北大路機関

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【映画講評】ガメラ3-邪神覚醒(1999)平成ガメラシリーズ最終作品は非戦闘員被害から脱落防止まで描ききる

2023-03-05 07:00:21 | 映画
■BS12日曜アニメ劇場
 この作品が興行収入でもう少し伸びていればガメラ4が製作されていたというちょっと時代を先取りしすぎた作品です。

 ガメラ3-邪神覚醒、BS12日曜アニメ劇場にて本日1900より放映とのことです。この作品は若干SF要素とともにファンタジー的な要素を盛り込んだ作品となっていまして、平成ガメラシリーズ三部作でも異色の存在、といわれるところですが、自衛隊戦車がガンガン頑張るガメラ2も異色でしたし、古代文明の生物兵器という設定のガメラ自体、SFです。

 金子修介監督と樋口真嗣特技監督に伊藤和典脚本という、平成特撮の金字塔的な存在ですが、本作は二つの意味でリアリティを追求したものです。その筆頭は“怪獣同士が戦い、一方が人類の味方をしたとしても、巻き込まれる市民はどうなるのか”という素朴ですが娯楽映画ではかなり禁忌となっている題材を正面から描いた、ということでしょうか。

 ゴジラvsビオランテ。実は過去にリアリティを盛り込んだ特撮映画は存在しました、東宝が1989年に公開したゴジラvsビオランテです、抗核エネルギーバクテリアという新技術と、生命の創造という禁忌、この二つを盛り込むとともに特撮映像をかなりリアリティを盛り込み制作しました、けれどもこれが子供たちの付表に繋がってしまった、やりすぎ。

 ゴジラ、1984年版でもゴジラに対して水際撃破を試みる陸上自衛隊が東京港晴海ふ頭で大損害を被る際、熱線で警戒に当たる自衛隊員が部隊ごと蒸発する描写や、逃げ回る戦車と火のついたままのたうちまわる隊員と、踏み込んではいたのですが。いや、1954年版のゴジラでも路地で熱線に焼かれる描写、ガメラ一作目でもビルごと蒸発する描写はあったが。

 ガメラ-大怪獣空中決戦、平成ガメラシリーズの一作目で間接的ではありますが人間を好んで捕食するという怪獣ギャオスの描写に、やりすぎか、というところはありましたが、これは受け入れられたといいますか、リアリティとして理解されたことで、平成ガメラシリーズは免罪符を得た、そこにリアリティを検証という新しい一歩を開拓できたのでしょう。

 東京を舞台に前半の、あまり紹介しますとネタバレになってしまいますが、怪獣同士が本気でやりあう最中に、避難できなかった人々がどうなるのか、という描写は描かれています。いや、逆にこの視点を含めることができたからこそ、シン-ゴジラやシン-ウルトラマンといった単純な勧善懲悪ものではない、量産しにくいが特撮を一歩前に進めたといえます。

 自衛隊の描写、第3師団管内の方は是非みるべきでしょう、来月の信太山駐屯地祭までに録画でもDVDでも見ておきますと、ああここの正門だ、とわかります。自衛隊の描写はかなりリアルです、演じているのは第1師団の方も交じってるという事ですが、尖兵小隊として普通科連隊から前進して監視していた隊員が攻撃を受け、軽火器で戦う描写など。

 64式小銃と62式機関銃、公開された1999年は車両こそパジェロに高機動車、実写が出てきますが89式小銃は十分いきわたらず、小銃と機関銃は旧式、ただカールグスタフはすでに配備されていました、有名なのは“脱落防止”、演習中に弾倉なんかを紛失すると大変なことになりますので一つ一つ紐で結んでいるのですが、これが機能している描写がある。

 62式機銃も戦国自衛隊のようにばかすか撃ちまくるのではなくいたわる様にバースト射撃している、カールグスタフこと84mm無反動砲を射撃する際には後方爆風に注意する、なにかこう微妙にリアルなのですよね。怪獣が空に逃げればE-2C早期警戒機が監視し、F-15戦闘機が、という具合です。京都怪獣案内というべき一作、ぜひご視聴をお勧めします。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【映画講評】インディジョーンズ-最後の聖戦(1989)支援と関心を!聖杯遺跡舞台はトルコ地震被災地ハタイ県

2023-02-23 14:11:44 | 映画
■映画を通じて世界を視る
 祭日という事でDVDの映画を観よう!写真は著作権なんかの関係上せいいっぱい適当に出先で撮ったものを代用しているのは温かい目で見守っていてくださいね。

 トルコのハタイ県、震災被害に見舞われているのですが、もう少し日本でも関心を持つべきように思うのです、それは同情や憐憫というような義侠心の押し売りではなく、実際のところ激甚被害を受けましたこのハタイ県という場所は日本でも、映画を通して既知の場所、というところかもしれません。災害の救済ではなく、歴史都市として知ることが重要です。

 インディジョーンズ-最後の聖戦、大学受験シーズンも私立大学入試が激戦となっている頃合いにトルコで発生した地震ですが、20世紀から21世紀にかけて劇場公開からテレビ放映、インディジョーンズ-最後の聖戦をご覧になっていない方はどのくらいいるでしょう。実はこの作品ロケ地はベニスにヴュレスハイムにペトラが挙がりますが、舞台はトルコだ。

 ジョージルーカス製作総指揮とスティーヴンスピルバーグ監督作品という、冒険映画の金字塔ですが、この作品はトルコの、しかし世界史を学ばれていてもここまで踏み込んだことは利かれないような近現代史の狭間を舞台として描いている、その舞台こそが今回地震被害に見舞われたトルコのハタイ県、オスマントルコとトルコ共和国の歴史の幕間が舞台だ。

 イエスキリストの聖杯を巡る考古学者と1930年代から1940年代の世界史を左右したナチス秘密機関との戦い、これを基にした作品で、実際のナチスが、神話を基に民族優位性を強調できないか、と考えたうえでアーネンエルベという機関を構築し、戦争に私情を持ち込むから負けるのだ、と思うのですが、こうした史実が創作の世界観にリアリティをあたえる。

 ペトラ遺跡、ヨルダンの世界遺産であるペトラが撮影ロケ地として有名ですが、映画を丹念に見ていますとハタイ国、という国名が示されます。お恥ずかしいといいますか、調べる手段が限られていた映画初見の頃、私の場合はブラウン管テレビで見た世代ではあるのですが、映画も舞台である1938年という時代を、あまり歴史として学ぶことが日本では少ない。

 ハタイ共和国、聖杯の遺跡が眠るのはトルコ南部、と字幕されたうえでハタイ国という地名が示されます。初見から、いや近代トルコ史について知己と資料を得るまではこの映画の創作の国ではないか、と誤解していたのですが、ハタイ国はオスマントルコの混乱とともにトルコから切り離されそうになるところを踏みとどまった、こうした歴史の狭間の実話です。

 オスマン帝国が第一次世界大戦終戦に際して連合国との間で締結したムドロス休戦協定が結ば れますと、オスマントルコは分割され、小アジア半島までもが各国占領により国家として消滅するかという危機に際し、ケマルアタチュルクを中心に進歩派軍人や知識人が立ち上がり、トルコ独立戦争が勃発、ローザンヌ条約締結により国家を維持したことはまなぶ。

 テキサス、アメリカにおけるテキサスのような位置づけなのかもしれない。テキサスもテキサス合衆国の成立経緯をみると興味深い。こう解釈しますと歴史に詳しい方には少々反感を持たれるかもしれませんが、ムドロス休戦協定により連合国に占領された小アジア半島諸国にあって、この地域はアレクサンドレッタ県であり、フランス軍に占領されています。

 ローザンヌ条約を締結した際にフランスはこの地域を分割する意思を見せますが、この地域はフランス占領下でも特別自治区となっていたが初代大統領となったケマルアタチュルクは、国際連盟に提訴し激しく抗議、するとフランスは占領地の一部がシリアとして独立する際に、この地域も独立を認めることとし、1937年にハタイ国として独立を承認します。

 アレキサンドレッタ、イスケンデルン、インディジョーンズ-最後の聖戦、劇中に話を戻しますと、イエスキリストの聖杯が眠る遺跡への経路の起点はイスケンデルン、地中海沿岸都市で人口は宇治市くらいの、海運か水運の違いはあれども、しかし避暑地であり観光都市という点が共通する街並みの名が出てきます。ここが震災の話に戻しますと被災地という。

 フランス占領下に話を戻しますと、ハタイ国として独立を認めた際に、初の民主選挙を独立国であるにもかかわらずフランス軍政下で行おうとしまして、反発したトルコ政府はトルコ軍派遣に踏み切ります。ただこれは見方を変えれば日清戦争のような印象を受け手によっては持ちえますので、1930年代という歴史の複雑さを理解する必要もあるのですが。

 共和制にこの選挙を以てハタイ国は移行するのですが、現代トルコ独立の父というべきケマルアタチュルクは、このハタイ本土復帰問題を最後まで心にとどめたのちに1938年、この世を去ります。しかし歴史は興味深いもので、ケマルアタチュルクの遺志を継ぐ様にハタイ共和国議会は1939年にトルコとの統合を決意、独立から2年で本土に復帰しました。

 映画のシナリオには登場するのですが、しかし映画が制作された1980年代後半、映画公開は1989年、イスケンデルンは近代化されていましたしロケ地としての交渉が難しかったのでしょうか、ロケ地はトルコ山間部のドイツ軍との戦いをスペインのタベルナス地方、バルジ大作戦のようにスペインではこうした映画が良く撮影される、そしてヨルダンなどで。

 ブルンヴァルト城のロケはドイツ西部の、当時は西ドイツか、ビュレスハイム城で行われましたし、コロラド州のロケは先住民の聖地であるとして反対を受けユタ州アーチーズ国立公園でロケが行われています。まあ、映画で神戸のシーンなのに横浜マリンタワーが映っているようなものですね。ともあれ、ハタイ県をこうして映画の背景として見ている訳です。

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【映画講評】ガメラ2-レギオン襲来(1996)平成特撮が挑んだ"リアリズムへの挑戦"と安全保障を考える映画

2023-02-19 18:22:44 | 映画
■BS-12日曜アニメ劇場
 ガメラ2が放映されると聞きますと少し心躍る。津波で原発が吹き飛び世界中が新柄ウィルス蔓延に曝されロシアが隣国に侵攻し核戦争の危機が続き元総理大臣が選挙演説中に暗殺される昨今ですが。

 ガメラ2-レギオン襲来、その4Kデジタル修復版が今夜1900時からBS-12の日曜アニメ劇場にて放映されます。BS-12というのは無料BS放送で衛星放送受信が可能なテレビでしたら誰でも視聴することができるデジタル多チャンネル時代の恩恵というところでしょうか、なにしろ衛星放送、地方に関係なく日本全国一律に見ることができ感想を共有できるのです。

 自衛隊が全面的に協力し、ああこの90式戦車が走っている場所は駐屯地祭でだれもが横断しているあの坂道ではないか、とすごく有名な場所がしれっと登場しますし、ああこの戦車部隊が集結しているのはあそこの駐屯地記念行事で、普通に式典車両が並んでいるところではないか、というどこかで見たような風景が登場するのも、ある意味見どころといえる。

 駐屯地祭、COVID-19によりなかなか行えないところなのですけれども、さりげなく真駒内駐屯地に第11戦車大隊が駐屯していた時代の様子が、モータープールに74式戦車の並ぶ様子ということで出ていたり、ああここでCH-47の体験飛行や地上滑走に乗ったよ、というような一角が出てきますので、行事によく行く方ほどたのしめるのかもしれません。

 平成ガメラシリーズの第二弾に当たるこの作品は、Weblog北大路機関をご覧になるような、安全保障に多角的な関心を持たれる方には是非一度、いや何度でも見ていただきたいという作品で、これは日本の平成特撮に新しい潮流を吹き込んだ野心的な作品、特に平成ガメラシリーズでは、ガメラをもう一度、という一点に集中し、題材を深めることが難しかった。

 平成特撮、その最大の特色は歴史的なヒット作となりました“シン・ゴジラ”、庵野秀明監督のゴジラを実際の危機管理という側面から説得力を持って映画として描き、連隊長を演じたのちに麻薬で引っ張られる役者さんがヘルメットバンドを装着していない以外は、あとは陸幕副長が陸将でなく陸将補である以外は徹底したリアリズムに徹した点があります。

 巨大生物災害、もしこうした危機管理の想定外における事態が発生した場合に、既存の政府機関や防衛当局はどのように動くのだろうか、この視点をかなり綿密に踏み込んだというのがこの本作“ガメラ2-レギオン襲来”の一つの特色となっています。そしてこの点で庵野秀明監督の“シン・ゴジラ”と重なるのは樋口真嗣特技監督の拘りが反映された仕上がりです。

 樋口真嗣特技監督、この特撮世界の巨人が挑んだリアリズムへの挑戦が、庵野秀明監督の“シン・ゴジラ”と重なりまるのは意外でもなんでもなく、庵野秀明監督と樋口真嗣特技監督は、1982年にダイコンフィルムが制作しました特撮映画“八岐大蛇の逆襲”にてともに製作現場に助け合ったという背景がありまして、方向性で重なり合うものがあるのですね。

 エヴァンゲリオン、庵野秀明監督といえば1990年代の日本アニメーション史に大きな影響を及ぼし、2020年代に劇場版のかったいでようやく完結を見ました新世紀エヴァンゲリオンの総監督として著名ですが、樋口真嗣氏は策が監督などでこの作品に大きく関与していますし、そもそも主人公碇シンジの名は樋口真嗣のシンジからとられたとさえいわれます。

 機動警察パトレイバー 2 the Movie、1990年代のアニメーション史に大きな影響を与えた作品として多数ある作品の中からもう一つ忘れてはならないのは押井守監督の“機動警察パトレイバー 2 the Movie”が挙げられます。この作品もリアリズムに挑戦したアニメーション作品の一つであり、地球温暖化による海面上昇を背景に建機の発達が作品の背景という。

 パトレイバーという架空の人員作業用機械は、もともと地球温暖化による海面上昇を背景に日本の沿岸部の主要都市部を海面上昇から護岸するべく東京湾埋め立て事業が開始、この作業効率向上のために開発された人型工機が犯罪に悪用されるために警視庁がこの建機を警備部に試験配備するという、これもリアリズムとロボットを融合させた作品でした。

 伊藤和典氏、ガメラ2-レギオン襲来の脚本を担当されている方ですが、この方は機動警察パトレイバー 2 the Movieの脚本も担当されていまして、いうなれば平成ガメラシリーズというのは特撮や場面構成などで機動警察パトレイバーと新世紀エヴァンゲリオンの二つを調和させ実写としたような作品といえるかもしれません。似たような場面も多々でます。

 リアリズムへの映画の挑戦、押井守監督の普段の発言などに端的に示されていますが、戦争というものの非日常性への警鐘というものを、こうした特撮から考えとることができるかもしれません。こういいますのも、安全保障という問題は非日常に思われるかもしれませんが、厳然たる有事は政治や法整備に想定されているもので、目を向けていないだけといえる。

 自衛隊がこの作品には全面協力していまして、87式自走高射機関砲の実弾射撃はおそらく映画では初めてではないでしょうか。その前任であるL-90高射機関砲は特撮番組“大鉄人17-ワンセブン”にてしっかり描かれているのですけれども。こうした協力も募集広報の一助という視点もあるのでしょうが、非日常の有事への広報という側面も皆無でないでしょう。

 第1師団に90式戦車はないよ、と反論が出てくるかもしれませんが防衛出動に際し富士教導団を戦闘加入させた、と理解すれば問題ないでしょう。第11師団なんてない、というかたは真駒内駐屯地の第11旅団はむかし第11師団だったんですと反論したい。前作で高射中隊長だった大野3佐が師団司令部幕僚というのはなあ、というのは多分頑張ったんです。

 金子修介監督、しかし本作の監督は樋口真嗣特技監督ではなく金子修介監督が総監督であるはず、こう反論があるのでしょうが、現場はいろいろ大変だったようです。こんな個性の強い二人を、よくまとめられたなあ、と思いながら、リアリズムというものに挑戦し始めた日本特撮、日曜日の夜という事でこれをじっくりと見ていただければ、と思うのですね。

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【映画講評】太平洋の嵐-ハワイ・ミッドウェイ大海空戦(1960)【2】いまみる戦争記憶生々しい時代の映画

2022-08-14 07:02:50 | 映画
■戦後映画史に残る大作
 終戦記念日が近い事もありますしCOVID-19の感染拡大も凄い事になっていますので映画鑑賞は中々安全ながら連休らしい愉しみとおもえます。

 太平洋の嵐。1960年の東宝映画です。そして第一回でも記しましたが副題は“ハワイ・ミッドウェイ大海空戦”というものでして、その名の通り、真珠湾攻撃とミッドウェー海戦という、太平洋戦争最初の半年間を描いた作品となっています。主人公は北見中尉、九七式艦上攻撃機の搭乗員、今でいえばF-2戦闘機、艦載機ですのでF/A-18Eにあたる。

 昭和の日本映画、とはなっていますが関心事の高い題材という事で予算は大きなものが組まれていまして、千葉県勝浦に実物大の空母飛龍が再現されています。海岸に組まれた撮影セットは、飛行甲板に多数の艦載機が並ぶもので、実物の太平洋大海原の波を背景とした撮影を可能としており、勿論動くものではありませんが作品に臨場感を与えています。

 真珠湾攻撃、冒頭には“昭和十六年十二月-日米関係は最悪の常態にあった”というナレーションから始まるとともに夜明けの北太平洋を往く空母飛龍、北見中尉が舷側通路から飛行甲板へ赴く様子が長廻しで撮影され、九六式25mm三連装機銃群と零式艦上戦闘機に九九式艦上爆撃機に九七式艦上攻撃機、このセットの巨大さを余すところなく描きました。

 戦後というよりも戦争の記憶を残している時代、北見中尉を演じる夏木陽介さんは戦前生まれですが従軍経験はありません、ただ、共演する鶴田浩二さんは特攻隊の整備員でしたし、三船敏郎さんも応召し偵察機の写真員となり終戦時は飛行第百十戦隊で特攻隊の教官、池部良さんは応召し見習士官となるも輸送船を撃沈されハルマヘラ島に漂着、死にかけた。

 ハワイ・ミッドウェイ大海空戦、いまのCG技術を駆使するならばもっと凄い映像を撮れることは確かですし、オープンセットを組まずとも空母飛龍と護衛艦ひゅうが、全通飛行甲板の規模ではほぼ同じですので、もちろん艦橋の形状もVLSなんてものも飛龍とは違うのですが、少なくとも戦時中の空母はこの大きさ、という認識は共有できるのでしょう。

 山口多聞を演じる三船敏郎、山口少将は厳しい訓練で事故よりも練度を優先するという姿勢とともに預けられた第二航空戦隊を、恐らく世界最強水準まで育て上げました。攻撃精神の塊のような指揮官で戦前に第一連合航空隊司令官を任じられた際には当時世界では異端な程の航続距離を有した九六式陸上攻撃機を駆使するも損害が多すぎた事で知られる。

 三船敏郎さんは、伝え聞く事を纏めた書籍等を俯瞰しますと真逆の職人的な俳優であるとともに、のちに三船プロダクションを設立した際の映画哲学など辿りますと、監督が意識する山口多聞像とともに、しかし何処まで行ってもヤマグチを演じるミフネの哲学が有るようにも思えます。つまり、この映画は“あの戦争は”の空気を意図せず深く描いている。

 松林宗恵監督作品。人間魚雷回天、潜水艦イ-57降伏せず、太平洋の翼、連合艦隊、戦争映画の有名な作品でもこれだけメガホンをとっている監督です。もっとも、森繁さんの社長シリーズでは社長三代記に社長太平記と社長外遊記や社長紳士録と社長千一夜と社長学ABCに社長忍法帖と、ざっと社長シリーズだけで23作も撮っている、多忙な監督さん。

 平和を今語る事は簡単だけれども、当時の空気がどのように醸成され、そもそも当時の価値観は、しかし昭和時代の価値観と大正時代の価値観は若干違い故に多彩な俳優陣が戦前に形成されていたから戦後の映画復興が在った事を理解すべきです。迫力ある映像を今の時代はCGで描く事が出来ても、何故その歴史に至ったかは、空気を知らねばなりません。

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【映画講評】太平洋の嵐-ハワイ・ミッドウェイ大海空戦(1960)【1】80年前のミッドウェー海戦包む空気描く

2022-08-11 14:11:44 | 映画
■ミッドウェー海戦
 本日は“やまの日”ですので、まやの日、としまして摩耶に因んだ映画でも紹介しようと思いましたが“ホタルの墓”くらいしか摩耶は出ていません、すると今年は、となる。

 太平洋の嵐。終戦記念日が近づく今日この頃ではあります、平和の大切さ、これは終戦記念日でも開戦記念日でも、学校教育の場でも政治の場でも強調されるところなのですが、なにしろ日本は1945年以降戦争を経験していません、平和とはなにか、この論点さえも曖昧模糊として、平和とは戦争をしないこと、なんていうあきらめた観念さえ広がっている。

 映画で、戦争を考える。終戦記念日も近づいてきましたし、敢えてこの視点をお勧めしたいと思うところです。映画は映像記録でも客観的事実の収斂でもありません、故に作り手の意図が反映されていまして、初見では空気といいますか映画の臨場感に飲み込まれる憂慮もあるのですが、公開から長く経た映画は分析や論評も多く、客観的に見る事は可能だ。

 東宝映画が1960年4月26日に公開した映画なのですが、何故この“太平洋の嵐”という古い作品の鑑賞をお勧めするかといいますと、今年2022年は映画が描いているミッドウェー海戦から80年という節目の年となります、節目ということは様々な分析や特集がテレビや専門誌や新聞などで組まれるところですので、一つ共有知識を得られる作品として、ね。

 ハワイ・ミッドウェイ大海空戦。副題はこうした長いものとなっています。そしてその題目の通り、1960年の視点で真珠湾攻撃、日本式の表現ではハワイ海戦というところでしょうか、この開戦から始まり、ミッドウェー海戦という開戦から半年後の転機、そしてその後の始まりまで一連の歴史の流れを一人の海軍士官北見中尉の視点から描くというもの。

 飛龍の艦攻隊搭乗員、北見中尉は九七式艦上攻撃機の搭乗員であり、上官で飛行隊長の友永大尉を鶴田浩二、厳しい訓練により艦隊練度を局限にまで磨き上げた第二航空戦隊司令官山口少将を三船敏郎が演じています。人懐っこく格好いい夏木さんは1936年生まれということで戦争には参加していませんが、演じられる俳優の少なくない方は従軍経験がある。

 21世紀というのは凄い時代で、ミッドウェー海戦について知識を得たければ皆様今お使いの端末やPCで“ミッドウェー海戦”を検索すれば即座にかなり詳細な、個人研究から事実の羅列まで、入手できる点です。これが1990年代となりますと案外に難しかった、書店は大きな書店を含め海戦に関する専門書の揃いにも限度があった、2000年代初めでも同じか。

 ミッドウェー海戦そのものの知識は得られても、例えば細部や背景となりますと図書館か古書店、なんてところを探さなければなりません、光人社の専門書が揃っている書店ならば、調べる事は多少容易だったのでしょうが関心を持ったとしても一定程度行動半径を広げなければ分らないものだったのですが、21世紀はこの部分が進んだように思うのですね。

 しかし、当時の感覚となりますと、相当調べると共に当時の当事者、海戦に参加した人が難しくとも、当時海軍にいた方のお話しなどを集めなければ、どうしてそうなったのか、こうした背景といいますか空気というものは判りにくいように見えます、しかし、当時の空気を知ろうにも、いまわたしたちは現代の空気の中に居ますので、その感覚は判り難い。

 映画ですので、友永大尉の飛龍飛行長着任はハワイ海戦後ではなかったか、だからミッドウェー海戦での判断が云々、いまの時代ですので知る事が簡単ゆえの、映画の演出というものに気付くところではありますが、映画予告編に“父や兄が血で染めた歴史”という、戦争の記憶が今から見て東日本大震災くらいに鮮明な頃に描いた作品は空気もつたえます。

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【映画講評】レッドストーム作戦発動(書籍1986)このフィクションは現ロシア軍ウクライナ侵攻の既視感

2022-05-04 18:11:41 | 映画
■ソ連軍西ドイツ侵攻が題材
 ゴールデンウィークも後半となりましたのでここでベルギービールでも傾けながら一つ読書と云うのは如何でしょう。

 レッドストーム作戦発動。今回は映画講評という題材ではありますが、実際は書籍の紹介です。1986年にトムクランシー氏とラリーボンド氏が共同執筆した小説なのですが、北大路機関を長く読まれている方ですと恐らく読まれた事のある方は、多いのではないでしょうか。そして、これも恐らくなのですが、今の報道を既視感を感じるのではないか、と。

 文春文庫から上下巻が1987年に発行されていまして、もう絶版なのですが文春文庫の青い背表紙の並ぶ外国作家の売り場でトムクランシーとラリーボンドといいますと、スティーブンキングの隣あたりにかなりの幅を占めている時代がありました、売られている期間も長かったものですから、古書店でもWebでも入手は比較的容易であるように思うのですが。

 ソ連軍が西ドイツに全面侵攻する小説です。そうした小説はいろいろ有るのは知っています、しかし何故戦争が始まるのかという部分に説得力を持たせる描写の作品となりますと、実は少なく、戦争に至る背景から実際に開戦するまでの準備まで、かなりの部分が割かれています、手に取ると上下巻なのですが共に500頁以上という読み応えがあるものです。

 ロシア軍がウクライナに侵攻している、現在進行形の戦争が続いている中なのですが、既視感といえる程に、小説の描写と現実の報道が重なっていまして、この描写は未だ無いな、とAFP通信やロイター通信などを見ていますと数日後にほぼ似た事象が現実のものとなっていまして、この現実味は何なのだ、と驚かされるよりも少々怖くなるという小説です。

 偽旗作戦、ソ連の主張ではドイツ人とされる人物がモスクワで爆弾テロを起こし、ソ連政府は西ドイツ政府への警察力を除く武装解除と西ドイツ国内のネオナチを放逐するよう要求し、要求の直後に全面軍事侵攻を開始します。二月にロシア軍がウクライナに主張した内容もネオナチの殲滅とウクライナの武装解除ですので、これも同じだなあ、と思った。

 ソ連軍は西ドイツへ軍事侵攻する際に、これは一読して頂くために内容は伏せますが、別の巨大な目的があり、その死活的利益を確保する為に敢えてNATOと戦端を開くというもの。その侵攻前には大規模な軍事演習を実施し、大量の戦車が遠く離れた目標に125mm滑腔砲弾を叩き込み土煙で標的が見えなくなる様子なども、何か今年報道で視た既視感で。

 それでも、驚いたのはロシア軍と政治将校やKGB軍との関係が、KGBは現在FSBに改組されていますが、ウクライナでの現実と同じ様に、占領地での反ロシアの疑いのある政治家の逮捕やネオナチ容疑者の無差別連行と殺人など、小説だからなあと祖父から聞いた満州での実体験は過去のものだろうと思っていますと、小説と現実報道が重なり驚くのです。

 ロシア軍はキエフ北部でダムを巡航ミサイル攻撃で破壊し、そのダムの結界により自分が渡ろうとしていた河川が氾濫し架橋部隊も流されたというAFP報道が先日ありましたが、実はこの様子も、作中にソ連軍はハノーバーに至るウェーバー川を渡河しようとした際に戦車連隊が大損害を受け、逆上した連隊長が渡る予定の橋梁を砲兵に破壊させる描写が。

 NATOの対戦車ミサイルにより戦車部隊が大損害を受ける描写や、通信能力不足から最前線視察を試みた上級指揮官の相次ぐ戦死、地対空ミサイルの過大評価によりNATOの低空飛行する対地攻撃機に全く手が出ないなど、NATOとソ連のフィクションですが、いまのロシア軍ウクライナ侵攻の現実を驚くほどに予見している、驚くべき小説となっています。

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【映画講評】イルカがせめてきたぞっ(1971)【2】イルカ軍の戦車はポルシェ245型軽戦車

2022-02-20 18:11:03 | 映画
■戦時下ドイツで設計の戦車構想
 イルカがせめてきたぞっ。有名なイラストですが聞けばガレージキットでイルカ兵の立体化が行われているという。そのイルカ軍戦車に自衛隊の戦車は対抗できるのか。

 イルカ。映画“オルカ”では石油施設を爆破するなど大暴れしていますが、実際のイルカを見ますと、知能が高いという事でロシアやアメリカの海軍特殊部隊で特殊部隊員を支援する任務に当り、軍用犬の水中版のように活躍しています、アメリカ海軍の特殊作戦用潜水艇にはイルカ用の区画がありまして、肺呼吸のイルカに海中でも呼吸できる設備がある。

 ジョーズ3、映画の中では巨大サメに立ち向かうも歯が立たない描写が在りましたが、実は逆で特殊部隊員が海中でサメに襲われた場合は、サメの弱点は鰓であり、この部分は衝撃に弱くイルカが体当たりしますと簡単に窒息させられる、特に巨大なサメは動きが概して鈍重で、意外にも小柄なイルカは爆撃機を襲撃する戦闘機の如く優位を保てるといいます。

 イルカがせめてきたぞっ、イラストのイルカは酸素ボンベを背負っており、肺呼吸だろう、と反論があるようですが、考え方によっては呼吸出来ない経路を水路侵入に用いて奇襲したか、若しくは考えたくない事ですが、イルカの国は化学兵器禁止条約に批准していない事から、化学兵器や生物兵器を使っている可能性も。人類は海中に色々遺棄しましたからね。

 ポルシェ245型軽戦車、イルカがせめてきたぞっ!イラストの特徴を満たす戦車はこのポルシェ245型軽戦車が該当します。第二次世界大戦中、ポルシェ博士が中心となり数々の重戦車を歴史に残しています、しかし、ポルシェ社は戦時中に、巨大で強力だが生産性の低い重戦車と共に汎用性の高い軽戦車についても相応の研究開発を行っていました。

 特殊車両Vとして開発されていたポルシェ245型軽戦車は、多目的戦車として設計され、複数の種類の装備体系を統合するという、戦時における補給体系の簡略化を期していた、ポルシェ博士なりの戦時急造設計でした。もっとも、イルカがせめてきたぞっ、イラストは一枚だけであり、どのようにしてこの戦車の情報がイルカ軍に渡ったかは正に謎という。

 多目的戦車、軽量な車体に高い防御力を持たせるという難題に果敢に挑んでいます、その車体重量は18tを見込んでおり、Ⅲ号戦車が23tですので、これよりも小型となっています。軽量と防御力、矛盾する要求をポルシェ博士は被弾経始構造と傾斜装甲採用により装甲厚を稼ぐ設計で応える事としたもよう。車体部分は既存設計を用い早期量産を重視する。

 38(t)戦車、車体部分はチェコスロバキアの併合により鹵獲した38t戦車の車体を利用します、38(t)とは重量が38トンと云う訳ではなく38年式戦車の意味、ドイツ軍では初期の電撃戦に国産戦車不足を補うと共に末期戦に際しては車体製造ラインを用いPaK39-75mm対戦車砲を搭載した駆逐戦車ヘッツァーとして運用し、ポルシェ博士もここに着目した。

 Ⅲ号戦車の正面装甲は57mmで側面及び後部装甲は30mmとなっていますが、これよりも二割以上軽量なポルシェ245型軽戦車はドーム型砲塔を採用する事で60mmの防御装甲を確保する構想でした、もっともその分、砲塔内部の容積は局限化されます。ポルシェ245型軽戦車は、この砲塔内部の極小化に際し、新型砲を搭載する事で装填手を廃止しました。

 新型砲とは短砲身の55mm口径機関砲を示し、ベルト給弾式機関砲を採用する事で装填手の空間を廃止し小さな砲塔に重装甲という無理を実現しようとした構図です。そして機関砲という戦車砲以外の火砲を搭載する為、仰角90度、つまり頭上まで操砲可能という構造を採用しており、例えば対空戦車としての運用も想定しています。砲塔形状とも合うもの。

 55mm口径機関砲を搭載する多目的戦車、乗員は車長と砲手に操縦手の3名で全長4.61mに全幅2.15m、全高は2.42mと砲塔形状から軽戦車としてはやや高く、エンジンは新設計のポルシェタイプ101エンジンを採用、原型のプラガEPAエンジンの125hpよりも遥かに強力な316hpを発揮し、また小型化されている為、車体戦闘室を広く採れる計画でした。

 強力な新型戦車と見えましたが、軍需省兵器局は生産を却下しました、38(t)車体を利用してもエンジン配置とエンジンを別物とする事は兵站上の負担を増大させ、またドーム型砲塔は鋳造式となり量産に不向き、更に肝心の55mm機関砲の開発目処も立たず、55mm砲弾では対戦車用に威力不充分、1943年の戦時下では必要性に見合わないと判断したのです。

 小松崎茂先生も何故イラストにポルシェ245型軽戦車の形状をそれっぽく流用したのか、今となては謎ですが、イルカさんたちも、試作車は無いものを終戦のどさくさに海没処分された設計図を、あのポルシェ博士の設計ならばと量産したのでしょうか、しかし、そんな戦車では当時開発中の74式戦車は勿論、61式戦車に対しても対抗は難しいでしょう。

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【映画講評】イルカがせめてきたぞっ(1971)【1】徹底検証!イルカ軍が使用した戦車の謎

2022-02-19 14:15:00 | 映画
■地上で人間を負かしてしまう
 映画講評と銘打ったものの書籍の検証である脱線をお許しください、素朴な疑問を寄せられたならば応えられるWeblogでありたい。

 イルカがせめてきたぞっ!。軍事脅威としてのイルカについて。小学館の“なぜなに学習図鑑9”、子供たちの素朴な疑問に答える学習本なのですが、イヤマテ的超解釈が含まれる項目があります、そこで子供たちの“人間よりもイルカの方が頭は良いのですか”という問いに“地上に上がったら知恵で人間を負かしてしまう”という一説を紹介しています。

 地上に上がったら知恵で人間を負かしてしまう、しかしイラストの担当がかの小松崎茂先生だったので、人工呼吸器をつけ火炎放射機を携行したイルカが戦車と共に沿岸都市を攻撃する衝撃的なイラストが添えられていました。先生、地上に上がったら知恵で人間を負かしてしまうって物理的話だったんデスカ、当時の子供たちは恐れおののいた事でしょう。

 あれは何だったのだろう、と少し前に話を振られまして、当方は流石に“なぜなに学習図鑑9”が書店に並んでいた世代ではないのですが、ノストラダムスの大予言とか大巨人17の時代、巷では様々な世界の終末が語られており、そして引用の形で“イルカがせめてきたぞっ”画像検索しますと案外画像は出てきます。そこで今日はこの問題を考えてみたい。 

 火炎放射器は理解できるのです、例えば1973年の第四次中東戦争ではイスラエル軍がスエズ運河防衛用に海中火炎放射器を開発、燃料を海上に噴出させ遠隔点火する方式のものが、作動前にエジプト軍コマンドーが無力化しましたが、実際に開発されていますし、これは工場さえあれば技術的に可能でしょう。問題はイラストに在ったイルカ軍の戦車の正体だ。

 イルカが戦車を運用する事は有得るのか。仮に戦車を運用するならば、海没処分などを受けた戦車リバースエンジニアリングすることは考えられます、小松崎茂先生のイラストでは大きさは不明瞭ですが、ドーム型砲塔に短砲身主砲を搭載、主砲はフレシット弾方式葡萄弾とも車載火炎放射器とも判別は難しいのですが搭載しています、しかし特徴的部分が。

 ボギー式懸架装置、転輪の特徴を見ますと古めかしいボギー式懸架装置が採用されているのですね、二つの転輪をシーソーのように並べ板バネで均衡を採らせる方式で、構造が簡単で工程精度要求を抑え故障が少なく、障害物を踏破する際には梃子の原理で接地面の接地点だけが持ち上がり振動を多少吸収させつつ駆動系に無用な衝撃を与えない構造です。

 第二次世界大戦中は多用された装置ですが、トーションバー方式懸架装置が普及しますと淘汰されています、陸上自衛隊もアメリカから供与されたM-4シャーマン戦車はボギー式懸架装置でしたが、警察予備隊時代に先行して供与されたM-24チャーフィー軽戦車はトーションバー方式を採用しています、そして61式戦車もトーションバー方式を採用します。

 イルカがせめてきたぞっ、戦車について。装甲部分の概要は当然不明ですが、外装部分は貝殻の様なもので覆われています、貝殻にはある程度の硬度はあるのですが、現在判明しているものでイラストが示された時代の第二世代戦車が多用していた105mm砲弾に耐えるものはありません、ただ、貝殻の性質上、磁気吸着地雷対策にはなるのかもしれません。

 海没処分などを受けた戦車リバースエンジニアリングによる技術取得、しかし、ドーム型砲塔と短砲身を採用しボギー式懸架装置を採用したものとなりますと、該当するものが無いのですね、唯一似ているのはポルシェ245型軽戦車です、特殊車両Vとして戦時中の1943年に開発が開始されていましたが、戦時急造が求められる兵器局の要求を満たせず量産されていません。

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【映画講評】Battle of the Bulge: Winter War/ザ・バルジ・ソルジャーズ(2)舞台の背景

2021-10-02 14:12:20 | 映画
■ランツェラートとスタブロー
 アルデンヌ冬季攻勢にしてはこじんまりしているなあ、お教えいただいた方のお話しですが当方共にプラトーンと山猫は眠らないのトムベレンジャーというだけで期待が。

 戦争映画となりますと、実際の軍艦を実物大で再現したとか、大戦機の稼働機をどれだけ集めたとか、戦車がどのくらい集めたのか、という話題も確かに興味深いのですが、題材も重要と思う。“にっぽん歴史鑑定”や“英雄たちの選択”など歴史番組が面白いようにね。実際、そう思うからこそ似ても似つかない現用装備の写真を掻き集めて紹介しています。

 アルデンヌ冬季攻勢では、最終的にアントワープを確保するべくフランス中部のミューズ川まで一気に前進する計画である為、燃料輸送車が追い付かない事が多々あったのですね、この為に第一線部隊は米軍補給処から幾度か燃料を鹵獲し、使わざるを得ない状況に陥っています。最初から鹵獲する計画ではなく、予定通り燃料が補給されない場合なのですが。

 先鋒を往くヨアヒムパイパー親衛隊中佐が率いるパイパー戦闘団を例に挙げますと、先ず緒戦で先行する第9降下猟兵連隊に続き、戦車部隊を中心にロスハイム峠の米軍部隊を排除し緊要地形を確保すると共に後方からの燃料を補給する計画でしたが、12月16日、ロスハイム峠を確保した戦闘団に鉄道輸送と道路渋滞により燃料が届く事はありませんでした。

 ランツェラートの戦いは、この直前に発生しています。第9降下猟兵連隊が先行して展開し、戦車部隊が続行して確保するという、米英軍が先に実施したマーケットガーデン作戦のような表面上完璧な戦闘となる計画でしたが、第9降下猟兵連隊長は空軍のホフマン中佐、陸戦経験が無く部隊の掌握も難渋している状態で米軍部隊と交戦する事となりました。

 アメリカ第99歩兵師団隷下の歩兵連隊と戦闘を繰り広げた第9降下猟兵連隊は550名規模ですが、神出鬼没の歩兵部隊を相手に悪天候の視界の悪さも相まって敵を捕捉できません、盛んに銃撃を加えるものの米軍部隊の位置さえ把握できず、ここでパイパー戦闘団の増援を待つ事となりました。米軍部隊相手に苦戦していると駆け付けたパイパー戦闘団ですが。

 第99歩兵師団第394連隊の偵察小隊、第9降下猟兵連隊が苦戦していた相手はなんと20名規模の偵察小隊であり、ジープに機銃を載せ機動戦を展開していました。偵察小隊を指揮するライルブック中尉は弱冠二十歳、偵察小隊には砲兵前進観測班が加わっており、後方から砲兵射撃の支援もありましたが、小隊で連隊を食い止めていたという驚きの話です。

 パイパー中佐は、精鋭降下猟兵一個連隊が一個小隊相手に何をやっているんだと嘆息しつつ、なにしろ戦闘団にはパンター戦車等70両とティーガー2戦車20両配備、その他車輛だけで600両が配備されていますので、降下猟兵を支援し米軍偵察小隊を蹴散らします。この頃のドイツ降下猟兵はクレタ島空挺作戦の頃の練度をもう、留めていなかったという。

 ランツェラート近郊にはビューリンゲンに米軍燃料補給処があり、これを奪取し当座の燃料不足を補う事としました。パイパー戦闘団は第9降下猟兵連隊の降下猟兵を戦車に跨乗させ燃料補給処を襲撃、この際に19万リットルの燃料を鹵獲しました。作戦に参加した19個師団分の燃料が1500万リットルですので、戦闘団だけでこの鹵獲は要諦とさえいえる。

 マルメディ捕虜虐殺事件等、事件が発生しますが、パイパー戦闘団はこのまま前進します、そして戦闘団は12月18日早朝、ミューズ川に至る最後の要衝となるスタブローへの攻撃を開始しましたが、ビューリンゲンにて鹵獲した19万リットルの燃料もこの頃には心細くなっています。そしてスタブロー近郊にも、大規模な米軍燃料補給処があったのですね。

 スタブロー近郊の米軍燃料補給処には56万3700リットルの燃料が備蓄されており、戦闘団の補給線は伸びきっていると共に道路渋滞と橋梁爆破等の妨害により機能せず、これを鹵獲する事で再度攻勢を計画します。敵の補給物資に依存する、日本陸軍のインパール作戦と似た状況ですが、ビューリンゲンでの成功体験はまだ二日前、行けると思ったのか。

 第526機甲歩兵大隊のB中隊と対戦車砲小隊がスタブロー近郊に展開していましたが、危機を察知したポールソリス大隊長は更に予備の対戦車砲小隊を率いてB中隊を戦闘指揮する決断を下し、まず米軍燃料補給処へ向かいます。ポールソリス大隊長は燃料を燃やすよう命令、市街地に隣接する高台にある燃料補給処からガソリンをドイツ軍へ向け注ぎます。

 スタブロー市街地へ展開し市街戦の準備をしていた戦闘団は高台から燃える燃料が注ぎ込まれ大混乱となり、パイパー中佐は燃料鹵獲を断念し、不眠不休で前進し続けた部隊を休ませたうえで近傍のトロワボンにある橋梁を確保し、ミューズ川を渡河すると決心します。既に戦車の半数が整備不良か損傷で行動不能となっていました。再整備し戦闘に臨みたい。

 Rイーツ少佐率いるアメリカ軍第51工兵大隊C中隊がトロワボンに到着したのは、戦闘団がスタブローを進発した直後でした。工兵中隊の任務は橋梁爆破であり爆薬を携行していますが、これに加えて障害除去用に57mm無反動砲を一門装備しています。イーツ少佐は橋梁に迫る戦車に驚きつつも反撃、敵もまさか無反動砲一門とは思わず遅滞戦闘は成功へ。

 トロワボンの橋梁はパイパー戦闘団が到着する15分前に第51工兵大隊により爆破、近傍には十数km離れてアビエモンにもう一つの橋梁がありましたが、こちらも二時間後に爆破される。戦車主体のパイパー戦闘団に架橋資材等は無く、結果的に一時後退しますが、この頃、米軍の空からの反撃が本格化、延び過ぎた補給線を叩かれ、ドイツ軍は敗北した。

 トムベレンジャー、ビリーゼイン。そして若手俳優が固め、それ程多くない予算で、となりますと、この二つの戦いに焦点を充てているのではないでしょうか。監督と脚本はスティーヴンルーク、こちらも当方の知識不足もあり中々知らない名前です。しかし、知られていない史実をもとにした映画は歴史への理解の一助となります、観てみたいものですね。

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【映画講評】Battle of the Bulge: Winter War/ザ・バルジ・ソルジャーズ(1)最新作発表

2021-09-25 14:12:20 | 映画
■トムベレンジャー主演
 お友達から面白い映画の新作が在るとお教えいただきましたので本日の第二記事はこの話題をお伝えしましょう。

 アルデンヌ冬季攻勢、1944年にドイツ軍が実施した最大規模の攻勢です。この戦いは一大戦車戦となり、特に電撃戦として機甲部隊の威力を世界に知らしめたドイツ軍最後の大攻勢、その敗北として歴史に記されているものですが、この大作戦の転機となる幾つかの小規模な戦闘に焦点を充てた戦争映画新作が公開される様です、これは楽しみですね。

 Battle of the Bulge: Winter War。原題はこのようになっていまして邦訳は“ザ・バルジ・ソルジャーズ-ナチスvs連合軍最後の決戦”という。何か邦訳が量産された格安映画のような印象を与えるものですが、“プライベートライアン”の便乗のような邦題の“プライベートソルジャー”がヒュトルゲンの戦いを描いた佳作であったように、本作も期待したい。

 トムベレンジャー、ビリーゼイン、スティーヴンルーク、アーロンコートー、ブリタニーベンジャミン。俳優は“山猫は眠らない”のトムベレンジャーとビリーゼイン、狙撃映画の金字塔で一作目のヒットから続編が出るまで時間が掛かりましたが、その後はフーテンの寅さんのように量産されたシリーズの名優が二人そろってお年を召しながら共演します。

 Battle of the Bulge: Winter War、期待しつつ劇場を探したいところですが、制作されたアメリカではビデオ映画として劇場公開はされていないという、Vシネマだ。そしてこの作品には“ザ・バルジ”という先行して公開されたVシネマがありまして、その続編という。もっとも、日本の超大作以上に実物の戦車等が一定数撮影に参加しているようですけれど。

 ザ・バルジ・ソルジャーズ-ナチスvs連合軍最後の決戦、この作品はアルデンヌ冬季攻勢でも思わぬアキレス腱となったドイツ軍の燃料不足、急にドイツ軍55個師団の内25個師団もかき集めたことで燃料補給が極めて切迫している中で戦われたという、部分に焦点を充てた作品のようです。過大に理解されるきらいはあるが、燃料は極めて厳しいものでした。

 トムベレンジャー、ビリーゼイン、この二人が揃いますと若いころならば狙撃銃で敵を一人一人屠るのかもしれませんが、何しろ今回のアルデンヌ冬季攻勢はドイツ軍の規模が大きく、山猫は眠らない、この公開は30年近く昔の話、流石に二人には無理があります。またトムベレンジャーは少佐の、ビリーゼインは中将の階級章を点けて演じているのですね。

 予告編を見ますと、敵であるドイツ軍の燃料がひっ迫している状況と、ランツェラートという地名、そして少数の戦車が登場します。CGを使えば機甲師団も再現できるのかもしれませんが、質感で戦車と歩兵の動きを細部まで再現できる程CGはまだ技術的に到達していません、すると、あの戦いでの燃料補給処を巡る二つの戦いが、思い浮かぶのですね。

 連合軍は1944年にノルマンディーに上陸しますが、要港シェルブールの攻略に時間を要し燃料不足に陥っていました、これを一挙に挽回するべく3個空挺師団を中心に展開したマーケットガーデン作戦が戦力不足と稚拙な準備により大失敗、停滞状態にありましたので、停滞した前線、ここを突き破れば挽回できる、ヒトラーはこう考えたのかもしれません。

 バルジ大作戦として知られるアルデンヌ冬季攻勢はドイツ軍の命運をかけたものでした、それだけに参加部隊は多く、第6SS装甲軍の第1SS装甲軍団と第67軍団、第5装甲軍の第47装甲軍団と第66軍団、第7軍は第80軍団と第85軍団が参加、停滞している連合軍防衛線を突き破って大西洋に面したベルギーのアントワープまで一挙に戦車で挽回する。

 映画バルジ大作戦として全体像が描かれている作品はあるのですが、参加部隊は大規模であるだけに個々の戦いはかなり省略されています、いや、米英軍84万名とドイツ軍50万が激突し、米軍戦死者8600名と行方不明及び捕虜21000名、ドイツ軍死者12700名と行方不明者30600名という激戦を一本の映画で描けるわけがないのです、死者に失礼ですね。

 ランツェラートの戦い、スタブロー市街戦、映画バルジソルジャーズが描くのは、アルデンヌ冬季攻勢の中でも複数あった転機となる戦いの一つ、そして映画“バルジ大作戦”でも少しだけ脚色されて描かれている戦いです。緻密に計算され過ぎた作戦が、錯誤と混乱の中で少しづつ勝利への機会が削られ、結果的に全体の敗北に繋がった、という構図です。

 第6SS装甲軍はヒトラーが最も信頼する武装親衛隊の戦車部隊で、第1SS装甲軍団は隷下に第1SSライプシュタンダルテアドルフヒトラー装甲師団と第3降下猟兵師団及び第12SSヒトラーユーゲント装甲師団と第12国民擲弾兵師団と第150SS装甲旅団に第277国民擲弾兵師団、第67軍団は作戦稼働可能な第326国民擲弾兵師団が配置、装備も強力でした。

 第5装甲軍は第47装甲軍団が隷下に第2装甲師団と第26国民擲弾兵師団及び装甲教導師団。第66軍団は第18国民擲弾兵師団と第62国民擲弾兵師団。第58装甲軍団が第116装甲師団と第560国民擲弾兵師団。第7軍は第85軍団第5降下猟兵師団と第352国民擲弾兵師団、第80軍団が第276国民擲弾兵師団と第212国民擲弾兵師団、兵力は膨大という。

 これだけ部隊を集めますと、当然燃料消費が致命的な程に増大します。この為に作戦用に予備備蓄された1500万リットルの燃料をヒトラーが投入許可します。なにしろティーガー戦車は1マイル進むのに7.6リットルの燃料を消費する。ドイツ軍は第一線部隊に必要な燃料を提供する体制を確立させていましたが、予備の燃料などは無く常に枯渇していました。

 Battle of the Bulge: Winter War “ザ・バルジ・ソルジャーズ-ナチスvs連合軍最後の決戦”、ビデオ映画という規模からかつてソ連を警戒させたというアメリカのバルジ大作戦のような規模の戦闘は描きようもありませんが、しかし戦史の細部を視てゆきますと分水嶺となった幾つかの小戦闘がありまして、こうした部分に軸を置いた作品の模様、期待です。

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