(1)恐れ入り屋の鬼子母神
入谷朝顔まつり(朝顔市)は毎年7月6日~8日に開催される。言問通りのうち昭和通りと金杉通りの間の区間が会場で、時間を限ってこの区間が歩行者天国となる。今年(2015)の歩行者天国は夕方からとなり、昼間は鬼子母神を祀る真願寺の境内と南側の歩道が朝顔市となり、北側の歩道には露店が並ぶ。江戸時代、この付近一帯は坂本村に属しており、そのうち真願寺の辺りは入谷と呼ばれていた。坂本町村絵図を見ると、村の西側の奥州街道裏道(現在の金杉通り)沿いは町屋が続く坂本町になっており、その東側には真願寺をはじめ寺社が並び、さらにその東側には田圃(入谷田圃)が広がっていた。江戸時代の終わり頃、変わり咲きの朝顔が評判になり各地で朝顔の栽培が行われるようになると、入谷でも朝顔が栽培されるようになり、明治時代の初めには朝顔市も開かれるようになる。入谷の朝顔市は明治の中頃に最盛期を迎えるが、やがて時代は移り、入谷田圃は入谷の町へと変わって朝顔の栽培も行われなくなり、大正時代に入ると朝顔市も閉じられてしまう。朝顔市が復活するのは戦後のことである。
鶯谷駅で下車し、朝顔市の人込みの中をすり抜け、真願寺に入る。寺では朝顔のお守りを出しているが今回はパスして賽銭をあげるにとどめ、境内の朝顔を見て回り、参拝記念にきびだんごを買い求めてから外に出る。朝顔市には120もの業者が店を出している。行灯つくりの朝顔は統一価格の2000円で、変わり咲きの朝顔や、昔は流行した海老茶色の団十郎は少なく、大半が四色大輪の朝顔を売っている。どの店も同じようなので、たまたま声をかけられた店で曜白の四色大輪を買い求める。昔なら、朝早く朝顔市に行き豆腐を食べて帰るというコースもあるのだろうが、今はその気もなく、速やかに駅へと戻る。
(2)何か用か九日十日
7月6日に始まり、7日、8日と行われた入谷の朝顔市に続いて、9日、10日に行われる浅草寺の四万六千日には、ほおずき市が立つ。旧暦の7月10日は千日分のご利益がある観音の功徳日で千日詣と呼ばれていたが、18世紀前期の享保の頃になると千日は四万六千日へと拡大され、さらに9日も功徳日に組み入れられる。19世紀初めの文化の頃になると雷除けの赤とうもろこしが売られるようになるが明治になると衰退し、代わって雷除けのお札が寺から授与されるようになる。一方、芝の愛宕権現(港区の愛宕神社)では旧暦の6月24日を本地仏である勝軍地蔵の特別の功徳日として千日詣と呼び、植木市も立っていたが、18世紀後期の明和の頃に、境内のほおずきに薬効があるという噂が立ち、ほおずき市が立つようになる。その後、浅草寺でも、ほおずき市が行われるようになり、今では、ほおずき市と言えば浅草寺というようになっている。
四万六千日ともなれば仲見世も混雑するが、正月ほどではなく何時もより多少混んでいる程度である。宝蔵門の近くまで来ると、ほおずきを売る店が現れる。店舗数では120店ほどだそうだが、何故か朝顔市の店舗数と同じ。境内には露店も出ているが、その数も朝顔市と同じ100店ほどだという。ほおずき市は後で見ることとし、その前に浅草寺の本堂に上がり、申し訳ないが、賽銭を人様の頭越しに投げ入れて、何事かを祈願する。それから、恒例の雷除けのお札を500円納めて有りがたく戴く。最近は風の被害もありそうなので、そのうち風除けのお札が出るかも知れない。階段を下りて古札入れに持参した去年の雷除けを入れる。それから、ほおずき市を見て回る。風鈴付きで一鉢2500円。統一価格になっている。ほかに、釣り忍を売る店が何店か。買いたい気もするが、今回は見るだけにとどめる。ところで、ほおずきを一鉢買うと風鈴が付いてくるが、これが実は問題で、近頃は、風鈴の音がうるさいと文句を付ける人が居るらしい。何故そうなるのか。人間の脳は左右に分かれていて、左脳は言葉などを分担する言語脳、右脳は言語でない音を感覚的にとらえる音楽脳になっているが、日本人は虫の声など(多分、風鈴の音も)を左脳(言語脳)で処理しているのに対して、外国人の多くは右脳(音楽脳)で騒音として処理しているという事が関係しているらしい。また、暫く海外に居て帰国した場合、風鈴を聴くと左脳に過大な負担がかかるという事もありそうである。風鈴は何かの理由で付けたのだろうが、別売にした方が良さそうな気もする。