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ZX-6RR, 『整備&調整セッティング記録会』 “ 通信ボ ” です!

2015-03-14 01:23:07 | 整備・調整セッティング記録会
2月7日開催、整備&調整セッティング記録会の後、早速に街中と峠道で走行を繰り返して、感想文を送ってくれてありがとう! ございます。

内容を拝見すると、整備と調整で狙い通りの変化を実感できた点もあり、とても率直な感想文に感謝をしています。

ただ、その一方、当日の作業中に説明した事が正しく伝わっていない?と思える点が少しだけあるのです。 いえいえ! 普通の雑誌などでは一切書いていない事ですし、まして作業を進めながら聞き、時には判断を求めたりしたのですから、充分に説明が伝わっていなくて当然だと思っています。

ですから、この「通信ボ」で、今回の作業でオートバイの動きが変わり、信頼できる動きになった理由や原因の説明をします。その説明を通じて、オートバイの仕組みへの理解を深めてください。そして、次の“調整”の機会には、調整(セッティング)によってオートバイの動きや信頼感が変化するので、どうして変化するのかを少しでも解明できたなら、大きな“やりがい”になります。



【 方向安定性の大切さ 】

先日、整備&調整の前に試乗させてもらった時、ZX-6RRで感じた事は「フロント(タイヤ)のマナーの悪さ」です。フロントタイヤが「僕は向いている方向へ、一人で行けるからね!」とは言わないで、何も言わず右へ左へと行ってしまうのに、「何? ちゃんと走っているだろ!」とでも言いたげな態度だったのです。

フロントタイヤが向いている方向へ自ら進もうとする力を“方向安定性”と言いますが、ZX-6RR君はその“方向安定性”が低速域で不足していると判断したのです。

方向安定性”が小さくなり過ぎて不足すると、フロントタイヤは向いている方向とは異なる方向へ向きを変えやすくなり、その“感触”をライダーは感覚の敏感な手を通じて感じ取るので、それが“不安感”を感じる一番大きな要因になるのです。

では、あの日にお話した事ですが、“方向安定性”を決める要素は何があるかを覚えていますか。

そうです!
一番大切な「フロントタイヤ空気圧」の他、「フロントタイヤ(ホイール)の回転による慣性力」(ジャイロ効果にも似ています)、そして「フロントタイヤの外径」ですね。(外径が大きいと方向安定性が高く、不整地を走るオフロード車が大径タイヤを採用している大きな理由です)

そして、当日も図を描いて説明したように、「トレール量」が大切な要素です。
2種類の台車の前輪で、その構造から「トレール量」が違い、そのために前輪の“方向安定性”に大きな差が出る事を説明しましたね。


この「トレール量」は、フロントサスペンションのアライメント(キャスター、ステムオフセット量、沈み込み量など)によって決まる数値(量)です。


この「トレール量」は、加速や減速に応じて大きくなったり小さくなったりします。この変化によって“方向安定性”が変化するため、加速時には直進しやすくて、減速時には直進性が減り曲がり(旋回)やすくなるのです。(ZX-6RRや一般的なフロントサスペンション形式=テレスコピック形式は、全てこの特性)

特に、時速40㎞以下の低速で走行する際には、「トレール量」が“方向安定性”を大きく左右する要素になるので、一般道を走行する際には「トレール量」を適切な量に保つ事が大切です。「トレール量」が少ないと旋回する(曲がる)けど落着きが無く、恐怖感をライダーに与えやすく、多すぎると逆に常に安定はしていて、大きくバンクさせても曲がり(旋回力)が弱い特性になります。

・・・ 説明が長くなりましたので、ここで一気に結論を。

2月7日の整備&調整では、ZX-6RR君、フロント(タイヤ)の方向安定性が少なく感じたので、「トレール量」を増やすため、セッティングの一つの手段として、フロントフォークオイルを増量したのです。

フォークオイルの増量で「トレール量」は増やしたので、試走でその特性の変化の大きさを感じて、感想文の「普通のバイクになった」という言葉になったと思います。

しかし、“方向安定性”と“旋回性”の二つの相反する要素を、ちょうど良いバランスにさせるのがセッティングの本当の目的です。
現在の仕様は“安定性”の方向へ振っているので、フロントフォークオイルの量を変更して「トレール量」を変更して、バランスの良いポイントを探る作業を次回行ないましょう。


【 トレール量のセッティングは 】

先にも書いたように、加速や減速などの走行状態や乗車人数、平地と坂道などによって「トレール量」は常に変化しています。

この「トレール量」をどんな状態でも最適に保つセッティングの基本の一つが、「残ストローク量」の調整です。

「トレール量」は図解で多少は理解できると思いますが、実際のオートバイでは直接測定は難しいので、「トレール量」の変化と同時に変化する「残ストローク量」を測定して、その量を最適に保つ調整(セッティング)をするのです。

「残ストローク量」というのは、前回行なったので覚えていると思いますが、例えば時速40㎞ 以上の速度で走行中に急ブレーキして停車させ、フロントフォークが最も縮んだ時の場所(位置)の事です。
何故? 最大減速時の「残ストローク量」(最少トレール量)の測定と調整が大切かと言うと、どんな走行状態であってもオートバイは最低限の“安定性”を保つ事が大切だからこそ、急ブレーキ(最大減速)時を基本にするのです。
経験したので覚えているでしょうが、インナーチューブにタイラップなどを軽く巻いて装着して、急ブレーキした後でそのタイラップが移動した位置が「残ストローク量」です。


次回の調整機会には、最初に「残ストローク量」の測定をして、前回の 20㎜からどの程度変化したかを記録します。
そして、その場でフロントフォークのオイル量を変更して、実際に試走して、「残ストローク量」を測定して、「残ストローク量」(トレール量)の変化でオートバイの特性がどう変化したか感じ取り、必要に応じてこの作業を何度か繰り返し、最適な「残ストローク量」を探っていきます。

現場でフロントフォークオイルを計量して増減する作業は、専用工具があるので簡単にできます。が、最適なバランス点を探り感じる作業は、その人の経験や感性、能力によって大きく左右されるので、次回でベストバランスが出せるとは思わずにいて下さい。

それよりも、フロントフォークオイルの量、たった 1㏄の変更だけで、オートバイの特性が大きく変わるポイントがある! という現実と理論を感じ取ってください。


【 整備と整体と調整 】

感想文の中で“整体”という言葉をたくさん使ってくれて、ありがとうございます。

きっと、オートバイに“整体”なんて、ほとんどの人は考えた事は無いでしょうから、とても良い刺激になっているでしょう。
ただ、“整体”とは、オートバイの部品を本来の正しい位置に整える事と、部品同士の間で溜まっているストレス(こり)を取ってやる基本的な整備作業です。

だから、“整体”を行なうと、人間の場合と同じですが、身体(オートバイ)が軽く感じられ、その動きも軽く感じられます。

でも、感想文の中で書いてあった特性の大きな変化は、きっと“方向安定性”の変更によって出てきたもの、と理解してもらえると嬉しいのです。


【 今後お勧めのメニュー 】

次回、整備の機会があれば、是非リア周りの整備をしましょう。

リアのホイールを外し、サスペンションユニットとスィングアームを外して整備をしましょう。
部品の清掃に始まり、ゴム部品の交換、グリスの交換、金属部品同士が触れ合う箇所への潤滑処理です。特に、リアホイールに装着されているハブダンパーの交換は気持ちの良い走行感を与えてくれると思います。

そして、それらの部品をきちんと組み上げた後で、前後のタイヤ(ホイール)のアライメント(整列)とりの作業を行ないましょう。
もちろん、各部のボルト・ナットはネジ山の整備をして、正しい順序で、指定トルクで締めていきましょう。


【 妖怪のひと言 】

どうぞ、次回の整備機会には、車体の清掃、特に主な整備予定部品周りの清掃・クリーニングをして来てください。

前回は各部の汚れがそのままだったので、清掃に時間がかかるだけではなく、床や工具が汚れ、良い整備環境とはいえなくなるのです。

『 歯を磨かず、歯医者へ行く者は ○○○ ですよ 』

どうぞ、手が届く範囲だけでも、ざっと汚れを落としてきてくださいね。





* * * * *

※ 『GRAのセッティング講習』 の開催案内を下記の通り紹介します
ぜひ、ご利用ください

『 GRAのセッティング講習 』

http://gra-npo.org/schedule/setting/setting_top.html




ZX-6RR、整備&調整セッテイング記録会 (その2) 開催します

2015-03-09 23:26:02 | 整備・調整セッティング記録会
持ち込み車両による、『 整備&セッティング記録 』ZX-6RR編、(その2)を行ないます。
今回は、前回の続きと別な箇所の整備で、前回と同様に記録した事柄や画像等を、後日Webサイトなどを通じて発表します。


【 車両は 】
2003年型・カワサキ ZX-6RR(画像参照)です。


カワサキが他社に追随して発売した本格的なレーサーレプリカ車。
一般公道用の ZX-6R (636 ㏄)とは異なり、レース参加用に造られた車両(600 ㏄)です。


【 会場、日時は 】
神戸市内、“妖怪ガレージ”で、3月28日(土)9:00 ~


【 目的は 】
一般の人の車両をオーナーと協力して整備とセッティング作業を行ない、その作業の目的や内容と作業画像、そして作業完了後のオーナーの感想文を発表する事で、オートバイの整備やセッティングに関する興味や知識を多くの人と共有するためです。


【 作業内容(予定)は 】
◆ 前回(2月7日)は、主にフロント周りの整備(フロントフォーク及びステアリングステム周り)を行なったので、その“残ストローク量”を最適へと調整を進めるセッティング作業を行ないます。

◆ 同時に、前回は行なわなかったリア周りの分解整備を行ない、スィングアームとリアサスペンションユニットの脱着整備、ハブダンパーの交換、前後ホイールのアライメント(整列)調整作業を行ないます。

◆ “残ストローク量”の調整作業(セッティング)は、ガレージの中で行なう事はできず、安全が十分に保たれるエリアへ移動して行なうの現場セッティング作業がメインになるでしょう。 また、リア周りの分解整備はフロント周りほど作業が複雑でもなく、作業の前後で体感する変化量はさほど大きくはない(ライダーのセンシング能力次第だが)が、オートバイはリアで操るのが基本だから、決して欠かす事は出来ない作業だ。

◆ 時間さえ許せばフレーム(エンジンマウント)周りのストレス除去&整体作業も入れたい。

( 作業内容は、前回と同様に、当日に揃った交換用部品、整備用工具、そして作業者の知識や熟練度から作業内容と手順を決める事になります )

◆ 18時 ~ 20時頃に一旦作業を完了させ、確認走行を行ない、問題無ければ終了です。


【 作業上の懸念 】
オーナーは事前に英文の整備マニュアルを取得している為、整備上の必要なスペック確認には問題ありません。

ただし、前回の様に交換部品(主にゴム製部品)を準備していない場合には交換作業を省けるが(基本は劣化しやすいゴム製部品は交換が原則)、チェーンやスプロケットなどの交換作業が入る場合には全体の進行も変わる。

チェーンやスプロケットなど、比較的交換しやすい部品とは別に、リアサスペンションのリンク周りのダストシール(ゴム製部品)の準備まで配慮できていたら、オーナーの意識と知識が向上した証なのだが ・・・ どうだろうか?

( 呟き・・分解時、ゴム製部品は必ず交換が基本、滅多にしないなら必ず交換 ♪ )


【 興味のある方は 】
当日、作業の見物希望の方は事前にご連絡を。
持ち込み車両で整備やセッティング希望の方もご連絡を。
オーナーの方とは信頼関係と最低限の知識共有を求めるため、要相談です。
( 全ての作業はオーナー本人の責任の下となります )

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http://gra-npo.org/schedule/setting/setting_top.html





2/7開催、ZX-6RR 『整備&調整セッティング記録会』 リポート

2015-03-01 23:16:55 | 整備・調整セッティング記録会
新しいイベント企画として、オーナーの持ち込み車両をオーナーの意向に合わせて、整備や調整セッティングを一緒に行ない、その内容や画像、整備やセッティングした結果やオーナーの感想文などを広く発表する『 整備&調整セッティング記録会 』 を始めます。

これにより、普段は滅多に見聞きしないオートバイ整備の常識や非常識、実践的なセッティングの進め方などを、興味を持つ全国の多くの方と共有したいと考えているので、不明な点や日頃の疑問など遠慮無く連絡して欲しいのです。

では、早速に車両・ZX-6RR での報告をしよう。


【 作業車両の背景 】


2003年型・カワサキ ZX-6RR。
(画像は姉妹車の ZX-6R)

カワサキが他社に追随して発売した本格的なレーサーレプリカ車。一般公道用(一般ライダー用)には ZX-6R (636 ㏄)が発売され、今回の車両・ZX-6RR はレースに参加する人の為に造られ、サーキットで高い性能を発揮する様にファイナギアルや各部が変更された車両(600 ㏄)です。


【 作業車両の現状と懸念 】

オーナーは数多くのオートバイを乗り継ぎ所有していて、整備への関心と知識は人並み以上に持っている人です。今回も ZX-6RR用の英文整備マニュアルは準備済みで、整備上の必要なスペック確認には問題ありません。

しかし、現状の車両・ZX-6RR はノーマル状態ではない事が気掛かりです。

先ずはハンドルが純正の高い前傾度を求めるタイプから、同じクリップオン式でもアップハンドル仕様になっている事と、ドライブギアとドリブンギアが交換されて、純正のハイギアード仕様(ロング)からロウギアード仕様(ショート)に変更されている事が心配です。
ハンドル位置とファイナルギア(ドライブギアとドリブンギア)の変更は、車両本来のバランスを大きく崩す可能性が高く、レース用に仕様設定された車両であれば影響が更に大きくなる事が懸念されるのです。

しかし、オーナーの意向でハンドルとファイナルギアを純性状態に戻す事は選択肢になく(純性部品は所有していない)、車両のバランスがどこまでとれるのだろうか?
まあ、実際にやってみよう!


【 現車の確認 】

朝9時、オーナーと挨拶を交わし、現車を確認する。
2003年型、中古で入手している車両、ワンオーナーで大切にされてきた車両とは異なり、車体各部に転倒の補修の跡が目立ち、補修レベルは高くなくプロによる作業ではない。
ハンドルは、アフターマーケット品を使ってクリップオン形式のままアップ仕様に。
それに伴いハンドルと干渉するアッパーカウルとスクリーンは大胆(ラフ)にカット。
カウル等の外装の整備レベルの低さは目立つが、肝心な機械部分についてはメンテナンスした形跡は少なく、低いコンディションレベルを戻すだけで印象は変わるだろう。


【 オーナーとの相談 】

事前に交換部品の相談を受け、各部のゴム部品の発注手配を依頼はしていたけど、当日持参された部品はフォークオイルだけ。

これによって、作業内容はフロントフォークの分解整備の他に車体各部の整備となる。しかし、車体各部の整備だけで十分に大きな変化があるだろうし、必要な整備を車体各部で行なうとすれば一日の作業では到底足りないから、今回は主にフロント周りの整備と決まった。


【 走行確認 】

作業の前に車両を走行させて状態を確認する事はとても大切です。

オーナーが走らせる姿(車両の走行時の動き等)を観察すれば、車両のコンディションや歪みが判りますし、実際に低速で試乗すれば整備や調整が必要な箇所が見えるものです。

走行確認する前に、前後のタイヤのエア圧をオーナーの指定圧で調整する。タイヤはピレリディアブロコルサ・ソフト。温度に神経質なハイグリップタイプで、製造時期が2009年2~3月と有効な賞味期限は過ぎているから、今の時期は特に深いバンク角は求められない。

次に、オーナーの体重に合わせてリアサスペンションのプリロード(初期荷重)を調整する。調整前はオーナーの体重に対して大き過ぎるプリロード(荷重)設定で、体重80㎏を超える現オーナーでさえそうなら、過去のオーナーも走って楽しめる状態でなかっただろう。

(画像は オーナーに合わせてプリロード調整中の図)



走行確認ができる安全な場所へ移動。

水平な路面を1st ギアで時速10㎞程度で定速走行して、観察するポイントで急加速する。その際のリア車高の変化やスイングアームの動き、エンジン音、そしてオーナーの感想も確認して、リアサスペンションのプリロード調整によるバランスは合格点だと確認できた。


続いて、フルブレーキングでフロントサスペンションの残ストローク量をチェックすると20㎜だった。整備&調整セッティングの後、この残ストロークを幾つに設定するかがセッティングの肝になるのだ。


そして、オーナーの走行で低速での右と左のターンをチェック(観察)すると、明らかに左右でターン特性に差がある。原因はフロントフォークの捻じれ(歪み)だろうか? 分解してチェックすれば判るだろう。

オーナーは、事前のリアサスペンションのプリロード調整により、とても乗り易くなったと言うが、僕が試乗してみると乗って楽しい車両状態ではない。特にフロント周りのマナー、特に方向安定性が良くない事を確認する。
整備だけで改善できれば良いが、調整セッティングでフロントの方向安定性を高める処置の必要性を実感・確認した。

さあ、ガレージへ戻って作業を始めよう。


【 整備開始 】

カウルの脱着は手間なので、オーナーにそれら全ての作業を任せて、フロントにジャッキを掛け、フロント周りの分解に入る。

ブレーキキャリパーは要クリーニング。
続いて左右のフロントフォークの脱着作業に入って異常を確認。本来ならば、すっと脱着できる状態にしても、何故かすんなりと真っ直ぐに抜け出てくれない。(この車両は倒立フォークだが、正立・倒立の関係無く抜けるものだ)

脱着作業の前に、専用工具(妖怪棒)を使ったチェックで、フロントフォークの捻じれ(歪み)は確認できていた。




しかし、フォークが抜けにくい症状から、それを固定・保持しているボトムブラケットに変形があるのかも知れない。この時は、この車両の事故前歴の痕跡だとは確信を持てなかった。


【 フロントフォーク 】

現車のフロントフォークは KYB(カヤバ)製だ。
僕の愛車 ・トライアンフも同じメーカー 製なので、所有している分解用の特殊工具がそのまま使える。



が、久しぶりの作業の為、多少悩みつつオーナーの協力を得て無事に分解を終了。

ところが、抜き出したフォークオイルの色が左右で違う。左右のフォークで分解整備(修理?)歴が異なる様だ。

トップキャップ、スプリング、アウターチューブと分解清掃するが、ダンパーユニット(カートリッジ)は固定用ボルトのガスケットの準備が無いので外さずに作業を進める。
同じ理由で、ダストシールとオイルシール、メタルの交換作業も無しだ。


ダンパーユニット(カートリッジ)内部の汚れを減らすため、新フォークオイルを適量注入してダンパーロッドを充分にストロークさせた後にオイルを排出する。


いよいよ、フロントフォークの組立てに入る。
使用するオイルは当然純正指定のKYB製。オイルの注入量はマニュアルで指定量は確認するが、正確な調整作業では意味はなく、オイルレベルの指定値だけを参考にする。

なぜなら、マニュアルに書いてある オイル量はフォークのメーカーでの設定値だからだ。全ての部品を新品から組み上げる時には必要になるけど、分解整備の時には全てのオイルを抜ききる事は出来ないから、マニュアル通りにメスシリンダーで計測して入れると間違った整備になってしまう。
だから、オイルを入れた後、内部に溜まっているエア(空気)を抜いた後、メーカー指定のオイルレベル量に合わせる方がベターだ。

最善な方法は、フロントタイヤの方向安定性に大きな影響を与える「トレール量」を設定するために、限界時のトレール量の確認に繋がる「残ストローク量」を計測して、分解整備前と同じ残ストローク量になる様にオイルを抜いたり追加する処理をする方法だ。
≪ 今回も当然、残ストローク調整法で行なう方針 ・・ 詳しい原理や方法は後日、別項にて解説の予定 ≫


ここで、オーナーとの相談に入る。

メーカー指定のオイルレベルは 110㎜だが、残ストローク量を 20㎜から一気に 40㎜程度へ増やしてフロントタイヤの方向安定性を高めるために、レベルを90㎜にしての組立ての提案をした。

オーナーに対して、フロントフォークの整備で最も大切な事柄は、指定通りにフォークオイルの量を交換する事ではなく、最適な残ストローク量になる様に調整する事だと説明すると、納得はしてくれたが充分に理解は出来ていないだろう。

続いて、分解前は 20 ㎜ だった「残ストローク量」を大幅に大きくする提案をした。最初は25㎜ への変更しか許可が出なかったが、残ストローク量とトレール量、方向安定性との関係を時間をかけて説明して、車両組み立て後でも簡単にフォークオイルの抜き取りが可能な事を説明して、ようやく 残ストローク量 40㎜ への変更(トライ)に了承を得られた。組立後の彼の感想が楽しみだ。

≪ オートバイ整備販売店だけでなくサスペンション専門メーカーさえも、残ストローク量 = トレール量 = 方向安定性という大切さを理解していない程だから、彼が理解できなかったのも無理もない ≫


【 ステムベアリング 】

フロントフォークを脱着すれば、ステムベアリングの分解チェックは必須作業だ。


何故なら、ステムベアリングはオートバイに数多く使用されているベアリングの中で最も不適切な設計環境で使われ、不適切な整備方法が指定されているため、殆ど全てのオートバイで“問題”が発生している箇所だからだ。


実際に分解を行なう。
ベアリングは回転する箇所に使用される部品で、金属とそれを潤滑するグリス(油)で構成されているが、確認してみるとグリスがやせ細って本来の役割が期待できる状態ではなく、ボールと接触するレース部には打痕が若干ある。が、オーナーの意向と準備の関係で交換はせず、古いグリスを拭き取って新しいグリスを詰めて組み上げる。

≪ エンジンオイルの定期交換だけでなく、車体各部のグリスの交換に気を配る人が多くいたら喜ぶオートバイが確実に増えるのに、そんな常識を伝える雑誌も無いのは悲しいものです ≫


そして、一番大切なのがベアリングのクリアランス(隙間=ガタ)の調整だ。

ステムナットの締め付けトルクを色々と変更して(クリアランスを変更)し、アッパーブラケットを仮組みした状態で、オーナー自身の手でガタが無くステム(ハンドル回転軸)のフリクション(摩擦)が最少になるポイントを確認選択をしてもらい、次にアッパーブラケットをきちんと装着固定して完了だ。


メーカーを問わず、マニュアルで指定されるステムナット締め付けトルクは、ダブルナットで固定する設計と同様に前時代の遺物だ。

ステムブラケット(アンダーブラケット)を確認していて発見した事。
フォーク固定用ボルトが左右で異なっている。左側は純正ボルトだが、右側はホームセンターで売っている様なボルトだ。
オートバイの数多くあるボルトの中で、最もボルトのコンディションや締め付けトルクが操縦性に影響するボルトなのに素人作業歴然だ。ネジ山のクリーニングを行ない、左右に純正と非純正を1本ずつ振り分け左右バランスの均衡を図った。


【 組み付け作業 】

ステムブラケットに再度フロントフォークを挿入する際にも スムーズに入らない。
きっと、ブラケット部に歪があるだろう。

交換こそが最善だがそれは無理なので、ブラケット内部をペー パーで軽くサンディングし、組立による車体へのストレスの 蓄積を防ぐ。


続いて、脱着していたフロントホイールに移る。
ここで大切なダストシールのコンディションを、オーナーにも触診を依頼して、ダストシールで一番大切なリップ部に張りと柔軟性が無くなっている事を確認してもうらう。次に、カラーを仮組みしてもホールドできない程のシールのリップ部が摩耗している事も確認した。本来なら即交換モノのコンディションだが、無い袖は振れない。内部に残っている古いグリスをクズが出にくいティッシュ(キムワイプ)で取り除き清掃をして、新しいグリスをリップ部だけでなく内部に腹五分程溜めこませ、ダストシールとベアリングの長生きを期待する。

≪ 先にも書いたが、オートバイ屋やタイヤ屋がグリス交換の常識を持っていれば、世の中のオートバイはもっと喜ぶだろうに ≫

アクスルシャフトを装着後、アッパーブラケットのフォーク固定ボルトを仮締めして、フロントジャッキを降ろしてフロントホイールに荷重を掛けた後、“妖怪棒”を使ってフォークの整列を取る。
調整の後はボトムブラケットのフォーク固定ボルトを指定トルク・20 Nmで固定。次にフロントタイヤを接地固定したままフォークをストロークさせ、フォークの左右間の平行を出し、その後でアクスルシャフト固定ボルトを指定トルク・20 Nm で固定。最後にアッパーブラケットのフォーク固定ボルトも指定トルク・20 Nmで固定。より大きな力が加わる大切なボルトから順に締め付けるのは、エンジンマウントボルトなどフレーム関係でも共通の原則だ。

全ての作業を完了して、リア(レーシング)スタンドも外してサイドスタンドで立てる。

いつも感じる事だが、当たり前の整備を順序正しく適切に行なうとオートバイは軽くなる。今回も、サイドスタンド状態からオートバイを立てただけで別の車の様だ!
オーナーも立てる動作だけで軽くなった事を体感し、押し歩きすると更に実感した様だ。

殆どのオートバイはストレスが蓄積して“コリ”が溜まった状態だから、今回の作業の様にフロント周りだけでも、正しい整備で車体からストレスを取り除くだけで確実に軽くなる。リア周りも整備すれば更に軽くなる。そして、フレーム全体をやればもっと軽くなるのだ。


【 試走確認 】

19時、最後にオーナーによる試走確認だ。

出発して帰ってくるのを待っていると、街角を曲がってくる姿が朝とは違う。オートバイから来る恐怖心、不信感が減り、安心感が増している様に見える。残ストローク量のアップ=トレール量の変更&確保も効いている様だ。

残る作業、適切な残ストローク量への調整、1G’(乗車時)のフロントとリアの車高バランスの確認は、オーナーの試走と感想文を待ってから行なう事になる。


【 最後に 】

最適なバランス調整や適切なセッティング作業は1~2時間の作業で済む筈がありません。
何故なら、整備作業によって車両の状態を新車状態かそれ以上の本来の状態に戻した後でようやく行なえる作業だからです。

次の機会には、リア周りの整備(スイングアームの脱着整備、リアサスペンション周りの脱着整備、ハブダンパーの交換など)とエンジンマウントボルトの整備を行なえると良いですね。最低でも12時間程度の作業で、その後に行なう調整セッティング作業ではキリが無いほどに細かい作業が続くのです。


★ ZX-6RR オーナーの、作業後、試乗しての「 感想文 」は コチラ

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