夢七雑録

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下谷坂本・江古田・長崎の富士塚をめぐる

2016-07-15 19:26:53 | 富士塚めぐり

2013年7月に投稿した富士山世界遺産登録記念という記事のうち、富士塚に関する記事を分離し、追加修正を行ったうえで、改めて富士塚めぐりとして投稿することとした。

 

(1)富士塚めぐり

 富士山には、一度だけ登ったことがある。何十年も前のことだが、その日の登山道は大渋滞で、寒い中を延々と待たされ、途中の山小屋もぎゅうぎゅう詰め、身動きも出来ぬまま一晩を過ごし、翌日は何も見えぬ霧の中をひたすら登り、何とか登頂の目的は果たせたものの、頭痛に悩まされ、早々に山を下りたことを覚えている。それ以来、富士山は眺める山で、登る山ではないと思ってきたのだが、今にして思えば、もう一度ぐらいは登った方が良かったのかも知れない。富士山の登山客は、世界遺産に登録されたこともあって、今後も増加していくのだろう。今となっては、その登山客の一人にはなれそうにないが、その代わりとして、富士山に行けない人のために造られ、富士山に登ったのと同じ御利益があるという富士塚に登ってみることにした。

 富士塚は富士山を摸して築造された塚で、江戸中期以降、庶民の富士山信仰が盛んになるにつれ、江戸を中心に富士講が結成され、高田に築かれた富士塚を初めとして数多くの富士塚が築造されたが、今も原形を保つ富士塚は多くはない。富士塚は富士山と同様に旧6月1日(現在は7月1日)を山開きとするが、現在は講も少なくなり、行事も昔のようには行われなくなっている。都内の富士塚では三カ所が、信仰に関わる国指定の重要有形民俗文化財として指定されているが、まずは、この三カ所から富士塚めぐりを始めたい。

 

(2)下谷坂本の富士塚

小野照崎神社の境内にある富士塚は国指定の重要有形民俗文化財の一つで、文政11年(1828)の築造とされ、高さ5m直径16m、塚全体を富士山の溶岩がおおっている。東北側は一部欠損しているが、正面は完全な形で残っており、万延元年の石門、天保7年の神猿、文政11年の石灯籠のほか、合目の石、役行者像や藤原角行像がある。この富士塚は通常は公開されず、山開きの6月30日と7月1日に限って登ることが出来る。登山門から入って、足元に注意しつつ岩を手掛かりに登る。頭上には提灯が並び、石造物には、しめ縄が付けられている。ジグザグの登山路をたどれば、あっという間に頂上に着いてしまうが、少しは達成感もある。帰りは浅間神社のお祓いを受けることも出来る。 

 

(3)江古田の富士塚

江古田富士塚は、西武池袋線江古田駅北口すぐの浅間神社(茅原浅間神社)の拝殿裏手にある。築造は天保10年(1839)とも文化年間(1804-1817)ともいう。この地にあった古墳を崩して築いたとする説もある。この富士塚の北から東側の低地は、石神井川支流エンガ堀の源流部の一つで、小竹の溜池と呼ぶ池があったという。江古田富士塚は富士山の溶岩でおおわれており、高さは約8m、直径は約30m、富士塚としては比較的規模が大きく、国指定の重要有形民俗文化財になっている。狭いがしっかりした、つづら折りの道を上ると、頂上に鳥居があり、天保10年に造られた唐破風屋根の石祠が置かれている。このほか、経ケ嶽・太郎坊・小御嶽神社の石碑、大天狗・小天狗・神猿の石像、元治2年の講碑などもある。頂上一帯は樹林の中にあり、現在は眺めが得られない。この富士塚は正月三日と、山開きの7月1日、それと9月の祭礼の日の年に3回公開されている。浅間神社の参道は西武池袋線により分断されてしまったが、もともとは、農産物の江戸への輸送路であった清戸道(現在の千川通り)につながっていた。

 

(4)長崎富士塚

 長崎富士塚(高松富士)は文久2年(1862)の築造とされ、高さは約8m、直径は約21mで、全体が富士の溶岩でおおわれている。この富士塚には、頂上の石祠のほか、太郎坊大権現碑・亀岩八大龍王神碑・月三講の講碑・同行碑・登山道の合目石・手水鉢など文久2年築造当時に造立されたものも多く残存し、文久3年の永田講の講碑など他の講碑も建てられており、創建時の原型を良く保っていることから、国の重要有形民俗文化財に指定されている。富士塚は富士山の遥拝所でもあるが、昭和30年頃までは、この富士塚から富士山を望む事が出来たという。現在、この富士塚は山開きの2日間だけ公開されている。今年は7月2日と3日に公開され、麓の浅間神社では獅子舞も奉納されていた。この富士塚の西側の道は、清戸道(現在の目白通り)から分岐して長崎神社の横を通り板橋に通じる江戸時代からの道である。

 

<参考資料>「重要有形民俗文化財・詳細解説」「ご近所富士山の謎」「台東区史跡散歩」「練馬区史跡散歩」「豊島区史跡散歩」「練馬区の富士塚」

 

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