社会経済的状況と地域住民の健康についての、エバンスらの説については前にありますが、最近の日本は、人々の社会経済的な格差が広がり、不平等社会になっているといわれます。 そして、「不平等社会日本」「下流社会」「ワーキング・プア」などの用語が頻用されています。
実際、日本における調査でも、やはり経済的水準が低い地域で、脳卒中や外傷、そして自殺などによる死亡が、経済的水準が高い地域と比べて高くなっていることがわかりました。 都市部における研究では、貧困地域ほど、がんの罹患率やがんの死亡率が高くなっています。 地域ごとの平均寿命を比較した研究でも、一人暮らしの高齢者が多い地域や、離婚率が高い地域、あるいは経済的水準が低い地域で平均寿命が短くなっています。 また最近の研究では、不平等社会そのものが、人口全体の平均的な心身の健康状態を低下させる要因であることがわかってきました。
経済的貧困や社会的階級格差はどのように人々の健康状態を決定するのでしょうか。 一例として、世界各国において、貧困層の人々は喫煙率が高いことが指摘されています。 低所得者層における高い喫煙率は、さまざまな疫学的調査により明らかですが、その要因としては次の項目があげられています。
・ストレスが多い→喫煙によりストレスを解消する
・経済的余裕が少ない→比較的安価なタバコは入手しやすい
・周囲に喫煙者が多い→喫煙で人間関係を強化している
・近所にタバコの自動販売機がある→いつでもタバコは購入できる
一方、これらの喫煙促進要因に対する政策の例としては、次のような項目があります。
・安価なタバコに対して→ニコチン振替療法も安価で提供する
・喫煙を奨励する社会に対して→禁煙を奨励する社会とする
・タバコが購入しやすい環境に対して→タバコの自動販売機の禁止
最初の「沖縄パラドックス」で示されるように、経済状況が厳しくても沖縄県民の健康状態はこれまで良好でした。これは、沖縄の伝統的な食生活や地域社会の助け合いなどがあったからです。 近年これらが徐々に薄れていくなかで、とくに自殺が増加している点は、沖縄の厳しい経済状況が影響していることが考えられます。 「貧困」を減らし、「社会の階級化」「機会の不平等」を減らすことは、これからの国民全体の健康のためにも重要になると考えます。