真実を知りたい-NO2                  林 俊嶺

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朝鮮における巧妙な阿片・モルヒネ政策

2011年05月07日 | 国際・政治
  「日本の阿片戦略-隠された国家犯罪」倉橋正直(共栄書房)によると、東京帝国大学法学部を卒業し、戦後韓国の有力な政治家となった金俊淵(シュンエン)という人物が「朝鮮モルヒネ問題」(1921年6月)で、阿片の利用は厳重に取り締まっておきながら、それより禁断症状がすさまじいモルヒネの注射を事実上野放しにしている日本の政策の矛盾を告発していた。偶然、金俊淵の「朝鮮モルヒネ問題」という史料を発見したという著者は、その告発を糸口にして、朝鮮における日本の巧妙な植民地支配のからくりを解明している。そして、戦前・戦中の日本の阿片政策について、日本国民の歴史認識は空白になっていると、訴えている。その結論部分を抜粋する。
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                第6章 朝鮮モルヒネ問題

法律上、モルヒネの摂取は野放し

 前章で、朝鮮人に伝統的な阿片吸煙の習慣がないことから、日本側が、朝鮮半島で大規模にケシを栽培し、朝鮮を原料阿片の生産地にしたことを述べた。ところが、日本側は、これだけでは満足しなかった。朝鮮の人々を利用し、彼らからもっともっと多額の利益を吸い出そうとする。それが、朝鮮人の間にモルヒネを広範にばらまき、彼らの多くをモルヒネ中毒者にしたてあげることであった。
 偶然、金俊淵(シュンエン)の「朝鮮モルヒネ問題」という史料を発見したことから、私はようやく、このことに気づかされたのである。この史料は古い文章なので、やや読みにくいかもしれない。しかし、それは極めて重要なことを指摘しているので、煩を厭わず、敢えて少し長く引用する。



金俊淵「朝鮮モルヒネ問題」

 朝鮮には今、モルヒネ中毒者が非常に多い。或る医者の確信する所に依れば、京畿道以南丈でも其の数1万を超ゆべしとの事である。モルヒネは阿片から精製したものであって之を注射するのである。其の作用は阿片烟吸食と少しも違いはない。要するに、今、朝鮮にモルヒネ中毒者が1万人以上もいると云ふことは阿片烟常習吸食者が1万人以上もゐると云うことである。


 支那は阿片烟の為めに最も苦しんでゐる国であることは誰しも知る所である。支那は其の為に阿片戦争をやった。乍併(シカシナガラ)、今に至るまで此の阿片烟の病苦より支那を救ふことができない。阿片烟は支那民族の向上発展に対する一大障碍をなすものである。其の病毒が今や黒い手を延べて朝鮮を攫(ツカ)んでいる。
(中略)
 故に差し当たり問題になるのは法律上よりの矯正である。
 朝鮮刑事令に依って朝鮮にも日本の刑法が行われることになってゐる。然るに刑法中の阿片烟に関する罪を見ると、実に峻厳を極めてゐる。即ち、阿片烟を輸入、製造、又は販売し、若しくは販売の目的を以て之を所持したる者は6月以上7年以下の懲役に処し、阿片烟を吸食したる者は3年以下の懲役に処すとし、其他、詳細なる規定を置き、此等の未遂罪をも罰することになっている。
 そして、又、大正3年9月21日の朝鮮総督府訓令第51号は、云々の者ある時は刑法の正条に照し、毫も仮借することなく、これを検挙して其の罪を断ずべきを明言している。
 乍併(シカシナガラ)、モルヒネ注射に関しては全く阿片烟吸食と同等の弊害を認めてゐるにも拘はらず、何等(ナンラ)特別の立法手段を執らなかったのである。即ち、大正3年10月、朝鮮総督府警務総監部訓令第49号には

 『……客月21日朝鮮総督府訓令第51号ニ依リ阿片吸食ハ自今、絶対的禁遏(キンアツ)ノ措置ヲ執ルベキコトト相成候ニ付テハ、一層、周密ノ注意ヲ払ヒ、以テ阿片烟吸食ノ弊風ヲ絶滅セザルベカラズ。
 然ルニ、「モルヒネ」、「コカイン」ノ注射ハ阿片烟吸食ニ代ハルベキ方法ニシテ、其ノ害毒ヲ人身ニ及ボスコト、阿片烟吸食ト敢テ軒輊(ケンチ)アルナシ。而シテ、従来、密ニ其ノ注射ヲ行フ者、少カラザルヲ以テ、阿片烟吸食、禁遏(キンアツ)ノ結果ハ自然、該注射ニ転ズルノ虞(オソレ)ナシトセズ云々』

 と云って、モルヒネ注射の弊害及其の軈(ヤガ)て朝鮮の社会を来り襲ふべきを明瞭に看取してゐるのである。
 そして、其の取締法としては、僅かに薬品及薬品営業取締令第7条の励行を示してゐる丈である。それに依ると、猥りにモルヒネを販売授与したる者には3月以下の禁錮、又は5百円以下の罰金の制裁がある丈である。
 そして、モルヒネを注射した者はどうかと云ふに、朝鮮の法令には之を罰する規定を存してゐないのである。
 強いて求めば、警察犯処罰規則第1条32号の運用にでも待つべきか? 即ち、警察官署に於て、特に指示、若くは命令したる事項に違反したる者は拘留、又は科料に処すべきことになってゐるのである。
 以上の事実に依って、同一の社会悪に対しての法律上の制裁に餘りの懸隔あることを認め得ることと思ふ。即ち、阿片烟を猥りに販売授与したる者は6月以上7年以下の懲役、モルヒネを猥りに販売授与したる者は3月以下の禁錮、又は5百円以下の罰金、阿片烟を吸食したる者は3年以下の懲役、モルヒネを注射したる者は無罰と云ふ事実を見るのである。

 
 そして、モルヒネ中毒者は現に1万人以上もゐるのである。そして、モルヒネ注射は阿片烟吸食に比して非常に簡便なのである。
  『ローマ法に依ってローマ法の上に』、『現代に依て現代の上に』と云ふ言葉を以て、朝鮮の当局者に逼るのは、或いは無理であろう。併(シカ)し乍(ナガ)ら、少くとも今、現に切迫してゐる此のモルヒネ問題に対して、積極的立法手段に出ることを要求するは、何人も不当とは考へまい。朝鮮の当局者は、マサカ、其の取締を寛大にして仁政を誇らんとするのではあるまい。」(法学士、金俊淵「朝鮮モルヒネ問題」、『中央法律新報』1巻9号、1921年[大正10年]6月、7~8頁)



巧妙な仕組み

 要するに日本側は、朝鮮における阿片・モルヒネ政策において、2回にわたって、朝鮮人を利用する。すなわち、第1回はケシ栽培=原料阿片の生産者として、第2回はモルヒネの消費者としてである。
 この仕組みは極めて巧妙である。1回目は阿片、2回目はモルヒネと分けてあることが、ミソである。これが2回とも、同じ阿片を使っていたのでは、これほど、うまくゆかなかったであろう。というのは、朝鮮の人々に阿片を生産させ、かつ、彼らを阿片の消費者にしたてあげたのでは、前述の「猫と鰹節」のたとえで説明したように、生産者が生産した阿片を消費者に非合法に売るのを阻止するのに、多大な経費と人員が必要となり、採算が合わなくなる恐れがあったからである。その点、生産=阿片と、消費=モルヒネと分けたことで、そういった恐れはなくなる。阿片の密売を厳禁することで、モルヒネ中毒者が非合法に阿片を入手することを巧妙に防いでいるからである


 日本の植民地当局は朝鮮の農民には強制的にケシを栽培させる。彼らが生産した原料阿片がモルヒネに加工されることで、同じ朝鮮民族の同胞の生命と財産を奪うのに使われる。こうしたシステムを作りあげることで、日本側は、日本国内の資源を何も使うことなく、朝鮮から莫大な利益を得ることができた。なんと、巧妙な政策ではないか!
 以上の考察で、金俊淵が告発していた、法律上、朝鮮でモルヒネが野放しにされていた理由が解明できたのではなかろうか。



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コメント (8)
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