健康長寿のためのライフスタイルについて考えるシリーズですが、今回は、ポピュレーション戦略について考えていきましょう。 ポピュレーション戦略は、イギリスのジェフリー・ローズが提唱した概念で、大切な論点としては、「ある人が病気になるのは本人の自己責任なのか、あるいは社会環境全体にも一定の責任があるのか」という点です。
これまでの古い概念では、「健康人と病人との境界線は明瞭である」とされ、この境界線により、病気(危険因子)のある病人にのみ焦点を絞り、治療や予防的介入がなされ健康といわれる大多数の人々には責任はないとされていました。
それに対してポピュレーション戦略は、社会全体に対しての予防的対策を導入することで、社会全体として人々の健康を改善するという戦略です。 リスクの高い個人を直接ターゲットにするハイリスク戦略に対して、集団全体にかかるリスクを低い方へ誘導する戦略といえます。
すなわち、社会に属するすべての人々を対象として、ゼロ次予防としての対策を実行していくものです。 例として、すべての加工食品で塩分や脂肪含有量を制限する、公共の場での全面禁煙、そして自動車使用を制限する政策、などがあげられます。
旧石器時代の人類の塩分摂取量は一日あたり1.5g程度だったといいます。 現在の日本人の食塩摂取は約11gであり、1980年代後半に低下しましたが最近また上昇しています。 これは最近のレトルト食品の普及などが要因といわれています。一人の高血圧患者が塩分摂取量を1gだけ減らしても大きな臨床効果はありませんが、日本人全体で一日平均塩分摂取量を1gだけ減らすと、脳卒中患者は年間約1万人減り、死者は約4500人も減ると試算されています。
沖縄県男性の平均寿命が26位に急落した主な要因として、欧米型食生活、運動不足、大量飲酒、喫煙、そして自殺の増加などがあげられています。 しかし、このような生活習慣と短命の傾向は、むしろこれから日本全体に及んでくる前兆とみなすべきと考えます。 これに対して、真に効果が期待できる対策としては、どのようなものがあるのでしょうか。
今回はこの辺で、次回はゼロ次予防の具体的な中身について考えていきましょう。