グループZAZA

「君が代」不起立処分大阪府・市人事委員会不服申立ならびに裁判提訴当該15名によるブログです。

これからの大阪の教育―憲法・人権教育の観点から考える―レジュメ 高作正博さん

2013-01-29 22:53:19 | Tネット通信(ブログ版)

※高作正博さんの了承を得て、掲載します。

これからの大阪の教育――憲法・人権教育の観点から考える――

 作 正 博 (関西大学法学部)

序――「教育を受ける権利」の観点

(1)生徒の教育を受ける権利

 ①自由権的側面――国家介入の過剰(過度の国家介入)の排除

  *学習権の保障;子供が教育を受けて学習し、人間的に発達・成長していく権利

  *旭川学テ判決(最高裁昭和51年5月21日大法廷判決)

-「国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発展し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有する」。

   -教育に「政治的影響が深く入り込む危険」を考慮

 ②社会権的側面――国家介入の過少(過度の国家不介入)の排除

  *権利内容;国家に対して合理的な教育制度の整備と適正な教育とを要求する権利

  *旭川学テ判決(前掲最高裁昭和51年5月21日大法廷判決)

   -「学習要求を充足するための教育を自己に施すこと」を要求する権利

  *義務教育無償の意義(最高裁昭和39年2月26日大法廷判決);「授業料不徴収」

(2)教師の教育の自由

 ①教師の教育の自由;教師の専門職性故に保障される自由

*「子どもの教育が教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ、その個性に応じて行わなければならないという本質的な要請」(旭川学テ判決)

 ②職務権限の独立性・自律性の保障

  *憲法第23条「教授の自由」、教育基本法第16条「不当な支配」の禁止

-「不当な支配」;教育の自主性を阻害する危険のある党派的勢力・個人による教育への介入・干渉

  *独立性・「不当な支配」禁止と指揮命令関係(法律・学習指導要領)との緊張

   -「直接の人格的接触」が子どもにとって有害かどうか

   -教育委員会の統制権限の範囲と限界

  *独立性が侵害された事例;東京都立七生養護学校事件

-都議等の行為は侮辱に該当し違法、都教委の不作為・厳重注意は違法(東京地裁平成21年3月12日判決、東京高裁平成23年9月16日判決)

  *独立性の範囲逸脱の事例;伝習館事件(最高裁平成2年1月18日判決)

 

1 「教育」の現状――「教育改革」の流れ

(1)「規制」の緩和

 ①基本的な考え方;公費削減、学校の閉鎖性・密室性批判、市場原理の導入

  *社会権としての保護から「競争」による向上へ → どちらも生徒・親の利益

  *競争・民間活力の導入 → 教員免許更新制、教員評価の推進、民間人校長の導入

 ②「選択」と「参加」の自由

  *選択の対象;学校選択制・学校間競争、予算配分上の措置、統廃合

  *選択の基準;学力テストの実施・結果公表(都道府県別・市町村別・学校別)

  *参加の機会;PTAによる親・教師の対話、学校評議会(校長諮問機関)への参加

 ③競争原理導入の理屈と問題点

  *理屈;学校の活性化・効率的運営 ←→ 画一性、平等性、中立性

   -適正な規制と適正な競争のバランスが必要

  *問題点

   -子供の精神面に現れる問題(モラル・ハザード、学校・教育の序列化・較差化)

   -「生活格差」と「教育格差」との連動、「選択からの排除」の固定化

   -選択からの排除へ、教養からの排除へ、就業機会からの排除へ、格差の連鎖へ

(2)「規制」の強化

 ①基本的な考え方;政治の介入、首長への期待の増大、改革の「抵抗勢力」の排除

  *政治介入の排除から「民意」による改革へ → どちらも生徒・親の利益

  *「上からの改革」 → 例;府立エリート校の重点化(大阪)

 ②教育内容の変化

  *学習指導要領;詳細な教育内容の決定、学校・教師への詳細な指示

  *教科書採択をめぐる動向;沖縄・八重山の採択問題 → 政治介入による混乱

   -事実経過

八重山地区(石垣市・竹富町・与那国町)

県・文科省の対応

A 採択協議会会長の石垣市教育長

①協議会規約を改正

②協議会委員から学校関係者を排除

③育鵬社の採択を可能とする人員構成

④教科書調査員の報告から順位付け廃止(調査員の推薦以外の教科書も選定可能)

D 県教育委員会

・3市町の教育委員全員の協議と採択を有効とした。

F 文科省

・「E」の文書を正式の文書とした。

・石垣・与那国には育鵬社を無償供与。しかし、竹富町は育鵬社を採用しなければ、東京書籍を町費で買って供与するよう主張。

B 協議会

①5分の協議で、推薦されていない育鵬社公民を選定・答申。

②石垣市、与那国町は採択。しかし、竹富町は拒否・不採択。

C 3市町の教育委員全員の会議開催

・育鵬社の不採択、東京書籍の採択決定。

E 与那国・石垣の教育長

・勝手に公印を捺して公文書番号を記して「C」の協議は無効、という「直訴状」を文科省に送付。

   -「C」の採択決定の有効性を争う訴訟(那覇地裁平成24年12月26日判決)

 ③教師に対する対応の変化

  *教育目標・学校評価を通じた統制の強化

   -教育基本法「改正」(2006年)、教育目標の規定の組み込み(第2条)

   -学校評価の義務;自己評価の実施・公表の義務づけ、学校関係者評価の実施・公     表の努力義務

   -学校評価の実施;PDCAサイクルの導入、学校目標・教師の教育目標の点検

   -学校評価の行方;授業評価アンケート、人事考課制度・給与査定

  *組織改革を通じた規制の強化

   -職員会議の位置づけ・運営;校長の職務の円滑な執行のための場、校長「主宰」

   -新しい職種の設置;副校長・主幹教諭・指導教諭 → 組織のピラミッド化

  *規律・命令の強化と処分の徹底

 

2 「教育」の行方と課題――大阪における「教育改革」

(1)4条例の制定とその影響

 ①4条例の制定

  *「国歌起立斉唱強制条例」

  *「教育行政基本条例」(平成24年3月23日可決)

   -知事と教育委員会との協議による「教育振興基本計画」作成(第4条第1項)

   -基本計画の進捗を管理するため「点検」「評価」「報告」(第6条第1項)

   -「基本計画に定めた目標の達成のために必要な措置」(第7条第1項)

   -点検・評価に基づき「罷免事由に該当するかどうかを判断」(第7条第2項)

  *「府立学校条例」

   -府立高校の配置につき「3年連続して定員に満たない」「改善する見込み」なし     → 「再編整備」(第2条第2項)

   -「高等学校の通学区域」は「平成26年4月1日から府内全域」(第2条第3項)

   -校長は「学校経営計画」を策定、「学校協議会の意見を聴く」(第7条)

   -保護者等への説明責任・参加促進のため情報を積極的に提供(第9条)

   -「学校評価」(第10条)、評価結果の「学校経営計画」への反映(第11条)

   -校長の採用は「原則として公募」、職員以外の者は「任期」付き(第16条)

   -教員評価(校長による。「授業に関する評価」は「生徒又は保護者による評価を     踏まえる」。第19条)

  *「職員基本条例」

   -「人事評価の結果は、任用又は給与に適正に反映」(第14条第2項)

   -人事評価は「相対評価」(第15条)

   -職務命令違反の場合の処分

    1)「標準的な懲戒処分は、戒告」(第27条第1項)

    2)1)の場合、「指導、研修その他必要な措置」(第29条第1項)

    3)1)で「再度職務命令」違反の場合、「免職」もありを文書で警告(同条第2項)

    4)2)3)の後も「職務命令」違反を繰り返し、「その累計が5回(職務命令に違反      する行為の内容が同じ場合にあっては、3回)となる職員に対する標準的な‥      ‥処分は、免職」(第27条第2項)

 ②全国的な動向との一致

  *競争原理、「選択」と「参加」により消費される教育

  *政治による教育内容の決定、「評価」と「処分」による統制

 ③憲法・法律からの逸脱

  *「教育基本条例案」についての文科省の見解

「『知事による教育目標の設定』については、‥‥地方公共団体における『教育目標』の設定は、その内容が、同法第24条の規定により又は同法第24条の2の規定に基づく条例により地方公共団体の長の職務権限に属するとされた事項に係わるものである場合を除き、教育委員会の職務権限に属するものであり、地方公共団体の長にその職務権限はないと考えられる。」

  *処分の基準の画一性・不当性

「過去2年度の3回の卒業式等における不起立行為による懲戒処分を受けていることのみを理由に同上告人に対する懲戒処分として停職処分を選択した都教委の判断は、停職期間の長短にかかわらず、処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、上記停職処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するのが相当である」(最高裁平成24年1月16日判決)

(2)「大阪府教育振興基本計画」(素案)の内容

 

結び――「改革」の方向を正す

(1)「ある国」の話

 ①「授業についていけない子を出さない」国

  *能力別クラスの廃止、少人数教育(小学校25人、中学校18人)

  *教育費(教材費・給食費含む)の無償;就学前教育から大学院まで

  *「国家カリキュラム」の役割;最低限の指針

 ②破綻寸前の「競争主義」教育の国

  *競争原理導入、国家管理・学校監視 → 「テストのための教育」「生徒は顧客」

  *「国家カリキュラム」による教師の拘束

  *階層の固定化

(2)改革の行方、日本の未来

 ①「市民」像?;「勝ち組」は海外移住、市民は貧困の苦しみを「日の丸」で埋める

 ②「改革」像?

  *教師・親・生徒の関係性の再構築――「消費」の対象ではない教育

  *教師集団の専門性・自律性の回復――教育と政治の適切な関係

 

【参考文献】

・「特集・教育をめぐる危機と展望」『法と民主主義』465号(2012年1月)2頁以下

・ミルトン・フリードマン、村井章子訳『資本主義と自由』(日経BP社、2008)

・ピエール・ブルデュー、ジャン=クロード・パスロン、石井洋二郎監訳『遺産相続者たち――学生と文化』(藤原書店、1997)

・沖縄タイムス社『学力ってなに――「最下位」の衝撃を超えて』(2008)

・志水宏吉『検証・大阪の教育改革』(岩波ブックレット、2012)

・広田照幸編『自由への問い5・教育』(岩波書店、2009)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

これからの大阪の教育―憲法・人権教育の観点から考える―① 高作正博さん

2013-01-29 20:55:32 | Tネット通信(ブログ版)

※本日、職場の人権教育研修で、高作正博さんから「これからの大阪の教育―憲法・人権教育の観点から考える―」というテーマでご講演いただきました。

目前の仕事に追われる毎日ですが、私たちの仕事が日本の教育、大阪の教育のどのような流れのなかに位置しているかを明確にとらえることができたように思います。

シリーズでその内容をお伝えします。

これからの大阪の教育―憲法・人権教育の観点から考える―①

まず、最初に、「教育を受ける権利」の観点についてお話しいただきました

戦後の憲法学、教育学は生徒の教育を受ける権利をどのように捉えているか、その到達点として次の2点を示されました。

自由権的側面―教育に対する過度の国家介入の排除。教育に対して政治的な介入を許さない権利。

社会権的側面―国家に対して合理的な教育制度の整備と適正な教育とを要求する権利。

つまり、国家の教育への過度な介入を排除することと、逆に学習権を保障するために国家の介入が必要ということは、どちらも教育の権利として主張することができるということになります。

次に「教師の教育の自由」についてですが、これはあたりまえのことですが、と前置きされたうえで次のように話されました。

教師の専門職性ゆえに保障される自由、憲法の保障されているところの学問の自由とは教授の自由も含まれると。

また、職務権限の独立性・自律性の保障として、教育基本法において、「不当な支配」は禁止されている。

教育の自主性を阻害する危険のある党派的勢力・個人による教育への介入・干渉は許されない。

教員は公務員組織として上意下達の指揮命令関係にはあるが、教師としての「直接の人格的接触」が子どもにとって有害かどうかが判断基準となるとのことです。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする