北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

航空防衛作戦部隊論(第七回):航空防衛力、我が国と欧州NATO主要国との規模の比較 続

2015-08-31 21:41:42 | 防衛・安全保障
■自衛隊戦闘機330機と比較
欧州のイギリスとフランスにドイツ空軍の変容、冷戦期の強大な空軍力と比較し少なくとも装備定数では著しく縮小しました。

航空自衛隊の戦闘機330機に対し、イギリス空軍は223機、フランス空軍が219機、ドイツ空軍が177機です。質的には、と言いますと航空自衛隊は早期警戒機と早期警戒管制機で二桁の水準、輸送機と空中給油機を一定数以上有していて、防空管制網も新しく比較すればまだ十分な規模です、この水準が中国空軍への圧力へ対抗できるかは別の命題ですが、現状規模をそのまま近代化することで対応できる部分は多いのではないでしょうか。

NATOの他の空軍規模についてももう少し見てみましょう、イタリア空軍はユーロファイターEF-2000が76機、トーネード攻撃機78機、AMX軽攻撃機67機、M-346練習機15機、ただEF-2000の導入は最終的に96機が予定され、トーネード攻撃機の後継にF-35戦闘機60機から75機の導入計画がある。輸送機はC-130J/J30が20機とC-27Jが12機、早期警戒機は無いものの給油機にKC-767が4機装備する。

イタリア空軍の過去ではF-X選定に非常に困難が続いた国で、F-104を永らく使用しF-16借用とトーネードにより凌ぎました、EF-2000が最終的に96機導入される計画ではありますが、既存機の近代化改修費用1機あたり邦貨換算数十億という巨額の費用を捻出が困難 とされ、初期のEF-2000早期退役も視野に含まれるもよう。

スペイン空軍は、ユーロファイターEF-2000戦闘機43機、F/A-18戦闘攻撃機86機、空軍が所管するP-3哨戒機4機、C-130/KC-130輸送機兼空中給油輸送機12機、CASA-CN235輸送機18機、C-295輸送機13機、C-212輸送機8機、それにKC-707空中給油機2機を装備しているとのこと。

スペイン空軍の課題は旧式化で保有するF/A-18はスペイン空軍制式名称EF-18,しかし電子戦型ではなく、米海軍で退役したF/A-18AとF/A-18B相当の機体が大半、うち20機のみが近代化改修をうけたA+仕様となっています。EF-2000戦闘機は73機を導入予定、このほか先日発生した事故により遅延していますがA-400M輸送機14機を導入予定です。

オランダ空軍、F-35戦闘機2機の引き渡しを受けまして将来的に35機を契約済、増勢の可能性もあります。主力はF-16戦闘機61機で、空軍は現在保有戦闘機63機、となります。練習機はピタラスPC-7を13機に統合し高等練習などは同盟国の協力を得ています。C-130H輸送機4機、KDC-10空中給油輸送機2機、そしてNATOのC-17輸送機3機の管理も担当しています。この他に無人機としてMQ-9を4機運用中など。

欧州主要国の空軍規模がこの程度であることから航空自衛隊の装備数と将来装備計画は、まだ十分な数量といえるところで、加えて航空自衛隊の作戦機は国内に整備基盤を有するものが多く、防衛産業の維持さえ継続できるのであれば、早期警戒機や輸送機との連携もあり、戦闘機数等の面で過小とは言い難い規模があるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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安保法制への最大の誤解、徴兵制(第7回):機動戦の普遍化と車両整備教育

2015-08-30 23:03:50 | 防衛・安全保障
■機械化部隊の普遍化と車両整備
今日では歩兵戦闘一つとっても高度に専門化している、従って相応の訓練が必要である、というものを紹介したのが前回まで。

夜間戦闘訓練が暗視装置の普及により夜間戦闘が実施されるために必要となり、通信機材の発展は市街地での戦域通信が可能となった為発生するためやはり訓練が必要に、対戦車火器の発達は歩兵任務へ対戦車戦闘を求めるようになり、戦闘防弾チョッキ等個人用装備は重くなる一方で結局体力が必要となる、それはこの背景です。

そして現代戦は情報連携を前提とした協同戦闘が基本となりますので、長い戦線に均一に大兵力を配置知多としても容易に地形上の弱点を突かれ、若しくは火力と打撃力の集中により防衛線の単線陣地を曳くことはできません、無論、相手の桁違いの大兵力を配置する対抗策は計算上成り立つのですが現実的ではありません。

これが意味するところは大なり小なりの機動力が歩兵部隊に対しても求められるようになり、車両機動や装甲機動と空中機動等がその選択肢に含まれます、そして必然的に各種車両が増大する、車両が増大した分、車両整備も求められるようになりましたが、これを整備し運用しなければならなくなります。

軍用車両は一般の普通乗用車よりも、基本的一般車通行禁止の地域を踏破するのですし、過酷な状況下で運用されるため、特に都市部での自家用車程自衛隊の車両の自隊整備は楽ではありません。一定以上は武器科、つまり専門の整備を担当する部隊が対応してくれるのですが、A整備とB整備、一定以下の整備は自分の部隊で行わなければならず、ハイテク化でも扱うのは人間、という部分を忘れるべきではないでしょう。

実際、タイヤ交換一つとっても自分では余り行わない方が多い我が国にあって、装甲車両の整備や膨大な車両の日常整備、これを僅かな徴兵期間で教育しなければならない徴兵制度を採っていては徴兵期間全体を教育機関に使っても足りず、第一線部隊への負担は大きくなり、それでも執銃訓練の時間さえ車両整備教育へとられてしまうでしょう。

徴兵制が我が国で施行されていました第二次世界大戦の時代までは、小銃を扱え、行軍し銃剣で戦うだけで第一線戦闘を担えました、基本的にはこの範疇で変わらないのですが、現代戦は、暗視装置と照準補助装置により夜間戦闘と市街地戦闘が加わり、通信の発展は指揮系統を複雑化、機械化の発展は旧陸軍で特殊技術であった車両操縦と整備が普遍的に求められ、対戦車火器の発展は積極的な対戦車戦闘も歩兵の任務に含めています。

夜間戦闘といっても、暗視装置を身に着け手さぐりで右往左往し遭遇した相手に発砲する、という前近代的な運用では格好の的となりまして、数km単位で相手の部隊動向を把握し、各個人が数百mで夜間戦闘を展開します、地形把握と指揮官の指揮に併せ行動する技量が無ければ、文字通りカモにされかねません。

市街地戦闘も、単純に市街地を一つ一つ建物を捜索する方式は、防御側からカモにされ、または死角が多く同士討ちなどで莫大な出血と損耗を強いられることとなりますので、数m以内でのと不期遭遇戦闘と数百mの躍進機動の連続を繰り返し、併せて死角と障害物が多い中で相互に火力支援を行い通信を確保出来る状況で判断し、行動がもとめられます。

銃さえ扱えれば第一線で戦い成果を上げられる、こんな発想は幻想にほかなりません。映画やアニメの様にトヨタのピックップトラックの荷台にロケット砲と機関銃を括り付け何十台単位で大群で相手に肉薄する、こんな方式では現代戦を戦うことが出来ず、専門知識に裏打ちされた戦闘要員の養成はそれなりに時間を要します。

北大路機関:はるな くらま
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航空防衛作戦部隊論(第六回):航空防衛力、我が国と欧州NATO主要国との規模の比較

2015-08-29 21:14:04 | 防衛・安全保障
■自衛隊と欧州空軍の空軍力
 航空自衛隊の作戦機の規模は戦闘機330機、欧州各国の空軍と比較しますと、特に欧州は最盛期よりも保有数が大きく縮小しており、規模の違いがわかるでしょう。

 航空自衛隊の作戦機、特に戦闘機定数について、これまでに中国空軍に対し優位性が無くなりつつあり、特に我が国の南西諸島をその戦闘行動半径に含んでいる機数だけで航空自衛隊よりも、戦闘機数では優位にある事は確かなのですが、欧州諸国の空軍と航空自衛隊の現有規模を比較すると、安易に日本も戦闘機数を増強だ、とは言えず、自衛隊の定数で最大限可能なものを考えなければ、という印象が強くなります。

 イギリス空軍の規模ですが、EF-2000戦闘機は125機、うち22機がトランシェ3、トーネード攻撃機が98機、戦闘機数は223機となる。更にF-35戦闘機を当面48機配備する計画とのこと。E-3早期警戒機6機、センチネルR1戦域監視機5機、RC-135電子偵察機1機、エアバスKC-2/3空中給油機11機、C-17輸送機8機、C-130J輸送機24機、というもの。

 参考までに冷戦終結直後には稼動機だけでトーネード攻撃機とトーネード戦闘機307機、ジャギュア攻撃機とハリアー攻撃機115機ありました。トーネードとジャギュアは予備機がありましたし、退役直前でしたがバッカニア攻撃機も23機運用されていました、E-3早期警戒管制機は7機あり、C-130輸送機も62機ありましたので削減幅は大きい。

 将来イギリス空軍装備計画には、更にエアバスA-400M輸送機22機の導入計画がある、MQ-9無人機10機、ホーク練習機131機など。ユーロファイター導入計画が事実上半減しまして、更に国防費の縮小からジャギュア攻撃機全廃、ハリアー攻撃機全廃、トーネード戦闘機全廃、となり、僅かにアフガニスタンにおける航空支援に用い得るという理由からトーネード攻撃機が維持されたかたち。ただ、空軍が保有していた対潜哨戒機は全廃、ビクター空中給油機も後継機なしで全廃されて今に至る。

 フランス空軍はラファールC/Bが95機とミラージュ2000が124機のみで戦闘機数は219機、E-3早期警戒管制機が4機、輸送機はC-160が31機とC-130輸送機が14機に新しいA-400M輸送機が発注数を含め7機、ここにKC-135空中給油機14機が配備される程度、現在は練習機としてのみ運用されるアルファジェット練習機が67機、と。

 冷戦終結直後のフランス空軍は凄かったです、ミラージュシリーズだけで486機を運用していました、ミラージュ2000、ミラージュF1,ミラージュⅢなど、加えてジャギュア攻撃機も151機ありましたから、戦闘機数だけで半減、攻撃機区分は消滅したかたち、ちなみにフランス空軍はアルファジェットを軽攻撃機としてでは無く練習機として運用しています。

 将来フランス空軍の計画にはMQ-9無人機を12機導入する計画があり、4機が引き渡し済み。かつてはミラージュシリーズだけで600機規模の戦闘機部隊を有していたフランス空軍ですが、一定数のミラージュ2000を現役に残し、新鋭ラファールを大量調達する計画であったものをラファールの調達計画縮小により現行の規模に収まりました。

 ドイツ空軍はトーネード攻撃機が68機、ユーロファイターEF-2000戦闘機109機、と航空戦闘に対応可能な戦闘機数は177機で、トーネード電子戦機21機、輸送機はC-160が53機でA-400M輸送機は開発難航で現在契約された数量の縮小交渉を行っているほか、完成した機体を性能不足として引渡を拒んでいる状況、この他の大型輸送機の導入計画が無く、早期警戒機などは装備していない。

 ドイツ空軍、かつてトーネード撃攻撃機は338機配備されたものの現在はここまで低下しました、空軍はトーネード237機と海軍航空隊が101機、制空戦闘機はF-4が主力で193機、アルファジェット軽攻撃機が148機、冷戦直後ありました、が、MiG-29とF-4は全廃となっている。

 ドイツは他にも問題が、自衛隊の戦闘機は国内に整備基盤がありますので稼動率が高いのですがドイツは真逆で、更にEF-2000については、これは連邦議会において大きな問題として討議されたのですが即応態勢にある飛行隊が僅かであり、その背景には多国間共同整備基盤への依存というものがありました、その他の航空機についても部品不足から稼働率低下が著しい。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十七年度八月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2015.08.29-30)

2015-08-28 22:00:08 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 新護衛艦かが進水式が無事挙行されましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今週末の自衛隊関連行事ですが、陸上自衛隊行事としまして、出雲駐屯地サマーフェスタ2015が行われます、サマーフェスタではありますが通常の駐屯地での盆踊りと出店などの敷地を貸す形だけの行事と異なり、第13戦車中隊の戦車体験試乗や装備品展示にオートバイドリルなどの展示が行われるとのこと。

 下甑島分屯基地祭、航空自衛隊春日基地の分屯基地で第9警戒隊が展開しています、新型レーダーJ/FPS-5の初号機、所謂ガメラレーダーの配備基地で、標高500mの山頂にレーダーを配置するレーダーサイトです。鹿児島県の離島で、川内港から下甑島は50kmほど離れていまして、長浜港が最寄の港です。T-4の飛行展示が予定されています。

 海上自衛隊の艦艇一般公開では、函館港街埠頭で行われる函館はたらく乗り物大集合!祭へ海上自衛隊艦艇が参加します、例年函館基地などから掃海艇などが参加する他第28普通科連隊の車両などが一般公開へ参加しているとの事ですので、体験航海などは予定されていませんが足を運ばれてみてはどうでしょうか。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・8月30日:下甑島分屯基地祭・・・http://www.mod.go.jp/asdf/wacw/index.html
・8月30日:出雲駐屯地サマーフェスタ2015・・・http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/13b/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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新護衛艦かが/加賀 DDH-184 KAGA いずも型護衛艦2番艦として本日進水式を挙行!

2015-08-27 23:14:41 | 海上自衛隊 催事
■新護衛艦かが/加賀
 新護衛艦かが、航空母艦加賀の名を継ぎ本日、満載排水量27000tの大型護衛艦として進水式を迎えました。

 いずも型護衛艦2番艦かが、は護衛艦くらま後継、平成24年度計画護衛艦として2013年10月にジャパンマリンユナイテッド横浜事業所磯子工場にて起工し、建造が進められてきました、全長248m、基準排水量19500t、満載排水量27000t、全つ飛行甲板と艦内に大型の格納庫を有し、ガスタービンエンジンにより最高速度は30ノット、新型のOPS-50多機能レーダーとOQQ-23ソナーを搭載し、最大の特色はSH-60K哨戒ヘリコプターやMCH-101掃海輸送ヘリコプターなど艦内に14機を搭載可能、新型艦載多用途ヘリコプターの選定も開始されました。造船所は、護衛艦ひゅうが型の護衛艦ひゅうが、護衛艦いせ、いずも型護衛艦いずも、の建造を担っており、我が国全通飛行甲板型護衛艦建造を全て経験している高度な工員により建造されている事を意味します。かが、は、ヘリコプター搭載護衛艦くらま代艦にあたり、今後艤装工事を進め公試等を経て2017年3月に自衛艦旗を受領し就役することでしょう。

 かが、加賀です。いずも型護衛艦は、海上自衛隊自衛艦隊護衛艦隊の機動運用部隊である4個護衛隊群へ各1個配置されている対潜中枢護衛隊に各1隻が配備されるヘリコプター搭載護衛艦で、最初のヘリコプター搭載護衛艦は1973年に就役した護衛艦はるな、満載排水量6800tの護衛艦でした、はるな型は、はるな、ひえい。続いて、1979年より護衛艦しらね型しらね、くらま、が建造されこちらは満載排水量7200t、海上自衛隊は幾度かその間航空機搭載護衛艦や対潜空母等の研究を行っていましたが、3機の大型対潜ヘリコプターと2門の5in砲を搭載する護衛艦として4隻が整備され、はるな型後継艦として満載排水量19000tの全通飛行甲板型護衛艦ひゅうが、いせ、が建造されています。全通飛行甲板型護衛艦は、ヘリコプター搭載護衛艦の必要数4隻、はるな、ひえい、しらね、くらま、のうち既に、ひゅうが、いせ、いずも、が3隻を置き換え、くらま置き換えにより、漸く完成する事となります。

 加賀、先代の加賀は航空母艦として建造されました、そして東日本大震災から復興途上の我が国と空母加賀誕生の背景は共通する部分もありまして興味深い。大日本帝国海軍は1919年に、新戦艦加賀の建造を決定します、これは土佐型戦艦の2番艦として当時整備を進めていた八八艦隊、大型戦艦8隻と巡洋戦艦8隻からなる強力な水上打撃部隊の長門と陸奥に続く3隻目4隻目の巡洋戦艦として計画されました、しかし一番艦土佐、二番艦加賀、共に1922年、世界初の戦略兵器制限条約となるワシントン海軍軍縮条約により建造が中止となる決定が為され、戦艦加賀は建造途上にして廃艦が決定します、しかし、転機となったのは1923年の関東大震災です、神奈川県相模湾北西沖を震源とするマグニチュード7.9の海溝型地震は10万5000名の犠牲者をだし旧東京市六割が被災、国家予算数年分が吹き飛ぶ被害に際し、当時横浜で建造中であった新空母天城が横転し、修理不能と判断されます、ここが転機へ。

 戦艦加賀から空母加賀へ、加賀は廃艦予定でしたが、大破した空母天城に代え、空母加賀として建造されることとなるのです。基準排水量26900tの航空母艦として加賀は1928年3月31日、就役しました。日本海軍は世界初の空母鳳翔、空母赤城に続く三隻目の航空母艦として完成、戦艦から空母への設計変更により20cm副砲10門を備え、積層式飛行甲板を持つ特殊な艦型となりましたが、1932年には上海日本租界での邦人連続襲撃事件と続く中国十九路軍の上海外国人居留地への侵攻へ対処すべく世界初の空母機動部隊編制へ参加し艦載機による実戦を経験、1935年には単一飛行甲板を有する改装が完了、これにより基準排水量38200tと日本最大の航空母艦となりました、第一航空艦隊旗艦を隔年で担い支那事変全般を艦隊航空による航空阻止任務や制空戦闘に寄与、1941年の第二次世界大戦太平洋戦争開戦の日、真珠湾攻撃へ向かう日本空母6隻の一員として参加しました、その後、豪州ポートダーウィンを空襲、インド洋作戦等緒戦の主力を担いましたが、1942年、ミッドウェー海戦にて飛行甲板に多数の爆弾命中を受け艦橋全損と大火災を起こし、その後の魚雷攻撃等を受け、戦没し、最期を迎える。

 新護衛艦かが、海上自衛隊は最初の護衛艦あさひ、が戦艦朝日を踏襲しており、今回も帝国海軍の艦名を受け継ぐこととなりました、その将来は、南海トラフ地震への国家危機に立ち向かう航空中枢艦として、また、佐世保基地から南西諸島への中国大陸からの脅威への対処へ、2040年代前後まで防衛の重責を担う事となります。対潜中枢艦として、加えて高い指揮機能を活かし艦隊旗艦へ、将来的には長い現役期間中に固定翼航空機としてMV-22可動翼機の搭載、更には自衛隊が垂直離着陸可能であるF-35B戦闘機を導入した場合、航空阻止や艦隊防空に弾道ミサイル策源地攻撃任務への対応能力が付与される可能性もあります。先代加賀は関東大震災を乗り越えて就役しましたが、二代目かが、東日本大震災から復興に向かう我が国の護衛艦として建造が進みます、そして、全通飛行甲板型護衛艦は、19000tひゅうが型2隻と、27000tいずも型2隻体制となり、世界的にも大きな海洋戦力投射能力を海上自衛隊は整備することとなりました。護衛艦かが、自由と協調を理念とする我が国と世界の平和と繁栄へ寄与する一隻となるよう、願いたいですね。

北大路機関:はるな くらま
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安保法制への最大の誤解、徴兵制(第6回):第一線戦闘の多様化と歩兵戦闘の専門化

2015-08-26 21:56:21 | 防衛・安全保障
■歩兵戦闘の専門化
前回までに、自衛隊体力検定の練成と個人装備の高度化から、短期間の徴兵は戦闘の役に立たない、と提示しました、それではこれらの部分はハイテクが、技術力により覆う事は出来るのでしょうか。

現在の陸上戦闘はハイテク化したので、これだけ体力は必要なのか、と思われる皆様、ご自分が旅行に行く際の鞄をどうぞ、昔は着換えと洗面道具だけで成り立つものがあったのでしょうが、タブレットPCにデジカメに充電器と携帯電話に無線ルーター、ハイテク化した分、求められるものが増え、重くなるのです。

どういうことか、技術の発展で昔は歩兵が殆ど想定外であった対戦車戦闘が対戦車火器を携行する事で可能となったので持っていくことが求められるようになりました。昔は戦車が来たらば対戦車部隊、基本は戦車部隊が対応していたのですが、技術が発達して歩兵に対応できるようになったので、任務に加わった、ということ。

もちろん、その昔も、歩兵陣地へ敵戦車が展開した場合は、我が国でも火炎瓶と地雷投擲で対戦車戦闘を展開してきました、が、これは防御戦闘、しかも他に選択肢を欠いての収斂として展開したもので、膨大な出血の代償を必要としていたものに他なりません。しかし、対戦車ミサイルの発展は、より主体的に対戦車戦闘を展開し得るようになり、次元が違います。

夜間戦闘は暗視装置の普及により必須のものとなり、普通科部隊は夜間戦闘と夜間射撃まで教育を行っています、暗視装置普及以前は制約された夜間戦闘ですが、無灯火車両機動を含め技術の発展で従来戦闘が起きにくかった状況が狭まり、元来避けられた地域の利用が戦闘を左右する事となるので、その分戦闘訓練の専門性が高まってゆく一例ですが。

加えて市街地戦闘と閉所戦闘と呼ばれる近接戦闘も、従来は特殊戦闘に含まれたものであっても、技術と装備の進化により通常の戦闘の一つとして求められるようになりました。市街地は兵力を吸い込む、というものが第二次大戦期から1980年代までの常識でした、これは建物一つ一つの収奪は膨大な兵力を要するため回避すべきとの理念でしたが。

市街地戦闘は、部隊間の通信確保や、近接戦闘の索敵のカメラや暗視装置等による自動化と高度化、近接照準器具の普及、こうした一連の技術革新により可能となり、他方、その分専門性も高まったのです。具体的には1対1で出会いがしらの戦闘が増え、その分、戦闘技術と応急救護の必要知識、命令系統から切り離される刹那の増大は判断を兵員個々人に求めることになる。

これは戦術にも大きな影響を及ぼしています、情報連携が基本となりますと、攻撃側が防御側の配置を情報共有する事で手薄な兵力配置等を突き、所謂勝ち目の追求が情報優位に左右される事となり、一挙に攻撃側が浸透し、敵の指揮中枢を破壊する事が可能となります、20年ほど前に情報RMAと表現された戦闘方法の普及、これも戦闘を専門化させました。

万遍なく兵力を配置してもすり抜けられ、この弱点を補うべく過度な密度で部隊を配置し浸透対策を行うと全戦火力の増大により簡単に大損害を被る、優位と不利の損耗格差は数百倍となってしまいます、第二次大戦の太平洋島嶼部戦でこの傾向は現出し始めていましたが、例えば湾岸戦争やイラク戦争の機動戦における彼我損耗格差はさらに開き、徴兵されたアマチュアに出る幕は第一線からは消えつつあります。

もちろん、長期間の訓練を積めば、例えば韓国軍の一年数か月、それ以上の期間を掛ければ一定の水準の兵員は養成できますが、そうする事ができ無いのは、日本の人口の多さで陸軍規模が際限なく大きくなり装備を揃えられなくなる、として既に説明しました。すると、志願制のほうがよい。

そして難しいのは車両化です。新隊員特技課程には車両操縦が含まれていませんが装甲車の運転には大型免許が必要となります。陸士特技課程は軽火器や迫撃砲、車両操縦が含まれるのですが、最初の半年間で修了するには戦車部隊等に限られ、普通科部隊で最初の半年後記教育に操縦、というものは出来ません。

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陸上防衛作戦部隊論(第二八回):装甲機動旅団編制案の概要 特科連隊大隊編制

2015-08-25 22:36:24 | 防衛・安全保障
■装甲機動旅団特科連隊案
旅団特科連隊について。装甲機動旅団は特科火砲300門の防衛大綱下、特科隊ではなく特科連隊の維持が可能であり必要と考えます。

特科連隊は4個特科大隊を基幹とし、編成は、本部管理中隊・情報中隊・特科大隊・特科大隊・特科大隊・MLRS大隊、となります。特科大隊が自走榴弾砲を主装備としまして、直掩火力として連隊戦闘団に編入され、MLRS大隊が全般支援火力として旅団に直轄運用する、という視点で火力面では現行の師団特科連隊の3個大隊編成よりも強化する。

現在、特科連隊の編成は師団特科連隊に限定されています。従来の編成を見ますと、普通科連隊と同数の直掩に当たる特科大隊と全般支援に当たる特科大隊を基幹とし、全般支援特科大隊は特科中隊4個編成、直掩特科大隊は特科中隊2個を基幹とする編成を採っていました。普通科連隊3個基幹では第4大隊が欠け、全般支援大隊は第5大隊、となっていました。

しかし、更に現在進む師団改編では、全般支援大隊が編成から省かれ、更に4個普通科連隊基幹師団はうち1個を即応予備自衛官部隊基幹の普通科連隊を方面隊直轄の方面混成団へ移管する改編が行われており、基本的に特科連隊は3個特科大隊を基幹、FH-70榴弾砲乃至99式自走榴弾砲を30門装備する編成へ転換しているわけです。

提案する広域師団装甲機動旅団は、3個普通科連隊を基幹とする編成ですので、特科大隊は3個大隊を基幹としますが、全国の連隊編成に第4大隊が置かれる事はありませんので、全般支援に当たる特科大隊も第5大隊とはせず、MLRS大隊と呼称すべきでしょう。このMLRS大隊は、新編されるのではなく、方面特科部隊のMLRSを運用する特科大隊から管理替えとして対応します。

広域師団案、特科大隊装備は装甲機動旅団の運用特性に鑑み、99式自走榴弾砲に統一し、牽引式であるFH-70榴弾砲とその後継となる装輪式の火力戦闘車は航空機動旅団特科隊に集約する事が望ましいのですが、99式自走榴弾砲は生産数に限界があります。富士教導団等教育所要の上限がありますので99式自走榴弾砲は北部方面隊管区にのみ装備する事となるでしょう。

特科大隊の編成は現状通り、2個特科中隊の自走榴弾砲10門を基幹とし、連隊戦闘団へ編入します。99式自走榴弾砲と火力戦闘車では不整地突破能力に格差があり、火力戦闘車が開発開始となったばかりの現状では本土師団の主力はFH-70榴弾砲となります。99式自走榴弾砲と火力戦闘車は52口径155mm榴弾砲で、FH-70は39口径155mm榴弾砲では射程に格差がありますが、こればかりは更新されるまで対処不能です。

10門の99式自走榴弾砲とFH-70榴弾砲は緊急時の時間当たりの火力投射能力が毎分60発、TOT同時弾着射撃では300m×135mを同時制圧可能となります。子弾散布式の03式多目的弾が残っているならば一発で100m四方を制圧可能でしたが、クラスター弾全廃条約批准により装備不能となり、廃棄してしまいました。
問題は補給、これは戦車砲弾も含めてなのですが、自隊輸送小隊にて弾薬基数を2基数輸送するとしまして、それ以上の投射へは必要な輸送支援が無ければ膨大な弾薬を消費する際に補給不十分となり戦闘継続に問題が生じてしまい、可能であれば装甲機動旅団にもヘリコプター隊を配置し、輸送ヘリコプターによる空中補給が望ましいことは確かなのですが、それだけの輸送ヘリコプターに余裕がありません。

ただ、専守防衛の我が国では陸上輸送の限界以上の機動打撃が行い得るのか、という視点は有り得ますが。一方、装甲機動旅団は少数の多用途ヘリコプターを装備しますので最小限の空輸は部分的に可能であるほか、装甲機動旅団は広域師団に所属している為必要であれば師団長の命令により航空機動旅団が装備するヘリコプターを補給支援に充てる事は可能でしょう。

北大路機関:はるな くらま
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アメリカ軍相模原総合補給廠倉庫火災、備蓄の医療品などが爆発

2015-08-24 23:59:21 | 在日米軍
■相模原総合補給廠の任務と現状
本日未明、神奈川県相模原市の米軍相模施設、通称相模原総合補給廠にて倉庫火災が発生しました。そこで本日は相模原総合補給廠についてみてみましょう。

相模原総合補給廠は我が国首都圏の米軍施設の一つで、火災は倉庫火災ながら爆発は断続的に続き、先日発生しました中国の天津爆発事故を一瞬彷彿させるものでしたが、大きな被害には至りませんでした、相模原総合補給廠は広大であり爆発が発生した倉庫は住宅街まで500mの距離を隔てており、爆発の危険から備蓄物資の確認が完了するまで消防による放水を避けていたためでした、備蓄されていたものは医療用空気ボンベであったため、有毒物漏洩や爆発による二次被害は生じていません。

医療資材と架橋器材に可搬内陸燃料配送装置が相模原総合補給廠の主要備蓄資材でして、医療資材倉庫、相模原総合補給廠に備蓄され今回火災により炎上したものは米軍が西太平洋地域に配置する最大の医療資材倉庫で、連続して爆発した事から医療用空気ボンベが備蓄されていたものと考えられます、事故発生後、在日米陸軍司令部は事故現場写真を公開しており、焼けただれたボンベが多数火災現場に並んでおり、出動した消防関係者の話でも現場近くにはボンベ破片が散乱していたとの証言がありますので間違いないでしょう。

第35補給支援大隊が相模施設を管理しており、特に可搬式病院施設が備蓄され、医薬品冷蔵倉庫が複数配置ているのは環太平洋地域では相模原だけです。可搬式病院施設とは文字通り移動式の総合病院です。移動式の総合病院と云いますが、自衛隊の野外手術システムとは比較にならないほどの設備を有しており、病床2000、24時間で数百件の外科手術が可能となっています。緊急時には4000病床まで拡大できる施設で、全般はカナダ製可搬式折畳シェルター百数十基に収容し機動可能です。

このカナダ製可搬式シェルターは風速25mにまで耐える高硬度のもので、統合空調システムにより熱帯地域や極地の低温下でも医療任務が可能とのこと。加えて、有事の際には装軌車回収整備大隊が展開します。手術設備はもちろん、術後ケアなどの設備が可搬式となっており、多くの医療設備は使用しない状況でも一定期間で新型と置き換えられ、我が国の総合病院設備と比較した場合、相違点と云えば鉄筋コンクリート式の建物に入っているか、可搬式シェルターに収まっているのみ、というところ。

これだけの規模の可搬式病院施設が米軍により維持される背景ですが、これはイラク戦争規模の戦闘が極東地域において発生する場合に想定される軍団規模の部隊が膨大な戦傷者を出した場合の素早い戦力回復を想定している為です。自衛隊であれば、有事の際には基本的に国土での戦闘を念頭としている為、例えば大量の戦傷者が発生した場合では、まず野外手術システムにより致死状態に至るのを防ぎ、広報の病院施設に入院させることが出来ます。

日本では日本のインフラが使えるのですが、米軍の場合は自国インフラが遠距離で使用できず、そして展開先の救急救命インフラを全く利用できない状況を想定しなければなりませんので、総合病院がそのまま移動できるだけの体制を平時から構築しておく必要があります、そして広域の医療支援を同時に対応させることとなっており、例えば米軍はアフガニスタン派遣に際し、一箇所の医療拠点に戦傷者対処を統合化し、UH-60多用途ヘリコプター36機を戦傷者の救急搬送に専従させたほど。

そして首都圏三拠点が有事の際に有機的に機能します。横田基地と横須賀基地に厚木基地が首都圏の米軍基地として一般によく知られていますが、横田基地と横浜ノースドック、そして相模原総合補給廠、この三箇所が米軍の後方支援関連設備として重要な位置づけを担っています。有事の際、それこそ米軍が十万単位で行動するイラク戦争規模の有事が朝鮮半島や台湾海峡に北海道等で発生した場合、嘉手納や三沢や岩国に佐世保と普天間は第一線部隊の拠点となりますが、首都圏の施設は後方支援拠点となる。

横田基地は第5空軍司令部と在日米軍司令部が置かれ米本土と太平洋地域からの物資航空搬入拠点となり数百機の輸送機が展開、横浜ノースドックは施設内の1350m岸壁と500m岸壁に同時に7隻の大型輸送船を接岸させ陸軍第17地域支援群港湾司令部と米会場軍事輸送司令部が運用できる。そして相模原総合補給廠は補完する医療物資をはじめとした備蓄品を横浜ノースドックと横田基地より展開させ、空いた施設へ装軌車回収整備大隊が展開し、第一線において損傷した装甲車両の整備と戦力回復を担うもので、この三施設は国道16号線とJR横浜線でも繋がっており、米軍の重要な後方拠点の一つ。

我が国首都圏の米軍施設は、極東地域を中心とした西太平洋地域最大の兵站拠点を構成しています。例えば、米軍備蓄燃料は横浜市の鶴見と小柴の八戸に佐世保周辺と沖縄を合計し1100万バレルもの燃料が備蓄されており、環太平洋地域では米本土を除けば全体の半分にも上り、ハワイやグアム、在韓米軍施設等とはけた違いの備蓄量を誇ります。これだけの燃料が在日米軍施設に備蓄されている背景ですが、最大のものは我が国の石油精製能力が環太平洋地域で最大規模のものであり、航空燃料や艦艇燃料などを確実に高品質のものを確保するには、我が国に施設を置き、日本企業から調達するのが確実を考えられた為です。

必要なものを必要な場所で友好国が有しているならば提供を願い出ればいい、発想はここでしてしかも日米は同盟国です、そこで逆をみてみましょう、自衛隊が海外での大規模訓練設備を利用する場合や新装備試験を行う場合は米本土やハワイの施設を利用しますが、これは自衛隊が安定して展開し得る海外の訓練先と、更に訓練に必要なインフラが揃う設備が米国しか考えられない為で、双方、必要なものを融通し合えるところで互恵関係を構築している、といえるでしょう。

なお、相模原総合補給廠は、橋本内閣時代と小泉内閣時代に返還交渉が行われていますが実現しませんでした。これは軍団規模の部隊が展開する本格的な有事の際しか活用しない設備であるため、我が国周辺では所謂周辺事態が発生するまで機能しないもの、一見無駄に見えるのですから使わないのであれば返してほしい、という本音があったのでしょう、国道16号線とJR横浜線沿いにある大型の施設ですから、使わないのであれば首都圏経済圏にとり有用な用途がある、という視野に基づきます。しかし、平時には用途がありませんが、有事の際には絶対必要となる施設ですので、アメリカ側は返還できない、としたものでした。

ただ、この設備、我が国にとり無駄になったのかと問われたらば、否定します、新潟中越地震と東日本大震災の際に実際に備蓄品が同盟国の危機へ提供されています、最たるものは避難所冷房設備でした、医療設備用に大量に保有していた可搬式のクーラーが新潟中越地震と東日本大震災の際に多数提供されています、自衛隊にはそれほど多くの可搬式クーラーの備蓄はありません、大規模有事に備えていたからこその同盟国の備蓄が恩恵となったといえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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富士総合火力演習二〇一五 統合機動防衛力と島嶼部防衛能力構築への一考察

2015-08-23 22:33:47 | 防衛・安全保障
■富士総合火力演習二〇一五を終えて
 富士総合火力演習を終えて、今年度は御縁あって予行を見ることが出来ました。

 我が国防衛への関心の高まりを受け、富士総合火力演習も広い関心をもって受け止められていまして、年々参加への一般公募倍率は高まり続けています。聞くところではもう少し広い来場者へ対応する形を模索しているようですが、今年は設営されなかったパネル橋の陸橋一つとっても既にこれ以上の容量を受け入れるだけの余地はありません。

 過去には北部方面隊や東北方面隊が総合戦闘力演習展示を行っており、中部方面隊でも一応の検討は行ったとのことですが、数万規模の来場者に対応し、かつ演習場内に区画を確保した上で会場を設営し、抽選と発送を担いつつ民間業者との調整を企画する、それも自衛隊の演習体系に両立させるというのは非常な難易度があるとのこと。

 本年の富士総合火力演習は74式戦車と10式戦車の履帯脱輪が発生し、装軌式車両の特性と火山性土壌の富士地区演習場特性を鑑みればある種致し方ないとはいえ、数年前に発生した斜面への砲身接触を原因とする砲身破裂事故以来の不具合であり、観衆眼前の脱輪は仕方ないとはいえ、残念でした。

 APFSDS弾の装弾筒跳飛事故の発生は、意外なものではありましたが幸い軽傷とのことで、曳光弾射撃を望見する際、発射方向への跳弾が稀有ながら目視できますので、そういう跳弾も発生するのかと考えさせられましたが、装弾筒の跳弾は起きるのか、と考えさせられます。

 さて、富士総合火力演習ですが、例年よりも若干日程が早く、これは他の教育訓練期間の短縮との話を聞きますので陸上自衛隊全般の教育訓練体系に無理が生じているのではないかと危惧するところです、特に教育訓練部隊からは年度末に創設される水陸機動団要員の一定数の原隊となるようで、その影響が多少あるのでしょうか。

 90式戦車と10式戦車の行進間射撃、当方がご縁ありました日程では実施されましたが、なるほど若干射撃は寸秒の時間差こそありましたが見事で、春に発生したOH-1不時着事案によりOH-6Dが代わり観測任務や安全管理へ活躍するなど、本年の特色といえました。

 そして本年は会場にて映像だけとはいえAAV-7両用強襲車とMV-22可動翼機が試験映像と米軍運用動画を用い、導入予定の装備という前提で島嶼部防衛に関する解説映像が放映されており、自衛隊が島嶼部防衛に関して大きくその防衛体系を転換しつつあるところを端的に見ることが出来た印象です。

 統合機動防衛力、自衛隊は島嶼部防衛に関する能力構築の一環とし、平時警戒監視にあたる部隊と初動任務に当たる部隊に加え重装備部隊と部隊を三類型し、南西諸島と本州九州に北海道と、軽装備と機動装備に重装備を分けて装備する方式を改めて強調し、防衛力に関する概括として放映しています。

 ただ、この方式は本年も数年来の広報動画と併せ、当方はどうしても危惧を受けずにはいられませんでした、何故ならば多くの国民は富士総合火力演習の陸上自衛隊装備と運用をその概要として参考とするでしょうから、自走高射機関砲や装甲戦闘車を広く配備される装備と勘違いしてしまうのではないでしょうか。

 北海道に重装備と本州に緊急展開装備を、といいましても本州の部隊は基本が高機動車を中心とした地形防御に依存する歩兵部隊であり、緊急展開には向きません、特に災害時は別として有事の際には、です。しかし、北海道の部隊は冷戦期のNATO正面と比較すればかなりの軽装備ですし、本州九州は前述の通り。

 装甲戦闘車を北海道の普通科部隊に充足するくらいでなければ、重装備とは言えないでしょう、難しそうに見えますが旅団普通科連隊は44両で旅団は132両、師団普通科連隊は72両で師団は216両、機甲師団所要を合わせ552両配備すればいいわけで、同じ島国のイギリス陸軍が生産したウォリアー装甲戦闘車よりも少なくて済む。

 90式戦車に89式装甲戦闘車と99式自走榴弾砲で固めた部隊ならば重装備部隊といえるのでしょうが、現状は程遠く、本州九州の部隊も、96式装輪装甲車と軽装甲機動車化された中隊程度に装甲化しなければ、緊急展開部隊として運用するにも重装備部隊とするにも少々能力不足は否めない。

 緊急展開部隊というにも、多用途ヘリコプターの能力不足や航空打撃の骨幹となる戦闘ヘリコプターの代替遅延、観測ヘリコプター代替計画の空転など、充分配備されているのは輸送ヘリコプター程度でして、ここに新型機としてMV-22可動翼機が配備されるのですから、また一機種多くの予算が必要な機体が増えるのかと憂鬱とならざるを得ません。

 そして人員不足の最中に新たに4000名規模の水陸機動団を人員定数を拡大せず新設するというのですから、例えば南九州の第8師団を水陸機動師団に改編する、あの1980年の第7師団の機甲師団改編の様に水陸機動装備の集中を図る、というならば兎も角、もう一つ増強する。

 しかも現行定数では十年前に4500名規模の中央即応集団を創設し、実質1個連隊の普通科部隊と一個大隊の特殊部隊と衛生部隊の増設を行った皺寄せがあることを踏まえれば、また人員不足の皺寄せが大きくなる、と考えさせられます、皺寄せは練度低下と部隊負担増大に直結する点を忘れるべきではない、と思う。

 北大路機関では、広域師団構想として師団旅団の雑多な編成を、航空機動旅団と装甲機動旅団へ統一し、例外的に戦車旅団と水陸機動旅団へ改編する部隊を持つほか、部隊編制を簡略化し、教育訓練体系を統一化できないかを連載していますが、これはその危惧の表れで、自衛隊の練度は現在最高度ですが、このままでは最高度を頂点に次は無理が生じ低下へ転換するのではないか、不安を禁じ得ないのです。

北大路機関:はるな くらま
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富士総合火力演習二〇一五 我が国最大の公開実弾演習実施プログラムガイド

2015-08-22 22:13:44 | 北大路機関特別企画
■富士総合火力演習二〇一五
 東富士演習場にて明日実施されます富士総合火力演習2015、その様子についてどのように進められるかを紹介しましょう。

 入場券が必要となる公開実弾演習ですが、インターネット中継と本年は全国15の映画館にて中継映像上映が行われます。本日の予行で00式演習弾の装弾筒が落着後後方に飛翔する事故があり、来場者が軽いけがを負う事故がありましたが、本日は富士総合火力演習の様子を紹介しましょう。

 演習は前段演習と後段演習に分かれ、前段演習として陸上自衛隊主要装備の運用と威力の紹介、後段演習として防衛出動における任務遂行の概要、以上の前後に分かれています、前段演習と後段演習の間には休憩時間もあります。更に、夜間演習が行われまして、こちらは別枠として夕方から開場が開放され実施される。

 前段演習では、遠距離火力、中距離火力、近距離火力、ヘリコプター火力、対空火力、戦車火力、と順番に各種装備の実弾射撃を行います、実弾射撃は会場正面で行うところと、離隔距離を十分取った射撃位置から行うもの、そして後方陣地から射撃するものにわかれます。

 実弾射撃と一言で説明してしまいますと簡単ですが、99式自走榴弾砲の優れた展開と連続射撃能力やFH-70榴弾砲の軽量でコンパクトな特性、203mm自走榴弾砲の一発90kgという弾薬の大威力等が展示され、砲弾の特性が全て実弾により3km離れた標的での炸裂で確認できます。

 中距離火力では迫撃砲の120RTと81mm迫撃砲の威力と射程の展開速度の違いや命中精度、対戦車ミサイルとして肩に担げる軽量と射程を両立させた01式軽対戦車誘導弾や87式対戦車誘導弾、非常に長い射程を誇る96式多目的誘導弾と連射が可能な中距離多目的誘導弾、が展示され目標へ撃つ。

 前段演習は続き、近距離火力では89式小銃や06式小銃擲弾の威力とMINIMI分隊機銃や12.7mm重機関銃の特性の相違、89式装甲戦闘車の35mm機関砲の威力や対人地雷後継として導入された指向性散弾対人障害システムの目標制圧への爆発の大きさ、など。

 ヘリコプター火力ではAH-64戦闘ヘリコプターの機関砲射撃の正確さと威力にAH-1Sの対戦車ミサイルの長大な射程などを展示、対戦車ミサイルTOWは一発ですが実弾を射撃します、AH-64Dの30mm機関砲は薬莢が次々地面へ落下すると共に目標が跡形もなく切り裂かれる様子を見ることが出来るでしょう。

 戦車火力では74式戦車の旧式ながら車体傾斜装置と射撃コンピュータ等による侮りがたい命中精度や、90式戦車の行進間射撃による自動追尾装置と砲安定装置に自動装填装置の高い精度、10式戦車の急発進と蛇行しつつのスラローム射撃の命中精度など、各国の装備を知る人であれば、考えられない高性能を展示といえる。

 後段演習は、実際の防衛出動を想定したシナリオに基づきます、演習というと演習部隊と対抗部隊の戦闘を連想される方が多いやもしれませんが、シナリオに基づく実弾を用いた訓練展示とお考え頂ければ幸い、従って対抗部隊が勝つということはなく、展示は進む。

 部隊配置として有事の際に迅速に部隊が展開、機動展開として航空偵察に基づく空路進入、偵察活動として偵察部隊の空地一体となった展開、空中機動として先遣部隊の装甲車及び対戦車戦闘部隊の展開、攻撃準備射撃として主力展開に先んじた遠距離火力戦闘の開始、と。

 射撃支援として戦車部隊の展開と対戦車戦闘による展開支援、障害処理として敵地雷原などの除去、前進支援として対陣地戦闘の各種火力による戦闘、攻撃前進として近接戦闘部隊の装甲車と航空機による展開、突撃支援として各種火力の様々な目標への攻撃、等を行う。

 そして最後に、突撃として敵主力に対する戦車及び装甲車による前進、戦果拡張として航空機と戦車や装甲車の増援と共に最終目標地域への前進、こうしたシナリオで展開されます、平和の下で自由と繁栄を謳歌する我が国へ侵略が行われたならば、我らこう迎え撃つ、こうした展示が行われる訳です。

北大路機関:はるな くらま
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