnon-verbal communicationの使用を心がける。
3. 主訴chief complaintと現病歴history of present illness
主訴には「時間的情報」も加える。例えば「7日前からの発熱・頭痛」などのように記載する。時間的情報を付加することにより効率的な鑑別診断のスタートを切ることができる。現病歴を記載(またはプレゼンテーション)する場合、経過時間を示すため、来院からさかのぼっていつから始まったかを示す。例として、「来院日の7日前から発熱・頭痛があり、3日前から発疹が出現し、前日から食欲不振あり」などのように記載する。
4. 包括的病歴聴取
主訴、現病歴に加えて、包括的な病歴聴取には、既往歴(内科的疾患、手術、外傷、内服薬、アレルギー歴)、社会生活歴(喫煙歴、飲酒歴、必要に応じて性生活歴)、家族歴が含まれる。重要な慢性疾患(糖尿病、心肺疾患)の情報は現病歴に加える。女性では月経歴(最終月経がいつからいつまであったか)と妊娠可能性も聴取する。高齢者では、日常生活活動activity of daily living (ADL)レベルを確認する。高齢者ではまた、多数の内服薬polymedicationを服用している場合があり、副作用の頻度が高いので注意する。
5. 鑑別診断differential diagnosis
効率的な鑑別診断のために各論症候学symptomatologyの視点から問診を行う。そのためには、閉じた質問closed questionを加え、重要な症状の有無を確認する。鑑別診断に挙がった疾患を能動的に絞り込むために、重要な症状のうち患者が有するものimportant (pertinent) positiveと、重要な症状のうち患者が有しないものimportant (pertinent) negativeも聴取する。見落としてはならない重篤な疾患do-not-miss diagnosisの可能性にはつねに注意を払う。症候学には多くの臨床的英知clinical pearlsがあり、これらを多く身につけると、効率的な鑑別診断に役立つ。
6. 系統的レビューReview of Systems (ROS)
症候学symptomatologyの視点からの問診を終えたあとは、系統的レビューの問診を行う。系統的レビューは問診を補完するためのチェックリストである。患者の訴えには含まれていなかった問題点を拾い上げることができる。
7. 問題リストproblem list
総合診療外来には、医学的にも心理社会的にも単純に解決できない問題を抱えて受診する患者が多い。訴えを整理して問題リストを作成し、急いで対応すべき問題と時間をかけて対応してもよい問題に分ける。外来の時間制約も考慮しながら、数回に分けて対応可能な問題かどうかも見分ける。
8. 身体診察physical examination
バイタルサインの評価と全身状態general appearanceの把握は必須である。系統的な診察により、基本的な所見はできるだけもれなく診察する。身体診察は仮説演繹的アプローチhypothesis deductive approachに基づいて行う。病歴から得た情報からフィットする診断モデルを想定し、確認すべき所見を前もって想定し能動的に身体所見を取る。例えば、病歴聴取より、発作性夜間呼吸困難paroxysmal nocturnal dyspnea (PND)と起座呼吸orthopneaから心不全を想定したとき、確認すべき身体所見は静脈圧上昇、S3ギャロップ、心尖拍動の左側移動、クラックル音(非連続性呼吸複雑音discontinuous adventitious soundの一種)、浮腫の有無などである。全例で必須ではないが、腹部症状を訴える患者や消化管出血を疑う患者などでは直腸診rectal examinationは必須である。
9. ショパンの法則Rule of Chopin
最近「エビデンスに基づく身体診察」を強く支持する意見もあるが、これにより身体診察熟練者の能力を軽視する危険性がある。エビデンス(ある所見の感度・特異度)を生成した臨床研究の多くが非熟練者によって行われたデータであることが多いため、ある診察法の難易度が高いと一般の医師が実施困難なためにエビデンスが低い所見とされる恐れがある。音楽に例えると、ショパンの曲の演奏は難易度が高いとされといるが、実際にショパンの曲を演奏できる音楽家は多数いるのである(ショパンの法則Rule of Chopin:Joseph D. Sapiraよりpersonal communication)。また、感度・特異度は患者背景で異なる。発症からの時間経過、高齢者、精神疾患、内服薬の影響などで所見が変化することが多い。臨床研究から得られた患者背景に一致する症例を診ることは以外に少ない。
10. 検査と治療の適応
病歴と身体診察により検査前確率pretest probabilityを想定する。検査前確率が治療閾値treatment thresholdを超えているときには検査を行わずに治療を行う。逆に、検査前確率が検査閾値test threshold未満であれば検査を行わずにその診断モデルを棄却する。検査前確率が検査閾値と治療閾値の間にある場合、検査を行って検査後確率posttest probabilityを求める。検査によって尤度比likelihood ratioが異なるので注意を要する。
11. 問題指向方式Problem-oriented System (POS)
診断から治療までの一連の流れを問題指向方式に基づいて記録するProblem-oriented Medical Record (POMR)。この方式は4つの主要項目からなる。Subjective (S) , Objective (O), Assessment (A), Plan (P)である。Assessmentには問題リスト別にアセスメントを記載する。問題リストのすべての項目にアセスメントを記載すべきである。Planには、診断検査プランdiagnostic plan、治療プランtreatment plan、患者教育プランeducational planを含める。アセスメントのすべての項目にプランを記載すべきである。
次ブログに続く・・・