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感染源対策の現状に則った今後の感染症対策

2021-02-07 | 提言

提言「COVID-19無症状感染者の戦略的スクリーニングによる感染源の削減」

~地域から感染源を減少させることにより

人と人の間の接触を可能な限り維持しつつ感染者の増加を食い止めるための戦略~

 

ゼロコロナプロジェクト -Zero COVID Japan-

 

我々ゼロコロナプロジェクトは、現在の日本のCOVID−19対策の現状に鑑み、COVID-19無症状感染者の戦略的スクリーニングによる感染者の削減を日本政府/地方自治体に提言する。
以下、その背景と具体的戦略を述べる。

 

背景


日本のCOVID-19の現状

 

 COVID-19の1日当たりの新規感染者数は、2020年8月に2回目のピークを打って以来減少傾向にあったが、2020年9月以降下げ止まった。現在、冬季における感染伝播効率の増強とともに、「第3波」と称される状況を迎えている。新規感染者数は急速に増加の一途を辿り、感染者の年齢層は若年層から全世代に広がりを見せている。高齢者における致死率の高さ、重症化リスクについては、既に国内での報告のある通りだが、幅広い年齢層に感染が拡大することにより、若年層における重症患者数も一定の割合で増加しつつある。パンデミック以前より最前線の医療従事者の献身さに支えられる部分が大きかった日本の医療提供体制は、すでに地域によってはCOVID-19以外の診療体制の継続が困難になっていることに加え、COVID-19患者を入院管理する病床数の不足、またその患者のケアにあたる医療従事者の絶対数の不足により、破綻しつつある。

 

 すでに、2020年前半のCOVID-19のデータから、COVID-19が季節性インフルエンザに比して5倍以上の入院後死亡リスク、約2倍の集中治療室への入室リスクがあることが明らかになっていたが1)、直近の研究でも、COVID-19入院患者が、季節性インフルエンザに比して、肺以外の臓器不全リスクの増加、集中治療室への入院や人工呼吸器使用に至るケースの比率が高いことが報告されている2)。COVID-19患者の絶対数の増加が、必然的に重症者数の増加をもたらし、長きにわたる対応に伴う疲弊や医療従事者の離職、さらに院内感染の増加も相まって、最前線の医療資源がさらに枯渇していることを正しく認識する必要がある。


COVID-19後遺症(Long Covid)という新たな課題

 

 また、COVID-19後遺症についても明らかになりつつある。当初、イギリスでは約10%以上の患者に3週間以上後遺症が残存するとの報告があったが3)、未だ体系的な研究は進んでおらず、今後、世界中で長期にわたる公衆衛生上の課題となる。日本の国立国際医療研究センターの追跡調査結果では、発症から120日を超えた時点でも今なお呼吸苦や倦怠感、咳が残存するケースや、脱毛などの症状が進行していることが明らかになった4)。また、和歌山県の調査結果では、退院後2週間以上経過した患者で、嗅覚障害、倦怠感、味覚障害などの症状が継続していることが明らかになっており、若年層も含めて後遺症が残存していることが明らかになっている5)。感染者の増加は、必然的に後遺症で苦しむ患者数を増加させ、結果として、社会経済活動の停滞に繋がり得る。


日本のクラスター対策・感染経路対策の限界:「感染源対策」強化の必要

 

日本のクラスター中心の対策は、これまでに一定の効果をあげてきたものの、感染が広がるにつれて散発例が増加し、あるいは隠れたクラスターなどを十分に探知できなくなった。その要因として、潜在的な感染源が地域に徐々に蓄積したことにより、マスク、手指衛生、3密対策などの感染経路対策と社会距離拡大戦略を行っても、地域の感染源の増加がその効果を上回るようになってきたこと、移動に伴う人々の接触頻度が増加する中でCOVID-19への対策意識が薄れたこと、季節的に低温・低湿による感染効率が安定したことや屋内活動が増加したことなどが挙げられる。

 

 感染症対策の基本は、感染源対策、感染経路対策、宿主感受性対策の3つを適切に組み合わせて行うことである。「宿主感受性対策」は、ワクチンが開発され、海外で接種が始まっているが、我が国で利用可能になるまでには時間を要すること、また膨大な接種数により、予期せぬ有害事象が出現するリスクが存在する。同時に、2020年12月以降、世界的に変異株の出現が報告されているが、COVID-19の蔓延により変異の蓄積が積み重なることで、既存の免疫機構やワクチンで対処不可能な変異株が出現する可能性を念頭に置く必要がある。「感染経路」対策は、これまでも再三再四強調される中で、国民一人一人が努力をしてきた。マスク、手指衛生、3密対策の重要性は、相当程度国民に浸透しており、その励行の継続は不可欠であるが、これらの対策により100%感染経路が遮断されることを保証するものではない。また、パンデミックの長期化に伴い、パンデミックそのもののリスク受容に変化が見られ始めており、個人が出来る対策、気温など様々な外的要因の変化、またウイルスの性質の変化に伴う3密対策の有効性などに関し、より容易で正確かつ継続的なコミュニケーションが必要となる。予防行動の成果は、季節性インフルエンザの定点あたり報告数の減少からも相当程度推察が可能であるが、その状況下で今なおCOVID-19感染が拡大傾向にあることを鑑みれば、現状の介入ではCOVID-19患者数の増加が避けられないと考えられる。究極の対策である非常事態宣言による「ロックダウン」は経済的な影響がかなり大きく、可能な限り回避するために取れる方策のうち、残っているのは「感染源」対策のレベルを上げることのみである。

 

感染源対策としての無症状者スクリーニング検査

 

 通常行われる感染源対策は、有症状者を隔離することと、その濃厚接触者の行動制限を行うことにより、地域での感染源を減少させることである。感染者本人の自覚症状が軽い、あるいは無症状であれば、地域に感染源として存続し、感染伝播の源となる。現状では有症状感染者でさえ、その100%が探知されて隔離されているとは考えにくい。これは非常な軽症例も含まれることや、地域での受診行動や診療行動にも影響を受けるため、明瞭な症例定義により、可能な限り探知される割合を上げていく以外に方法は無い。

 

COVID-19では発症2日前の無症状期(発症前の時期)から他者への感染伝播がかなり起こっていることが示されており6-9)、発症前期における感染対策が重要である。感染者における無症状者の割合は、報告により1-85%と幅が非常に大きいが、メタ解析では全体で18%(9-26%)、有症状者からの感染に比較すると感染の相対リスクは、0.06-0.78と報告され、メタ解析では0.58(0.335-0.994)との報告10)がある一方、無症状感染者について、その感染性は有症状者における場合と比肩するという報告11,12)や感染伝播全体の40%以上を占めているとする報告もある13)。Moghadasらは無症状感染者および発症前の無症状期における感染伝播は全体の50%以上を占め、人口の1%未満まで発生を抑えるには、これらサイレント感染伝播の3分の1以上を防止する必要があるとしている14)

 

米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)は、「無症状者および発症間無症状者からの感染伝播の重要性により、本ガイダンスでは無症状者の検査の必要性を再強調する(原文:Due to the significance of asymptomatic and pre-symptomatic transmission, this guidance further reinforces the need to test asymptomatic persons.)」として、COVID-19における検査指針アップデート(Overview of Testing for SARS-CoV-2 (COVID-19) Updated Oct. 21, 2020, US CDC)を更新している15)。これは米国National Institute of Health(NIH)のAnthony Fauci所長が、米国はCOVID-19対応体制を検査であふれさせる必要があると述べていることと同様の方針である。

 

この内容は、有症状者の検査はもちろんのこと、無症状であっても、1)SARS-CoV-2感染者に濃厚接触した場合、2)感染伝播密度の高い地域で有効な経路対策なしで10人以上の会合に出た場合、3)高齢者施設で働いている場合、あるいはそのような施設でケアを受けている場合、4)社会に不可欠な職種、医療従事者、一次対応者である場合、5)入院前や特定の医療処置を受ける前、6)ある地域で新たな感染者が発見されて限定的な感染伝播が起きている場合、あるいはあなたの地域でウイルスの拡散がみられており、それを止めるため、7)また地域、あるいは施設において早期に感染を探知するためには、定期的な全員の検査と進入者や戻ってきた人の検査を含んで考えるとされている。

 

 地域に広範にウイルスが散布された状態では、上記の感染源対策では患者数減少に繋がるまで時間がかかることもあり、究極の感染源対策、すなわちすべての感染源となり得るものを地域から除くロックダウンという政策により、一旦地域での感染密度を下げると、より早期の地域での感染源の減少に繋がるものと考えられる。一方では、頻回のマススクリーニングによって、時間はかかるもののロックダウンと同様の効果が期待できるとの報告もある16)

 

また、スクリーニング検査については、最近スロバキアで迅速抗原定性キットを用いてマススクリーニング検査を行ったところ、自宅隔離などの体制とあわせて感染率を60%減少させたとの報告もあり17)、ロックダウンを回避する対策としてはひとつのオプションになりうる。

 

偽陰性に関する議論:スクリーニング検査は「Rule-in:感染源の発見」が目的

 

無症状者のスクリーニング検査において、よく聞かれる議論が偽陰性の存在のため、一定の数の陽性者が漏れてしまうという危惧である。PCR検査の感度・特異度というのは有症状者においても、定説はないし、無症状者ではデータ自体存在しない。このような検査において、感度も特異度も100%ということは医学常識上でもあり得ないことで、少なくとも医療従事者はそれらを念頭に置いた上で診療や対策を行っているのである。

 

ただ、偽陰性があるから無症状者スクリーニングが無意味であるというのは、感染症対策理論上間違いであり、そもそも有症状の感染者さえ100%は探知・隔離できていない。医療機関や高齢者施設などにウイルスが侵入することは大きな被害をもたらし、可能な限り感染源を発見することが必要である。検査の性質上10例の感染者中2例を見逃すと仮定しても、なにもしなければ、10例の感染者全例が施設に入るわけで、そのうちの8例を探知して隔離すれば院内感染リスクは減少させられるのは当然のことである。そもそも感染源対策とは可能な限り感染源を減少させることによりリスクを軽減することを目的としており、誰も100%探知できると思っていないのである。実際、英国では、医療機関において、定期的に無症状者のスクリーニングを行うことにより、医療機関内での感染を減少させたことが報告されている18)。これまではスクリーニング無しで、基本的な感染経路対策を継続しているという背景で、スクリーニングを加えることによってそのリスクが減少させられるのである。欧米で行われている議論は、これらのスクリーニングの目的は、陰性だから大丈夫という「Rule-out」ではなく、感染防御の観点から確実に陽性者を見つけてそれを除く、「Rule-in:感染源の発見」であり19)、確実に感染源を減少させていくことが重要であるという点からみても無症状者のスクリーニングを否定する根拠にはならない。

 

なお国は、都道府県等に対し、高齢者施設等の入所者、介護従事者に対する検査の徹底を要請している(https://www.mhlw.go.jp/content/000697205.pdf)。これは、高齢者施設等の入所者又は介護従事者等で発熱等の症状を呈する者がある場合、必ず検査を実施すること、その場合の施設全体のスクリーニング検査を実施することを求めるものである。さらに、地域にウイルスが侵入している蓋然性が高い状況においては、その期間、医療機関、高齢者施設等に勤務する者、入院・入所者全員等を対象にした、いわば一斉・定期的な検査の実施を行うことも推奨されている(https://www.mhlw.go.jp/content/000695267.pdf)。特に後者の方策は、通常の対応では保健所のリソースを著しく消費してしまうものであるが、その実施方法や実施主体をうまく工夫することで、保健所による積極的疫学調査と組み合わせての有用性は高い可能性がある。

 

 今後、冬季に向かって感染が拡大すれば、医療機関や地域社会に大きな影響を与え、再度全面自粛を行わざるを得ない状況になるリスクもある。それを避けるためには、可能な限り感染源を減少させることが重要であり、感染のリスクに応じた無症候性の感染源対策も考慮するべきである。

 

提言

 

地域での感染源を減少させるべく、地域の感染グレードに応じて以下の順番で、無症状者におけるスクリーニングの対象を拡大する(別表に示す)ことを日本政府/地方自治体に強く提言する。
 尚、スクリーニング検査は基本的には遺伝子増幅検査とするが、十分な検査のキャパシティーが担保できない場合には、抗原定量・定性検査を状況に応じて考慮する。また、陽性率が低い地域では、プール式遺伝子増幅検査の導入も考慮する。なお、頻回のスクリーニング検査を実施した場合でも感染者数増加に歯止めがかからないシナリオが想定される地域では、速やかに短期間のロックダウンを実施し、早急に検査・追跡・隔離体制を充実させる必要がある。その導入が早いほど、ロックダウンの期間を短縮することが可能となる11)

 

1 医療機関や高齢者施設入所者および職員に対するスクリーニング

 

(1)施設の存在する地域がレベル3か4、あるいは、感染拡大の兆候が確認されれば、ユニバーサル・スクリーニング、すなわち症状にかかわらず、すべての入院・入所者に対して定期的にスクリーニングを行う。患者に接触するスタッフは、リスク行動を控え、原則1週間に1回スクリーニング検査を行う。地域での感染密度が増加すればその頻度を増やす必要が出てくる。患者に接触しないスタッフは地域におけるリスク行動を可能な限り控え、リスク行動のあった時点で職場復帰前および最終曝露後3-5日にスクリーニング検査を行うか、10日間自宅待機とする。

 

(2)施設の存在する地域がレベル1か2であれば、アルゴリズムに基づくスクリーニングとする。地域内に居住し、地域外への移動歴なく、地域外の人間との接触を考慮して、スクリーニング検査の実施を決める。スタッフに症状がある場合には、その日は自宅待機として、その後は個別のリスクアセスメントによってその後の方針を決定する(症状がある場合はスクリーニング検査ではなく、診断検査となる)。以下の基準を満たした場合には無症状であっても、就業前および最終曝露後3-5日でスクリーニング検査あるいは10日間の自宅待機とする。

 スクリーニング基準

 ①レベル3か4の地域へ移動し、リスク行動があった。

 ②レベル3か4の地域から来訪した。

 ③上記の基準を満たしていなくとも、なんらかの症状があり、それがCOVID-19と区別が付かない場合にはスクリーニング検査(診断)対象とする。

 

2 高齢者その他ハイリスク者に日常的に接触する訪問施設スタッフ、在宅ケアスタッフ及び同居家族に対するスクリーニング

 

(1)地域がレベル3か4であれば、可能な限りリスク行動を避け、それらを避けられない状況において、上述と同様に1週間に1回のスクリーニング検査を行う。

 

(2)レベル1か2の状況では、地域内に居住し、地域外への移動歴なく、地域外の人間との接触がなければ、スクリーニング検査は行わない。症状がある場合には、その日は自宅待機として、その後は個別のリスクアセスメントによってその後の方針を決定する(症状がある場合はスクリーニング検査ではなく、診断検査となる)。以下の基準を満たした場合にはスクリーニング検査あるいは10日間の自宅待機とする。

 スクリーニング基準

 ①レベル3か4の地域へ移動し、リスク行動があった。

 ②レベル3か4の地域から来訪した。

 

3 特定住民に対するスクリーニング

 

地域内感染伝播リスクが3か4の場合には、以下の状況により、基本的には、ハイリスク曝露・ハイリスク伝播の集団に対してスクリーニングを行う。

 

(1)感染伝播が高密度で持続していると考えられる地域、施設

地域・施設で日常活動するすべての人に対して、一回のスクリーニング検査を行う。その後の発生状況をみて、必要な場合に繰り返す。陽性者は10日間の自宅待機とする。この場合にはスクリーニングが濃厚接触者候補者を含んでいるためその追跡は行わず、家族を含めて、次のスクリーニング検査の対象に含めることとする。

 

(2)地域に存在し、不特定多数の人間と接する職種

2週間に一回程度、スタッフの10-20%をランダムサンプリングしてスクリーニング検査を行う。この際には希望者は含めることを可とする。

 

4 離島などを含めた水際対策

 

医療体制規模の小さい離島やへき地に移入する人々の水際対策としてのスクリーニング検査(移入前または後、または移入前かつ後)を行うことにより、離島やへき地での急激な感染増加による医療体制と人々の暮らしを保護すべきである。当然のことながら検査は100%の感染者を捕捉することはできないため、100%を目指すことが必要な状況(例:高度感染性変異株や高病原性変異株)では、入境地点を閉鎖する勇気も必要である。

 

5 一般国民に対するスクリーニング

 

地域における一般住民を対象とした、無症状者スクリーニング検査、いわゆる大規模ランダムスクリーニングは、地域流行密度が極端に高い場合には、感染源を可能な限り減少させるために取りうる方策である。この方法は陰性確認のためではなく、「無症状感染者からの感染伝播」を削減することを目的として行い、対象を明確にしたスクリーニングが望まれ、費用対効果を慎重に図るべきである。

 

6 スクリーニング以外の検査

 

スクリーニング検査の拡大に合わせて、検査に関連して以下の3点も提言する。

 

(1)臨床上必要とされる検査の円滑化

スクリーニングとは別に、鑑別診断などの為に医師が必要と認める診断検査は、保険診療の一環として、検体の採取、運搬、迅速な検査結果に報告、検査結果が出るまでの待機場所、軽症者・無症状者への対応など、地域の資源に応じて整備される必要がある。

 

(2)地域における積極的な無症候性感染スクリーニング検査

臨床上あるいは公衆衛生上の対象ではないが、自身にリスク行動があり、職場や家庭にハイリスク者が存在し、職場や家庭に持ち込むリスクが高い場合、自分が感染していることがわかれば、事前対応が可能となる。この目的の為に個人または職員の厚生福利の一環として事業者が行う検査は、少しでもリスクを削減できることから、この意志を否定すべきではない。これらについては精度管理と適正な価格の設定を基軸として支援すべきである。適正な自己負担を求めることにより節度ある利用を求める。陽性の場合には、検査機関から保健所・医療機関に紹介できるような法制度も合わせて整備される必要がある。

 

(3)サーベイランスのための検査

 以下に述べるデータ駆動型対策のために、サーベイランスのための検査を行うこと。これは、上述の検査対象に加えて、クラスターが疑われる場合のイベント・ベース・サーベイランス、地域流行の評価のための定点サーベイランスのための検査を含む。

 

6 対策を効率的に回すデータ集積と解析(効果的なサーベイランス)によるデータ駆動型対策

 

(1)クラスターの早期探知と地域内感染伝播を評価し、それらデータに基づいた対策を行うためには、系統的なサーベイランスが不可欠であり、届出症例サーベイランス、イベント-ベース-サーベイランスと定点サーベイランスを効果的に組み合わせ、上述の無症状者のスクリーニングにおける結果と疫学調査の結果を統合して、感染伝播が進行しているエリアを特定することにより、局所的なスクリーニングや地域限定ロックダウンを行うなどの、より効率的な対策に結びつけることが可能となる。また、これらのデータより感染伝播密度が高いことが疑われるエリアに所属する人々に対して集中的に検査を行うことにより、人的・資金的資源配分を効率的に使用することが可能になる。

 

(2)上記に関連して、現状では、感染症法に基づくサーベイランスは破綻しており、なんら対策に有用なデータは収集・解析されていない。早急に、医療機関と保健所から感染症法に基づいて報告されるデータを正確に把握し、解析・還元できる体制を整備すべきである。クラスター調査の結果は、イベントとしての報告が行われるべきであって、接触者個別データなどを求めるべきではない。

 

(3)全国の検査センター、医療機関等SARS-CoV-2検査を行っている施設・機関をネットワーク化し、Laboratory-based surveillance体制、すなわち、検査データを集約できるシステムを構築する。

 

(4)国際保健規則(International Health Regulation)によりWHOからも勧告されているイベント・ベース・サーベイランス(Event-based surveillance)により、効率的なクラスター把握体制を設置する。

 

(5)現在、世界保健機関(WHO)から勧告されているように20)、季節性インフルエンザのサーベイランス体制において、インフルエンザ様疾患、コロナ様疾患を把握し、検体採取により地域での感染伝播状況を把握するためのサーベイランスを行うこと。

 

(6)現在国内で利用可能なデータベース(例: NDB、DPCデータネットワークなど)の利用を促進し、可能なものは早期に公開して積極的に対策に結びつけていく。

 

7 基盤整備

以上を実効ならしめるためには以下の措置を合わせて講じ、スクリーニングの成果を確実に感染予防につなげる必要がある。

  • 疫学データの集積と解析
  • 対象者への強力な勧奨
  • 費用の公費負担
  • 陽性者の感染拡大行動の抑止
  • 追跡と隔離・保護機能の強化

 

表:地域感染伝播レベル

 

 

ゼロコロナプロジェクト-Zero COVID Japan-メンバー

(順不同)

徳田安春 群星沖縄臨床研修センター

青木 眞 感染症コンサルタント

近藤太郎 近藤医院 

渋谷健司 キングズカレッジロンドン人口衛生研究所

谷口清州 国立病院機構三重病院

 

引用文献

 

1) Cates J, Lucero-Obusan C, Dahl RM, et al. Risk for In-Hospital Complications Associated with COVID-19 and Influenza - Veterans Health Administration, United States, October 1, 2018-May 31, 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2020;69(42):1528-1534. Published 2020 Oct 23. doi:10.15585/mmwr.mm6942e3

2) Xie Y, Bowe B, Maddukuri G, Al-Aly Z. Comparative evaluation of clinical manifestations and risk of death in patients admitted to hospital with covid-19 and seasonal influenza: cohort study. BMJ. 2020;371:m4677. Published 2020 Dec 15. doi:10.1136/bmj.m4677

3) Greenhalgh T, Knight M, A'Court C, Buxton M, Husain L. Management of post-acute covid-19 in primary care. BMJ. 2020;370:m3026. Published 2020 Aug 11. doi:10.1136/bmj.m3026

4) Miyazato Y, Morioka S, Tsuzuki S, et al. Prolonged and Late-Onset Symptoms of Coronavirus Disease 2019. Open Forum Infect Dis. 2020;7(11):ofaa507. Published 2020 Oct 21. doi:10.1093/ofid/ofaa507

5) 和歌山県:知事からのメッセージhttps://www.pref.wakayama.lg.jp/chiji/message/20201228.html

6)He, X., Lau, E.H.Y., Wu, P. et al. Temporal dynamics in viral shedding and transmissibility of COVID-19. Nat Med 26, 672–675 (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5)

7)Arons MM, Hatfield KM, Reddy SC, Kimball A, James A, Jacobs JR, et al. Presymptomatic SARS-CoV-2 Infections and Transmission in a Skilled Nursing Facility. New England Journal of Medicine. 2020;382(22):2081- 90.

8)Böhmer MM, Buchholz U, Corman VM, Hoch M, Katz K, Marosevic DV, et al. Investigation of a COVID-19 outbreak in Germany resulting from a single travel-associated primary case: a case series. The Lancet Infectious Diseases. 2020 2020/05/15/.

9)Wei WE, Li Z, Chiew CJ, Yong SE, Toh MP, VJ. L. Presymptomatic Transmission of SARS-CoV-2 — Singapore, January 23–March 16, 2020. ePub: 1 April 2020. DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6914e1. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2020

10)Byambasuren O, et al.Estimating the extent of asymptomatic COVID-19 and its potential for community transmission: Systematic review and meta-analysis. Official Journal of the Association of Medical Microbiology and Infectious Disease Canada. advance online article doi:10.3138/jammi-2020-0030

11)M. Riediker, et. al. Estimation of viral aerosol emission from simulated individuals with asymptomatic to moderate coronavirus disease 2019. JAMA Network Open, 2020;3(7):e2013807, July 27, 2020.

12)He D, et al. The relative transmissibility of asymptomatic COVID-19 infections among close contacts. International Journal of Infectious Diseases 94 (2020) 145–147.

13)Oran DP, Topol EJ. Prevalence of Asymptomatic SARS-CoV-2 Infection. A Narrative Review. Ann Intern Med. 2020;173:362-367. doi:10.7326/M20-3012

14)Moghadas SM, et al. The implication of silent transmission for the control of COVID-19 outbreaks. PNAS 2020:117(30);17513–17515.

15)CDC. Overview of Testing for SARS-CoV-2 (COVID-19) Updated Oct. 21, 2020, US CDC. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/testing-overview.html 1/4

16)Shimizu K, et al. Modelling population-wide screening of SARS-CoV-2 infection for containing COVID-19 pandemic in Okinawa, Japan. medRxiv 2020.12.19.20248573; doi: https://doi.org/10.1101/2020.12.19.20248573

17)Pavelka M, et al. The effectiveness of population-wide, rapid antigen test based screening in reducing SARS-CoV-2 infection prevalence in Slovakia. medRxiv 2020.12.02.20240648 doi: https://doi.org/10.1101/2020.12.02.20240648

18)James R M Black, et al. COVID-19: the case for health-care worker screening to prevent hospital transmission. Lancet Published:April 16, 2020DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30917-X

19) Bernard Freudenthal. Misuse of SARS-CoV-2 testing in symptomatic health-care staff in the UK. Lancet Vol 396 October 24, 2020, DOI: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)32147-4

20) WHO. Maintaining surveillance of influenza and monitoring SARS-CoV-2 – adapting Global Influenza surveillance and Response System (GISRS) and sentinel systems during the COVID-19 pandemic. https://www.who.int/publications/i/item/maintaining-surveillance-of-influenza-and-monitoring-sars-cov-2-adapting-global-influenza-surveillance-and-response-system-(gisrs)-and-sentinel-systems-during-the-covid-19-pandemic

 

 

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