どもですあきらです~。
今回はゼルアメSSを更新の巻です。
マシュマロで頂いたお題「密室に閉じ込められる二人」でした。
では、以下よりどうぞ。
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――目が覚めると、其処は見知らぬ部屋だった。
「……なんだ、ここは……?」
ぽつりと呟き、俺は重い瞼を擦ってゆっくりとその身を起こす。見覚えのない部屋は殺風景で、家具らしい家具も見当たらない。自分は床にぽつんと敷かれた白いマットの上にその身を横たえていた。……そして、その隣には。
「んん……あれ、ゼルガディスさん……?」
「アメリア」
普段と同じ、旅装束姿のお姫様が居る。むくりと起き上がった彼女は、きょろきょろと辺りを見回してから俺とまったく同じ感想を呟いた。
「なんですか、ここ?」
「知らん。俺も今目を覚ました所だ」
「ええー? わたしたち、宿に居ましたよね……というか、リナ達は……?」
「それも知らん。俺たち以外には誰もいないようだが」
そう、俺たちは四人での旅の途中だった。つい数刻前に宿で受付を済ませ、各自部屋のベッドに入った所だった……そのはずだ。それが、どうしてこんな何もない部屋で目を覚ます事になったのだ?
ひとまず立ち上がり、俺は目の前にあった白い扉のドアノブに手を掛けた。
「……、」
――案の定、扉は開かない。
俺は腰の剣に手を伸ばす。するりと引き抜いて、そして目の前のドアを一閃した。が、その一撃は扉に何の影響も及ぼす事は無かった。……結界だろうか。弾かれたというよりも、攻撃を何処か別の空間へ飛ばされたような感覚だった。
「何かのワナかしら」
後ろで腕組みをするアメリアに、俺は一つ頷いてみせる。
「……そうかもしれん」
俺たち二人を眠っている間に運び出し、わざわざこんな密室に閉じ込める。そんな事は普通の人間には不可能だ。ならば、十中八九魔族が関わっているに違いないだろう。俺たち二人だけを此処に閉じ込めたのも、戦力の分断が目的かもしれない。
「気を抜くなよ。何かが潜んでるかもしれん」
ぴり、と張り詰めていく空気。密室。……やけに明るい部屋だが、窓が無い為今の時間が全く不明だ。このまま閉じ込められたままでは、部屋の空気も薄くなっていくだろう。早くこの状況を打破しなければ。
――と、その時。唐突にそれは現れた。
「……ゼルガディスさん!」
アメリアが指差したその先。……さっきまでは確かに無かったのに。部屋唯一の扉、その上。看板のように、横長のプレートがいつの間にか設置されている。そこに浮かび上がる文字は。
「……〇ッ〇スしないと、出られない部屋……?」
「…………はぁ?」
「…………」
「…………」
しばし、沈黙が部屋を支配する。……それを破ったのはアメリアの方だった。
「〇ッ〇ス……って何だと思います?」
引き攣り笑顔の彼女の声は小さく震えている。――大体想像がついているのだろう、彼女にも。
「……俺に聞くな」
「いや、いや、もしかしたらわたしたちが想像してるのとは全然違うアレかもしれないじゃないですかっ!」
ぐわっと身を乗り出して拳を握るお姫様に、俺は苦虫を噛み潰した顔をする。
「……ほう。ちなみにお前さんが想像してるのは一体どのアレだ」
途端に彼女は拳を握ったまま固まった。赤い顔が徐々にぷるぷる震えだす。
「えっ……あ、うぅ……ゼルガディスさんのエッチッ!!」
ぶうん、と振りかぶられた拳。その拳に何か恐ろしい力が乗っている。
「おいやめろっ、そんな馬鹿みたいなノリで本気の拳を向けるなっ!!」
慌ててその拳を避ければ、彼女はその手で頭を抱えた。
「くぅっ、こんな邪悪な部屋を作ったのは一体誰なの!? なんて悪っ! 悪も悪っ!」
ウワ―ッと頭を抱えて叫ぶアメリアをよそに、俺は小さく溜息をつく。
――俺とアメリアは恋人ではない。旅の連れ、それ以上でも以下でもない。……それは、俺自身の彼女に対する感情とは全く別問題だ。
恋人同士でもない人間同士で、セックスなんて出来る訳がない。それは倫理観の問題でもあり、そして、俺とアメリアの立場の違いの問題でもある。……一国の王女相手に、足を洗ったばかりの日陰者が。
精霊呪文、白魔法、その他物理的な攻撃。改めて、この部屋の扉を開ける方法を数々試しては失敗して。扉ではなく、部屋の壁を壊す事も不可能だった。
「……、」
もう、試していないのは看板に書かれた方法のみ。
「ゼルガディスさん」
立ち尽くす俺に掛けられた声。俺を見上げる彼女の目には、どこか覚悟を決めた色があった。
「……なんだ」
「わたしは、良いですよ。試しても」
「っ、馬鹿を言うな! そんな軽々しく……っ」
慌てる俺の言葉を遮って、彼女はキッと語気を強める。
「馬鹿にしないで! ……軽々しく、言うわけがないじゃない。……貴方なら、良いと言っています」
「アメ、……リア」
「これ以上、ここで時間を潰している時間は無い。今、この部屋の外で何が起こっているかも分からない。……わたしはセイルーンの王女、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンよ」
王女の言葉は重い。この部屋が魔族の罠なのであれば、当然、俺たちをただ閉じ込めるだけで済むはずがない。俺たちをただ長時間閉じ込めるのであれば、その間に何か恐ろしい企みが進んでいるのかもしれない。――この部屋を出る、その為の選択肢が提示されているのに、見過ごす事など許されない。
「貴方なら、この身を預けてもいい」
そっと俺の腕に添えられる手。その手が小さく震えているのが、着込んだローブ越しに伝わって。
「アメリア……! 俺は……俺も……」
告げようとした言葉を、しかし彼女はその人差し指ですっと止めてしまった。
「今は、まだ。……全て終わってから、無事に部屋を出られたら、教えてください。ゼルガディスさんの、気持ち」
「…………ああ、分かった」
「本当にいいんだな?」
その場に座り込み、向かい合う。俺の再三の問いに、彼女はむくれた顔をした。
「もう、しつこいですよゼルガディスさん。せっかく覚悟を決めたんだから恥を搔かせないでくださいっ」
「そう、だが……」
――とはいえ、なあ。……我ながら意気地が無い。
「散々色々試したのに開かなかったのよ? ほら、こうやって両腕を交差させて『エーックス!』って叫べば出られるって言うならわたしだってこんなに……」
ピンポーン。……ガチャン。
それは本当に唐突に。部屋に響き渡った馬鹿みたいに軽い音は、俺たちをその場で凍らせた。
「え……?」
俺たちは顔を見合わせる。彼女は、その両腕を顔の前で交差させたまま。
そして扉は音もなく開き、明るい陽射しが部屋に差し込んだ。
「…………」
「………………、」
しばしの沈黙。二度目。そして。
「「……いや出られるんかーーーーいっっっ!!!!」」
俺たち二人の絶叫が響き渡ったのは、言うまでもないのであった。
おしまい。
「……なんだ、ここは……?」
ぽつりと呟き、俺は重い瞼を擦ってゆっくりとその身を起こす。見覚えのない部屋は殺風景で、家具らしい家具も見当たらない。自分は床にぽつんと敷かれた白いマットの上にその身を横たえていた。……そして、その隣には。
「んん……あれ、ゼルガディスさん……?」
「アメリア」
普段と同じ、旅装束姿のお姫様が居る。むくりと起き上がった彼女は、きょろきょろと辺りを見回してから俺とまったく同じ感想を呟いた。
「なんですか、ここ?」
「知らん。俺も今目を覚ました所だ」
「ええー? わたしたち、宿に居ましたよね……というか、リナ達は……?」
「それも知らん。俺たち以外には誰もいないようだが」
そう、俺たちは四人での旅の途中だった。つい数刻前に宿で受付を済ませ、各自部屋のベッドに入った所だった……そのはずだ。それが、どうしてこんな何もない部屋で目を覚ます事になったのだ?
ひとまず立ち上がり、俺は目の前にあった白い扉のドアノブに手を掛けた。
「……、」
――案の定、扉は開かない。
俺は腰の剣に手を伸ばす。するりと引き抜いて、そして目の前のドアを一閃した。が、その一撃は扉に何の影響も及ぼす事は無かった。……結界だろうか。弾かれたというよりも、攻撃を何処か別の空間へ飛ばされたような感覚だった。
「何かのワナかしら」
後ろで腕組みをするアメリアに、俺は一つ頷いてみせる。
「……そうかもしれん」
俺たち二人を眠っている間に運び出し、わざわざこんな密室に閉じ込める。そんな事は普通の人間には不可能だ。ならば、十中八九魔族が関わっているに違いないだろう。俺たち二人だけを此処に閉じ込めたのも、戦力の分断が目的かもしれない。
「気を抜くなよ。何かが潜んでるかもしれん」
ぴり、と張り詰めていく空気。密室。……やけに明るい部屋だが、窓が無い為今の時間が全く不明だ。このまま閉じ込められたままでは、部屋の空気も薄くなっていくだろう。早くこの状況を打破しなければ。
――と、その時。唐突にそれは現れた。
「……ゼルガディスさん!」
アメリアが指差したその先。……さっきまでは確かに無かったのに。部屋唯一の扉、その上。看板のように、横長のプレートがいつの間にか設置されている。そこに浮かび上がる文字は。
「……〇ッ〇スしないと、出られない部屋……?」
「…………はぁ?」
「…………」
「…………」
しばし、沈黙が部屋を支配する。……それを破ったのはアメリアの方だった。
「〇ッ〇ス……って何だと思います?」
引き攣り笑顔の彼女の声は小さく震えている。――大体想像がついているのだろう、彼女にも。
「……俺に聞くな」
「いや、いや、もしかしたらわたしたちが想像してるのとは全然違うアレかもしれないじゃないですかっ!」
ぐわっと身を乗り出して拳を握るお姫様に、俺は苦虫を噛み潰した顔をする。
「……ほう。ちなみにお前さんが想像してるのは一体どのアレだ」
途端に彼女は拳を握ったまま固まった。赤い顔が徐々にぷるぷる震えだす。
「えっ……あ、うぅ……ゼルガディスさんのエッチッ!!」
ぶうん、と振りかぶられた拳。その拳に何か恐ろしい力が乗っている。
「おいやめろっ、そんな馬鹿みたいなノリで本気の拳を向けるなっ!!」
慌ててその拳を避ければ、彼女はその手で頭を抱えた。
「くぅっ、こんな邪悪な部屋を作ったのは一体誰なの!? なんて悪っ! 悪も悪っ!」
ウワ―ッと頭を抱えて叫ぶアメリアをよそに、俺は小さく溜息をつく。
――俺とアメリアは恋人ではない。旅の連れ、それ以上でも以下でもない。……それは、俺自身の彼女に対する感情とは全く別問題だ。
恋人同士でもない人間同士で、セックスなんて出来る訳がない。それは倫理観の問題でもあり、そして、俺とアメリアの立場の違いの問題でもある。……一国の王女相手に、足を洗ったばかりの日陰者が。
精霊呪文、白魔法、その他物理的な攻撃。改めて、この部屋の扉を開ける方法を数々試しては失敗して。扉ではなく、部屋の壁を壊す事も不可能だった。
「……、」
もう、試していないのは看板に書かれた方法のみ。
「ゼルガディスさん」
立ち尽くす俺に掛けられた声。俺を見上げる彼女の目には、どこか覚悟を決めた色があった。
「……なんだ」
「わたしは、良いですよ。試しても」
「っ、馬鹿を言うな! そんな軽々しく……っ」
慌てる俺の言葉を遮って、彼女はキッと語気を強める。
「馬鹿にしないで! ……軽々しく、言うわけがないじゃない。……貴方なら、良いと言っています」
「アメ、……リア」
「これ以上、ここで時間を潰している時間は無い。今、この部屋の外で何が起こっているかも分からない。……わたしはセイルーンの王女、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンよ」
王女の言葉は重い。この部屋が魔族の罠なのであれば、当然、俺たちをただ閉じ込めるだけで済むはずがない。俺たちをただ長時間閉じ込めるのであれば、その間に何か恐ろしい企みが進んでいるのかもしれない。――この部屋を出る、その為の選択肢が提示されているのに、見過ごす事など許されない。
「貴方なら、この身を預けてもいい」
そっと俺の腕に添えられる手。その手が小さく震えているのが、着込んだローブ越しに伝わって。
「アメリア……! 俺は……俺も……」
告げようとした言葉を、しかし彼女はその人差し指ですっと止めてしまった。
「今は、まだ。……全て終わってから、無事に部屋を出られたら、教えてください。ゼルガディスさんの、気持ち」
「…………ああ、分かった」
「本当にいいんだな?」
その場に座り込み、向かい合う。俺の再三の問いに、彼女はむくれた顔をした。
「もう、しつこいですよゼルガディスさん。せっかく覚悟を決めたんだから恥を搔かせないでくださいっ」
「そう、だが……」
――とはいえ、なあ。……我ながら意気地が無い。
「散々色々試したのに開かなかったのよ? ほら、こうやって両腕を交差させて『エーックス!』って叫べば出られるって言うならわたしだってこんなに……」
ピンポーン。……ガチャン。
それは本当に唐突に。部屋に響き渡った馬鹿みたいに軽い音は、俺たちをその場で凍らせた。
「え……?」
俺たちは顔を見合わせる。彼女は、その両腕を顔の前で交差させたまま。
そして扉は音もなく開き、明るい陽射しが部屋に差し込んだ。
「…………」
「………………、」
しばしの沈黙。二度目。そして。
「「……いや出られるんかーーーーいっっっ!!!!」」
俺たち二人の絶叫が響き渡ったのは、言うまでもないのであった。
おしまい。