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人命第一? 国益第一なのでは ??

2013-01-22 21:27:31 | 日本の被災対応

先日、アルジェリア国内で天然ガス関連施設で、武装した勢力によってそこで働いていた従業員の方々が拘束されるというテロ行為が発生した。
その拘束された人々の中に、プラント建設で世界的に有名な日本の会社:日揮の社員(日本人を含む)の方々が含まれていたため、深夜にも関わらず官房長官が緊急記者会見を開いた事は皆さんもご存知の通り。

ここで取り上げたい事は、「もし、日本人が含まれていなかったら・・」という様な仮定の話ではなく、官房長官を始めとして、政府の公式発表文の中に含まれていた「人命第一に・・」という言葉の違和感について述べたい。


【 人命第一と言うが・・ 】

政府の発表では、「人命第一に行動をと、アルジェリア政府に申し入れしている」という内容だ。

確かに、「人命第一」は日本国民に対しても、世界各国に向けても十分な説得力のある言葉だが、そういう発表をするならば、人命が第一という言葉にふさわしい政策や手配など、行動が伴わなければならい。

日頃から政策を通じて、「人命」を最も優先して行動する政府機関であれば、それが日本人に対してのみの政策であったとしても、日本国内だけでなく世界各国からも、評価される事はあっても非難はされないだろう。

しかし、そういう行動を伴ってきたかは大いに疑問を持つべきだ。


【 果たして人命を尊重してきたか? 】

2011年3月に発生した東日本大震災では、約 19000名近い方々が命を落としたり行方が知れないままになっている。
そして、その大半の方々は 地震そのものではなく、津波の犠牲となった事が知られている。

その津波は、政府が想定していなかった津波の大きさだったため、防潮堤などに十分な対応能力が求められず、避難指定場所(含む 建造物)が津波に飲み込まれ、想定を超える巨大な津波を検知して通報するシステムも十分に機能せず、大変に多くの方々の犠牲と家族関係者の方々を深い苦しみを残したままでいる。

しかし、政府は、それらの過ちに対して、全く声明(コメント)を出していない。
同様に、地方行政機関においても同じだ。
そういう事実を観て、数多くのご遺族の方々の心情を考えれば、今回のアルジェリアの事件の声明での「人命第一に」という言葉に白々(しらじら)さを感じる。


【 どんな人命を大切なのか? 】

日本人は、恐らく、教育を受けてきた中で、「どんな人の命も尊いもの」という共通したイメージ(認識)を持っている。
そして、同時に、「誰もが平等で公平に扱われるべき」とも心の中に思っている。

確かに、アルジェリアのプラント建設施設で働いていた方々は、私達が安定して日常の生活を送れるようにするための仕事の一つをされていた。
しかし、同時に、危険で快適な生活を送れない環境で働く事を十分に説明を受け、相応に高い処遇と引き換えに赴任している。

<参照記事>
・・・ 「 dot.朝日 より 」

では、高い報酬は一切得られず、安全を確保するのも自己責任の覚悟で海外へ赴き、他国の人々のために働いている方々の人命を政府はどう捉えているのか。

そして、そういう方々の命が武力によって奪われてしまった時、どういう行動を取ってきたというのか?

ミャンマーで取材活動中に、政府軍兵士によって至近距離から狙撃された長井氏の場合は、殆ど実効的な策は採られず。

<参照資料>
・・・「 読売新聞などからの引用記事 」・・・「 AFP BB ニュースより 」

アメリカ軍侵攻作戦後、アフガニスタンの農業振興を行なう活動を行なっていて、武装したグループによって拉致され殺害された伊藤氏の場合には、更に扱いは乏しかった。

<参照資料>
・・・ 「 ペシャワール会発表記事より 」
・・・「 NHK教育 海外ニュース 引用ページより 」

それら殆どの場合、深夜の官房長官による記者発表は行なわれておらず、当然の事のように政府専用機の手配も行なってきていない。


【 国益第一と言えば良い 】

以上の通り、「人命第一に」という建前を本気にすると矛盾が出る。
「国益第一に ・・」と発表すれば、それらの矛盾が生まれなかったのだ。

というのも、今回一躍注目を集めたプラント建設会社:日揮は、30年以上前から世界各国でプラント建設を行なっている、東証一部に上場している世界的にも有名な会社だが、当然ながら日本政府の協力な後押しを受けている会社の一つでもある。

海外での大きな業務案件を受注して成功させる事は、その会社の業績のみに関わる事ではなく、日本の経済を潤す大きな要因なるのは自明の事。
しかも、今回の天然資源に関する案件であれば、日本経済どころか国民生活の保障に関わる事に関係してくるので、政府として可能な限り支援するのは当然だ。

だから、今回の事件で、深夜に慌てて記者会見を開催した背景には、日揮以外の数多くの建設関連会社や大手商社の全てから、政府や通産省などの関連行政機関の末端まで強い要請が入ったとしても当然だし、日本政府としてもほってはおけない重要な事案であり、外遊予定を打ち切って首相が帰国して陣頭指揮(?)を執ったのは十分に理解できる。

そういう事情は十分に理解できるから、「国益第一のために・・」という声明を発表するべきだ。
そうすれば、政府専用機を手配して、直接アルジェリアの日揮の方々の帰国を支援する政策に対しても、より多くの国民から心から賛同を得られるだろう。

「人命第一」という言葉は、真に人命を分け隔てなく、その全てを貴重と捉えて行動を行なう場合に使って欲しいものだ。


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